第24話 鼻くそブーム

「おーいっ! でっけー鼻くそ取れたぞ~!」

「うおっ、マジで? 見せて見せて~!」


 今、男子の間では鼻くそブームが起こっています。男子たちは目をキラキラさせながら、のりおくんの周りに集まりました。


「ほぉー、すっげーな!」

「のりお、やるじゃん!」

「へへっ、まあな!」


 男子全員が鼻くそに夢中になっています。のりおくんはヒーローになった気分で、喜んでいます。


「汚いわね男子!」

「やめてよね」

「バカじゃないの?」


 その様子を、女子たちは冷ややかな目で見ていました。男子の鼻くそブームは、女子全員にとって大迷惑でした。


「やいっ、女ども!」


 のりおくんは女子からの言葉を聞いてムッとしました。そして、


「きゃーっ!」


 鼻くそが付いた指を前に突き出しながら、女子たちに近づきました。女子たちは逃げ回っています。他の男子たちは大笑いです。


「鼻くそのロマンを教えてやる~っ!」

「嫌、やめて!」

「やめるもんかぁ!」

「あっ」


 女子全員が走り回る中、はなちゃんが転んでしまいました。のりおくんは、それを見逃しませんでした。


「くらえーっ!」


 のりおくんの大きな鼻くそは、はなちゃんのワンピースに付きました。そして、のりおくんは胸を張って言いました。


「どうだ、良い飾りだろ? 似合うぜ鼻くそ……はなだけに、なっ!」

「あんた何やってんのよ!」


 女子たちの怒りは、さらに激しくなりました。


「はなちゃん、そのワンピース着るの今日が初めてだったんだよ!」

「えっ……」


 のりおくんはピタッと固まり、はなちゃんを見ました。はなちゃんは座り込んで泣いています。


「最低! はなちゃんに謝りなよ!」

「何でだよ、こいつはワンピースがもっと良くなって嬉し泣きしているんだろ? なあ、みんな!」


 男子たちは、のりおくんの言葉に頷きません。それを見て、のりおくんは怒鳴りました。


「何だよ! おれのこと誉めていたくせに!」


 のりおくんは教室から出て「先生なら分かってくれるはず!」と職員室を目指しました。


「へっへっへ。また大きいの取ってやるぞぉ~」


 廊下を歩きながら、のりおくんは鼻をほじっています。


「やっぱり鼻ほじるのは楽しいぜ!」

「へー。そんなに楽しいなら、ぼくにもやらせてくれよ!」

「は?」


 のりおくんが足を止めると、目の前に黒いものが現れました。


「ギャッ!」

「ぼくは君の影さ! ぼくには鼻がないから君の鼻を、ほじらせてくれよ!」

「な、何を言ってんだ……イテッ!」


 のりおくんの鼻の穴に、影の指がズボッと入ってきました。


「わあっ! 楽しいな~!」

「ギャアアアアアアア……!」


 黒い指の力は強く、のりおくんの鼻からは大量の血が流れてきました。


「うーん。鼻くそ取れないなー……つまらないから目をほじろう!」

「えっ! や、やめ……ギャ!」


 影は、のりおくんの言葉を聞かずに目をほじくり回しました。


「わぁっ! 鼻くそより立派なものが取れたぞ!」


 のりおくんの目玉を手にし、影は大喜びです。


「次は口の中だ! あ、耳の中も!」




「……うわあーっ!」


 ほじるものがなくなって「つまんないや」と影が消えた直後、一人の先生が叫びました。先生は、ぐちゃぐちゃで真っ赤なものを見て驚いたのです。そのぐちゃぐちゃの正体が、のりおくんだと先生が知るのは少し先の話です。




「うちのバカがっ……本当にすみませんでしたっ!」


 のりおくんのお母さんは、はなちゃんのワンピースを自分の息子が台無しにしたことを数日後に知りました。クラスの女子たちから男子の鼻くそブームの話を聞いた先生が、のりおくんのお母さんに連絡したのです。


「おばさん、ありがとうございます!」


 のりおくんのお母さんから服を数枚もらい、はなちゃんは幸せでした。ちなみに鼻くそが付いたワンピースは、洗ってきれいになっても見るだけで胸くそが悪くなるということで、リサイクルショップに売られました。

 男子の鼻くそブームは、のりおくんと一緒に消え去りました。

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