第14章  ギルド・七天抜刀隊――ダークガールズ・ダーティーボーイズ

第61話  闇に潜む最悪の罠――ダークガールズ・ダークトラップ


「光あれっ! 第1階梯ひかり魔法――魔光ライトっ!」


 漆黒の闇の中に凛とした少女の声が鋭く響いた。直後、前に伸ばした少女の左手に魔法の光の球が浮かび上がり、柔らかな輝きを放ち始めた。


「この空気の感じ……ずいぶんと広そうなフロアね」


 長い黒髪を頭の後ろで1つに結った少女は、思わず呆れた声を漏らした。手のひらに浮かんだ光の球はかなり明るいが、それでも少女の周囲を照らすのが限界で、その先は完全な闇がどこまでも広がっていたからだ。


「……ねえ、ヨッシー。ここがヴァリアダンジョンの最下層なのかなぁ?」


「たぶんそうでしょ。最下層は巨大な空間だって、あのやたら偉そうな警備兵たちが言ってたからね」


 不意に背後から漂ってきたのんきな声に、長い黒髪の少女は淡々と答えた。


「だけど、この暗闇はかなり厄介ね。ダンジョン攻略には照明係ライトマンが絶対必要だって聞いたことがあるけど、その理由がようやくわかったわ」


「ほんとだよねぇ~。あかりがないと、まともに歩くことすらできないし。――ほい、第1階梯ひかり魔法――魔光ライトっと」


 金色の髪を頭の左右で結わえた少女も魔法を唱え、光の球は2つになった。すると不意に重苦しい闇の奥で、淀んだ空気がざわめいた。


「あ~らら。やっぱりここにも、モンスターがいたみたいだねぇ~。どうする、ヨッシー?」


「そんなこと、聞くまでもないでしょ」


 訊かれたとたん、ヨッシーは腰の妖刀に右手を添えて、闇の奥に目を凝らした。


「フウナ。魔光ライトをもう1個お願い。敵は私が全部倒すから」


「あいあい、オッケ~。あたしは後ろで援護するねぇ~」


 フウナは再び魔法を唱え、3つ目の光の球を生み出した。そのとたん、はるか遠くでいくつもの気配がうごめき始めた。さらに黒い石の床を激しく叩く怒涛どとうのような足音が響き渡る。そしてその轟音は次第に近づき、次の瞬間、少女たちの視界に無数の魔物が一斉になだれ込んできた。


 それは太く長い尾を持つ四足獣しそくじゅう――大地竜ヴァルスドラゴンの群れだった。人間よりもはるかに大きなドラゴンどもは怒りの咆哮ほうこうを上げながら突っ走り、鋭い牙を剥いて少女たちに襲いかかる。その瞬間――ヨッシーは腰の妖刀を閃光のごとく抜き放った。


「ヨッシー皆本。妖刀・薄緑うすみどり、抜刀――」


 緑光斬閃――。


 淡い緑色の光を放つ妖刀は、目の前に迫ったドラゴンの首を宙高くはね飛ばした。しかし大地竜どもは仲間の死体を踏み潰し、ヨッシー目がけて飛びかかる。


「……ふん。しょせんは魔物ね」


 まるで暴風のように迫りくるドラゴンどもを、ヨッシーはまっすぐ見据えて鼻で笑った。そして妖刀を構えて一回転――。鋭い気合いを一気に放ち、遠心力を加えたきらめく刃を下から上に振り抜いた。


転生武具ハービンアームズ発動! いくわよ薄緑うすみどりっ! 目の前の敵をすべて貫き、縫いとめろっ! せいやぁーっ! 石速剣ストレイトソードっ!」


 瞬間――大地が鋭い怒号を吠え上げた。


 同時に床から黒い石の槍が無数に飛び出し、まるで津波のごとくヨッシーの正面方向に続々と突き立っていく。その鋭い槍の領域にいたドラゴンどもは、分厚い皮膚をやすやすと貫通されて動きを止めた。さらにその半数以上が一瞬で絶命し、光と闇の中に血の雨をまき散らした。


