異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第100話 襲いかかる正義――レッドパラソル VS マン・イン・ザ・ダーク その1
第24章 4月30日 [3] 正義――レイディング・ジャスティス
第100話 襲いかかる正義――レッドパラソル VS マン・イン・ザ・ダーク その1
夕暮れ間近の空の下、3人の男女が細い石畳の道を歩いていた――。
それは軍服姿の若い男と、黒いメイド服を着た若い女、そして、車椅子に座った白いドレス姿の少女だった。
夕焼けの赤い光を背中に受けて歩く3人は、顔に暗い影を落としたまま、一度も口を開くことなくただひたすら黙々と、人の気配のない
「これはまた……すごいゴミ捨て場だな……」
目の前に広がる景色を一目見たとたん、若い男が顔をしかめた。その石畳の広場には大量のゴミが打ち捨てられていて、鼻が曲がりそうなほどの悪臭が漂っていたからだ。
「ネンナさん。こんなに
「もちろんです、クルース様。スミンズ様の血の匂いはこの先に続いています。ですので、グダグダ言わずについてこい」
男は半信半疑の顔つきでメイド服の女に尋ねた。すると女は淡々とした顔で冷たく答え、ゴミの山に
「それで、アム。スミンズさんを殺した犯人を見つけたらどうするつもりなんだ?」
「何を今さら。そんなことは聞くまでもないだろう」
少女は呆れた顔で言い捨てた。すると男は渋い表情を浮かべてさらに訊く。
「だけど問答無用で犯人を倒したら、情報が手に入らないだろ。もしも今回の犯人が王位継承権者を暗殺した魔法使いだったら、黒幕の正体を聞き出すべきだと思わないか?」
「思わん」
「なんでだよ」
「その犯人をここで取り逃がせば次の被害者が出る。だから倒す。――というのは建前だ。我が友の命を奪った者は何があっても許さない。それ以外の理由は不要だ」
「まったく……。おまえは本当に頑固だな……」
アムの揺るぎない意志を確認したクルースは、顔を曇らせながら茶色い髪をかき上げた。
「わかったよ。たしかに手を抜いて犯人を取り逃がしたら、それこそ元も子もないからな。ボクは引っ込んでいるから、おまえの好きにしていいぞ。ただし、周囲に被害が出そうになったら止めるからな。……まあ、ここはゴミの山だから問題ないと思うけど」
「そうだな。相手の実力にもよるが、気が向いたらこの辺一帯を跡形もなく消し去ってやろう。そしたらゴミも消えてちょうどいいだろ」
「いや、頼むからそんな物騒なことは言わないでくれ……というか、絶対やめろ」
クルースは再び呆れた息を漏らした。そして、周囲に散乱する腐った残飯や壊れた家具などを眺めながらゆっくり進み、広場の奥にある大きな建物に近づいた。しかしそのとたん、ハッと目を見開いて足を止めた。その崩れかけた3階建ての建物の前に小さな
「……お嬢様。目標を確認いたしました」
「うむ。ご苦労」
ネンナも建物の手前で足を止め、樽に座る男の姿を眺めながら淡々と報告した。その言葉にアムは小さくうなずいたが、ネンナの隣に立つクルースは愕然としながら男をまっすぐ見つめていた。その灰色の髪の中年男性は、特徴的な長い耳を持っていたからだ。
「お……おい、アム。あいつはまさか……
「どうやらそうみたいだな」
「そうみたいだなっておまえ……。それじゃあ、あいつがカロン宮殿を襲撃したジャコン・イグバか……」
「――ほう。俺の名前を知っているか」
クルースが呆然と呟いたとたん、樽に座る細身の男が口を開いた。
「この国で俺の名前を知っている人間を見たのは2人目だ。その服装からすると警備軍のようだが、ただ者じゃないな。おまえたち。どうして俺がここにいるとわかった」
「それは――」
「――そんなことはどうでもいい」
クルースが答えようとしたとたん、横からアムが口を挟んだ。そしてローブをまとったジャコンをまっすぐ見据えてさらに言う。
「
「……ああ、なるほどな。そういうことか」
アムの質問を耳にしたとたん、ジャコンはゆっくりと顔を上げ、赤い空に目を向けた。
「そう言えばそうだったな……。警備軍の人間がお茶会に来ると言っていたが、あれはおまえたちのことか」
「おまえの無駄口なぞ聞くつもりはない。メナを殺したのはおまえか?」
「ああ、そうだ。こっちも言い逃れるつもりはない。メナ・スミンズを殺したのは俺だ」
再び問いかけたアムに、ジャコンは力のない声で答えた。するとクルースが1歩踏み出し、さらに訊いた。
