異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第119話 業に散る花、魔転の花――ジ・エンド・オブ・ダークナイト その4
第119話 業に散る花、魔転の花――ジ・エンド・オブ・ダークナイト その4
「今まさに、
「力って……えっ!? まさかっ!?」
ブリトラがカルナに手を向けた直後、シャーロットは絶句した。ブリトラの言う『力』が何を意味しているのか、どう見ても明らかだったからだ。そして同時にブリトラの意図を察したカルナも、目をつり上げてブリトラをにらみつけた。
「ブリトラァッ! おまえっ! このわらわを裏切るつもりっ!?」
カルナはブリトラに向かって声を張り上げた。しかしブリトラは澄ました顔で淡々と答える。
「いいえ? 私はカルナ様に
「はあ!? だったらこの状況はいったいなんなのよ! どう見たっておまえのやっていることは完全な裏切りじゃない!」
「お言葉を返すようで申し訳ございませんが、それはカルナ様の考え違いでございます。わかりやすく申し上げますと、
「はあ? ものの見方? それはいったいどういう意味よ」
「これは簡単な話でございます――」
ブリトラは優雅な動きで丁寧にお辞儀をした。
「
「はっ! 何を言うかと思えばなんのことはないっ! つまりおまえは
「えー、まあ、そう言われてしまいますと身も
ブリトラは肩をすくめ、手のひらを上に向けた。
「ですが、もう一言だけ付け加えさせていただきますと、私の目標を達成するためには、カルナ様よりもシャーロット様にお仕えした方が
「なにをバカなことをっ!」
ブリトラの言葉を聞いたとたん、カルナは唾を飛ばさんばかりの勢いで怒りを吐いた。
「冗談はいい加減にしなさいっ! おまえが
「ですが、
その瞬間、ブリトラは冷たい声でカルナに言った。
「はあ?
「はい。カルナ様の目標はクランブリン王国への復讐です。そして、この場でシャーロット様になりすますことができれば、カルナ様の復讐は間違いなく達成されます。――ですが、カルナ様には
「展望? それはつまり、復讐を終えたあとのことを言っているの?」
「そのとおりでございます。魔女というのはそもそも、強い恨みを晴らすために生きている存在です。ですので、当初の目的どおりクランブリン王国の人間をすべて殺し尽くしたら、カルナ様の中身は空っぽになります。生きる目標を達成したらそうなって当然です。しかし、カルナ様の情熱が燃え尽きてしまいますと、私の成長もそこで終わりになります。――ですが、シャーロット様は違います」
ブリトラはシャーロットの方にうやうやしく手を向けた。
「先ほどお答えいただいたとおり、シャーロット様の目標はネイン・スラートを助けること――つまり、人助けでございます。そして仮にネイン・スラートが命を落としたとしても、シャーロット様は他の多くの人間を救う道に進むはずです。――さて、カルナ様。それがどういう意味を持っているか、おわかりになりますか?」
ブリトラはカルナを見つめて質問した。しかしカルナは怒りに顔を歪めたまま、一言も返さない。その美しい魔女の醜い姿を見下ろしながら、ブリトラはニヤリと笑って言葉を続ける。
「答えは簡単です。カルナ様は恨みを晴らすという小さな目標で満足してしまう小さな人間です。ですがシャーロット様は、人間を守るという永遠の目標を選択した大きな人間です。ならば、はるかなる未来を目指して歩き続けるシャーロット様のおそばにいれば、私の力もそれだけ長く成長し続けることができるということです」
「なにをバカなことを言ってるのよっ!」
それまで黙って話を聞いていたカルナは、目を
「おまえは悪魔でしょ! 悪魔が人間を助ける手伝いをしてどうするのよっ! それにわらわはおまえの目標を知っているっ! それを達成するために必要なことだってじゅうぶんに考えているっ! だから今すぐ態度を改めてわらわの命令に従いなさいっ!」
