第22話 友情のイラスト

 今、ゆきこちゃんは学校が楽しくありません。本当は学校に行きたくないのに、と思いながら登校しています。


「ゆきこ、おはよー」

「おはよう!」

「あー、二人とも……おはよう」


 親友たちから挨拶されました。ゆきこちゃんは、この二人のことが大好きです。けれど、


「みんなぁ~! おはよっ!」

「あやこちゃん、おはよう」

「あっ、ゆきこちゃんもっ!」


 最近ゆきこちゃんたちと一緒にいるようになった、あやこちゃんのことは好きではありません。元々あやこちゃんは違う仲良しグループにいました。


「……おはよ」


 また私、おまけみたいに扱われているよ……。

 ゆきこちゃんは、毎日のように続いているそれに疲れていました。


「三人で……あ! ゆきこちゃん、ごめんね! 四人で頑張ろー♪」

「やだ、あやこ忘れちゃったぁ! プリントあと、一枚だけ足りなかったね。ゆきこちゃん、悪いけど自分で取ってきてねー♪」


 いつもいつも、あやこちゃんは、ゆきこちゃんのことを忘れています。

 これって意地悪だよね?

 そう感じても、ゆきこちゃんは自分の気持ちを口に出しませんでした。その場の空気を悪くしたくないし、ただの自分の被害妄想だとしたら、あやこちゃんが気の毒だと思ったからです。そして何より、ゆきこちゃんは大切な親友二人に迷惑をかけたくなかったのです。




「ねえねえ! みんな、これ見てっ♪ あっ、ゆきこちゃんも~!」

「わー、何?」

「昨日、一生懸命描いたの~!」


 ある日の朝、あやこちゃんは自分が描いたイラストを、ゆきこちゃんたちに見せてきました。あやこちゃんは絵を描くことが得意です。


「はいっ、友情のイラストだよっ♪ みんなを描いたんだぁ!」

「どれどれ……」


 三人はイラストを見ました。そして固まりました。


「えっ……」

「……へー……」

「……」


 ゆきこちゃんの親友二人は苦笑いしています。ゆきこちゃんは、ただただ黙っているだけでした。


「ねっ、上手に描けたでしょ!」

「……うん」

「そうだね……」

「わぁっ、ありがとー♪ 嬉しいなっ♪ あっ! 一応ゆきこちゃんは、どう思うの?」

「……」


 もう、ゆきこちゃんは口を開けませんでした。親友二人も何も言えません。


「ねぇ~聞いてあげているのにぃ~」

「あんたさ、いい加減にしなよ」


 あやこちゃんが不機嫌そうにすると、そこに他のクラスメートが来ました。


「げっ……」


 あやこちゃんが前にいた仲良しグループの二人です。彼女たちは怒っていました。


「あやこ! ゆきこに意地悪しているの、もう分かっているんだからね!」

「二人も本当にゆきこが好きなら、はっきり注意しなきゃダメだよ!」


 ゆきこちゃんは驚きました。自分が思っていることを、この二人が代わりに言ってくれたからです。


「っ……!」


 あやこちゃんはイラストを持って、自分の席へと戻りました。


「あ、あやこちゃんっ」

「待って~」


 ゆきこちゃんの親友二人は、あやこちゃんの後を追いました。それを見て、ゆきこちゃんは悲しくなりました。


「ゆきこ、あんなの友だちじゃないよ!」

「そうだよ。ゆきこが優しいからって調子乗りすぎ!」

「……うん、ありがとう」




「あーっ! あいつらムカつく!」


 放課後、あやこちゃんたちは公園に集まって、ゆきこちゃんたち三人の悪口を言っていました。


「二人も、ゆきこちゃん最悪だと思うよね!」

「そうだね……」

「うんうん」

「こんなステキな友情のイラスト、他にないのにぃっ!」


 あやこちゃんは、二人にイラストを見せました。すると……。


「あんたみたいな女が作者で、私たち胸くそ悪いわ」

「えっ!」


 あやこちゃんが描いたイラストから、ボワッと三人の女の子が出てきました。


「ギャーッ!」


 あやこちゃんたちは驚き、逃げようとしました。しかしイラストから出てきた三人に捕まってしまいました。


「ぐっ……」


 三人は、それぞれ自分に似た女の子に首を絞められています。


「私は、ゆきこと一緒にいたかった!」

「本当は、ゆきこが大切だった!」

「でも……もう、ゆきこは戻ってきてくれない!」

「どうして親友に、あんなことしたの!」


 ゆきこちゃんの親友だった二人は、似ている二人に泣きながら怒鳴られました。そして間もなく呼吸が止まりました。


「そんなに性格が悪いのは、なぜ?」

「どうしてワガママになったの?」

「自分が前のグループの二人に距離を置かれた理由、まだ分からないの?」

「ゆきこちゃん、そんなに憎かった?」

「自分が一番じゃなきゃ嫌なの?」


 イラストから出てきた子は、あやこちゃんに詰問しています。しかし、あやこちゃんは苦しんでいるので、一言も返せません。


「私は、ゆきこちゃんみたいな優しい子になりたかったよ!」


 絶叫すると、イラストのあやこちゃんは作者の首を締め上げました。

 三人の命が尽き、イラスト三人組は画用紙へと速やかに帰っていきました。やがてイラストは風で飛ばされ、ドブの中に落ちました。




 ゆきこちゃんには本物の親友ができました。三人は大人になっても、ずっと仲良しなのでした。

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