第55話  プリンセスと天秤の剣――ライブラソード・イービルソード その3


「――おうっ! 待たせたなテメーらっ! 佐々木イジロウ! ここに推参っ!」


 無数の騎士たちのしかばねを踏み越えて歩いてきた長い黒髪の男が、近づいてきたアルバートの前で足を止めて声を張り上げた。しかし男の仲間たちは誰も口を開かない。男は軽く首をかしげてアルバートの後ろで死んでいる宮本を遠目に見た。それから塚原と柳生と滝沢の死体を順に眺め、ため息を1つ漏らす。


「……って、もう全員死んでるじゃねーか。ったく、たかが狼男1人に負けてんじゃねーぞコラ」


「おまえたちの腕前では仕方あるまい」


 顔や手を銀色の体毛で覆われたアルバートが佐々木を見据えて淡々と言った。すると佐々木はニヤリと笑い、背後に転がる騎士たちの死体の山に親指を向けて言い返す。


「はっ。なに言ってんだオッサン。自分の仲間をあんだけぶっ殺されておいて、カッコつけてんじゃねーよ」


「こちらは事実を言ったまでだ。おまえたちの剣の腕は未熟すぎる。おまえたちは魔法剣の強さに頼っているだけだからな」


「はあ? だから何だよ? 武器も実力のうちじゃねーか」


「たしかにそうだな。だからおまえもここで死ぬことになる」


「ほぉ、言うじゃねーか。だがしかし――」


 佐々木はゆっくりと横に歩き、黒い妖刀を素早く抜いて振り払った。すると数十メートル先の森の木が数本まとめて切断されて、音を立てて地面に倒れた。


「ふふん。どうだ、オッサン。これでも俺に勝てるつもりか?」


「まったく……。手の内を自ら明かすとは、呆れ果てた愚かさだな」


「サービス精神が旺盛おうせいと言ってほしいな」


 派手な実演をアルバートに見せつけた佐々木は再びニヤリと笑い、黒い妖刀を突き出してさらに言う。


「こいつは俺の妖刀、黒光長竿くろびかりながさおだ。特殊能力は今見たとおり、次元の刃で遠くの敵を斬ることができる。射程距離は俺の目の届く範囲で、どんなに硬い物質でも真っ二つだ。だから俺の攻撃を剣や盾で受け止めることはできないし、どこまで逃げてもムダムダムダムダ――。つまり俺は最強ってことだ」


「やれやれ……。その程度の能力で何が最強だ。思い上がりもはなはだしいな」


 自信満々の佐々木を見て、アルバートは思わず小さな息を吐き出した。


「今の剣技を見れば、おまえがそれなりの技術を身につけていることはわかる。後ろに転がっている4人に比べれば、おまえはたしかに強い。しかし、おまえのその魔法剣には致命的な弱点がある」


「へぇ、そいつはなかなか面白い感想だな」


 佐々木は軽く肩をすくめると、もう1度森の方に体を向けた。そして黒い妖刀を居合い抜きし、さらに連続で流れるように振り回す。すると大きな木が1本倒れ、輪切りになって転がった。その無数の欠片に分断された木に、佐々木はあごをしゃくって言葉を続ける。


「どうよ、オッサン。俺の前じゃあ、どんなに強いヤツでもあの木と同じように細切れになる。これでも俺の妖刀に弱点があるっつーのか?」


「それがわからぬから、おまえは未熟だというのだ」


 アルバートは佐々木に向かって1歩踏み込み、長剣を構えてさらに言う。


「おまえのような愚か者とは、これ以上言葉を交わしても意味はない。我が天秤剣ライブラソードの一撃で、速やかにソルラインへと送ってやろう」


「はっ。またそれか。こっちの世界のヤツはそればっかりだな。ソルライン、ソルラインって、いちいちうるせーんだよ。そういうバカの一つ覚えって、マジでキモイんだっつーの。というわけで、テメーもぶっ殺し確定だ。あとで泣いて謝っても許さねーからな」


 佐々木もアルバートをにらみつけながら、黒い妖刀を肩に構える。アルバートは即座に全身から殺気を放ち、佐々木を見据える。さらに全神経を集中させて目を凝らし、佐々木の動きをすべて捉えながらにじり寄る。――その瞬間、佐々木が唐突に声を張り上げた。


「いまだぁーっ!」


「――なにっ!?」


 アルバートは思わず驚愕の声を漏らした。佐々木の声と同時に、複数の殺気が背後からいきなり押し寄せてきたからだ。アルバートはとっさに剣を払いながら振り返る――。するとそこには、斬り殺したはずの4人の姿があった。地面に転がっていたはずの死体どもが起き上がり、雄叫びを上げながら同時に襲いかかってくる。


 しかし、アルバートは冷静だった。真っ先に飛びかかってきた滝沢の赤い妖刀を剣で受け止め、横に流す。そして体勢が崩れた滝沢を蹴り飛ばして柳生にぶつけ、2人もろとも地面に倒す。そのまま素早く一回転し、振り下ろされた宮本の妖刀を紙一重で避けて背後に回る。そして宮本の首に向かって長剣振り抜いた――瞬間、アルバートの動きがぴたりと止まった。


「こっ! これはっ!?」


 アルバートは愕然として両目を見開いた。自分の剣が宮本の首の手前で完全に止まってしまったからだ。しかもそれが剣だけではなく体全体だと気づいた瞬間、アルバートは眼球だけで周囲を素早く見渡した。すると横の方で誰かが地面にうずくまっているのが見えた。それは緑色の髪の男、塚原だ。塚原はアルバートの影に黄色い妖刀を突き立てた姿勢のまま、ニンマリと笑って口を開く。


「……妖刀・光陰裏卜珍こういんうらぼくちん縛影剣ボンデージソードだーいせーいこう。これでもう、アンタは自分の口以外、どうあがいても動かせないよほほほぉ~ん」


「よーし、よくやった塚原」


 あと0・1秒で首を切り落とされていた宮本は慌ててアルバートの剣から離れた。そして自分の首をさすりながら安堵の息を吐き出した。


「ったく、やっぱこのオッサン、マジでつえーな。危うく2回連続で死ぬとこだったぜ」


「……そしたら俺のゲートコインで助けてやったさ」


 不意に近づいてきた佐々木が、宮本を見てニヤリと笑った。


「というかムサイ、おまえ油断しすぎじゃねーか? 俺がオッサンの注意を引かなかったら、おまえら全員、生き返ったとたんに殺されてたぞ?」


「ああ、そうだな。今のはちょっとマジでやばかったな」


「――くっ! なぜだっ! おまえたち4人は確実に殺したはず! どうやって生き返った!」


 いきなり目の前でのんきに話し始めた佐々木たちを見て、アルバートが声を張り上げた。すると佐々木は淡々とした表情のまま、アルバートの腹に妖刀を突き刺した。


「ああ、オッサンはもういらねーから。その年までムダな努力、ごくろーさん。オラ。さっさと大好きなソルラインに行っちまいな」


「ごふっ……」


 その瞬間、アルバートは口から血を噴き出した。さらに宮本と柳生と滝沢も、アルバートの体に妖刀を突き刺した。そして4人は淡々と、何度も何度も、何度も何度もアルバートの体に穴を開ける。その度にアルバートの口からは赤い血が噴き出し、そしてすぐに、立ったまま白目を剥いて絶命した。


「おう、塚原、もういいぞ」


「うぃっす」


 宮本の言葉で、塚原は黄色い妖刀を地面から引き抜いた。同時に全身から血を流したアルバートの死体が大地に倒れて横たわった。


 すると次の瞬間、いきなり馬車の扉が開き、中から黒いドレス姿の少女が飛び出してきた。馬車の中で震えながら身を潜めていたカトレア・イストンだ。ただ1人生き残ったカトレアは大粒の涙を流しながら、血まみれで地面に倒れたアルバートの死体を遠目に見つめた。そしてその場で地面にへたり込み、声を上げて泣き始めた。


「お~、あれがお姫様かぁ。いいねぇ~。オレッチの好み、ど真ん中じゃねーか」


 宮本は泣き叫ぶ小柄なカトレアを眺めながら、思わず舌なめずりした。


「宮本パイセンは、マジでガチのロリコンなんすねぇ~」


「あ? なんだ塚原。テメー、なんか文句でもあんのか、コラ」


「ああ、いえいえ、文句なんかぜんぜんないっすよ。好みが違うとオンナの取り合いにならないから、むしろ大歓迎っす」


 宮本にじろりとにらまれて、塚原は慌てて両手を左右に振った。


「ちなみにボクチンの好みは20代後半の大人の女性っすから、そういうオンナがいたらよろしくっす」


「おいどんは尻のでかい女が好きっす」


「わがはいは、鼻が曲がりそうなほど体臭のキツイ女がいいっすね」


「俺はヨッシーだな」


「「「「いや、そんなのみんな知ってるから」」」」


 塚原、滝沢、柳生に続いて佐々木が自分の好みを口にした瞬間、他の4人が同時に突っ込んだ。すると佐々木はニヤリと笑い、さらに言う。


「だったらテメーら、わかってんな? ヨッシーに手ぇ出したらぶっ殺すからな」


「いやいや、ギルマスに手を出した時点でボクチンたちぶっ殺されますから」


「まったくだ」


 塚原の言葉に宮本が笑うと、全員が一斉に笑い出す。その楽し気な笑声しょうせいが薄暗い森に響いたとたん、不意にカトレアが立ち上がり、走って逃げた。


「……あ。佐々木パイセン。お姫様、逃げちゃいましたよ?」


「あ? あんな女の子走りで逃げられるわけねーだろ」


 必死に細い足を動かして走るカトレアに塚原が指を向けたとたん、佐々木は思わず鼻で笑った。そして不意に邪悪な笑みを浮かべると、腰の妖刀に手を添えて、抜刀の構えを取りながらさらに言う。


「だがしかし、ちょうどいい練習台だ。よーし、テメーら、アレをやるぞ」


「お、アレか、イジロウ」


「アレっすね、佐々木パイセン」


「アレっすか、サブマス」


「やっぱアレっしょ、佐々木先輩」


 佐々木の言葉に他の4人もニンマリ笑い、少しずつ遠ざかっていくカトレアの背中に目を向ける。その直後、佐々木が気合いとともに素早く妖刀を抜き放った。


次元剣ディメンションソード! ディメンションスラッシュ――洋服裁断ドレスシュレッダーっ!」


 その瞬間――カトレアの細い体が千切せんぎりになって地面に崩れ落ちた。


「……あっ」


「「「「あっ」」」」


 5人の男たちは同時に口をポカンと開けた。カトレアの体は縦に輪切りにされて、土の道に転がっている。その動かなくなった肉片を遠目に眺めながら、男たちは一瞬呆然となった。しかしその直後、塚原がいきなり元気いっぱいの声を張り上げた。


「はぁーいっ! チョンボっ! チョンボっ! サブマスチョンボっ! 遊ぶまえにこーろしたっ!」


「うぇ~、マジかよぉ~、手が滑っちまったぜ~」


 佐々木は思わず顔をしかめて灰色の空を仰いだ。すると塚原はさらにニヤリと笑いながら腰に手を伸ばし、ひょうたん型の水筒を取り出す。そして滝沢がすかさず差し出してきた木のカップに、粘度ねんどの高い白濁液はくだくえきをドロドロと注いでいく。同時に4人は声をそろえてはやし立てる。


「「「「はいっ! チョンボっ! チョンボっ! サブマスチョンボっ! はい・はい・はい・はいっ! の・み・ほ・せっ! はい・はい・はい・はいっ! の・み・ほ・せっ!」」」」


「おえ~、マジでぇ~?」


 佐々木は、滝沢が差し出してきたくさい液体から顔を逸らして鼻をつまんだ。そしてそのままおそるおそるカップを受け取り、一気に飲んだ。しかしその直後、上半身を限界まで前に倒して噴き出した。


「うおおおおぇぇぇ……」


 佐々木は涙目で鼻水を垂らしながら、飲みこんだ白濁液を滝のように地面に吐いた。そのとたん、他の4人は腹の底から大爆笑。おびただしい血の匂いが漂う薄暗い森の中に、男たちの明るい歓声が響き渡った。


「……つかはらぁ、テメー、これほんと、なんの液体だ? 死ぬほどくさすぎて、マジでやべぇだろ……」


「いえいえ、毒ではないので飲んでも問題ありませぇーん」


 腹を押さえながら青白い顔で言葉を漏らした佐々木に、塚原は満面の笑みで答えた。するとその横に立つ宮本が、不意に顔を曇らせながらぽつりと呟いた。


「あー、でもほんと、アレはちょっともったいなかったなぁ……」


「あ?」


 宮本の沈んだ声を耳にして、佐々木はゆっくりと顔を上げた。すると宮本は、数分前までカトレアだった肉塊を遠目に眺めて呆然としている。それで佐々木はすぐにピンときた。


「……ああ、そういうことか。悪いな、ムサイ。走っていたからちょっと目測を誤って、体ごと斬っちまったぜ」


「ああ、別にイジロウを責めるつもりはねーよ。アレはどうせ殺す相手だったからな」


「そりゃあそうだが……ったく、しょうがねぇなぁ」


 悲しそうに呟いた宮本を見て、佐々木は軽く肩をすくめた。


「わかったよ。たしかに、遊ぶ前にオンナを殺したのは俺のミスだ。だから今から代わりのロリっ子を狩りに行くぞ」


「は? 代わりっておまえ、そんなのいるのか?」


「ほら。この前のアレがいるだろ」


「この前のって……え? それってまさか、あの犬っか?」


 キョトンとして訊き返した宮本に、佐々木はニヤリと笑って1つうなずく。すると宮本は目を丸くしながらさらに言う。


「いや、でもおまえ、昨日の夜みんなでもう1度見に行ったけど、あの家はもぬけの殻だっただろ。あのはたぶん、何とかって火山に行っちまったんじゃねーのか?」


「だからちょうどいいんだよ。警備兵のいないところで、気が済むまで遊べるからな」


「そりゃあたしかにそうだけど、今からあのを追っかけたら残りの仕事はどうするんだよ。オレッチたちであと6人殺さないと、ヨッシーに怒られるだろ」


「はっ。何が残りの仕事だ。知るか、ンなもん」


 宮本の言葉を聞いたとたん、佐々木は不意に横を向いて唾を吐いた。


「ゲームマスターの命令だか何だか知らねえが、ヨッシーがいないんならマジメに仕事なんかやってられるかっつーの。ただ殺すだけなんて、ダルくてめんどくさいだけじゃねーか。俺たちゃあ、こんなつまんねー仕事をするために転生してきたわけじゃねーんだよ。違うか、テメーら」


 佐々木は鋭い視線で仲間たちを見渡した。


「毎日まいにち朝起きて、行きたくもない学校に行って勉強して、教師にしかなれなかったショボイ大人たちに偉そうな態度を取られて、家に帰れば、ただ親ってだけでふんぞり返ってるバカどもに説教されて、ほんともぉウンザリなんだよ。決まり事とかルールとか、マナーとか法律とか、知らねえよ、そんなもん。なんで俺たちの知らないところで勝手に決められたルールに、俺たちが縛られなくちゃならねーんだよ。そんながんじがらめの世界のいったいどこに自由があるって言うんだよ。ああ? テメーらだってそう思っただろ」


 その言葉に、宮本は渋い顔で小さな息を吐き出した。塚原と滝沢と柳生も顔を曇らせ、視線をそっと地面に落とす。


「なあ。そんな息苦しい世界からようやく抜け出して、異世界で自由に生きることができるようになったっていうのに、なんであくせく働かなくちゃいけねーんだよ。カネなんかそっこらへんの村に行けばいくらでも手に入るだろ。弱いクズどもを殺しまくって、好きなだけオンナを襲って、モノを奪ってカネを奪って、腹が減ったら好きなモンを食って、眠くなったら好きなだけ眠って、みんなでバカ騒ぎして毎日遊ぶ――。それが本当の自由ってモンだろ。そうやって生きるために俺たちは転生してきたんだろ。だったらさぁ、やりたいことを、やりたい時にやって何が悪い。ああ? 違うか、テメーら」


「……ああ、たしかにそうだな」


 吐き捨てるように言い放った佐々木の言葉に、宮本が首を縦に振って口を開く。


「たしかに、ここはもう地球じゃない。オレッチたちは異世界に転生したんだ。だったらもう、わざわざ地球の価値観に縛られる必要はないとオレッチも思う。何しろオレッチたちは女神に選ばれた特別な人間だからな。そしてその女神が自由に生きろと言ったんだ。だったらイジロウの言うとおり、ヤリたいことをヤルのが当然だ。あの犬っを追いかけて、心ゆくまで一緒に遊ぶのは、むしろオレッチたちの使命と言っても過言じゃないだろ」


「いやいや、さすがにその使命は宮本パイセンだけっすね」


 真剣な顔で言い切った宮本の横で、不意に塚原がクスリと笑った。


「なんだ、塚原。おまえだってあの犬っのことを、かわいいかわいいって言ってたじゃねーか」


「いや~、あれは宮本パイセンがあの子のことを気に入ってたからああ言っただけで、実はボクチン、ああいうロリ系はあんまり好きじゃないんすよねぇ~」


 ふと首をかしげて訊いてきた宮本に、塚原は苦笑いを浮かべて答えた。すると他の3人も口々に同意する。


「あー、実はおいどんも、ああいう子ども体形はむしろ苦手っす」


「わがはいも、あんな小ぎれいな小娘より、40以上のくさそうなババアがいいっす」


「俺もヨッシー以外なら、もっと大人っぽい体つきのオンナがいいな」


「……えっ? なにそれ? それじゃあおまえら、あの犬っのこと、実はどうでもいいと思ってたのか?」


 宮本がパチクリとまばたきして尋ねると、4人はこくりとうなずいた。そのとたん宮本は半分白目を剥いたまま、呆れ果てた声を漏らした。


「うーわ、マジかよ、おまえら……。前からオカシイオカシイとは思っていたが、おまえらのオンナの趣味がそこまで悪いとはおもわなかったぜ……」


「「「「趣味が悪いのはおまえの方だっっ!」」」」


 宮本の言葉を聞いたとたん、4人は一斉に手を突き出して宮本をぶっ飛ばした。宮本はたまらず地面に転がり尻餅をつく。それから苦笑いを浮かべながら仲間たちを見上げてニヤリと笑う。


「へっ、そうかよ。だったらあの犬っは、オレッチが独占させてもらうからな」


「ああ、好きにしろよ」


 佐々木もニヤニヤと笑いながら手を差し伸べ、宮本を立たせてさらに言う。


「俺たちは仲間だからな。仲間なら助け合って生きていくのが普通だろ。だからまずは、おまえのためにあの犬っを捕まえてやんよ。――おうっ! テメーらもそれでいいなっ!」


「「「うっす!」」」


 佐々木の声に、塚原と滝沢と柳生は即座に返事をしてうなずいた。その姿を見て、宮本は照れくさそうに頬を緩めた。


「まったく……。おまえらはほんと、最高のバカばっかりだな」


「おまえもそのバカの1人だろ」


 佐々木はそう言いながら、こぶしを前に突き出した。すると他の3人も佐々木の横でこぶしを並べたので、宮本は嬉しそうに目元を和らげながら一人ひとりとこぶしを合わせた。それから佐々木は元来た道へと振り返り、晴れ晴れとした表情で口を開く。


「さぁて。それじゃあ早速、イラスナ火山まであの犬っを追いかけるぞ。仕事の続きはそのあとだ。暗殺なんかいつでもできるからな」


「「「「おうっ!」」」」


 佐々木の指示に、仲間たちは声をそろえて気合いを放った。それから5人は横一列に並んで歩き、楽しげに口笛を吹き始める。そしてそのまま死体の山を踏み越えて、その場から立ち去った。


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