「――おっと、ヨッシー、血で濡れちゃうよん。ほい、第3階梯風撃ふうげき魔法――魔防風エアシールド


 不意にフウナが風の魔法を素早く唱えた。同時に風の盾がヨッシーの体を取り囲み、振りかかってきたドラゴンどもの血を吹き飛ばした。


「ナイス、フウナ」


 ヨッシーは赤く染まった風をまとったまま妖刀を自在に振り抜き、槍の結界を回り込んできた魔獣どもを片っ端から斬り殺していく。


「ほいほい、そんじゃあたしは、動きが止まった方にとどめを刺しとくね~。ひっさぁ~つ、なんちゃって次元斬。第2階梯風撃ふうげき魔法――魔風斬エアスラッシュ


 フウナはクスリと笑い、体の前で両手を合わせ、左右に開きながら魔法を唱えた。直後、巨大な風の刃が水平に撃ち出され、石の槍に刺さったドラゴンどもを瞬時に両断――。文字どおり釘付けになっていたモンスターどもは分断された肉塊と化し、黒い床に転がった。


 そして大地竜の最後の1匹を斬り伏せたヨッシーが妖刀を鞘に収めると、魔物たちの死体はすべて光の粒となって消滅した。


「なぁ~んだ、もう終わりか~。なんか最下層というわりには、あんまりモンスターいなかったねぇ~」


「そうね。たぶん私たちが探しにきたアーサーが、ほとんど掃除したあとだったんでしょ」


 ヨッシーは淡々と答えながら、青い宝石をつまんで拾った。


「それよりフウナ。魔法核マギアコアは1個も見逃しちゃダメだからね。これだって、まとめて換金すればけっこうなお金になるんだから」


「はいはい、わかってますって。ヨッシーってほんと、しっかりしてるよねぇ~」


「あんたたちが大雑把すぎるだけでしょ」


 目を皿にして宝石を拾い集めるヨッシーを見て、フウナは軽く苦笑い。しかしヨッシーは気にすることなく、黙々と魔法核マギアコアを革袋に詰めていく。すると不意に、フウナが下腹部を押さえながら呟いた。


「……あ。ごめんヨッシー。ちょっときたかも」


「ん? どうしたの?」


 魔法核マギアコアをあらかた拾い終えたヨッシーが顔を上げると、フウナは胸の前で両手を合わせ、照れくさそうに微笑んだ。


「えへへぇ~。悪いんだけど、アレ、作ってもらえないかなぁ~」


「アレ? ……って、ああ、そういうこと。しょうがないわねぇ」


 フウナの意図を察したヨッシーは思わず軽く肩をすくめた。それから横の方に少し歩き、薄緑色の妖刀を黒い床に突き立てる。すると床から石のかたまりがゆっくりとせり上がり、直方体の大きな箱が現れた。


「はい、トイレ。できたわよ」


「わぁ~い、ありがとぉ~」


 フウナは石の個室に小走りで駆け寄り、ヨッシーに顔を向けてニッコリと微笑んだ。


「それじゃあ、ちょっと30分ほど引きこもるね~」


「30分って、なが」


「え~、だってしょうがないじゃ~ん。あたしの体、転生した時から便秘気味なんだもん」


「だから、食事の時は野菜を多めに食べろって言ったじゃない」


「あ~、はいはい、わかってますって。ダンジョンから出たら、ちゃんとサラダも食べるから。そいじゃ、またあとでねぇ~」


 フウナは片手をヒラヒラ振って、個室に入ってドアを閉めた。その能天気な態度を見て、ヨッシーは思わず長いため息。それから再び魔光ライトの魔法を唱え、床を照らしながら奥に向かって歩き出した。


「……さてと。ここに来るまで誰にも会わなかったから、アーサーってヤツはとっくにダンジョンを出たと思うけど、とりあえずキッチリ調べておかないとね。あのゲームマスターのオッサンに文句なんか言わせないんだから。……って、なにこれ?」


 何か大きな黒い塊が床に落ちていたので、ヨッシーは思わず首をひねった。ブーツのつま先で軽く蹴ってみると、感触はかなり硬い。


「はて? なんだろ? 形はなんだか馬糞みたいに見えるけど、この硬さは金属かな。でも、どうしてこんな金属がいっぱい落ちているんだろ……?」


 ヨッシーは光の球を軽く掲げ、周囲に点在している無数の黒い塊を見渡した。石でできたダンジョンの中で、それらの金属は明らかに場違いな存在感を放っている。しかしその塊が何なのか、いくら考えてもわからない。しかも奥に向かって進んでいくと、やはり同じような黒い塊がいくつもまとめて落ちていた。


