異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第113話 闇に迷いし放浪者と、光を目指す復讐者――マン・イン・ザ・ダーク VS ガッデムファイア その3
第113話 闇に迷いし放浪者と、光を目指す復讐者――マン・イン・ザ・ダーク VS ガッデムファイア その3
「……おい。さっきのガキどもはいったい何だ?」
丸い月が浮かぶ夜空の下――目の前までゆっくりと近づいてきたネインに、ジャコンが低い声で問いただした。
「わからない――」
ネインは首を横に振った。つい先ほどまで大地を埋め尽くしていた漆黒の
「さっきの女たちを見るのは今夜が2回目で、名前すらよく知らない相手だ」
「そうか……。だがあの金髪頭のガキは、俺の無限のアリどもをほんの一瞬で消滅させやがった。あんな魔法は見たことも聞いたこともない。完全に規格外の超魔法だ。そして――」
ジャコンは枯れた噴水の
「あそこでのんきに見物しているあの女も異常すぎる。俺たち転生者は、どんなに強力な魔物のステータスだって見えるはずだ。だが、さっきのガキどもとあの女のステータスはまったく見えない。
――いや。見えないどころの話じゃない。
あいつらのステータスは
「もう1度言うが、オレにもわからない」
恐怖がこもった声で語ったジャコンをまっすぐ見つめ、ネインは淡々と言葉を続ける。
「彼女の話はあとで聞くつもりだ。だがオレの推測だと、彼女たちはおそらく
「
ジャコンはわずかに目を凝らし、シャーロットと話をしているハルメルを見た。
「……だが、まあいい。さっきのガキの超魔法なら、アリどもと一緒に俺を消し去ることもできたはずだ。しかし、それをしなかったということは、ヤツらは俺とおまえの戦いを見物する気マンマンってことだ。まったく……。ひと思いに俺を殺せばいいものを、行動が中途半端で気まぐれなところは、たしかに妖精のイメージにピッタリだな」
「――ジャコン・イグバ。降伏しろ」
「は?」
その瞬間、ジャコンは呆気に取られてパチクリとまばたいた。ネインがいきなり、真剣な表情で降伏勧告をしてきたからだ。
「おまえいきなりなに言ってんだ? このタイミングで、俺に負けを認めろって言ってんのか?」
「そうだ。勝敗はすでに決した。アンタではオレに勝てない」
「はあ~?」
ジャコンは思わずまじまじとネインを見つめた。
「おまえホント、マジでなに言ってんだ? そりゃ逆だろ? おまえがどんな魔法を使おうと、俺は無限のアリを召喚して完璧に防ぐことができる。こんなんどう考えても、勝ち目がないのはおまえの方だろうが」
「悪いが、それは完全に計算違いだ」
ネインは首を横に振り、背後に親指を向けてさらに言う。
「オレが最初から全力を出さなかったのは、アンタの後ろにシャーロットがいたからだ。しかし今はシャーロットを巻き込む心配がない。さらに背中の傷も完治したオレは、本気の全力を出すことができる。どう考えても、勝ち目がないのはアンタの方だ」
「ほう? それはつまり、さっきの腕が青くなる魔法以外にも、おまえには俺のアリどもを倒す手段があるってことか?」
「そういうことだ。そしておそらくアンタの方も、まだ奥の手を残しているはずだ」
「はっ。よく気づいたな」
「当然だ。アンタの手を見れば一目でわかる――」
ジャコンがニヤリと笑ったとたん、ネインはジャコンの左手に視線を落とした。
「アンタは両手に同じ指輪をはめている。そして今までは右手の指輪を光らせてアリどもを召喚していた。ということは、左手の指輪には別の用途があるはずだ」
「いいぞ、ネイン。正解だ――」
ジャコンはさらに目を細め、両手を左右に大きく広げた。
「……この左の指輪はたしかに俺のとっておきだ。だが、おまえなら相手にとって不足はない。だから特別に俺の本気を見せてやろう。
「――なにっ!? この青い光はっ!?」
ネインは鋭く息をのんだ。ジャコンの両手の青い指輪が、今までにないほどの力強い輝きを放ち始めたからだ。
「さあっ! よく見ろネインっ! これが俺のっ!
