異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第68話 石の少女の進む道――ロックンロール・クルオルガール
第68話 石の少女の進む道――ロックンロール・クルオルガール
断崖絶壁に挟まれた深い谷底の
そこはクランブリン王国の北部に位置するヴァリア
「ああ~、空気がおいしい~。ほぉ~んと、ダンジョンの中があんなに
「ほんと。腐った死体と
ショートツインテールの少女が思わず呆れた声を漏らすと、ポニーテールの少女も眉をひそめながらうなずいた。
「ま、ダンジョンなんて、きっとどこもこんなモンでしょ。それよりフウナ。近くの村まで飛べる?」
「うーん……まあ、飛ぼうと思えば飛べるけど、今はちょっと休憩したいかなぁ~。ヨッシーは疲れてないの? ダンジョンって降りる時より、外に出る方が3倍ぐらい疲れた気がするんだけど」
「たしかに、帰りはのぼり坂ばかりだったからね」
ヨッシーは淡々と答えながら近くの岩に腰を下ろした。それを見てフウナも岩の上に座り込み、長い息を吐き出した。
「でもさぁ、ヨッシー。男子たちがいないと、なんか変な感じだよねぇ~」
「そお? 私はべつに普通かな。むしろ、足手まといがいなくて動きやすいと思ったぐらいだけど」
「まあ、ヨッシーは昔から効率重視のタイプだからねぇ~」
フウナはクスリと笑い、広い谷底を見渡した。
「だけど、あたしはヨッシーみたいに心が強くないから、みんなでいた方が安心できるんだよねぇ~」
「私だって、べつに心が強いわけじゃないんだけど」
フウナに言われたとたん、ヨッシーは渋い顔で肩をすくめた。フウナにはよく『ヨッシーは心が強い』とか『頼りがいがある』とか言われるけど、自分ではそういうふうに思ったことがないからだ。やらなくてはいけないことがあるのなら、効率よくやるに限る――。ただそれだけのことだ。しかし、世の中にはいろいろな人間がいて、いろいろな考え方がある。自分の考え方が世界の常識とは限らない。異世界に転生してギルドのリーダーになったヨッシーは、最近になってようやくそのことに気づき始めた。たった6人の仲間をまとめるだけでも、ずいぶんと苦労してきたからだ。だからヨッシーはフウナの意見を否定せず、肯定できるところに目を向けた。
「……だけどまあ、たしかに男子たちも少しは役に立つけどね。荷物持ちとか」
「あは。やっぱりヨッシーは効率重視だぁ~」
「それはそうでしょ。効率よく動かないとお金は貯まらないからね」
「じゃあさ、あたしたち7人が一生暮らせるお金が貯まったら、ヨッシーはどうするの?」
「さあねぇ。その時にならないとわからないかな。フウナは何か考えがあるの?」
「えっへへ~。あたしはねぇ、女の子を産みたいかなぁ~」
「は? 女の子?」
照れくさそうに微笑んだフウナを見て、ヨッシーはわずかに顔をしかめた。フウナは中学2年の時からの親友だが、そんな話を聞いたのは初めてだ。だから思わず訊き返した。
「なに、フウナ。あんた、子どもなんかほしいの?」
「まぁねぇ。ほら、あたしって、昔から魔法少女大好きだったじゃん?」
「うん、それは知ってるけど」
「だからさぁ、今は風の魔法で空を飛べるからちょー幸せなんだけど、あたしたちってさ、17歳の体に転生したでしょ? それがちょーっと心残りなんだよねぇ~」
フウナは自分の細い体を見下ろして、残念そうに首をかしげた。
「心残りって、どういうこと?」
「だからさぁ、あたしの中のイメージだと、魔法少女ってもっと若くないとダメなんだよ。理想は10歳ぐらいかなぁ~」
「10歳って、小学5年ってこと? それ、ちょっと若すぎない?」
「え~、ぜんぜん若くないよぉ~。だって、アニメの魔法少女って、みんなそれぐらいだもん」
「いや、アニメと現実を一緒にしちゃダメでしょ」
「いいの。あたしのイメージだもん」
ヨッシーの突っ込みにフウナは軽く頬を膨らませ、それから無邪気に微笑んだ。
「だからさぁ、かわい~女の子を産んで、あたしの理想の魔法少女に育ててみるのも楽しいかなぁ~って思ったの」
