異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第58話 深き森と、遥かなる空の彼方――シルバーゴーレム VS ガッデムファイア その1
第13章 深き森と、遥かなる空の彼方――シルバーゴーレム VS ガッデムファイア
第58話 深き森と、遥かなる空の彼方――シルバーゴーレム VS ガッデムファイア その1
巨大な山の
それは短い黒髪の少年と、茶色い髪を2つのお下げに結った少女だった。少年は一定のペースで黙々と前を進み、その後ろを小柄な少女が息を切らしながらついていく。すると不意に少年が足を止め、丈夫な外套に身を包んだ少女を振り返った。
「……それではメナさん。この辺で少し休憩しましょう」
「は……はひぃ~、ありがとうございますぅ~」
メナはホッと息を吐き出し、大きな木の根元にペタリと腰を下ろした。そして木に寄りかかりながら、汗だくの額にハンドタオルを押し当てて呼吸を整える。
「ごめんなさいです、ネインさぁん。わたしの体力がないせいで、休憩ばかり取ってしまって……」
「いえ。今日も朝からかなり歩きましたから、疲れて当然です」
ネインもメナの隣に腰を下ろし、革の水筒をメナに差し出した。
「どうぞ、メナさん。水分を補給してください」
「はぁい、ありがとうございますぅ~」
メナは待ってましたとばかりに水筒を受け取ると、こくり、こくりと水を飲む。その横でネインも木に寄りかかり、午後の明るい空を見上げて息を吐いた。
「……それにしても、この森はかなり暑いですね」
「そうですねぇ、この辺はもうイラスナ火山の一部なので、地熱の高いところで温められた空気が流れこんでいるそうです。そのせいでこの森は、ほぼ1年中これぐらいの気温らしいですぅ」
「なるほど。だからまだ春先なのに、これだけの植物が生えているということか……」
ネインは呟きながら森の中を見渡した。視界の中には背の高い木々がどこまでも広がり、大地のほとんどは緑の雑草で覆われている。人の背丈ほどの
「でも、こんなにサクサクこの森を進めるとはおもいませんでしたぁ」
メナも木々のすき間から見える火山を眺めながら口を開いた。
「ここには獣や小型のモンスターが多く生息していると聞いていたので、ちょっと怖かったんですけど、ぜんぜん見当たらないですねぇ~」
「そうですね。戦闘になると時間のムダなので、なるべく魔物がいない方向を選んできましたから」
「ほえ? それってつまり、ネインさんはモンスターの気配がわかるってことですか?」
「ええ、一応」
思わずパチクリとまばたきしたメナに、ネインは火山を指さしながら淡々と答える。
「魔物には必ず
「はぁ~、なるほどぉ~。少し遠回りになっても、魔物を避けて進むのが一番の近道ということなんですねぇ~」
「はい。そしてこのまま魔物を避けて進めば、おそらく明後日の昼には目的地に到着します」
「ということは、予定より1日以上も早いペースだから、その分たっぷりカエンドラを観察できそうですねぇ~。ほんと、ネインさんが一緒にきてくれて大助かりですぅ~」
「オレの方こそ、カエンドラについていろいろ教えてもらえて助かりました。メナさんの知識のおかげで、何とか
「ほえ? めどって、なんのことですかぁ?」
「ああ、いえ、何でもありません。それより――」
キョトンと首をかしげたメナにネインは首を横に振り、わずかに赤く染まり始めた空を見上げて言葉を続ける。
「日暮れにはまだ少し時間があるので、
「はぁい、もちろんですぅ~」
メナは小さなこぶしを握りしめてニッコリと微笑んだ。それを合図に2人はゆっくりと立ち上がり、再び森の奥へと進み始める。しかしその直後、大きな
「……あっ、まずい」
「ほえ? ネインさん? どうかしましたかぁ?」
「……ああ、いえ。ちょっと魔物の気配を感じたので、木の上から周囲の状況を確認してきます」
森の奥を見渡していたネインは短く答え、背負い袋を地面に下ろす。そしてすぐに近くの木の上まで登って周囲を確認すると、ほとんど飛び降りるように戻ってきた。
「お待たせしました、メナさん。ここから南西の方向に広い空き地がありましたので、とりあえずそこまで行きましょう」
「あ、はぁい」
ネインは再び背負い袋を担ぎ、少し早足で歩き始める。メナも慌てて足を動かし、ネインの背中についていく。
「えっと、どうしたんですかぁ、ネインさん。もしかして、モンスターの群れでもいましたかぁ?」