ジャコンは両手を星空に向けて、高らかに魔法を唱えた。
「いくぞオラァーッ!
精霊・第6階梯
そしてぇーっ!
精霊・第6階梯
その瞬間――大地が揺れて、大気が震えた。
「こいつは……でかい……」
ネインは思わず目を見開きながら呆然と呟いた。なぜならば、ジャコンの左右に巨大な魔物が出現したからだ。
片方は漆黒の体を持つ
「どぉだネインっ! これがぁーっ!
ジャコンは左右のこぶしを握りしめて夜に吠えた。そのとたん、2匹の魔獣がネイン目がけて襲いかかった。
「――くっ! 電撃・第1階梯
ネインはとっさに胸の前で両手を合わせて魔法を唱えた。そして全身に青い電流をまとった瞬間、全力でダッシュした。
その直後、ネインが立っていた地面に
「……速いっ!」
風のように走るネインは、追いついてきた
しかし次の瞬間、
「――くっ! 魔獣の連携攻撃かっ!」
ネインは全身の青い電流を瞬時に強めてさらに加速し、横に跳んで素早く避けた。その直後――
「こっ!? この威力はっ!?」
ネインは空中で回転しながら砕けた大地を見下ろした。その毒針の一撃は、
「――まずいっ! 毒の雨かっ!」
ネインはとっさに斜めに跳ねて身をかわした。しかし、雨のように降り注いだ毒液の一部が制服をかすめ、上着とスカートに小さな穴がいくつも
「こいつらっ! 動きに
ネインは再び夜の大地を疾走しながら精神を集中した。そして左右のこぶしを握りしめ、必殺の魔法を発動させる。
「電撃・第1階梯
瞬間、ネインのこぶしが青い閃光を闇に放った。同時に静かに燃える青い
「――うおおおおおおーっ!」
青い電流を全身にまとったネインは、最大速度で
しかし同時に、ジャコンもニヤリと顔を歪めた。
「……ふん。甘いぞ、ネイン。その
「なにっ!?」
疾走しながら
そしてさらに次の瞬間、
ネインはすかさず大きくジャンプ――。
「――これは衝撃波っ! こんな攻撃まであるのかっ!」
「そぉだネインっ! 俺の精霊獣の強さを思い知ったかぁーっ! だがしかぁーしっ! まだまだこんなモンじゃねーぞオラァァァァーッッ!」
驚くネインを眺めがら、ジャコンはさらに青い指輪を強く光らせた。そのとたん、
「――こっ!? これはっ!?」
ジャコンから距離を取って足を止めたネインは、目の前に広がる世界を見て息をのんだ。ジャコンの背後の大地から膨大な数の
「言っただろぉがぁーっ! こいつらは無限のアリとハチを召喚するっ! そしておまえの必殺魔法も防ぎ切ったっ! つまりっっ! おまえはもうこの俺にっっ! ぜったいに勝てないっっ! ドヤァァァーッッッ!」
絶対の勝利宣言ともに、ジャコンは腹の底から
「どぉだぁーっ! この無限のアリとハチの天地両面攻撃でっ! 俺はイグタリネの魔法戦団を1人残らず殺し尽くしたっ!