「また黒い金属か……。大きさはまちまちだけど、どれもさっきと同じような塊ね。……って、うん? あそこに落ちているのはかなり小さいけど、もしかして魔法核マギアコアかしら」


 ヨッシーは目に付いた小さな黒い塊を指でそっとつまみ上げた。大きさは手のひらサイズで、形は少し細長い。しかし指先に少し力を込めると、あっさりと砕け散った。


「えっ? なにこれ? 乾燥した土みたいだけど、なんで石でできたダンジョンに、こんなものが落ちて――って! ハウワッ!」


 その塊の正体に気づいた瞬間、ヨッシーは限界まで両目を見開き、手の中で砕けた塊を反射的に投げ捨てた。


「うあぁ、うそでしょ、信じらんない……。もぉ、サイアク……。なんでこんな最下層のど真ん中っぽいところで、そういうことするんだろ……。どんだけ最悪のトラップなのよ……」


 ヨッシーは半分白目を剥いたまま呆然と手をはたいた。さらに魔水ウォーターの魔法を唱えて水を出し、念入りに手を洗って汚れを落とす。そして足元に細心の注意を払いながら、再び奥へと歩を進める。すると今度は布切れや金属片がいくつも飛び散って落ちていた。


「なに、この布? なんだか焦げているみたいだけど」


 ヨッシーは慎重に布切れをつまみ上げた。それは服を強引に引き裂いたような布切れで、断面はかなり荒く、端の方は黒く焼け焦げている。ついでに近くに転がっている金属片を手に取ってみると、こちらはところどころ溶けていた。


「この金属は鎧のパーツみたいね。おそらくここで戦闘があって、鎧が砕けたってところかな。……って、うん? あれは――」


 呟きながら何気なく周囲を見渡すと、不意に何かのきらめきが目に飛び込んできた。近づいて見てみると、明るい金色の金属片が転がっていた。


「えっ? これってまさか……冒険者アルチザン個人認識票タグプレート?」


 慌てて指でつまみ上げてみると、それはたしかにタグプレートだった。そして小さなプレートに刻まれた文字を読んだとたん、ヨッシーは愕然と目を見開いた。


「この名前、アーサー・ペンドラゴンって……えっ? うそ。これって、私たちが探しにきた転生者のタグプレートじゃない」


 その瞬間、ヨッシーの背すじに寒気が走った。目的のアーサーが見つからず、代わりにアーサーのタグプレートが落ちていたからだ。それがいったいどういう意味を持つのか――。ヨッシーの脳裏に、暗い闇が瞬時によぎった。


「え、うそ、ちょっと待って。これっていったいどういうこと……?」


 ヨッシーは思わず腰の妖刀に右手を添えて、周囲の暗闇を警戒しながら立ち上がった。魔物の気配は感じられないが、今はその静けさこそが恐ろしかった。なぜならば――。


「……これは間違いなく、ランク6のタグプレート。こんな貴重な物を手放す冒険者アルチザンなんているはずがない。つまり、ということになる。しかし、転生者なら1度死んでもゲートコインで復活できるはずなのに……」


 ヨッシーは冷たい汗を額に浮かべながら、アーサーのタグプレートを腰の革袋に突っ込んだ。そして湧き上がってくる恐怖を抑えつけながら、闇の中に目を凝らす。滅多なことでは死なないはずの転生者が、死んだ可能性が非常に高い。それはつまり――。


「……アーサーは、2回連続で死んだということになる。しかしザジさんの話だと、アーサーはこっちの世界で10年以上も戦い続けたベテラン転生者だったはず。そんな実力者が死んだということは、それほどの強力なモンスターがこのフロアに潜んでいる可能性がある……」


