第26話 行き過ぎた第三者

 さゆりちゃんが保健室から教室に戻ると、


「やばっ! 来た来た~!」

「ちょっと……」


 女子二人が焦り始めました。えっちゃんと、みなみちゃんです。えっちゃんは、さゆりちゃんとは幼稚園のころからの友だちです。また、みなみちゃんは最近えっちゃんと仲良くなりました。


「さゆり、どうしたの?」

「……何でもない」

「指まだ痛い?」


 さゆりちゃんは授業の後半、プリントで人差し指の皮を切ってしまったのです。少しですが血が出てしまったので、授業が終わった後はすぐに保健室へ行きました。


「もう大丈夫。ありがとう」


 その言葉に、さゆりちゃんの親友は安心しました。しかし、さゆりちゃんの心は全く落ち着きません。


「何であの人は、えっちゃんに押し付けたんだろ。真面目だと思っていたけど……結構、性格が悪いんだぁ」


 さゆりちゃんは、すぐに分かりました。

 みなみちゃんは私のことを言っている。


 さゆりちゃんは、えっちゃんと同じ掲示係です。授業の後、使った資料を教室に貼ることになりました。しかし、さゆりちゃんは急いで保健室へ向かったので、えっちゃんが係の仕事を先生と一緒にやりました。

 先生は、さゆりちゃんが教室からいなくなってから掲示係に仕事を頼みました。


「えっちゃん本当にかわいそう。あんなのと同じ係になっちゃって……」

「気にしていないよ私は」


 そこへスタスタとやって来たのは……。


「えっちゃん」

「さゆり……!」

「さっきは掲示係の仕事を一人でやらせちゃって、ごめん!」


 頭を下げるさゆりちゃんを見て、えっちゃんはポカンとしました。眉毛はハの字になっています。

 私たちの話、全部さゆりに聞こえていたんだ……!


「えっちゃん、もう授業が始まっちゃうよ! 早く席に着こう」


 みなみちゃんは、えっちゃんの腕を引っ張って、その場から離れました。さゆりちゃんの頭は下がったままです。


「ちょっと、さゆりが謝っているのに何それ! 大体みなみちゃんは関係な」

「やめて」


 駆けつけてきてくれた親友の言葉を、さゆりちゃんは頭をゆっくり上げながら遮りました。そして、さゆりちゃんは親友の耳元で囁きました。


「大好きなあんたが、みなみちゃんみたいになるのを私は見たくない」




「ごめんね、えっちゃん! 学校に戻るから先に帰って!」

「うん、また明日」

「バイバイ!」


 下校中、みなみちゃんは忘れ物に気づきました。


「わっ!」

 

 その直後、えっちゃんの右肩にポンと手が置かれました。


「やっとバカな第三者は消えたね」




「あったあった」


 みなみちゃんは机の上に置いていた算数のプリントを見つけてホッとしました。


「これがないと宿題ができな……えっ?」


 プリントを手に取ると、みなみちゃんは驚きました。書かれている内容が算数とは関係ないものだったからです。


①今日さゆりちゃんは掲示係の仕事をサボった。○か×か。

②えっちゃんは、さゆりちゃんが嫌いだ。○か

×か。

③えっちゃんは、みなみちゃんがさゆりちゃんのことを怒ってくれて嬉しかった。○か×か。


 これを見て、みなみちゃんは笑いました。


「プッ……何この問題、超簡単じゃーん! 全部○だよ!」


 そのときビュンッ! と何かが勢い良くみなみちゃんの首に触れ、みなみちゃんはバタッと倒れました。また、みなみちゃんが答えた後プリントには新たなメッセージが書かれていました。


 全問不正解!

 君には罰を受けてもらう!


「まだ誰かいるのか……うわぁーっ!」


 教室に来た先生は、みなみちゃんを見て叫びました。それでも、みなみちゃんは脈を切られていたので目を覚ましませんでした。




「つまり、さゆりはサボったんじゃないってこと!」

「やっぱり……そうだよね。さゆり、ごめんね」

「謝らなくて良いよ、えっちゃんは」


 みなみちゃんがいなくなってから、さゆりちゃんの親友は、えっちゃんに説明ができて満足でした。そんな親友の行動に、さゆりちゃんは嬉しくなりました。えっちゃんは「さゆりがサボるわけないんだよ」と、みなみちゃんに嫌悪感を抱きました。




「さゆり、おはよう」

「えっちゃん、おはよう」


 翌朝、掲示係の二人は最も早く教室に入りました。


「あれっ? 昨日の資料が落ちているよ」

「あー……テープじゃダメなんだね」

「先生から画鋲を借りよう」

「そうしよう」


 二人は職員室へ向かいました。

 昨日みなみちゃんに罰を与えたのは、その剥がれている掲示物でした。みなみちゃんのことをクラスのみんなが知るのは、まだ少し先のことです。

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