どんなに強力な軍隊だろうとっ! こいつらには絶対にかなわないっ! 俺の妻と娘たちを殺したクズどもはっ! この虫ケラどもに
「……そうか。ならば、心残りはもうないな」
「もう1度言う。ジャコン・イグバ。降伏しろ」
「……はぁ~、やれやれ」
いきなり声のトーンを落としたジャコンは灰色の短い髪をかき上げて、小さな息を1つ吐いた。
「おいおい、どうした、ネイン。圧倒的に有利な俺が、こんなタイミングで降伏するわけねーだろうが」
「よく考えろ、ジャコン・イグバ。それは見せかけの幻想だ。なぜならば、アンタは魔獣の能力に頼りすぎている。そして、アンタの虫どもが無限に湧き出るというのなら、こちらも無限の攻撃を繰り出せばそれで済む。単純な話だ」
「はっ。無限の攻撃だと? バカ言ってんじゃねーよ。口で言うのは簡単だが、おまえにそんなことができるのか?」
「できる」
小馬鹿にした笑みを浮かべたジャコンに、ネインは淡々と言い切った。
「だから、アンタを倒すのはそれほど難しいことではない。しかし――」
「……しかし、なんだよ」
「アンタは
「
「そうだ――」
ネインは胸に手を当てて、ジャコンをまっすぐ見つめながら言葉を続ける。
「オレは、この世界に侵入した
「なんだと……? おまえまさかこの俺に、転生者を殺す手伝いをしろって言ってんのか?」
「そのとおりだ。オレが見てきた
「……まあ、たしかに転生者ってのはバカばっかりだから、強く反論できねーな」
ジャコンは思わず苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。それからおもむろに自分の顔を指さしてネインに尋ねる。
「だけど俺も転生者だぞ? 転生者を皆殺しにするのに、転生者の力を借りるって矛盾してねーか?」
「問題はない。
「はっはっは! そいつはまたずいぶんと正直だな!」
どこまでもまっすぐなネインの言葉を聞いて、ジャコンは心底楽しそうな声で笑った。その少年のような無邪気な笑みをネインは見つめ、低い声でさらに言う。
「……オレは今日まで、多くの人間の命を奪ってきた。だからわかる。ジャコン・イグバ。アンタは死に場所を求めている。ならばその命尽きるまで、この世界のために戦い続けろ」
「ほほう、なるほど。俺は死に場所を求めているように見えるのか……」
ネインの言葉を聞いたとたん、ジャコンは首をわずかに横に振った。それから小さな革袋を取り出すと、中から白銀のコインを2枚つまみ、ネインの前に弾き飛ばした。
「……これは、ゲートコインか」
「そうだ。おまえはそのコインの効果を知っているはずだ」
ネインは目の前に転がったコインを見下ろした。するとジャコンは真剣な表情でネインを見つめながらさらに言う。
「悪いな、ネイン。せっかくのお誘いだが、俺はおまえに協力できない」
「なぜだ」
「そんなの決まってるだろ。この俺も、血に飢えた獣として生きてきたからだ。今さら別の道を歩いたら、俺が俺を許せなくなるんだよ――」
ジャコンはゆっくりと顔を上げて、遠い星空に目を向けた。
「……だから俺はおまえを殺す。そして今までどおり世界中を旅して歩き、多くの人間を殺しまくる。男も女も関係ない。老人だろうが子どもだろうが
「……そうか」
深い想いのこもったジャコンの言葉を聞いたネインは、白銀のコインを見つめる瞳に悲しみの色をにじませた。そして、ジャコンがゲートコインを投げ捨てた理由を察しながら、深い息とともに心をこぼした。
「アンタは本当に不器用なんだな……」
「うるせーよ。おまえも似たようなモンじゃねーか」
ジャコンはネインを指さしてニヤリと笑い、さらに言う。
「だが、勘違いするなよ? 俺はおまえに負ける気はない。ゲートコインを捨てたのは公平に戦うという意思表示だ。たまには正々堂々と殺し合うのも悪くはない――。そういうカッコつけも、俺はキライじゃないからな」
「そうか。ならばオレも、アンタの強さに敬意を
そう言って、ネインは1歩前に踏み出す。そして、無限の虫どもを背にして立つジャコンに向かって胸を張り、堂々と名乗りを上げた。
「オレはクランブリン王国、アスコーナ村のネイン・スラート」
「ふっ。そうきたか――」
ジャコンは思わずクスリと笑い、すぐに表情を引き締めた。そしてやはり1歩前に進み出て、名乗り返す。
「俺はイグタリネ王国、ノジルの泉から来た
「では、いくぞ。ジャコン・イグバ」
「ああっ! いつでもこいっ! ネイン・スラートぉーっ!」
ジャコンは再び両手を天に突き出して、全身全霊の魔力を青い指輪に注ぎこんだ。
「うっしゃぁーっ!