「ああ、なるほどね。そういうこと……」
ヨッシーは小さなため息を漏らして空を見上げた。すでに紫色に変わり始めた天空には、小さな星々が
はっきり言って、フウナの考えにはこれっぽっちも共感できない。なぜならば、子どもなんか産んだって、楽しいとは思えないからだ。それに、楽しそうだから子どもを産みたいという発想からして、ヨッシーには気に食わなかった。親にじゅうぶんすぎるほどの金があり、あふれんばかりの愛情を子どもに注ぐ覚悟があるのなら話は別だが、そうでなければ子どもを産む資格なんてないからだ。
親がバカだと、子どもは死ぬほど苦労する――。残念ながらその真理にたどり着いてしまったヨッシーの心には、フウナの言葉は響かなかった。しかし、ヨッシーの頭はフウナの気持ちを理解していた。だからヨッシーは軽く微笑みながらフウナに言った。
「ま、いいんじゃない。誰かと結婚して、2人で一緒に子どもを育てるなら、子どももきっと幸せでしょ」
「だよねぇ~。あたしもそれが理想かなぁ~。だけどさぁ、あたしだけを愛してくれる男の人が見つかるかどうか、それが問題なんだよねぇ~」
「そんな男なんかいないでしょ。男なんてどうせクズばかりなんだから」
「ほんとだよねぇ~。うちのパパだってママのこと大好きぃ~とか言ってたくせに、若い看護師さんと不倫してたし」
「それを言うなら、うちの父親なんかもっとひどいじゃない。若いオンナを作って家を出ていって、私とお母さんを捨てたんだから」
「ほ~んと、お互い女グセの悪いパパを持って苦労したよねぇ~」
不意に夜空をぎろりとにらみつけたヨッシーを見て、フウナは再びクスリと笑った。するとその時、ヨッシーがハッとして立ち上がり、鋭い視線で素早く周囲を見渡した。
「うん? どしたの、ヨッシー」
「……この気配、近くに誰かいる。たぶん、囲まれているかも」
「えっ?」
緊張を含んだヨッシーの声を聞いたとたん、フウナも慌てて立ち上がった。2人はすぐさま背中を合わせて死角をカバーし、腰の妖刀に手を添えながら慎重に視線を飛ばす。すると周囲に点在する大きな岩の陰から、黒い人影が無数に姿を現した。
「ヨッシー、あの人たちってまさか……」
「ええ。あの鎧は見覚えがある。クランブリン王国の警備兵ね」
ヨッシーはフウナにうなずきながら、剣と鎧を装備した兵士たちをざっと数えた。
「かなり多い……。200人ぐらいか」
「どうする、ヨッシー。空を飛んで逃げちゃう?」
「いや、ちょっと待って。すぐに襲ってこないところをみると、あいつらの狙いは私たちではないかもしれない。逃げるのはそれを確認してからでもいいでしょ。フウナはここでちょっと待ってて」
そう言ってヨッシーは、一番手前に立つ兵士の前まで足を運んだ。すると中年の兵士も1歩前に進み出て、ヨッシーをまっすぐ見据えた。
「我々はふもとの村に駐留しているヴァリア峡谷の守備隊だ。先週、2人組の少女が我々の仲間を2名殺害し、ヴァリアダンジョンに向かったという目撃情報がある。おまえたちがその犯人だな?」
「ああ、なんだ、そういうこと」
兵士の言葉を聞いたとたん、ヨッシーは手のひらを上に向けて肩をすくめた。たしかに先週、ヨッシーは近くの村で警備兵を2名斬り殺した。たまたま目についた警備兵にヴァリアダンジョンの場所を尋ねたら、逆にヨッシーたちの身元や目的を根掘り葉掘り質問されて、さらにヴァリアダンジョンは王家の許可がないと入れないから今すぐ引き返せと言われた。
その警備兵たちの態度がやたら上から目線で偉そうだったので、ヨッシーはすぐさま1人を斬殺し、もう1人を痛めつけて必要な情報を引き出してから斬り殺した――。だからヨッシーは顔から感情を消し去って、周りを囲む武装した兵士たちを見渡しながら淡々と答えた。
「私たちはただ、ヴァリアダンジョンの場所を訊いただけなんだけど」
「嘘をつくな。長い黒髪の少女と金髪の少女が警備兵を殺したと、何人もの村人が証言しているんだ。それにヴァリアダンジョンはクランブリン王国の聖地だ。王家の許可がない者の立ち入りは禁止されている。そのダンジョンからおまえたちは出てきた。今さら言い逃れはできないぞ」
