はさみの力

卯野ましろ

はさみの力

 小学校での図工の時間。たかおくんはあるものを見て、大きな声で言いました。


「わあっ! すごくきれいだなぁ~!」


 たかおくんが驚いていたのは隣の席のみほちゃんが家から持ってきていた、金色と銀色の折り紙でした。


「ふふふ、ありがとう。今日の図工でキラキラの、きれいなものを作りたいなぁって言ったら、ママが用意してくれたの」


 みほちゃんは、とっても嬉しそうに話しています。そして、たかおくんは言いました。


「あのさ、その金と銀の折り紙、ぼくにちょうだい!」

「えっ?」


 たかおくんの言葉に、みほちゃんは困ってしまいました。


「で、でも、これは私も使いたいから……」

「じゃあ、ぼくにはくれないってこと? ケチだね! 意地悪!」

「私、そういうつもりじゃ……。あ、そうだ!」


 みほちゃんは、ひらめきました。そして自分のお道具箱から、はさみを出しました。


「半分こ、しようよ! これなら、たかおくんも私も……金と銀の折り紙を使えるもん!」


 みほちゃんはニコニコ顔で、たかおくんにそう言いました。すると……。


「どうして半分なんだよ! 友だちなら全部くれよ!」


 たかおくんは怒り出しました。みほちゃんはびっくりして固まってしまいました。


「みほちゃんの意地悪!」


 そう言って、たかおくんはみほちゃんの手からはさみを取り上げました。そしてそれをみほちゃんの頭に指すように向けました。


「きゃーっ!」


 みほちゃんは怖くなって、泣き出してしまいました。それを見て、すぐに先生が駆けつけてきました。


「たかおくん、今すぐはさみを手放しなさい!」


 しかし、先生に注意をされても、たかおくんは手からはさみを放しません。


「だって先生、みほちゃん……ぼくに意地悪するんだよ!」

「いいえ、みほちゃんは意地悪じゃありません! みほちゃんは自分の折り紙をあなたに分けてあげる、とても優しい子なのよ!」

「でも、半分しかくれないじゃん!」

「みほちゃんも、あなたと同じ気持ちなの。きれいな折り紙を使いたいの。そんなみほちゃんを傷つけて……意地悪は、たかおくんよ!」


 先生から意地悪と言われて、たかおくんは驚きました。


「傷つけていないよ! みほちゃんは怪我していないじゃん!」

「傷つけました! みほちゃんは今、心に傷を負っています!」


 その先生の言葉を聞いて、たかおくんは目をぱちくりさせました。


「紙などを切れるはさみは便利だけど、怪我をすることもある。そんなに危ないものを向けられたら、怖いと思うでしょう。だから、はさみは人の心に怪我を負わせることもできるのよ」


 みほちゃんは、しくしくと涙を流しています。そんなみほちゃんを、先生が優しく抱き締めました。すると、


「みほちゃん……ごめんなさい」


 たかおくんは、みほちゃんに謝りました。なぜ自分が先生から意地悪と言われたのかが分かったのです。するとみほちゃんは涙を拭いながら言いました。


「たかおくん、ちょっと待っていてね」


 みほちゃんは自分のはさみで、金と銀の折り紙をチョキチョキ、チョキチョキ。


「はい、たかおくん」


 みほちゃんは、半分に切った金と銀の折り紙を、たかおくんに差し出しました。


「えっ……」

 たかおくんは、あんなに欲しかった折り紙を目の前にして、びっくりしています。


「どうぞ、使って」

「でも……ぼく、あんなにひどいことしたのに……」


 そのとき、みほちゃんはニコニコして言いました。


「たかおくんだって、私と同じ気持ちだもん。仲良く使おう? お互い頑張って、すてきなものを作ろうよ!」

「……うん! みほちゃん、ありがとう!」


 たかおくんは、泣きました。みほちゃんの優しい気持ちが、とても嬉しかったからです。それを見た先生やクラスのみんなは拍手をしました。




 その後、みほちゃんもたかおくんも、キラキラした、すてきな作品を完成させました。


◆◆◆


バッドエンドはこちらです(残酷描写、暴力描写注意)。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886795083/episodes/1177354054889036329

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