第23話 はさみの力・おしおき編

 小学校での図工の時間。たかおくんはあるものを見て、大きな声で言いました。


「わあっ! すごくきれいだなぁ~!」


 たかおくんが驚いていたのは隣の席のみほちゃんが家から持ってきていた、金色と銀色の折り紙でした。


「ふふふ、ありがとう。今日の図工でキラキラの、きれいなものを作りたいなぁって言ったら、ママが用意してくれたの」


 みほちゃんは、とっても嬉しそうに話しています。そして、たかおくんは言いました。


「あのさ、その金と銀の折り紙、ぼくにちょうだい!」

「えっ?」


 たかおくんの言葉に、みほちゃんは困ってしまいました。



「で、でも、これは私も使いたいから……」

「じゃあ、ぼくにはくれないってこと? ケチだね! 意地悪!」

「私、そういうつもりじゃ……。あ、そうだ!」



 みほちゃんは、ひらめきました。そして自分のお道具箱から、はさみを出しました。


「半分こ、しようよ! これなら、たかおくんも私も……金と銀の折り紙を使えるもん!」


 みほちゃんはニコニコ顔で、たかおくんにそう言いました。すると……。


「どうして半分なんだよ! 友だちなら全部くれよ!」


 たかおくんは怒り出しました。みほちゃんはびっくりして固まってしまいました。


「みほちゃんの意地悪!」


 そう言って、たかおくんはみほちゃんの手からはさみを取り上げました。そしてそれをみほちゃんの頭に指すように向けました。


「きゃーっ!」


 みほちゃんは怖くなって、泣き出してしまいました。それを見て、すぐに先生が駆けつけてきました。


「たかおくん、今すぐはさみを手放しなさい!」


 しかし、先生に注意をされても、たかおくんは手からはさみを放しません。


「だって先生、みほちゃん……ぼくに意地悪するんだよ!」

「いいえ、みほちゃんは意地悪じゃありません! みほちゃんは自分の折り紙をあなたに分けてあげる、とても優しい子なのよ!」

「でも、半分しかくれないじゃん!」

「みほちゃんも、あなたと同じ気持ちなの。きれいな折り紙を使いたいの。そんなみほちゃんを傷つけて……意地悪は、たかおくんよ!」


 先生から意地悪と言われて、たかおくんは驚きました。


「傷つけていないよ! みほちゃんは怪我していないじゃん!」

「傷つけました! みほちゃんは今、心に傷を負っています!」


 その先生の言葉を聞いて、たかおくんは目をぱちくりさせました。


「紙などを切れるはさみは便利だけど、怪我をすることもある。そんなに危ないものを向けられたら、怖いと思うでしょう。だから、はさみは人の心に怪我を負わせることもできるのよ」


 みほちゃんは、しくしくと涙を流しています。そんなみほちゃんを、先生が優しく抱き締めました。すると、


「何だよ、みほちゃんばっかり!」


 たかおくんの怒りは、さらにひどくなりました。みほちゃんは先生を味方につけて卑怯だ、と思ったのです。


「どうせ意地悪だよ、ぼくは!」


 たかおくんは大声を出し、みほちゃんの机の上にある金と銀の折り紙を、はさみを持っていない方の手で取りました。そして逃げ出しました。


「たかおくん、待ちなさい!」


 先生に止められても、たかおくんは走り続けました。




「え……!」


 外に出てから、たかおくんは折り紙を見て、うっとりしていました。しかし間もなく不思議な出来事を目の前にして、びっくりしています。


「お兄ちゃん! 遊ぼ!」


 かわいらしい双子の女の子が、たかおくんに話しかけています。


「な……何で折り紙が……」


 金と銀の折り紙は、人間の女の子に姿を変えたのです。二人はニコニコしていますが、たかおくんは震えています。そして、女の子たちの表情は変わりました。


「お兄ちゃんは、金と遊ぶの!」

「違うよ。銀と遊ぶの!」


 二人は揉めてしまいました。しかし、たかおくんは怖がっていて女の子たちの争いを止められません。恐怖で力が抜け、たかおくんはポロッと何かを地面に落としました。


「あっ、お兄ちゃん落としたよ!」


 金ちゃんは落ちているものを拾いました。そして顔がパアッと明るくなりました。


「わあ! これ、半分こにするやつ!」

「やったあ! お兄ちゃんを分けっこできるね!」

「……え?」


 二人の嬉しそうな声により、たかおくんの固まっていた体がピクッと動きました。


「いくよ、えいっ!」

「ギャアッ!」


 金ちゃんは持っているものを、たかおくんの体に刺しました。


「あれっ、半分にならないね?」

「もっとやって!」

「うん!」


 それから数分後……。


「お兄ちゃん寝ちゃった。もう遊べないや」

「つまんないから、やっぱり誰かに折ってもらおうよ」


 金ちゃんと銀ちゃんは元の姿に戻り、人に拾われるのを待ちました。しかし、


「わーっ!」

「せ、先生~!」


 真っ赤なたかおくんを見て走り出した子たちに踏まれ、汚れてぐちゃぐちゃなゴミとなりました。




「みほちゃんが作ったの、すてき!」

「ありがとう!」


 みほちゃんは金と銀の折り紙がなくても、みんなの目をキラキラさせる作品を完成させました。


◆◆◆


ハッピーエンドはこちらです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888110633/episodes/1177354054888110652

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