第48話  錬金術師が暮らす家――ガールズ・イン・クライシス その1


 そこは小さな前庭がある、石造りの家だった――。


 王都の中でも静かで落ち着いた住宅街にあるその家は、きれいな石畳の通りに面し、左右には似たような造りの家がいくつも建ち並んでいた。


 昼下がりのこの時間、それなりに幅のある通りには、のんびりと散歩する住民たちや郵便物の配達人、巡回している警備兵などの姿がちらほら見える。


 しかしその中の1人、金色の髪を肩まで伸ばした少女だけは、小走りで石畳の道を駆け抜けていく。そして、細い体に黒のハーフマントをしっかりとまとったまま1軒の家の玄関に駆けつけると、大きな息を1つ吐き出し、木の扉をノックした。するとすぐに、のんびりとした声とともにドアが開いた。


「――はぁ~い、どちらさまですかぁ~」


「メナちゃん、わたし、わたし~。こんにちはぁ~」


「あぁっ! シャロちゃんだぁ!」


 中から出てきたのは茶色い髪を2つのお下げに結った、背の低い女の子だった。そして金髪の少女がにこやかに微笑みながら挨拶したとたん、女の子は喜びに顔を輝かせて抱きついた。しかしすぐに体を離し、首をかしげて口を開く。


「……はれ? なんか濡れてる?」


「あ、ごめんね、メナちゃん。わたしさっき、水路に落ちちゃってずぶ濡れなの」


「わわ。それはたいへん。早く入って入って~」


 シャーロットが申し訳なさそうに口を開くと、メナは慌ててシャーロットの手を握り、家の中に引っ張り込んだ。そして手早くタオルと寝間着を用意して、暖炉の前に立ったシャーロットに手渡した。


「すぐにあたたか~いお茶をいれるから、そのパジャマに着替えてねぇ~」


「うん、ありがと~」


 メナはそう言いながら窓のカーテンを閉めると、奥の台所に向かっていく。そして広い居間に1人になったシャーロットは、すぐに服を脱いで体を拭き、メナのパジャマに着替えてから、濡れたハーフマントと学生服を暖炉の近くの台に干す。


「……う~ん、やっぱりメナちゃんの服だとちょっと小さいけど、ま、いっか」


 ズボンのすそも上着のたけも短いパジャマを着たシャーロットは、自分の姿を見下ろして軽く苦笑い。それから暖炉の炎に手をかざして体を温めていると、メナがいそいそとティーセットを運んできた。


「ごめんねシャロちゃ~ん。テーブルの上、ちょっと片付けて~」


「あ、うん」


 メナに言われ、シャーロットはすぐにテーブルの上に山積みされていた無数の本を床に下ろした。そして居間の中にところ狭しと散乱した分厚い本や実験道具を見渡して、もう1度苦笑い。


「やっぱり、メナちゃんのお部屋は相変わらずだねぇ~」


「えへへぇ~、面目ない」


 メナは照れくさそうに微笑みながらテーブルにできたスペースにティーセットをのせて、2つのカップに茶を注ぐ。そして椅子に腰を下ろし、小さな両手を前に出してシャーロットに茶を勧めた。


「はぁ~い、おまたせしましたぁ~。さぁ、飲んで飲んでぇ~」


「ありがと~。では、いただきま~す」


 シャーロットも椅子に座り、湯気の立つ茶を静かにすする。そしてホッと息を吐き出し、幸せそうに頬を緩める。


「あぁ~、おいし。メナちゃんのお茶は相変わらずおいしいねぇ~」


「えへへぇ~。そう言ってもらえるとうれしいで~す」


 メナはシャーロットを見てにっこり微笑み、自分もカップに口をつける。それから暖炉の前で水滴を垂らすハーフマントと制服に目を向けながら疑問を漏らす。


「でも、どうして水路に落ちちゃったの?」


「あー、うん。実はそれが、ちょっといろいろあって……」


 訊かれたとたん、シャーロットは顔を曇らせ、重い口で事情を話した。


「……ほえ~。それじゃあ誰かにスカートを切られちゃって、それを教えてくれた人を犯人だと思いこんで噛みついて、橋から水路にドボンと落ちて、さらにその人に助けてもらったってことなんだぁ~。シャロちゃんも相変わらずおっちょこちょいだねぇ~」