その瞬間、闇を切り裂く鋭い光が指輪から解き放たれた。そしてその青い光に照らされたとたん、
しかし、ネインは冷静だった。
もはや大魔獣と化した
「――DCS・
その刹那――ネインの全身から
「なっ!? なにぃぃーっっ!?」
ジャコンは思わず絶叫しながら手で目元を覆い隠した。ネインの全身から放たれた閃光は、昼間の太陽光線よりも強烈なものだったからだ。そしてそのまばゆい光の波動の中、ジャコンは目を細めながらネインを見た。その直後、ジャコンは鋭く息をのみ込んだ。ネインの全身が、揺らめく黄金のオーラに包まれていたからだ。
「なっ!? なんだそりゃぁ!? なんなんだっ! その黄金のエネルギーはっ!?」
「――これが、この世界の神の光だ」
「かっ!? 神だとぉぅ!? バカなこと抜かしてんじゃねーぞコノヤローっ! そんなこけおどしの化けの皮なんざぁーっ! 俺のこの目で見抜いてやるっっ! ウオラァーッ! ステータス・オーンっっ! ――って、そんなバカなぁぁーっっ!」
ジャコンは特殊スキルを発動して、ネインのステータス画面を凝視した。そのとたん、目玉が飛び出さんばかりに目を剥いて絶叫した。
「なっなっなっなっ!? なんだこりゃぁーっ!? なんなんだそのステータスはっ!?
力と! 機敏と! 器用と! 知力と! 精神力と! 運が!
すべてっ!
ありえないっ! なんなんだおまえはっ!?
「……言ったはずだ。オレは絶対神が作った組織――絶対戦線アグスラインの一員だと」
「ふっ! ふざけんじゃねぇーぞゴラァァァーッッッ!」
ジャコンはネインをにらみつけながら牙を剥き、両手の青い指輪に魔力を
「だったらっ! その力が本物かどうかっ! この俺に見せてみろぉーっ! おおおおおおおぉーっっ!
ジャコンはネインに向かってあらん限りの声で怒鳴った。その直後、ジャコンの背後を埋め尽くした莫大な数の
しかし――。
黄金のオーラをまとったネインの心は冷静だった。
ネインは迫り来る虫の嵐を見据えながら、胸に下げた
「うおおおおおおーっ! こいっっ! ――ガッデム・ファイアッッッ!」
その瞬間、ネインの全身から爆炎が噴き出した。
さらにその灼熱の炎は太い筋となって宙を舞い、ネインを中心にした広範囲に渦を巻く。その姿は、まさに爆炎の龍――。そして全身にまとった
「出でよ不死鳥っっ! 火炎・第6階梯
ネインは右の
そのとたん、巨大な魔炎の鳥が夜空に向かって飛び立った。その爆炎の鳳凰は猛烈な速度で上昇しながら2体に分かれ、そしてすぐさま急降下――。1体はネインの元へ、もう1体はハルメルとシャーロットの元へと突っ込んでいく。そして大地に飛び込んだ瞬間、円形の魔炎結界に姿を変えた。
「フェニックスッ! オレたちを虫から守れっ!」
そのネインの叫びに
「いくぞぉぉーっっ! ガルデリオンッッ! 無限の敵を焼き払えっっ! 第8階梯
爆炎咆哮――。
その瞬間、ネインの周囲で猛烈な爆炎が巻き起こった。
その激しい炎は四方八方に舞い上がり、すぐさま魔炎の獅子に形を変える。その姿はまさに小型のガルデリオン――。
燃え盛る炎の獅子たちは自由自在に夜空を駆け巡り、天まで伸びた虫の壁に襲いかかる。ジャコンが召喚した
しかし――。
それでも、焼け石に水だった。
膨大な数の虫どもは、どれだけ焼いても続々と押し寄せてくる。魔炎の獅子たちは虫の壁に食らいつき、穴を
その光景は、まるで小さな
「ッハァーッ! どうしたネインッッ! そんなちっぽけな花火なんざっ! 俺の虫どもが即座にのみ込み消し飛ばすっっ! オーラオラオラッ! 無限の攻撃とやらはどこにいったぁーっ! ィィィヒャッハーッッ!」