「ああ、いえ、そういうわけではないです。――それよりメナさん。たしかこの前、イラスナ火山の近くには、少し変わった魔物が徘徊していると言っていましたけど、それはどんな魔物なんですか?」
「少し変わった魔物……? ああ、それはシルバーゴーレムのことですねぇ」
ネインは邪魔な枝を真紅のナイフで切り落としながら南西に向かって進んでいく。その落ちた枝をメナは避けて歩きながら言葉を続ける。
「えっとですねぇ、イラスナ火山の南の方に古代の遺跡群があって、そこにエンデルメル地下神殿というダンジョンがあるんですぅ。そのダンジョンに自然発生する巨大な聖銀巨人像のことをシルバーゴーレムというんですけど、どうやらそのゴーレムの1体がダンジョンを抜け出して、イラスナ火山の周囲をうろついているという噂があるんですぅ」
「なるほど……。それでは、そのゴーレムはどうしてダンジョンを抜け出したんですか?」
「そうですねぇ~、これはわたしの推測になるんですが、シルバーゴーレムは邪悪な気配に強く反応すると言われていますので、ダンジョンに侵入した盗賊を追いかけて、外に出てきたという可能性が考えられますねぇ~」
「つまりそのゴーレムは、邪悪な人間以外には攻撃しないということですか?」
「いえいえ、シルバーゴーレムは聖属性のモンスターと言われていますけど、それでもやっぱりモンスターですからねぇ~。近づく者は皆殺しにするとおもいますぅ~」
その言葉とほぼ同時に森の奥がざわめき立ち、どこからか無数の鳥が飛び立った。メナは空を飛び去る鳥の群れを何気なく眺めながら話を続ける。
「ですが、カエンドラの観察を始めてからこの10年で、シルバーゴーレムと遭遇した研究員は1人もいませんからねぇ~。もしもシルバーゴーレムがいるとしても、山の向こう側だとおもいますぅ~」
「そうですか」
ネインは頭の高さの枝を斬り落とし、ペースを速めて進みながらさらに尋ねる。
「それで、そのゴーレムは強いんですか?」
「それはもう、かなり強いモンスターらしいですぅ。なにしろエンデルメル地下神殿は最高難度のダンジョンで、最下層にたどり着いた人はまだいないと言われていますからねぇ。そんな恐ろしいダンジョンのモンスターですから、普通はどうやっても勝てないとおもいますぅ。それにゴーレムというのは痛みを感じない頑丈な体で、モンスターの中でも上位に位置する存在ですからねぇ。大賢者や大剣聖でも倒すのはかなり難しいとおもいますぅ」
「なるほど……。それはかなり強そうな魔物ですが、弱点はないんですか?」
「ほえ? 弱点ですか? それはやっぱり、
ネインの足についていくのが精一杯のメナは、額から流れ落ちる汗をハンドタオルで拭いながら口を開く。
「どんなモンスターも基本的に、体の中心線上に
「それはつまり、
「そうですねぇ~。おそらくそれが1番効率的な倒し方だとおもいますぅ。まあ、倒し方がわかっていても、それを実行するのはほとんど不可能だとおもいますけどねぇ~」
「たしかに、攻撃してくる魔物の
息苦しそうに話すメナの説明を背中で聞いて、ネインは首を縦に振った。
「それでメナさん。そのゴーレムに見つかった場合、逃げるのは難しいでしょうか?」
「はぁい、それはたぶんムリですねぇ~。シルバーゴーレムは1度捕捉した相手をどこまでも追いかけると言われていますから、見つかったらほぼ間違いなく逃げられないとおもいますぅ~」
「そうですか……。ならばやはり、戦うしかないか」
「ほえ? たたかう? ……って、あきゅっ!」
不意にネインが足を止めたので、メナはネインの背負い袋に顔から突っ込んだ。そして慌てて1歩下がったとたん、思わずパチクリとまばたいた。ネインが唐突に背負い袋を地面に下ろし、黒のハーフマントを脱ぎ捨てたからだ。
「え? どうしたんですかぁ、ネインさん。もう休憩ですかぁ? わたしならまだ歩けますけど……?」
「いえ、すいません。オレのミスです」
ネインは腰のベルトに差した3本の短い真紅のスティックと、2本のナイフの刃を確認しながら淡々と言葉を続ける。
「オレは魔物の気配がない方向を選んで進んできましたが、どうやらそれが落とし穴だったようです」
「ほえ? 落とし穴?」
「はい。魔物の気配がないのは、それなりの理由があったということです。――あの音が聞こえますか?」
「音?」
不意にネインが空に指を向けたので、メナは口を閉じて耳を澄ました。するとたしかに、どこからか何かの音が響いてくる。
「はて? この音はなんでしょう……? なんだか、木を砕くような音に聞こえますけど……? それに気のせいか、地面が少し揺れているような――」