「たしかに、カルナ様が私のことを気にかけていただいていることは、私も重々承知しております」
ブリトラはカルナの声に耳を傾けた。しかし、必死の形相で訴えた魔女の言葉は、悪魔の胸には響かなかった。
「ですが、私はこの185年間、ずっとカルナ様のおそばにおりました。そしてカルナ様の言葉を聞き、その行動のすべてを見てまいりました。その私が、この場でシャーロット様を選ぶということは、それはすなわち、カルナ様の人生が導き出した結果ということでございます」
「わらわの人生の結果? それはつまり、おまえを裏切りに走らせたのは、わらわのせいだと言いたいわけ?」
「まさにそのとおりでございます」
ブリトラは青いロケットを指先でつまみ、カルナに向けた。
「カルナ様は今回の復讐計画を14年前に立てました。そして同時に、私も
「きさまぁ。絶対の忠誠を誓うなどと言っておきながら、そんな前からわらわを裏切るつもりだったのね」
「はい。カルナ様もよくおっしゃっているではありませんか。『
そう言って、ブリトラは優雅に微笑んだ。その悪魔の微笑みを、魔女は憎々しげににらみながら疑問をぶつけた。
「だがなぜだ! その小娘は才能の欠片もない無能な子どもよ! 実力ではわらわの方が圧倒的に上のはず! なんでそんな小娘を選ぶのよっ!」
「それも簡単な話でございます。シャーロット様の潜在能力は、カルナ様をはるかに
「はあ!? そんなバカなことがあるはずないでしょうがっ!」
「いいえ。馬鹿な話ではございません。その
ブリトラは指でつまんだ青いロケットを軽く振ってさらに言う。
「ここまで強力な
「なっ……!?」
その瞬間、カルナは愕然として言葉を失った。
悪魔というのは基本的に
しかし今のブリトラは、
カルナはそのことを瞬時に悟った。そしてあまりの衝撃で、声も出ないほどの
そんなカルナからブリトラは目を逸らし、シャーロットを振り返る。すると、2人の会話を聞いていたシャーロットは、困惑顔でブリトラに声をかけた。
「あ、あのぉ……。つまりあなたは、わたしに味方してくれるということでいいんですか……?」
「はい。そのとおりでございます。ただし、1つだけ条件がございます。シャーロット様は、この私と契約を交わすお覚悟はおありですか?」
「覚悟って……それはつまり、悪魔と契約する覚悟ということですか……?」
シャーロットはおそるおそるブリトラに訊いた。するとブリトラは無言で首を縦に振る。それでシャーロットは、さらに顔を曇らせながら言葉を続けた。
「えっとぉ、すいません。正直に言って、悪魔と契約するのはすごく怖いです。だから、少しだけ考える時間をもらってもいいですか……?」
「はい。それはもちろんかまいません。これはとても重大な決断になりますので、じゅうぶんにお考えください。ただし――」
ブリトラは穏やかな声で返事をした。そして低い声で付け加える。
「
「え? 時間がないってどういうことですか?」
「簡単な話でございます。カルナ様の
「そうですか。わかりました。それじゃあ、すぐに返事を決めます」
そう言って、シャーロットは夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。そして夜空に浮かぶ丸い月を見上げながら全身全霊で考えた。
(そうだ。きっとネインくんもこんな感じだったんだ。一生を左右する大事な決断に直面した時、ネインくんは思い切って自分の運命に飛び込んだ。――だったらわたしも!
シャーロットはこぶしを握りしめて覚悟を決めた。そしてブリトラをまっすぐ見つめて決意を伝える。
「――わたしは今日まで何もできない子どもとして生きてきました。だからこの決断が正しいのかどうか、今のわたしにはわかりません。でも、ここで覚悟を決めなかったら、わたしはあの魔女に殺されます。そしてこの国に住む人たちの命も奪われます。
――そんなのっ! そんな未来はぜったいにイヤっ!