「ふん。なにを勘違いしてんのよ、この無能なオッサンが」
ヨッシーは中年兵士の話を聞いて鼻で笑った。
「なにがクランブリン王国の聖地よ。大人ってのは本当に、思考が完全に停止しているバカばっかりね」
「なんだとぉ、この小娘が」
「よく考えてみなさいよ。この星はあんたたちが作ったわけじゃないでしょ。それなのに、なんでたかが人間ごときが土地の所有権を主張してんのよ」
「ここはクランブリン王国の領土だ。だから王国が管理するのは当然のことだ」
「はあ? なにそれ? アンタ、私の話ちゃんと聞いてた? この星の土地は、この星に生きるすべての存在が共有しているものでしょう。だったら誰がどこに行こうが、どこに住もうが自由に決まっているじゃない。誰かの許可なんて必要ないでしょ。それともなに? この土地にはあんたたちが1番早く住み着いたから、あんたたちのモノって言ってんの? なにそれ? 早い者勝ち? 子どもの主張? あんたたちは見た目だけ大人で、中身は駄々っ子ちゃんってわけ?」
「黙れっ! 世間知らずの小娘がっ!」
中年の警備兵は目を吊り上げてヨッシーを鋭くにらみつけた。
「土地というのは国家が所有し、適切に管理するものだ。そうでなければ他の国家が土地を奪う。そうなれば国民は安全に暮らせなくなる。つまり、国家が土地を所有するのは国民を守るためだ。そして多くの血を流してきた歴史が国家という仕組みを作り、その仕組みによって今の安全な生活が守られているのだ。そんな根本的なことも理解せずに自分勝手な屁理屈をこねるとは言語道断。おまえのような小娘こそが、無能で考えなしの愚かな子どもなのだ」
「……ま、それはたしかにそうかもね」
声に怒りを込めて語った兵士を見て、ヨッシーは再び手のひらを上に向けた。
「つまり、人間は欲望の塊だから、空いている土地があれば自分のものにするっていうわけね。なるほど。だから奪い合いになって、戦争になるってわけか。そして戦争になれば大勢の人間が死んで、土地が荒れる――。つまり、人間という存在が発生してしまった以上、人間が土地を管理しなければ、この星は荒れ果ててしまうってことね。まったく。人間ってのは、ほんと厄介なイキモノね」
「何をグダグダ言っている。まだ小賢しい屁理屈をこねるつもりか」
兵士は腰の剣を抜き放ち、鋭い切っ先をヨッシーにまっすぐ向けた。
「とにかく、おまえたちは我らの仲間を殺した殺人鬼だ。いくら見た目が小娘だろうが容赦はせん。素直に投降するなら裁判にかけてやるが、抵抗するならこの場で今すぐ切り捨てる。さっさと武器を捨てて降伏しろ」
「はあ? 降伏? 冗談でしょ。そんなことするわけないじゃない。私たちを殺したかったら好きにすれば? その代わり、こっちも好きにさせてもらうけどね――」
ヨッシーも中年の兵士をにらみながら腰の妖刀をゆっくりと引き抜いた。そして緑色の刀身を素早く振り抜き、構えながらさらに言う。
「ほんと、大人ってのは身勝手でわがままね。相手が自分より弱いと見れば偉そうに威張り散らし、勝てる相手にだけマウント取ってドヤ顔して、ほんとみっともないったらありゃしない。よくもまあ、そんなんで恥ずかしげもなく生きてられるわね」
「貴様っ! 抵抗する気かっ!」
「だから、そう言ってんでしょ、このバカが」
ヨッシーは周囲を取り巻く兵士たちをにらみつけて言い放った。その瞳の中にはすでに狂気が渦を巻き始めていた。
「――子どもにだって心はある。大人たちの勝手な都合で振り回されたら傷つくし涙も流す。おまえたちはそんなに偉いのか? 子どもを泣かす権利があるのか? 子どもを傷つけても許されるのか? ……いいや、違う。私はそうは思わない。絶対に思わない。子どもを泣かす大人なんて、私は絶対に認めない――」
「な……なんだ、貴様……? いったい何をぶつぶつ言っているんだ……?」