次の瞬間、森の中にひと際大きな音が響き渡り、メナは反射的に目を向けた。すると木々のはるか奥に何か巨大なモノが突如として現れた。
「ほえ……? あれは……」
周囲の木々よりも背の高いその何かを見たとたん、メナはパチパチとまばたいた。それは体のあちこちに土や泥、木の葉や木の枝を張り付けた、巨大な人型のモンスターだった。
「ンゴっ!? ゴッゴッゴッ! ゴーレムぅーっっ!?」
「はい。おそらくアレが、シルバーゴーレムです」
驚愕のあまり両目をひん剥いたメナの横で、ネインも動く巨人像をまっすぐ見つめて淡々と言う。
「さっきの休憩の直後、あのゴーレムにこちらの気配を察知されました。この方角に魔物がいなかったのは、あいつがすべて倒したからだと思われます。そしてあのゴーレムは今、オレたちを完全に捕捉しています」
「ええっ!? ほっ! 捕捉しているって! それはつまり! わたしたちを狙っているってことですかぁっ!?」
メナはさらに激しくまばたきを繰り返し、周りの木を力任せになぎ倒して近づいてくるゴーレムを凝視した。そしてその巨人像の大きな両目が不気味な青い光を放っていることに気づいたとたん、メナは震えながらネインの腕にしがみついた。
「ネッネッネッネッ! ネインさんっ! どっどっどっど! どうしましょ!? はやはやはやく逃げないとっ! わたしたち殺されちゃいますぅーっ!」
「いえ。今から逃げてもおそらくムダです。見てください」
ネインは数百メートルの距離まで接近してきたゴーレムを指さした。
「あいつの身長は20メートル近くあります。走って逃げたとしても、すぐに追いつかれて踏み潰されます」
「そっそっそっ! それじゃあどうしましょ!? 逃げられないなら死んだフリですかっ!? 死んだフリですねっ!? もうそれしかないですよねっ!?」
「いえ、もっと確実な方法がありますが――その前にちょっと失礼します」
「ほっ!? ほええっ!?」
ネインはメナの小さな体をいきなり抱き上げ、そのまま一気に走り出した。するとシルバーゴーレムも両目の青い光を強く放ち、速度を上げてネインの背中を追い始める。
「ネッネッネッネッ! ネインさぁんっ! ゴッゴッゴッ! ゴーレムがものすごい速さで追いかけてきまぁーすっ!」
「はいっ! あいつをこのまま引き付けて、この先の空き地で迎え撃ちますっ!」
「ほええっ!? むっ!? 迎え撃つって、ええぇっ!? まさかっ! あのおっきなゴーレムを倒すってことですかぁーっ?」
ネインに抱きかかえられたメナは、木々を踏み倒して猛追してくるシルバーゴーレムを見ながら驚きの声を張り上げた。
「ムッムッムッ! ムリムリムリムリっ! そんなの絶対ムリですよぉーっ!」
「大丈夫です!
「でもでもでもでもっ! その
「大丈夫です!
ネインは木々の間を素早く走り抜け、広い空き地に飛び出した。するとシルバーゴーレムも地響きを立てて森の木々をなぎ倒しながら追ってくる。
「メナさん! 放り投げますから隠れていてください!」
「ええっ!? ほっほっほっ放り投げるって――うきゃっ!」
ネインは速度を落とさずに空き地の端にまっすぐ走り、そのまま藪に向かってメナを放り投げた。さらにすぐさまメナから離れ、広大な空き地を突っ走り、大きな弧を描いて反転する。そして猛烈な勢いで森から飛び出してきたシルバーゴーレムに向かって加速しながら、胸の前で両手を合わせて魔法を唱える。
「第00階梯絶対魔法――DCS
瞬間、ネインの全身に黄金色の電流がほとばしった。電流は瞬時にネインの体を包み込み、淡い光を放ち始める。ネインはその黄金の輝きをまといながら、巨大な敵へと一直線に突撃していく――。
***
・あとがき
本作品をお読みいただき、まことにありがとうございます。
参考までに、明日の投稿時間をこの場に記載いたします。
引き続きご愛読いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
2019年 1月 19日(土)
第59話 06:05 深き森と、遥かなる空の彼方――その2
第60話 11:05 深き森と、遥かなる空の彼方――その3
第61話 16:05 闇に潜む最悪の罠――
第62話 19:05 進撃の愚者たち――
第63話 23:05 情報と現実の狭間――
記:2019年 1月 10日(木)
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