「おまえに聞きたいことは他にもある。カロン宮殿を襲撃して、王位継承権者を暗殺したのもおまえだな?」
「まあな。
「では、スミンズさんを殺したのはなぜだ。なんで罪のない女性をあんな残酷な方法で殺したんだ」
「あれもただの仕事だよ」
「仕事だと? だったらどちらの事件にも依頼主がいるということだな。その黒幕は誰だ。おまえはいったい誰の指示で動いていたんだ」
「やれやれ……」
ジャコンは不意に呆れ果てた息を漏らし、クルースの顔を指さした。
「おまえ、貴族のおぼっちゃんだろ?」
「話を逸らすな。質問に答えろ」
「何が話だ。そっちが一方的に質問しているだけじゃないか。なんで俺が、おまえの質問にいちいち答えなくちゃいけないんだ?」
「そんなことは決まっている。おまえがこの国の治安を乱した殺人鬼だからだ」
「はっ。これだから貴族の相手をするのはイヤなんだよ――」
ジャコンは瞳の中に淡い怒りを燃やしながらクルースをにらんだ。
「俺から言わせれば、殺人鬼はおまえたち貴族の方だ。庶民から税金を
「……それが、罪のない人々を無残に殺害した言い訳か」
クルースも目に力を込めて、ジャコンをまっすぐ見返した。
「やはりおまえはただの殺人鬼だ。自分の欲望を満たすために、自分に都合のいい正義を振りかざしているだけの卑怯者だ。平穏に暮らしていたスミンズさんの命を奪ったおまえの方こそ化け物ではないか。そんな邪悪な存在に、正義を語る資格はない」
「……まあ、それはそうかもな。その点については否定しない。おぼっちゃんの言うとおりだ」
ジャコンは足元に置いていたボトルを拾い上げ、のどを鳴らしてワインを飲んだ。
「たしかにメナ・スミンズを殺したのは俺の都合だ。そこに正義なんてモノは
「なに? それはつまり、おまえは誰かに命令されてスミンズさんを殺したということか?」
「……さあな。だが、今日のワインはいまいちだ……」
ジャコンは残りのワインを飲み干して、空になったボトルを足元に転がした。その悲しそうに肩を落としたジャコンを見て、クルースは首を小さく横に振った。
「とにかく、話の続きは警備軍の本部で聞かせてもらう。ジャコン・イグバ。そこを動くな。今からおまえを拘束する」
「――待て、クルース」
クルースは腰の剣に右手を添えながらジャコンの方に歩き出した。しかしそのとたん、アムが声をかけて呼び止めた。
「動いてはならんのはおまえの方だ。その先はヤツの
「結界……?」
クルースは反射的に1歩引いて、目の前の石畳に視線を落とした。しかしすぐに首をかしげた。ところどころ砕けた石の地面には何もなく、すき間から雑草が生えているだけにしか見えなかったからだ。
すると不意に、ネンナが近くに落ちていた首のない人形を拾い、クルースとジャコンの間に放り投げた。その瞬間――クルースは両目を限界まで見開いた。どこからともなく湧き出した無数の黒い影が、地面に落ちた人形を一瞬で食い尽くしたからだ。
「なっ!? なんだこれはっ!? 黒い影っ!? いやっ! これはまさか……
目の前の地面を一瞬で埋め尽くした黒い群れを見たとたん、クルースは思わず驚きの声を張り上げた。それはまさに
「――いや。それはただのアリではない」
「えっ?」
不意にアムが言葉を漏らしたので、クルースは反射的に振り返った。するとアムは、石の広場を黒く
「話に聞いたことがある。昆虫型の精霊には
「これが魔獣!?」
クルースは漆黒の
「こ……こんな膨大な数……人間じゃ勝ち目がないだろ……」
「当たり前だ。そのアリどもは、一匹だけでもそれなりの力を持っている。それが無限に押し寄せてきたら防ぎようがないからな」
「そうか……。だから『
アムの説明を聞いて、クルースはさらに呆然として呟いた。すると、
「……さて。どうする、おぼっちゃん。今日はかなり意外な名前を聞き出したせいで、いまいち気が乗らないんだ。だから尻尾を巻いて逃げるってんなら、見逃してやってもいいんだがな」
「――
ジャコンの言葉に、クルースよりも先にアムが淡々と言い放った。するとジャコンはアムに目を向けて鼻で笑った。
「おやおや。さっきからずいぶんと偉そうな口を叩くお嬢ちゃんだが、まさか
「おまえの方こそ、
「はい、お嬢様」
アムの一言で、ネンナは車椅子をゆっくりと押し始めた。そして
「……
「ほう……?」
アムが静かに語り始めると、ジャコンは興味深そうな表情を浮かべて耳を傾けた。
「金、名誉、そして権力――。そんなちっぽけな欲望を満たすためだけに、人間というのはどんなに
アムは空の彼方のはるか先を見つめながら、長い息を吐き出した。