だったらっ! そんな悲しい運命を変えることがわたしにしかできないのならっ! わたしはどんなに辛い道でも選びますっ! だからわたしはっ! だからわたしはぁーっ! ブリトラさんっ! あなたと契約を交わしますっ!」
「――かしこまりました。ご決断いただき、まことにありがとうございます」
シャーロットが力強い声で運命を選択した瞬間、ブリトラはうやうやしく頭を下げた。そして再び、呆然としているカルナを手でさして言葉を続ける。
「それではシャーロット様。まずは
「……こうですか?」
シャーロットは左手首を胸の前にかざし、腕輪にはめられたオレンジ色の
「はい。そしてそのまま唱えてください。『
「わかりました――」
シャーロットは生気が抜けたカルナの顔をまっすぐ見つめながら、魔道具を発動させた。
「バイオーン・フルスキャン・レジストレーション」
その瞬間、腕輪から放たれたオレンジ色の光線が無数に走り、カルナの全身を照らしてすぐに消えた。
「これでカルナ様の生体情報はすべてバイオーンに記録されました。――それでは、最後の確認をさせていただきます。シャーロット様は、力を手に入れる覚悟はおありでしょうか?」
「わかりません」
淡々とした声で訊いてきたブリトラに、シャーロットは一瞬の迷いもなくそう答えた。
「力を手に入れるとどうなるのか、わたしにはまったくわかりません。だから覚悟が必要なのかどうかもわかりません。でも――
シャーロットは瞳の中に怒りと悲しみを込めて、自分の白い手を見下ろした。
「なにもできないこんなわたしを、ネインくんは命がけで助けてくれた。だからわたしは力がほしい。そして今度はわたしがネインくんを守りたい。力のない人たちを守りたい――。それが、メナちゃんを助けることができなかった、わたしの進むべき道です」
「……そのお覚悟、お見事でございます」
ブリトラは優雅な動きで頭を下げた。
「それではシャーロット様。私に続いて唱えてください。『
「はいっ!」
シャーロットはあふれんばかりの気合いを込めて返事をした。そして青い瞳の中に澄んだ光を
「――バイオーンッ! トランスフォームッ! ブートアップッッ!」
その瞬間、シャーロットの全身に黒い光がほとばしった。そして瞬時にその姿が変化した。肩まで伸びた金色の髪は長い赤毛に変わり、ソフィア・ミンス王立女学院の制服は真紅のドレスに形を変えた。
「おめでとうございます、シャーロット様」
執事服の悪魔は、新たに誕生した魔女に頭を下げた。
「シャーロット様はたった今、最上級レベルの魔女の力を手に入れました」
「これが、魔女の力……」
雨の魔女、ナキンカルナ・オルトリンの姿に変身したシャーロットは、白く美しい自分の手を見つめて呆然と呟いた。
「すごい、なにこれ……。体の奥から魔力があふれ出してくる……」
「それはシャーロット様が本来持っている魔力でございます」
カルナの声で呟いたシャーロットに、ブリトラは嬉しそうに目を細めて声をかけた。
「
「わたしが魔の姫、マギシス……」
「さようでございます」
ブリトラは再び上品に微笑みながら、本物のカルナの方に手を向けた。
「さあ、シャーロット様。そのお力を、目の前の敵に向けてお使いください」
「――ブリトラぁーっ! きさまぁーっ! このわらわを敵と呼ぶかぁーっ!」
その瞬間、カルナはハッと
「当然でございます――」
全身から怒りの殺気を放ち始めたカルナに、ブリトラは冷たい笑みを浮かべながら言葉を返す。
「今の私は、シャーロット様に
「なぁにが絶対の忠誠よっ! この恩知らずの外道がぁっ!」
「それもまた当然でございます。何しろ
憎しみの声を放ったカルナに、ブリトラは邪悪な顔で淡々と言い捨てた。
「さあ、シャーロット様。メナ・スミンズ氏を拷問して殺害したのはジャコン・イグバでございますが、彼をこの国に呼び寄せたのはそこの邪悪な魔女でございます。ですので、手に入れた力を使って、どうぞなぶり殺しにしてください」
「……うん。わかった」
ブリトラの残酷な提案に、シャーロットは素直に首を縦に振った。そしてカルナに右手を向けて、闇の魔法を発動した。
「闇・第4階梯