不意に不気味な気配を放ち始めたヨッシーを見て、中年の兵士は不安そうに眉をひそめた。しかしヨッシーの瞳はもはや兵士たちを見ていなかった。ヨッシーが見ているのは大人の男たちだった。かつて小さな子どもだったヨッシーを傷つけた大人の姿を記憶の底から引きずり出し、兵士たちに重ねて見ていた。だからヨッシーは大人の男たちを全力でにらみつけながら、心に淀む憎悪の炎を言葉に変えて吐き出した。
「――いい年こいた父親のくせに、家族を捨てて若いオンナと再婚だと? なによそれ。だったら最初から結婚なんかしなきゃいいじゃない。子どもなんか作らなきゃいいじゃない。こっちだってそんなクズ男の娘になんか生まれたくなかったわよ。おかげで母親は毎日泣いて、ウザイったりゃありゃしない。泣きたいのはこっちだっつーの。このクソがっ! クソっ! クソっ! このクソがぁっっ!」
ヨッシーはいきなり妖刀を振り回し、岩や大地を切り刻み始めた。
「……あーあ、やばいやばい。ヨッシー、久しぶりにガチでキレちゃったっぽいねぇ~。さ、避難、避難っと」
ヨッシーの様子を見ていたフウナは慌てて後ろに下がり、青い妖刀を引き抜いた。そしてすぐさま夜空に向かって上昇し、谷の上まで避難した。そのとたん、谷底に展開していた無数の警備兵たちは、宙に浮かんだフウナを見て一斉にどよめいた。しかし、目を血走らせて大地を切り裂き続けるヨッシーは兵士たちの動揺に気づくことなく、心の奥に淀んだ怒りをさらに煮えたぎらせていく。
「――おかげで親に捨てられた子どもって学校ではイジメられたけど、みっともないのはあたしじゃないでしょ。家族を裏切ったクズの方でしょ。それなのに、なんであたしがイジメられなきゃならないのよ。なんでふつうに生きているあたしが傷つけられなきゃならないのよ。ほんともう、絶対に許さない。あたしを傷つける大人は絶対に許さない。おまえたちのようなクズの大人は――あたしが全員ぶち殺す」
荒々しく周囲の大地を切り刻んだヨッシーは、再び目の前に立つ兵士をにらみつけた。その猛獣のような鋭い眼光に、中年の兵士は思わず1歩後ろに下がる。しかしすぐに自分を奮い立たせるかのように声を張り上げ、警備兵たちに指示を飛ばした。
「ええいっ! この小娘を取り押さえろっ! 空に飛んだ方は弓で射殺せっ!」
その命令で兵士たちは剣を抜き、すぐさまヨッシーに向かって走り出す。後ろにいた兵士たちは弓を構えてフウナを狙う。その瞬間、ヨッシーは牙を剥いた。
「……やっぱり、おまえたちは子どもを傷つけるんだ。だったらここで、全員まとめて押し潰してやる。――
その瞬間、ヨッシーは鋭い気合いを大気に放ち、妖刀を岩の大地に突き立てた。直後、谷全体に強烈な震動が襲いかかった。
「なっ!? なんだなんだっ!?」
ヨッシーの前に立っていた中年兵士は仰天して大地に膝をついた。突如発生した激しい地震のせいで立っていることができなかったからだ。ヨッシーに向かって走っていた兵士たちもすぐさまその場で立ち止まり、慌てて近くの岩にしがみつく。さらにその直後、すべての兵士が驚きのあまり目を剥いた。谷の両側の断崖絶壁から、巨大な岩がせり出してきたからだ。
「にっ! にげろぉーっ! いわがっ! 巨大な岩が落ちてくるぞぉーっっ!」
中年の兵士は絶叫した。谷の両側からまるで岩盤のような石の板が地響きを立てながら現れたからだ。その谷を覆う天井のような巨岩は、まさに恐怖そのものだった。そしてその圧倒的な恐怖を目の当たりにした兵士たちは、われ先にと谷の出口に向かって全力で走り出す。しかし巨大な石のふたは、すでに谷を覆い尽くしていた。谷底は暗黒の闇と化し、星空の消えた大地の上を無数の警備兵たちは必死の
「……ほらね。相手が強ければ背中を見せてさっさと逃げ出す。そんな不様で恥知らずなクズどもは――プチッと
ヨッシーは闇の中で邪悪な笑みを浮かべ、緑色に光る妖刀を大地から引き抜いた。その直後、谷を覆う巨大な石の板が音を立てて崩れ落ちた。まさに絶望的な量の落石に襲われた兵士たちは、悲鳴と絶叫を上げながら走って逃げる。しかし猛烈な岩の雨は轟音とともに谷底に降り注ぎ、すべてを一瞬で埋め尽くした。そして200を超える警備兵たちは一人残らず岩石の下敷きになり、潰れて死んだ。