「メナはよい人間だった……。心のきれいなかわいい子だった。もはや人間とは呼べぬ
「数え切れぬほどの命を奪った……?」
深い悲しみのこもったアムの言葉を聞いたとたん、ジャコンは
ジャコンは最初からアムの尊大な口調に違和感を覚えていた。しかしアムの見た目は明らかに10代前半で、しかも車椅子に座っていたため、口だけ達者な貴族の娘と判断していた。
だが、アムが自らを『化け物』と
「――なっ!? なんだおまえはっ!? ありえないっ! こんなっ! こんな
「……ほう。どうやらおまえは、我の本性を見抜くことができるようだな」
唐突に驚きの声を張り上げたジャコンを見て、アムは冷たい笑みを浮かべてみせた。しかしジャコンはアムの顔には目も向けず、アムのステータス画面をひたすら凝視し続けている。
「な……なんなんだ、このステータスは……? ありえない……。この星の人間が、
ジャコンは思わず唾をのみ込み、額に浮かんだ冷たい汗を手で拭った。
「……
「ふむ。そこまで見えるか。見直したぞ。なかなかいい目を持っているではないか」
アムは軽くあごを上げてジャコンを見据えた。
「では、ジャコンよ。そこまで見えるのならば、
「……ああ。たしかにおまえは、
アムの正体を知ったジャコンは、顔を強張らせながらゆっくりと立ち上がった。そしてアムをにらみながら、
「残念だったな。おまえの攻撃手段はすべて魔法だ。そして、俺が召喚したアリどもは無限に湧き続け、どんな魔法であろうと体を張って受け止める――。つまり、精神力を消費して戦う魔法使いでは、俺には絶対に勝てないってことだ」
「……なるほど。我の魔力が尽きるまで耐え抜けば、おまえの勝ちということか」
「ああ、そういうことだ。そして――」
ジャコンは右手の中指を真上に立てて頭上に掲げた。そのとたん、指にはめていた青い指輪が光を放ち、広場の全域で大量の
「どうだっ! これでおまえがどれだけ強力な魔法を使おうとっ! この無限のアリどもがすべてを完璧に防いでみせるっ!」
「つまりおまえはこうやって、イグタリネの魔法戦団をたった1人で壊滅させたのだな」
「そうだっ! 俺は
「そうか。ならば我も、
とたんに勝ち誇った声を張り上げたジャコンを見て、アムは小さな息を漏らした。そして赤い傘を持ったまま、ゆっくりと立ち上がる――。
「なっ!? なにぃっ!? おまえっ! 立つことができたのかっ!?」
「そうはしゃぐな。あまり長い時間はムリだが、おまえと遊ぶぐらいなら問題はない」
思わず驚きの声を上げたジャコンに、アムは淡々と言い捨てた。そして傘を握ったまま、ジャコンに向かってゆっくりと歩き出す。
「……くっ! なめやがってこのガキがっ! だったら今すぐ死んじまいなっ!」
無防備に近づいてくるアムを見て、ジャコンは怒りに顔を歪めて歯を剥いた。そしてすぐさま右手を払い、膨大な数の
ジャコンの命令を受けた昆虫型の魔獣どもは、すぐさま黒い
「なっ!? なんだとっ!? これはいったいどういうことだっ!?」
「……べつに驚くことではないだろう」
思わず
「強い者には道を譲る――。それが本能というものだ」
「ばっ……バカな……。俺のアリどもが、おまえを恐れているというのか……?」
「当然だ。おまえは目でモノを見る。しかし、魔獣どもは本能で察知する。だから我の力を恐れているのだ」
アムは赤い傘を頭上に掲げ、右手に握った取っ手をゆっくりと引き抜いた。そして取っ手の先に仕込まれていた漆黒の刃を軽く振って
「なっ!? なにぃーっ!? 剣っ!? 魔法使いのくせに剣を抜いただとぉーっ!?」
「さあ、ジャコン・イグバよ。天の
傘の中から出てきた黒い剣を見て驚くジャコンを、アムはまっすぐ見据えて言い放った。そして精神を集中させて、戦闘態勢に移行する――。
「
「なっ!? なぁにぃーっ!?」
その瞬間、ジャコンはアムの頭の横を見ながら絶叫した。
「ばっ! バカなぁーっ!
「……当然だ」
アムはジャコンの手前で足を止め、漆黒の剣を天に向けた。
「我は魔道を極めた魔女の女王アリサリスと、誇り高き大賢者大剣聖ケインの血を受け継ぐ者にして、五つの
ジャコンは目の前に立った白いドレスの少女を見ながら、よろよろと後ろに下がった。その恐怖に歪んだジャコンの顔をアムは淡々と見つめながら、自らの魂に刻まれた
「我の名はアミリアム――。はるかなる時の彼方の契約の
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