「うう……めんぼくない……」


 シャーロットの話を聞いたとたん、メナは軽く呆気に取られて目を丸くした。その視線から逃げるようにシャーロットは目を逸らし、首から提げた青いペンダントロケットを指先でなでながら言葉を続ける。


「でもね、ほんとにその人、ものすごーく親切だったの。わたし、何も知らずにその人を怒鳴りつけて、ひどいことをいっぱい言ったのに、それでもわたしを助けるために水路に飛び込んでくれて、しかも腹も立てずにあのマントまでわたしにくれたの……」


 シャーロットは濡れたハーフマントに目を向けて、大きな息を吐き出した。


「世の中には、あんなに心の広い人もいるというのに、それに比べてわたしときたら、バカでアホでおっちょこちょいで、もうほんとダメダメで……」


「まあまあ、シャロちゃん、元気だして。済んだことはどうしようもないからねぇ。それに今日はわたしの方も見知らぬ親切な人にたすけてもらったから、その気持ち、よくわかるなぁ~」


「え? そうなの?」


「うん、そうなんですぅ~」


 メナは照れくさそうに微笑みながら、空になったシャーロットのカップに茶を注ぐ。それからもう1度、暖炉の前のハーフマントに顔を向けて言葉を続ける。


「えっとね、今日のお昼、冒険職アルチザン協会にお仕事の依頼を出しに行ったら、なんか頭のおかしな男の人たちに絡まれちゃったの。そしたら、あれと似たようなマントを着た人がたすけてくれたの。しかもそれがけっこうかわいい男の子でね、ぜんぜん汗臭くなくて、しかもなんだかいい匂いがして、わたし思わずドキドキしちゃったぁ~」


「そ、そうなんだ……。それはよかったねぇ……」


 いきなり頭の上に茶色い耳を立てて、両手で頬を押さえながらニヤニヤと笑い出したメナを見て、シャーロットは苦笑いしながら茶をすする。


「だけどメナちゃん。冒険職アルチザン協会に、なんのお仕事の依頼に行ったの?」


「あ、うん。実はね、南のイラスナ火山まで、ちょっとモンスターの生態調査にいくことになったんだけど――」


 そう言いながら、メナは足元の本を一冊拾い上げてテーブルに広げた。シャーロットが目を向けると、そのページには炎をまとったトカゲ型のモンスターのイラストと、各種の情報が事細かに記載されている。


「これがそのモンスターで、名前はカエンドラっていうの」


「へぇ~、モンスターにしては、なんだかちょっとかわいいねぇ~」


「えっ? これがかわいいの?」


 シャーロットの感想を耳にして、メナはパチクリとまばたいた。


「え? かわいくない? わたし蜘蛛くもとか昆虫とかは苦手だけど、こういうのはけっこう好きなんだけど」


「まあ、シャロちゃんの好みはちょっとヘンだからねぇ~」


「はいはい、どうせわたしの好みはヘンですよぉ~」


 メナは思わずクスクス笑い、話を続ける。


「それでね、このカエンドラはマグマの池に住んでいて、大賢者でも倒すことはほとんど不可能って言われているの。それなのに10年ぐらい前からなぜか急に個体数が減少したから、王立研究院が1年ごとに個体数の確認をするようになったの。それで今年の観測員にわたしが選ばれたから、イラスナ火山までの護衛をしてくれる人を募集するために、冒険職アルチザン協会まで行ってきたというわけなのですぅ~」


「へぇ~、そうなんだぁ。王立研究院の正規の研究者になると、そんな仕事までしなくちゃいけないなんて、やっぱり大変なんだねぇ~」


「まあ、こういうのは新人のお仕事みたいだから、しょうがないんだよねぇ~」


 メナは無邪気に微笑み、クッキーをパクリと食べる。つられてシャーロットもクッキーに手を伸ばし、それからふと訊いてみた。


「でもメナちゃん。モンスターの観察ってなんだか危険そうだけど、大丈夫なの?」


「うん。カエンドラはマグマの池から出てこないから、近づかなければ襲われないんだって。あとは、何年か前からシルバーゴーレムがイラスナ火山をうろついているって噂もあるけど、うちの研究者で遭遇した人は1人もいないから大丈夫みたい」