その瞬間、夜の闇が大きくうねった。
シャーロットの周囲で発生した影のうねりは、すぐさま無数の黒い腕と化してカルナ目がけて襲いかかる。そして瞬時にカルナを縛り上げ、影でできた人間大の十字架に拘束した。
「すごい……。これが魔法の力……」
強力な魔法を生まれて初めて使用したシャーロットは、身動きができなくなったカルナを見つめて、ただひたすら呆然とした。手に入れた魔女の力があまりにも強すぎたからだ。
その強烈な変化にシャーロットは激しく戸惑った。だから肩から力を抜いて、小さな息を吐き出した。それからブリトラに声をかけた。
「えっと、すいません、ブリトラさん。元の姿に戻るにはどうすればいいんですか?」
「それも簡単です。腕輪に意識を集中して、『
「わかりました。――バイオーン・トランスフォーム・シャットダウン」
シャーロットはすぐに魔道具の発動を停止した。すると再びシャーロットの全身に黒い光が
「すいません、ブリトラさん。その魔女のことは、ブリトラさんにお任せしてもいいですか?」
「はい。それはもちろんかまいませんが、どうかされましたか? もしかして、命を奪うことが怖くなりましたか?」
「はい。すごく怖いです」
ブリトラの問いかけに、シャーロットは素直に答えた。
「その人はサイラス陛下と、多くの王族を暗殺したと言いました。だから、わたしにとっては本当のお父さんのかたきです。本当の兄弟たちのかたきです。
……だけど、その人もクランブリンの人間に家族を無残に殺された被害者です。だからわたし、すごく怖いんです。クランブリンの人間であるわたしが、クランブリンのせいで人生が狂った人の命を奪うということが、本当にすごく怖いんです」
「なるほど……。クランブリン王国を恨む魔女が、クランブリン王国の人間に殺されたら、その魂は永遠に救われることはない――。シャーロット様はそれを案じているのですね」
「はい……」
シャーロットは悲しそうに眉を寄せて、力なくうなずいた。
「今日は本当にいろいろなことがありました。メナちゃん、カリーナさん、アンナさん、シスタールイズ、そして、王都でも多くの人たちが傷ついて命を落としたと思います……。だから今は、ほんの少しでも救いがある道を選びたいんです」
「かしこまりました。そういうことでございましたら、あとは私にお任せください」
「ありがとうございます……」
シャーロットはブリトラに頭を下げた。そしてブリトラの後ろに下がり、十字架に縛られたカルナの姿をまっすぐ見つめる。自分で手は下さなくても、せめてその最後だけは見届けなくてはならない――。シャーロットはそう思った。
「――さて。カルナ様。最後に何か、言い残したいことはございますか?」
ブリトラは1歩前に進み出て、カルナに向かって声をかけた。するとカルナは青白い顔でブリトラをにらみながら言い返す。
「……考え直しなさい、ブリトラ。今ならまだ間に合うわよ。もしもわらわの待遇に不満があるというのなら、今この場で言いなさい。そのすべてを改善することを約束するわ」
「お
「ではなぜなの。わらわとおまえは、180年以上もともに歩んできた仲じゃない。それなのに、なぜ今になってわらわよりもそんな小娘を選ぶのよ」
「その理由は先ほど申し上げましたとおりでございます。――ですが、本音を申しますと、もう1つ非常に重要な理由がございます」
ブリトラは淡々と答えながら、指を1本立ててみせた。
「なんなのよ。その重要な理由って」
「これは極めて根源的な
カルナはすがるような目をしてブリトラに訊いた。するとブリトラはゆっくりとカルナに近づき、耳元でささやいた。
「その理由は、カルナ様よりシャーロット様の方が、
「んなっ……!?」
その瞬間、カルナは長い人生の中で最大級の衝撃を受けて目を剥いた。その赤毛の魔女の度肝を抜かれた顔を見つめながらブリトラはニヤリと笑い、元の位置まで戻っていく。
「さあ、カルナ様。初めてお目にかかってから今日まで実に185年間、大変お世話になりました。どうぞ迷うことなくソルラインへと旅立ってください」
「ブゥリィトォラァァーッ! きさまふざけるなぁーっ! このわらわがぁーっ!