虫の嵐の中に立つジャコンは、勝利を確信した顔で高らかに笑い出した。すると、魔炎結界の中で決戦用の魔力を練り上げていたネインが、ジャコンをまっすぐ見つめて口を開く。
「……言ったはずだ、ジャコン・イグバ。アンタは魔獣の能力に頼りすぎている。それを今から証明しよう。アンタの虫は、1匹残らずオレの光でなぎ払う――」
「だぁーはっはっはっはっはーっっ! ぶぇーっへっへっへっへっへーっっ! ぬぁぁにが1匹残らずなぎ払うだぁぁーっっ! 決め顔でカッコつけてる暇があんならっっ! さっさと今すぐ見せてみろやぁぁーっっ! そのご自慢の光とやらをなぁぁーっっ!」
「ああ、しっかり見ろ。
大魔法用の魔力準備を終えたネインは両手を前に突き出した。そして体にまとう黄金のオーラをさらに燃やし、光の世界を呼び出した――。
「うおおおおおおぉーっ! 光あれっっ! 第7階梯
その瞬間、世界に強烈な光がほとばしった。
それは天地に満ちたまばゆい光の粒だった。その光の欠片たちは
「なっ!? なんだこりゃ!? ただの光の柱じゃねぇかっ!」
ジャコンは
「あぁっ!? マジでいったいなんなんだっ!? こんなのただのド派手な照明じゃねぇかっ! どういうつもりだネイン・スラートぉぉーっっ!」
「慌てるな。これはただの下準備だ――」
相変わらず膨大な数の虫どもを焼き尽くしている魔炎結界の中で、ネインは淡々とジャコンに言った。それからおもむろに右手を上げて、星の彼方に指を向ける。
「……さあ。覚悟はいいか、ジャコン・イグバ。おまえの死に場所は完成した。あとはオレの指1本ですべてが終わる――。天地を埋め尽くす無限の魔獣の散りゆく姿、その目にしっかり焼き付けろ」
「はっ! なぁにが俺の死に場所だっ! 俺の虫どもは絶対無敵っ! どんな強力な魔法だろうと体を張って受け止めるっ! それでも自信があるって言うんならっ! ゴチャゴチャ言わずにさっさとやれやぁーっ! そしてムダなあがきが終わったらっ! 俺の虫どもに
ジャコンは足を広げて大地を踏みしめ、両手を天に向けてネインに怒鳴った。その自分の勝利を信じて疑わないジャコンの姿を見据えながら、ネインは決戦の魔法を撃ち放つ――。
「いくぞ。道に迷った闇の男よ。オレの光で目を覚ませ――。はあああああああーっっ! 光・第7階梯
無限裂光――。
その瞬間、ネインが振り下ろした指先から紫色の光線が放たれた。その死を運ぶ一撃は、光の速さで闇を切り裂き突き進む。そして巨大な光の柱に命中した刹那――光線は無限の
それはまさに、天地の
夜空と大地を覆った虫の大群の中を、紫色の光線が乱れ飛ぶ。その必殺の威力を持つ光線は、無数の光の柱に反射して終わることなく増えていく。そしてさらなる光の豪雨と化して猛威を振るい、無限の虫どもを片っ端から撃滅する――。
「――ンなっっ!?」
ジャコンは
ネインが放った光線は天地のすべてを瞬時に貫き、ほんの数秒で無限の虫どもを1匹残らず消滅させた。さらにジャコンの周囲の柱は無数の光線を集束し、巨大なレーザーを撃ち放つ。
その超高出力の
「バ……バカな……。俺の精霊獣が……絶対無敵の王と女王が……一瞬でやられただと……?」
ジャコンは愕然と目を見開き、呆然と立ち尽くした。
どんなに強い相手であろうと確実に暗殺してきたジャコンにとって、それはありえない光景だった。まさに悪夢としか言いようがない――。しかしそれは、揺るぎない現実だった。だからジャコンは震える体で、後ろにふらりと1歩よろけた。