「ふーん、そうなんだぁ。でも、イラスナ火山ってけっこう遠くない? なんでメナちゃんみたいな女の子を、そんな遠くまで行かせるんだろ? ……はっ! もしかしてイジメ!?」


「まあ、それはちょっとだけあるかも」


「えっ!? マジでっ!? なにそれっ!? どゆことっ!?」


 メナがわずかに困り顔で微笑んだので、シャーロットは思わず声を張り上げた。するとメナは小さな指で頬をかきながら、言いにくそうに口を開く。


「やっぱりねぇ~、終身雇用の自由研究員フリクターには誰でもなれるわけじゃないから、わたしみたいな世間知らずの小娘がいると、どうしても不愉快になっちゃう人がいるみたいなんだよねぇ~」


「それってつまり、嫉妬されているってこと? なにそれ? うちの学院からメナちゃんを引き抜いておいてイジメるってどゆこと? そんなところ今すぐやめて、うちの学院に戻ってきなよ」


「いやいや、わたしもう18だから、女学院には戻れないよぉ~」


 いきなりこぶしを握りしめたシャーロットを見て、メナは思わずクスリと笑う。


「それにね、わたしを王立研究院に入れてくれた名誉教授イメラタスの先生も――楽な人生を選んだら、何もできない人間になる。どんな世界でも80歳までは我慢しろ――って言ってたからねぇ」


「いや、80って、ほとんどの人は死んでるでしょ……」


「ほんとだよねぇ~」


 思わず呆れ顔になったシャーロットに、メナは優しく微笑みかける。


「だけどね、シャロちゃん。たしかにどんなことでも楽な方、楽な方を選んでいたら、いつまで経っても成長できないと思うの。せっかくお父さんとお母さんに生んでもらったのに、何もできない人間にはなりたくないからねぇ~。だからちょっとやそっとのことで、いちいちへこたれるわけにはいかないのですよぉ~」


「うう……さすがメナちゃん。相変わらず前向きだねぇ……」


 メナの言葉を耳にして、シャーロットは憂いの息をわずかに漏らした。


「でも、お父さんとお母さんに生んでもらったのに、何もできない人間にはなりたくない――かぁ。それはたしかにそうだと思うけど、限度ってものがあるでしょ……。やっぱりわたしなんかにはムリだよぉ……」


「どしたの、シャロちゃん? なにか悩みごと?」


「うん……もうね、気絶してそのまま死んじゃいそうなぐらい、でっかい悩みごとが降ってきちゃったの……」


 軽く首をかしげたメナの前で、シャーロットは半分白目を剥いた。


「それでね、メナちゃん。もしもの話なんだけどぉ……」


「うん、なぁに?」


「あのね、もしもだけどね、いきなりこの国の王様になれって言われたら、メナちゃんだったらどうする?」


「え~、そんなのもちろん、なるに決まってるよぉ~」


 訊かれたとたん、メナは即座に小さなこぶしを握りしめた。


「え? そんなにあっさり決断できちゃうの?」


「とうぜんですぅ~。だって王様になったら、毎日ケーキを食べていいんでしょ? 今は土曜日だけのケーキの日が毎日になるなんて、もぉサイコーだよねぇ~」


「うう……そういえばメナちゃんも、ケーキの国の住民だったっけ……」


 シャーロットは渋い顔で呟き、カップの中の茶を飲み干した。それからふと暖炉の方に目を向けて、濡れた制服を見ながら口を開く。


「あ、そうだ、メナちゃん。悪いけど、学院の制服を貸してもらってもいいかな?」


「うん、もちろんいいよぉ~。わたしの制服だとシャロちゃんには少し小さいと思うけど、さすがにあのスカートでは帰れないからねぇ~。すぐ持ってくるから、ちょっと待っててねぇ~」


 メナはこころよくうなずき、すぐに席を立って2階につながる階段に足を向ける。すると不意にノックの音が部屋に響いた。それもドアをこぶしで叩いたかのような荒々しい音だったので、メナとシャーロットは思わず顔を見合わせた。