 ヨッシーはごくりと唾をのみ込んだ。そして抜刀の構えを取りながら、周囲の闇に意識を集中して気配を探り始める。


(まずいわね……。ダンジョンにはたまに化け物みたいなモンスターが発生するって聞いたことがあるけど、もしも転生者すらあっさり殺せるモンスターがここにいたとしたら、私とフウナだけでは勝てないかもしれない……。だとすると、今は一刻も早く脱出した方がいい。せっかくあんなくだらない父親と母親から解放されたっていうのに、こんな大地の底で死ぬなんて冗談じゃない……)


 ヨッシーは乾ききった唇を素早く舐めた。そして精神を研ぎ澄まして警戒しながら、じりじりとあとずさる。その瞬間、唐突に何かの気配が現れた。


「――ハッ!」


 ヨッシーは瞬時に振り返り、妖刀を一気に抜き払った。直後、背後に立っていたフウナの首が宙に飛んだ。


「あ……れ……? ヨッ……シー……?」


 鋭い斬撃で斬り飛ばされたフウナの首はパチクリとまばたきして、闇の中に転がった。


「あっ、ごめん……」


 ヨッシーは思わずポカンと口を開けた。それからバツの悪そうな表情を浮かべ、フウナの死体を見下ろしながら謝った。




「……もぉ~、ひどいよヨッシ~。いきなりあたしのことぶっ殺すとか、ほんとカンベンしてよねぇ~」


「だから、ごめんって謝ったじゃない」


 数分後、ゲートコインで復活したフウナは頬を膨らませながらヨッシーを全力でにらんだ。そのトゲだらけの視線から、ヨッシーは目を逸らして肩をすくめた。


「だけど、フウナだって悪いじゃない。魔光ライトもつけずにいきなり近づいてきたら、こっちだってビックリするに決まってるんだから」


「だからってさぁ~、仲間の首をいきなり斬り飛ばすってひどくない? ねえ、ひどくない?」


「それはしょうがないでしょ。現実はラノベやアニメじゃないんだから、抜刀したやいばを寸止めなんてできるわけないじゃない」


「あ~、それはたしかにそうだよねぇ~。さっきの一撃なんてもう、なんの迷いもなくバッサリ振り抜いていたからねぇ~。もうほんと会心の一撃って感じで、あたし瞬殺されちゃったし」


 フウナは嫌味ったらしく言いながら、手刀しゅとうで自分の首を斬る仕草をヨッシーに見せつけた。


「この話を男子たちに聞かせたら、きっとみんな震え上がるよね。せっかく転生したっていうのに、ギルマスの誤爆でぶっ殺されるなんて、ほんとちょっとシャレになんないでしょ、マジで」


「あー、もー、うるさいわねぇ」


 それまで下手したてに出ていたヨッシーが、不意にギロリとフウナをにらんだ。さらに妖刀を抜き放ち、鋭い切っ先をフウナの眼前に突き出した。


「これ以上グダグダ言うなら、本気でいっぺん死んでみる?」


「……ごめんなさい。もう生意気なことは言いませんので、殺さないでください……」


 フウナは目の前の刃を見つめながら両手を上げて謝った。その引きつった顔を見て、ヨッシーは鼻息を1つ噴き出し、妖刀を鞘に収めた。


「それよりフウナ。ちょっとまずい状況よ」


「え? まずいって、なにが?」


「私たちが探していたアーサーのタグプレートが、この近くに落ちていたの。つまり、アーサーはここで死んだと見て間違いないわね」


「へっ? うそ」


 ヨッシーの言葉を聞いたとたん、フウナはパチパチとまばたいた。 


「ここで死んだって……転生者なのに死んじゃったの?」


「おそらく2回連続で死んだんでしょ。そうでなきゃ、こんな立派なタグプレートを落とすはずがないからね」


 ヨッシーは渋い顔で、明金ライトゴールドのタグプレートをフウナに向けた。


「だけど1番の問題は、誰がアーサーを殺したのかってことよ。もしもアーサーを殺したのがこの最下層にいたモンスターなら、アーサーの転生武具ハービンアームズも落ちているはず。だけど、あんたが復活する間に周囲を調べてみたけど、それらしき武器は見当たらなかった」


「たしか、アーサーさんの転生武具ハービンアームズってエクスカリバーだったよね? ということはつまり、誰かがアーサーさんを殺して、エクスカリバーを持っていったってこと?」


