死者の祈り、あるいは呪い(12)

 ファミレスを出たぼくは、家まで送っていくという宏明の申し出を断って、近くの公民館に足を運ぶことにした。


 別れしな、宏明はふと思い出したようにこんなことを言った。


「昨日の火葬場、あれ、役所の人間が言うのもなんだが、あまり評判が良くなくてな。狭いし、空調の効きもいまいちだし、職員の対応もいい加減だし……でも、何より最悪なのは炉だな。今時、金属格子の上に直接棺を乗せて焼くロストル式の炉なんだぜ?」


「ロストル式? それって何か良くないの?」


「格子の上で焼かれた骨が炉底部に落ちる構造だから、落ちた衝撃で骨がバラバラに砕けてしまうんだ。一般的な台車式の炉よりも火葬にかかる時間が短くてすむというメリットもあるが……遺族にとってはそんなのメリットでも何でも無いだろう?」


「確かに」


「市の職員でも隣町の火葬場を使う人間は結構多いってのに、どうして道隆さんはあそこを使ったのかな、とは思ったよ」


「うーん、にいさん、その辺マジメだから」


「まぁな。でも、俺には意外だったよ。あの人、愛妻家で有名だったから」


 ぼくは頭を振って、宏明の顔を脳裏から追い出すと、公民館の一角に作られた図書コーナーに歩を進めた。狭いコーナーだが、こういう場所の常で図鑑類は一式揃っている。


「やっぱり、そうか」


 植物図鑑を手に取って、ぼくは呟く。あの日何が起きたのかを理解する。


 だから、あの陸橋へと、向かう。


 はやるな、はやるな、はやるな―どれだけ言い聞かせても、少しずつピッチが上がっていく。やがて見えてきたなだらかな傾斜を上がりきると、今度は一気に非常階段を駆け下りて、そして――。


 ――義兄は当然、姉を殺してなどいない。


 ぼくはフェンスのないところから未開発の区画の中に足を踏み入れた。


 ――義兄は姉のことを世界で一番に愛している。


 ひび割れた土管の並びの向こう。そこに、小さな樹木が植わっている。


 ――例え世界の全てを敵に回したとしても。


 答えは初めからそこにあった。それは木天蓼もくてんりょう――いわゆるまたたびの樹だった。

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