野良犬の喰うところ(8)

 翌日曜日――俺は愛車のリトルカブに乗って、旧市街地にある市立図書館へと向かった。途中でパトカーとすれ違ったが、荷台に妹が乗っていることについて咎めることもせず、そのまま通り過ぎていった。まぁ見えるわけがないか。


 受付で古い新聞記事を探している旨を伝えると、地下書庫に案内された。普段はほとんど人が入ることもないのだろう。ほこりっぽい空気にさっそく鼻がむずむずし始める。


「よし、やろう」


 俺はコートを近くの椅子にかけると、縮刷版がずらりと並んだスチールラックの前でシャツの袖をまくって気合いを入れた。まずは地方紙から当たってみるか。


「本当に調べるつもりなんだね」


 水を差すようなことを言ったのは、明日香だった。


「悪いか?」


「別に悪くはないけど」


 声に不機嫌さがにじみ出ている。


「けど?」


「こんなことしてる暇あるのかなって」


「暇はあるさ。四月までは無職なんだから」


「あ、そ。まぁお兄がどういう風に時間を使おうとも、私が口を挟む問題じゃありませんけどね」


 明日香は小憎らしいことを言うだけ言って、黙り込んでしまった。大田さんの家に行ってからというもの、どうも妹は虫の居所が悪いようだ。


 俺は薄暗い天井を見上げて小さくため息をつくと、スチールラックに並んだ冊子の背表紙を目で追いかけ始めた。お目当ての唯華さんの失踪と凄惨な死に関する記事は、おそらく十六年前の十月号に掲載されているはずだった。

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