「そうとしか考えられないでしょ。だけど近くの村にいた警備兵の話だと、このヴァリアダンジョンに最後に潜ったのはアーサーの聖剣旅団で、それ以降は誰も通していないって言っていたでしょ」


「それじゃあ、犯人は聖剣旅団の誰かってこと?」


「普通に考えればそうなるわね。でも、団長のアーサーより強い人間が団員にいると思う? しかも致命傷すら一瞬で治すというエクスカリバーの使い手を、そこら辺の人間が2回連続で殺せると思う?」


「それは……よくわかんないけど……」


 真剣な顔で話すヨッシーを見ているうちに、フウナの瞳の中にも緊張の色がにじみ出てきた。ヨッシーが感じている恐怖の正体に、フウナも気づき始めていたからだ。


「とにかく、今わかっていることは、アーサーが行方不明だということ。そしてアーサーのタグプレートがここに落ちていて、エクスカリバーが見当たらないということ。この事実から考えられる結論は――」


 ヨッシーはいったん言葉を区切った。そしてフウナの瞳を覗き込むように見つめながら、重い口で続きを語った。


「それは――かが、アーサーを2回連続で殺したのではないかということ」


「何者かって……それってまさか、アレってこと……?」


「ええ。その可能性があるわね」


 首をすくめながらおそるおそる周囲の闇を見渡したフウナに、ヨッシーも憂いの表情を浮かべた。


「女神たちが言っていたでしょ。こっちの世界の人間に、転生者の存在を知られてはならない。もしも知られてしまったら、転生者を排除しようとする可能性がある――って」


「つまり、アーサーさんは、こっちの世界の人間に狙われて殺された……?」


「だとしたら、かなりまずいわね……」


 ヨッシーは思わず恐怖と苛立ちが混ざった声を漏らした。


「まったく……おかしいとは思ったのよ。こっちの世界には転生者が何万人も来ているのに、たった1人を探すためにわざわざダンジョンまで私たちを送り込むなんて、どう考えてもありえないでしょ。たぶん女神はアーサーが死んだことに気づいて、それを確認したかったのね」


「ど、どうしよ、ヨッシー……。転生者が狙われるなんて、あたし、なんだかちょっと怖いんだけど……」


 フウナは思わずヨッシーに身を寄せた。フウナの体は小刻みに震え、せわしなく周囲の闇を見渡している。


「そうね。とりあえずアーサーが死んだことはほぼ間違いないとわかったから、私たちの仕事はこれで終わりでいいでしょ。さっさと王都に戻ってザジさんに報告して、男子たちと合流しましょう」


「う、うん。わかった。早くかえろ」


 2人はすぐさまうなずき合い、最下層の出口に向けて歩き出した。すると早足で先を急ぐフウナが不安そうな声を漏らした。


「でもヨッシー。男子たち、だいじょうぶかなぁ……?」


「大丈夫って、なにが?」


「だって、転生者を狙っている人がほんとうにいたとしたら、男子たちも狙われる可能性があるってことでしょ……?」


「それはたぶん大丈夫でしょ。私たちはこの国に来てまだ日が浅いから、そう簡単に転生者だってバレないわよ。それより私は、あいつらがちゃんと仕事をしているかどうかの方が心配だけどね」


「え~、それはさすがに大丈夫でしょ」


 フウナは心に張り付いた恐怖をごまかすように、引きつった笑いを浮かべた。


「男子たちはたしかにとんでもないバカで、どうしようもないアホだけど、前金まえきんをもらったお仕事を放り出すほど無責任じゃないよぉ~」


「まあ、それもそうね。もしもそんなことをしたら、私にぶっ殺されるってことぐらい、さすがにわかっているはずだし」


「そうそう。たった7人を暗殺するぐらい、男子たちだけで楽勝だって」


 フウナは周囲の闇を見渡しながら、わざとらしい明るい声を上げた。ヨッシーも腰の妖刀に左手を添えて警戒しながら、最下層の出口に向かってまっすぐ進む。そして黒い石の床に積もっていた灰の塊を踏み越えながら、ぽつりと呟いた。


「だけど、こんな面倒なことに巻き込まれるぐらいなら、あのなんか引き受けなければよかったかもね……」


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