第25話 どうしてブランコ
「今日はブランコで遊ぼう」
「うん」
学校の休み時間、笠島さんは親友を連れて校庭へ向かいました。
「わーいわーい」
「楽しいねー」
「うん……あっ」
二人で言葉を交わしながら遊んでいると、笠島さんの親友は何かを発見したようです。
「ねえ、あの子も呼ばない?」
「は?」
笠島さんたちがブランコで遊んでいるところを、ずっと淋しそうに見ている女子がいました。二人のクラスメートであるその女子は、とても内気な性格です。まだクラスに馴染めておらず、仲の良い子もいません。
「というか……呼ぼうよ! 全然話したことないし」
大きな声で言ったからでしょうか。二人のクラスメートにその言葉が届いたようで、彼女は下向き気味だった顔をパアッと上げました。
「そんなことしなくて良いよ」
「えっ……」
笠島さんの返事は予想外で、親友の目はいつもより大きく開いています。
「こっちから誘ったら、あいつのためにならないじゃん。人に頼らず自分から行かなきゃ。だから今まで、誰にも相手にされていないんでしょ」
親友がピタッと固まっても、笠島さんのブランコは止まりません。また、笠島さんの親友はハッとして顔の向きを変えると、そこには二人の会話を全て聞いて泣いている女の子が一人いました。
「あっ……待って! ごめんね!」
逃げるように走り出すクラスメートを追いかける親友を見ても、笠島さんはブランコを止めません。
「はーあ」
笠島さんはため息を吐きました。親友がいなくなって、つまらなくなったのです。そのときチャイムが鳴りました。それが耳に入り、もう戻ろう……と笠島さんはブランコから降りようとしました。
「あれっ?」
いつの間にか、笠島さんのお尻はブランコにピッタリと張り付いてしまいました。それにブランコの動きが止められません。みんなが校庭から校舎へと戻っていく様子を見て、笠島さんは慌てました。しかし状況は全く変わりません。
「何これ……ギャア!」
校庭から笠島さん以外のみんながいなくなると、急にブランコの動きが早くなりました。これは笠島さんの意志によるものではありません。ブランコは前後にビュンビュンと激しく揺れています。
「た、助けてーっ!」
「どうして助けを呼ぶの? 私が好きじゃないの?」
ブランコが笠島さんに話しかけました。笠島さんは驚きました。
「ブ、ブランコが喋った!」
「どうして怖がるの? あなたの親友が止めても遊び続けるくらい私のことが好きなんじゃないの?」
「……え?」
「そういえば……どうして、あの子を仲間外れにしたの?」
「べっ、別に仲間外れじゃないから! あいつのためを思って誘わなかったのよ!」
「……ふぅーん……」
笠島さんの強気な言葉を聞いた直後、ブランコに変化が起こりました。
「わっ……ギャーッ!」
ブランコは、ぐるんぐるんっ! と強く回っています。
「どうして正直にならないの? 本当は意地悪でしょ?」
「違う違う!」
笠島さんは泣き出しましたが、ブランコは止まりません。
「どうして自分の悪意を認めないの?」
「どうして、こんなにも冷たいの?」
「どうして……」
ブランコの質問は、まだまだ続きます。そしてブランコは、まだまだ勢い良く回転しています。
「先生っ! ブランコ付近で誰かが倒れています!」
ぐったりとした笠島さんを、体育で校庭に集まっていた児童たちが見つけました。
「うへぇ~」
「くっさ!」
ブランコによって気持ちが悪くなったのでしょうか。笠島さんの周りには、多量の嘔吐物が飛び散っていました。
ブランコは、もう動いていません。笠島さんの嘔吐が落ち着き、永遠の眠りについたことを確認すると、すぐに止まったのです。
「あのブランコ、ゲロまみれで汚くなったから誰も遊ばなくなったんだって」
「へー」
「私たちは縄跳びするから関係ないけどね」
「そうだね」
笠島さんの親友は、あの日に誘おうとしたクラスメートと仲良くなりました。新しい親友ができたので、笠島さんがいなくても淋しくありません。それどころか、より楽しい日々を送っているようです。
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