第21話 捲し立てた湿布

「ひなたちゃんは怪我をしてしまいました。みんな、ひなたちゃんを助けてくださいね」

「はーい!」


 先生の話を聞いて、クラスの仲間は元気良く返事をしました。その様子を見て、ひなたちゃんは嬉しくなりました。


「ひなちゃん大丈夫?」

「それ、おれが持つよ!」

「無理しなくて良いからね」


 みんなの親切に、ひなたちゃんは喜びました。そして、みんなから優しくされる度に「ありがとう!」と、ひなたちゃんは笑顔で感謝の気持ちを伝えました。




 数日後の掃除の時間。ひなたちゃんは仲間が机を運ぶ様子を見て、考えていました。今の自分にできることは何か……。

 そんなひなたちゃんを、あるクラスメートがキッと睨みました。


「ひなたも机、運んでよ」


 ひなたちゃんは驚いて、声が聞こえてきた方へ顔を向けました。そこにいたのは、クラスで最も気も我も強い、しおりちゃんでした。


「どうせ怪我をしているのは、一部だけでしょ? 調子に乗って、みんなに甘えないでよね」

「……!」


 私……。みんなに、ひどいことをしていたんだ!


「ひなちゃん!」

「どうしたの?」


 ひなたちゃんが泣き出し、クラスメートが駆けつけてきました。


「みんな! 迷惑かけて、ごめんなさい!」


 泣きながら謝るひなたちゃんを見て、みんなは不思議そうな顔を浮かべました。


「えっ?」

「……ごめんなさい……」


 二回謝って、ひなたちゃんは教室から出ていってしまいました。その数秒後、誰かが口を開き、教室が騒がしくなりました。


「どうして、ひなたは泣いたんだ?」

「みんな全然、迷惑なんて思っていないし」

「……おれ知ってるよ」

「えっ、何があったの?」

「さっき、ひなたは」

「ちょっと、みんな掃除してよ!」


 事情を知っている男子の言葉を遮ったのは、しおりちゃんのきつい呼び掛けでした。


「……あー……」

「分かった分かった」

「なるほどねー」


 みんな何かを察したようです。そして、


「ひなちゃんを探そう!」

「おれも!」

「行く行く!」


 ひなたちゃんの親友の一言で、一人を除くクラスメートが教室から飛び出していきました。


「……あいつら、先生に怒られても知らないから!」


 しおりちゃんは、ぷりぷりしながら掃除を続けました。


「あら」


 掃き掃除を始めようとすると、しおりちゃんは床に落ちているものを見て止まりました。


 湿布だわ!

 これ確か、ひなたのものよね?

 ……こんなものに頼ってばかりじゃ、あの子の怪我は治らないわよね?

 捨ててあげましょ。

 厳しくしましょ、ひなたのために!


 湿布を持って、しおりちゃんはゴミ箱へ向かおうとしました。すると、


「そうはさせないぞ」

「へっ? ……ギャーッ!」


 しおりちゃんの手から湿布が離れ、しおりちゃんの顔に張り付きました。そして湿布は、しおりちゃんに質問を始めました。


「なぜ怪我をしているというのに、ひなちゃんに無理をさせようとした?」

「無理? 違うわよ、あの子のリハビリも兼ねて掃除させようとしただけで……」

「お前は医者ではないだろう! お前のせいで怪我が悪化したら、どうしてくれるんだ!」

「でもっ、治りかけているって聞いたし……」

「誰にだよ!」

「そ、それは……」

「どうせ勝手に決めつけたんだろう! 嘘吐きめ! それか噂話を自分の良いように考えたんだろう! ただの思い込みじゃないか! 大体、治りかけていることは完治ではない! お前は性格が悪い! 腐っている! 怪我よりも治りが遅い病気だ!」

「う……」


 自分より口が達者な湿布を前に、しおりちゃんは涙を流して黙ってしまいました。


「本当にひなちゃんの怪我を治したいと思っているのなら、それなりの役目を果たせ!」

「は?」


 しおりちゃんの顔にしがみついている湿布は、ますます強い力を出しました。


「ぐあっ……」


 しおりちゃんは苦しそうな声を出しましたが、誰も助けに来てはくれませんでした。大きく広がった湿布が、あっという間にしおりちゃんの口を塞いでしまったのです。




「ひなちゃんのこと、誰も迷惑だなんて思っていないからね!」

「あ、ありがとう……」


 ひなたちゃんを見つけたクラスの仲間たちは、教室へ戻りました。そして、みんなの目に入ってきたのは……。


「……きゃーっ!」

「うわーっ!」


 湿布に元気を吸収されて乾燥した、しおりちゃんでした。また、その横には……。


「あっ、私の湿布!」


 ひなたちゃんの湿布が未使用の状態で床に落ちていました。




 翌日ひなたちゃんは、怪我が完全に治りました。


「えっ! もう治ったの? 良かったけど、それにしても早くない?」

「うん、びっくりだよ。昨日の夜に湿布を貼ったら、一気にスーッと楽になっちゃった!」


 ひなたちゃんが貼った湿布は、しおりちゃんにしがみついたものでした。しおりちゃんの元気が、ひなたちゃんの体に行き渡ったのです。

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