「うっひゃぁ~。避難しといてよかったぁ~」
谷底を埋め尽くした岩の上に降り立ったフウナは、思わず胸をなで下ろした。すると突然、岩の一部が噴水のように噴き出し、大地の底からヨッシーが姿を現した。フウナは足元に気をつけながらヨッシーに近づき、おそるおそる声をかけた。
「……あー、ヨッシー? もうだいじょうぶ?」
「え? なにが?」
「だから、ほら。怒りはもう収まったのかなぁ~って」
「怒り? 私、べつに怒ってないけど?」
「え~……。さっきまで、マジでガチ切れしてたじゃん……」
キョトンとして答えたヨッシーを、フウナは思わず渋い顔でじっとりと見た。
「そうだった? あれぐらい普通でしょ」
「うっそぉ~ん。これが本気じゃなかったら、本気で怒ったらどうなるのよ……」
フウナは呆れ顔で呟きながら谷底を見渡した。大量の岩石で埋め尽くされた地面は、元の位置より数メートル以上も上昇している。そこはもはや人影どころか草の一本すら見当たらない、まさに死の大地と化していた。ヨッシーもフウナにつられて辺りを見渡し、思わず指で頬をかいた。
「……まあ、ちょっとは頭に血がのぼったかもしれないけど」
「うん、そだね。今日のところは、そういうことにしておこうか」
フウナは思わず苦笑いし、夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「さぁ~てと。それじゃあ、ヨッシー。早く王都に戻って、男子たちと合流しよっか」
「そうね――」
ヨッシーも大きな息を吐き出して、藍色に染まった夜空に目を向けた。
「うちの男子たちは本当にかなりのアホばっかりだけど、誰も私のことをバカにしないからね」
「それはそうでしょ~。だってあたしたち、ヨッシーが作ったギルドの仲間だもん」
「仲間ねぇ……」
にっこり微笑んだフウナを見て、ヨッシーは照れくさそうに肩をすくめた。それから、はるか彼方で
「……ねぇ、フウナ」
「ん~? なになにぃ~?」
「私、この異世界に転生できて本当によかったと思う」
「だよねぇ~。あたしも本物の魔法少女になれて、もうサイコーだし」
「だから、今度の仕事が終わったらシンプリアに戻って、みんなでしばらくのんびりしようか」
「おお~、だいさんせ~。でも、どしたの、急に」
「べつに。ただ、私ってお金を稼ぐことしか考えていなかったから、みんなに無理をさせていたのかなって、ふと思っただけ」
「ウワ~オ。だったら気が変わる前に早く戻らなきゃね」
フウナはあからさまに驚きのポーズを取り、青い妖刀を引き抜いた。そしてすぐに特殊能力を発動させて、ヨッシーと一緒に夜空へと昇っていく。
「それじゃあ、ヨッシー。さっさと仕事を終わらせて、みんなでおいしいモノを食べようねぇ~。そしてシンプリアのおうちに戻って、いつもどおりバカ騒ぎして、みんなで楽しく暮らしていこ」
「そうね。バカ騒ぎはほどほどにしてほしいけど、たまにはそういうのもいいかもね」
「そうそう。それじゃ、スピード上げるよぉ~」
再び谷の上まで上昇したフウナは、一気に速度を上げて飛翔する。そしてヨッシーは穏やかな表情で南の空へと飛びながら、ポツリと呟いた。
「そうね……。男子たちはバカばっかりだけど、私の大切な仲間だからね――」
***
・あとがき
本作品をお読みいただき、まことにありがとうございます。
参考までに、明日の投稿時間をこの場に記載いたします。
引き続きご愛読いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
2019年 1月 21日(月)
第69話 00:05 かわいらしい少女に似合うもの――
第70話 07:05 邪悪な者は、自分を邪悪と思わない――
第71話 12:05 悩める少女と、鋼の心を持つ女騎士――
第72話 17:05 恋する錬金術師と壁の穴――
第73話 20:05 屋上庭園の少女たち――
記:2019年 1月 10日(木)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます