異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第54話 プリンセスと天秤の剣――ライブラソード・イービルソード その2
第54話 プリンセスと天秤の剣――ライブラソード・イービルソード その2
「――なっ!? なんだとっ!?」
灰色の空の下、薄暗い森を貫く一本道を駆けていたアルバート・グロックは思わず我が目を疑った。少し先を走る50名の騎馬隊が、道を塞ぐ大きな倒木に近づいたとたん、一瞬で全滅したからだ。
アルバートは慌てて馬の足を止め、死体の山に目を向けた。敵とはまだ接触していないはずなのに、騎士や馬が無数の肉片と化し、大量の血だまりの中に転がっている。そしてどれだけ目を凝らしても、生存者は1人も見当たらない。そこにあるのは死の気配と、鼻につく血の匂いだけだった。
「くそっ! やはり暗殺者の待ち伏せだったかっ!」
アルバートは瞬時に気を取り直し、怒りを抑えながら前を見た。すると4人の男たちが抜き身の刀を構えながら一直線に向かってくる。
「敵襲ーっ! 残りの全員で迎撃だっ! 馬車はすぐさま引き返せっ! カトレア姫を安全な場所までお連れするんだっ!」
アルバートは声を張り上げて指示を飛ばし、自分は馬車の方に急いで引き返す。同時に残りの騎士たちは馬から飛び降り、剣を抜く。そして突撃してくる4人の敵に向かって斬りかかっていく。アルバートの指示を耳にした御者も慌てて馬車を反転させる。しかしその瞬間、死体の山に足を踏み入れた塚原が、ニヤリと笑って妖刀を大きく振りかぶった――。
「へっ! そうは問屋が
塚原は声を張り上げ、自分の妖刀を空中高くぶん投げた。その黄色い刀身は高速で回転しながら灰色の空に向かって突き進む。そして弧を描きながら落下して、馬車の近くの地面に突き立った。そのとたん、反転していた馬車の動きが不自然にぴたりと止まり、急ブレーキの衝撃で御者が地面に転がり落ちた。
「なにをやっているっ!」
動きの止まった馬車を見てアルバートは思わず怒号を上げた。しかしすぐに
「くそ……。暗殺者どもが何かを仕掛けたか……」
馬車の周囲を見渡したアルバートは苦み走った表情を浮かべた。そして4人の襲撃者に顔を向けたとたん、今度は愕然と目を見開いた。足場の悪い死体の山で戦闘状態に突入していた騎士たちのほとんどが、いつの間にか地面に倒れて死んでいた――。
「ぃよーしっ! グッジョブだ塚原っ! よくやった!」
塚原の妖刀が馬車の影に突き立ったとたん、宮本が声を張り上げた。
「あとはオレッチと滝沢で道を切り開くぞっ! 柳生は塚原を守ってやれっ! いっくぞぉーっ!
宮本は3人に指示を出した直後、全身全霊で妖刀の能力を解放した。とたんに桃色の刀身が淡い光を放ち出す。同時に宮本は全力ダッシュで目の前に迫った騎士の群れに斬り込んだ。そして続々と振りかかってくる無数の剣を片っ端から弾き返す。すると剣を弾かれた騎士たちが、次から次にその場に倒れて動きを止めた。その騎士たちの顔や体は一瞬でやつれ、まるで老人のように生気が失われている。逆に宮本は1人倒すごとに力強さを増していき、止まることなく妖刀を振り回し続けていく。
「おいどんもイクっすよぉーっ! おおおおおおおーっ!
宮本からわずかに遅れて、スキンヘッドの滝沢も赤い妖刀を振りかざして能力を発動させた。そして襲いかかってくる騎士たちに猛烈な力で剣を振り下ろす。そのとたん、滝沢の剣を受けた騎士が空中高く吹っ飛んだ。さらに滝沢は剣を振り回し、手当たり次第に騎士たちを小石のように弾き飛ばして地面に転がしていく。すると滝沢の後ろを走っていた柳生がニンマリ笑い、妖刀の能力を解放した。
「ぐへへぇ~、そんじゃあ、わがはいもヤラせてもらうっすよぉ~。
金髪ロングツインテールの柳生は顔に不気味な笑みを浮かべながら、地面に転がった騎士に近づく。そして紫色の妖刀を騎士の体に突き刺した。すると妖刀は騎士の鎧を瞬時に溶かして貫通し、肉体を焼き始める。とたんに熱で溶けた金属の
超高熱の妖刀で体を瞬時に切り刻まれた騎士は、悶え苦しみながら悲鳴を上げて、あっという間に絶命した。すると柳生は地面に倒れた騎士たちに片っ端から妖刀を突き刺していく。そして、まるで泥をこねるかのように生きている騎士の肉体を溶かしてかき混ぜ、悲鳴と絶叫を聞きながらよだれを垂らしまくる。すると不意に柳生の近くにいた塚原が落ちていた剣を拾い、怒鳴り声を張り上げた。
「おいこらムネっ! オメーはボクチンを守るんだろ! あんま遊んでんじゃねーぞコラっ!」
塚原は襲いかかってきた騎士の剣をギリギリで受け止めた。すると柳生はニンマリと笑い――よいではないかぁ、よいではないかぁ――と呟きながら、塚原を攻撃している騎士に超高熱の妖刀を突き刺した。そして周囲に充満した燃える肉の
「いやおまえ……ほんとガチで頭オカシイだろ」
何かにとりつかれたようにヘラヘラと笑いながら騎士たちを殺していく柳生を見て、塚原は思わず苦笑した。そしてふと気がつくと、騎士たちの最後の1人を柳生がいたぶりつくして殺していた。
「あ……アルバートぉ……」
薄暗い森の中に騎士たちの絶叫が響き渡り、そして静まり返ったあと、馬車の窓からカトレアがおそるおそる顔を出した。部下の騎士たちが全滅するのを遠目に見ていたアルバートはすぐに馬首をめぐらし、カトレアを振り返って口を開く。
「ご安心ください、カトレア姫。
アルバートは恐怖で震えるカトレアに微笑みかけて、馬車の窓をそっと閉めた。そして馬を降りると、脱いだ純白のマントを
「――おほっ! なんか強そうなオッサン出てきたーっ!」
堂々と胸を張って立つアルバートを見た塚原は茶化すような声を上げた。そしてアルバートから距離を取ったままゆっくりと横に歩き、地面に突き立った自分の妖刀を引っこ抜く。さらに先ほど拾った騎士の剣を馬車の方に思いっきり投げつけて、御者の胸に突き立てた。
「はい、ストライーク」
まるでカカシのように倒れて死んだ御者を見て、塚原はニヤリと笑う。そして黄色い妖刀を構えながら、仲間たちと一緒にアルバートの四方を取り囲む。
しかし、アルバートは落ち着き払っていた。4人に囲まれても淡々と腰の短剣を抜いて刃を確かめ、鞘に戻す。それから長剣をゆっくりと抜き放ち、前後左右を囲んだ男たちにゆっくりと目を向ける。
「……暗殺者にしてはずいぶんと若いが、それはまあどうでもいい。おまえたちにカトレア姫の暗殺を依頼した人間は誰なのか、それを聞かせてもらおうか」
「はっ。今さらそんなこと聞いたって意味ねーだろ」
不意に訊いてきたアルバートに、宮本は鼻で笑って言い返した。そして桃色の妖刀をアルバートに向けてさらに言う。
「見たところ、アンタはかなり強い。はっきり言ってオレッチたちの実力じゃあ、アンタにはかなわない。だがな、それはタイマンでの話だ。4人がかりなら負ける気はしないし、オレッチたちには魔法の力が込められた妖刀もある。つまり、アンタの敗北は確実ってことだ。今すぐ降参するなら楽に殺してやってもいいが、どうする?」
「ふっ。何を愚かなことを」
アルバートも鼻で笑い、宮本をまっすぐ見据える。
「楽に殺してやるだと? それはこちらのセリフだ。おまえたちを雇った黒幕の名をおとなしく白状すれば、一瞬で殺してやろう。ま、言わなくても一瞬で殺すがな」
「へっ、強がってんじゃねーぞ、オッサン。アンタの能力値はたしかに高いが、そこまで威張れるほどの実力じゃあねーだろ。こっちはちゃーんとわかってんだからな」
「ほぉ? そちらこそ、その程度の剣の腕で相手の実力が分かるというのか?」
「ったりめーだ。アンタは
「ほほぉ、なるほど。たしかに、少しは見る目があるようだな。ならば――」
アルバートは一旦、言葉を区切った。そしていきなり両目を見開き、全身から気合いを放つ。そのとたん、アルバートの体が
「ンなっ!? なンだとぉっ!?」
その瞬間、宮本は愕然と目を剥いた。普通の人間にしか見えなかったアルバートの姿が、みるみるうちに変化していくからだ。しかも野獣のような鋭い視線を向けられて、思わず2、3歩あとずさる。周りで見ていた滝沢と柳生も思わずぎょっとして距離を取り、すでに腰が引けていた塚原は慌てて声を張り上げた。
「みっ! 宮本パイセンっ! ヤバイっす! こいつ
「そうか! これが
まさに獣のごとく変化したアルバートの姿を見て、宮本も驚きの声を上げた。さらにアルバートの顔の横を凝視したとたん、思わず目を丸くした。
「うおっ、なんだ、このオッサンのステータス。さっきまではたしかに
「っす! このオッサン、マジもんのブラックナイトっす! まじパネェっす! どうしますか! 宮本パイセンっ!」
「どうっておまえ、どうするもこうするもねーだろっ!」
わずかに震える声で指示を求めてきた塚原に、宮本は怒気を含んだ声を飛ばした。
「ヤラなきゃこっちがヤラれるだけだっ! 全員! 妖刀の能力を発動しろっ! こいつは全力でぶっ殺すぞっ! おらぁーっ!
「りょーかいっす!
「おいどんも!
「とどめはわがはいが肉を焼いて泣かせるっす!
4人の男たちが慌てて声を張り上げたとたん、色とりどりの妖刀が再び不気味な光を放ち始めた。しかし、顔や手を銀色の短い体毛で覆われたアルバートは落ち着き払ったまま長剣を構え、呼吸をゆっくりと整える。そしてじりじりと距離を詰めてくる4人の気配を同時に察知しながら、剣の位置を小刻みに調整する。その直後、滝沢が一気に距離を詰めて襲いかかった。
「隙ありーっ!」
「……そんなものはない」
滝沢は声を張り上げ、全力で剣を振り下ろした。しかしアルバートは真横から突っ込んできた滝沢の方を見ることなく、斜め後ろに半歩下がった。
「……こいつの剣はただの力任せ。突進するだけの
アルバートは呟きながら長剣を横に倒す。すると全力の一撃を避けられた滝沢は前のめりになり、自分からアルバートの剣に突っ込んで心臓を貫かれた。
「ごぶふ……」
滝沢は即座に口から血を噴き出し、その場に倒れて死亡した。すると反対側から飛び込んできた柳生もアルバートに向かって紫色の妖刀を突き出した。
「すきありーっ!」
「……学習しない馬鹿どもが」
やはり声を張り上げて突き出してきた柳生の妖刀を、アルバートは1歩下がって素早く避ける。
「……こいつの剣は、超高熱ですべてを溶かす。しかし、ただそれだけのこと」
アルバートは流れるようにその場で回転しながら剣を振り抜き、柳生の首をはね飛ばした。さらにそのまま振り返り、息を殺して接近していた塚原に目を向ける。
「うげっ! こっち見んな! というか、もう
「……いちいち声を張り上げないと攻撃できんのか、こいつらは」
塚原は怒鳴りながらアルバートの影に向かって剣を振り下ろした。その動きを見たとたん、アルバートは瞬時に塚原の狙いを理解した。
「……なるほど。それが馬車の動きを止めたカラクリか。だが、仕組みがわかればどうということはない」
アルバートは風のように素早く踏み込んで剣を振り抜き、地表すれすれで黄色い妖刀を弾き飛ばした。そしてさらにもう一回転して距離を詰め、瞬時に塚原の首を斬り落とした。
「テンメーっ! コノヤローっ! オレッチの仲間をぶっ殺してんじゃねーぞゴラァーっ!」
「……それはこちらのセリフだ」
塚原の首が地面に落ちる寸前、宮本がアルバートの脳天目がけて桃色の妖刀を一気に振り下ろした。
「……こいつの剣は、相手の生命力を吸い取って奪い尽くす。ならば、触れなければいいだけのこと」
猛烈な速度で背後に迫った宮本の殺気を察知しながら、アルバートは振り向くことなく横にずれた。そして腰の短剣を素早く引き抜き、肩越しに投げ放つ。直後、宮本の額に短剣が突き立った。その一撃で絶命した宮本は、妖刀を振り下ろしながら地面に倒れ、動きを止めた。
「……白百合騎士団団長、バルト・ブレイデン様より伝授されし我が
アルバートは長剣を素早く払って血を飛ばす。そしてゆっくりと振り返り、一直線に歩いてくる長い黒髪の男に足を向けた。
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