「はい、当然でございます。
「では、まいります。我が右手に
その瞬間、ブリトラの右腕が暗黒の炎に包まれた。
「続きまして、我が左手に
ブリトラはさらに左手も前に突き出して魔法を唱え、暗黒の吹雪を左腕にまとった。
「まっ! 待て待て待て待てっ! ちょっと待ってぇーっ!」
ブリトラが暗黒の炎と吹雪を準備したとたん、カルナは目玉が飛び出さんばかりに両目を見開いて声を張り上げた。
「ブリトラぁーっ! きっさまぁーっ! 今の弱り切っているこのわらわにっ! 本気で
「もちろんでございます。カルナ様は最強の悪魔使いと恐れられた
「キエェェーッッ! ふっざけんなぁぁーっっ!」
その瞬間、カルナは超音波のような甲高い叫び声を張り上げた。
「きっさまぁーっ! きさまっ! きさまっ! きっさまぁーっ! そこまでするかぁーっ! そこまでしてっっ! このわらわを完全に殺すつもりかぁぁーっっ!」
「ご安心くださいカルナ様。どんなに強い魔女であろうと、いつかは必ず滅びます。ならば、私の最強魔法で美しく滅ぶことができるのは、むしろ喜ばしいことではありませんか」
「いぃやぁぁーっっ! いやぁーっ! いやぁーっ! そんなのぜったいっ! わらわはいやぁーっ! いやいやいやいやっ! ぜったいいやぁーっ! 死にたくないっ! 死にたくないっ! わらわはまだまだ死にたくないっっ! この恨み晴らすまでぇーっ! ぜったいに死んでたまるかぁぁぁーっっっ!」
カルナは叫んだ。
叫んで叫んで、叫びまくった。血の混じった唾を吐き散らしながら、魂に刻まれた恨みをまき散らした。
その針のような鋭い絶叫は、暗い夜空と屋上庭園に響き渡った。しかし、闇に
「それではカルナ様。名残は尽きませんが、そろそろ幕を下ろしましょう。悪魔・第7階梯
美しい顔を醜く歪めて叫び続けるカルナを見つめながら、ブリトラは両手を合わせて魔法を唱えた。
その瞬間、暗黒の炎と吹雪が激しい火花を散らしながら融合した。そして闇より
「――ルッ! ルシィィラァァーッッ!」
真紅のドレスに身を包んだ美しい魔女は、漆黒の雷雲と化した暗黒波にのみ込まれた。そしてもっとも大切な人の名前を最後に叫びながら、カルナの体は瞬時に分解されて消滅した――。
「おさらばです。雨の魔女、ナキンカルナ・オルトリン様――」
上級悪魔の最強魔法を受けたカルナは、黒い
すると後ろで見ていたシャーロットがブリトラの横に並び、同じように星空に目を向けた。
「……ナキンカルナ・オルトリン。復讐のためだけに長い時を歩いてきた哀れな人。せめてあなたの魂がソルラインに導かれ、愛しい家族と再会できることを祈ります――」
シャーロットは
***
「――はっ!」
丸い月が昇った夜空の下――。
「ここは……?」
冷たい地面に倒れていた女は慌てて立ち上がり、周囲の闇に目を凝らした。
すると、
「これは……戦闘の痕跡か……?」
明らかに何らかの大魔法で打ち砕かれた大地を眺めながら、女は呆然と呟いた。しかし次の瞬間、女は鋭く息をのんだ。
「――ハッ! シャーロット様っ!」
唐突に目の色を変えた女は、もう1度素早く周囲を見た。
しかし、どれだけ目を凝らしても人影1つ見当たらない。すると女は地面に落ちていた青い剣を拾い上げ、反射的に駆け出した。
「シャーロットさまぁーっ! シャーロットさまぁーっっ!」
女は懸命に走りながら、あらん限りの声を張り上げた。
しかし、女の声に
「シャアァロットさまぁぁーっっ! ッシャアァァロットさまぁぁーっっ!」
女はさらに声を振り絞りながら、
そしてそのままどこまでも、陽が昇るまで走り続けた――。
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