するとその時、飛び散りながら消えていた光線の一筋が、ジャコンの腹を貫通した。
「ごふっ……」
その瞬間、ジャコンはわずかに血を吹き出した。そしてすぐに両手で腹の傷を押さえた。しかし、傷口からは血があふれ、みるみるうちにローブを赤く染めていく。その出血は明らかに致命傷だった。
するとネインは魔炎結界を解除して、ジャコンに向かって歩き出した。
「――無限の虫を生み出す魔獣が消滅した時点で、アンタは戦うすべを失った。それがアンタの弱点だ」
ネインはジャコンの前で足を止め、淡々と口を開いた。するとジャコンも血の気の失せた顔でネインを見つめ、力のない声で言う。
「……へっ。さんざんデカい口を叩いておいてこのザマとは、俺もヤキが回ったな……」
ジャコンは血が混ざった唾を吐き出し、ニヤリと笑ってさらに言う。
「ほんと、まいったぜ……。自分の意志を貫けないヤツは、どこまで行っても曲がり道の人生しか歩けない……。だから俺は、自分の
「それは違う」
体から力が抜けて大地に膝をついたジャコンに、ネインは穏やかな声で言う。
「アンタは世界中の何よりも大切な人を見つけた。そして自分の命よりも大事な家族を手に入れた。それ以上に必要なものなんて1つもない。アンタは探し求めていたものを、ちゃんと見つけることができたんだ」
「……そうだな。俺はとっくに……手に入れていたんだ……」
ジャコンはもう1度血を吐き出し、遠い星空に目を向けた。
「アミ……サナ……ミミ……。そして、リーン……。俺みたいなクズには……もったいないほどの家族だった……」
はるか遠い昔に手に入れた幸せを思い出したジャコンは、愛する家族の名前を口にした。そして、はるか遠い昔に捨て去った涙を、ジャコンは死の間際にようやく取り戻した。
「なあ、ネインよ……。この世界で死んだ魂は……ソルラインに導かれる……。俺の魂も……そうだろうか……」
「わからない」
ネインは静かに涙を流すジャコンに1歩近づき、胸の
「アンタたち
「そうか……。ま、訊くまでもなかったな……」
ジャコンは咳き込みながら血を吐き出し、悲しそうに微笑んだ。
「ヒトをさんざん殺しまくってきたんだ……。俺の魂は地獄行きだろ……」
「そうか。ならばオレも、あとから行こう」
ネインはジャコンを見つめながら、首を小さく横に振った。そして右手を
「電撃・第1階梯
その瞬間、ネインの右手が青い
「オレの魔法は安らかな死を与える――。最後に何か言い残すことはあるか」
ネインは低い声でジャコンに訊いた。
「……ない。涙だけが……人生だ……」
ジャコンは最後の言葉を口にした。
そして澄んだ瞳で、星を見上げた。それはかつて北西の地で、愛する人と一緒に眺めた光と同じだった。だからジャコンは、心の底から懐かしそうに微笑んだ。
その安らか表情を見て、ネインは小さくうなずいた。それから大地に片膝をつけて、ジャコンの胸に青い手を押し当てる。
「……アンタの魂がソルラインに導かれ、家族に再会できることを祈る。そしてもしもメナさんに会えたら、オレの分まで謝っておいてくれ」
ネインはジャコンを見つめてそう言った。
ジャコンもまた、ネインを見つめてうなずいた。
「……さらばだ。ノジルの泉から来た
ネインは右手に魔力を込めた。
そして青い
ネインはジャコンの体をそっと大地に横たえる。
ジャコンの死に顔は穏やかだった。
「オレの道のはるか先を歩いた
ネインはジャコンの目をそっと閉じた。
そして胸に手を当てて、
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