「はて? なにか急用でしょうか……?」


 メナは小首をかしげながら小走りで玄関に向かう。そして扉を開けたとたん――メナの口から鋭い悲鳴が飛び出した。


「えっ!? メナちゃん!?」


 その緊張を含んだ声を耳にしたとたん、シャーロットは慌てて立ち上がり、居間を飛び出して玄関に向かった。するとそこには廊下で立ちすくむメナと、続々と家の中に入ってくる男たちの姿があった。


「だっ! だれっ!?」


 シャーロットは慌てて駆け寄り、かばうようにメナを抱きしめた。すると玄関に入ってきた5人の男たちはドアを閉めて鍵をかけ、メナとシャーロットを見ながらニヤニヤと笑い出す。


 それは異様な風体ふうていの少年たちだった。全員が防寒用のマントを羽織り、腰には刀をげている。髪型もかなり特徴的で、長い黒髪に短い赤髪あかがみ、長い金髪にスキンヘッドと、かなり人目をひく容姿をしている。そして立ちすくむメナに向かって、緑色の髪の少年が意地悪そうな笑みを浮かべながら口を開く。


「はあ~い、メナちゃん、こんにちはぁ~。ボクチンたち、遊びに来ちゃったよほほほぉ~ん」


「えっ? メナちゃん、この人たちは知り合いなの?」


「う、ううん……」


 シャーロットの質問に、メナは小さな体を震わせながら首を横に振った。


「こ、この人たちなの……。この人たちが、冒険職アルチザン協会でわたしに絡んできた、頭のおかしな人たちなの……。ど、どうしてうちがわかったんだろ……」


「えっ!? それじゃあこいつらは悪いヤツらなのね!」


 メナの言葉を聞いたとたん、シャーロットは少年たちをにらみつけた。しかし少年たちは不気味な笑みを浮かべたままシャーロットの視線を受け流す。そして緑色の髪の少年はおもむろに1枚の紙を取り出すと、指でつまみながら話し始める。


「ふっふ~ん。ボクチンたちもバカじゃないからねぇ~。冒険者アルチザンでもない錬金術師が、なんで冒険職アルチザン協会にいたのかって考えたら、普通は仕事の依頼で来たってわかるっしょ。だから掲示板の仕事をぜんぶチェックして、メナちゃんの依頼を見つけてきたってわけ」


「えっ!? で、でもわたし、名前なんか言ってないのに……」


「ちっちっち。甘いあまい甘いあまい甘いあまい甘いあまぁ~い。ボクチンたちは一目で相手のことがいろいろとわかっちゃう、スーパーな超能力者ユニット、『チーム汚闘股おとこ』だからねぇ~。ボクチンたちに隠し事なんて不可能なのさぁ~」


「な、なに言ってんの、この人……」


 邪悪な笑みを浮かべてわけのわからないことを口にした緑髪の少年を見て、シャーロットは思わずメナを抱きしめたまま後ろに下がった。すると短い赤髪を逆立てた少年がメナを見つめて舌なめずりし、声を飛ばす。


「おら、塚原。さっさとナンパを成功させろ。それと滝沢は2階を調べろ。柳生は裏口がないか見てこい」


 その指示で、スキンヘッドと長い金髪の少年が口々に返事をして動き出す。同時にシャーロットは慌ててメナを抱き上げて、暖炉のある居間まで逃げた。しかしすぐに3人の少年たちに壁際まで追い詰められて、逃げ道がなくなった。


「なっ! なんなのよアンタたちっ! 大声出して人を呼ぶわよっ!」


「いやいやいやいや、ボクチンたちはただお仕事に来ただけっすから、そんなに警戒する必要はないっすよほほほぉ~ん」


 いきなり声を張り上げたシャーロットに、塚原は指でつまんだ紙を見せつけながらさらに言う。


「どうやらメナちゃんは、イラスナ火山ってところまでの護衛を募集しているみたいだからねぇ~。だ・か・ら、ボクチンたち5人が護衛してあげようと思って、こうして会いにきたってわけっすよぉ~」


「で、でもわたしの予算だと、1人しか雇えないんですけどぉ……」


「あぁ~ん、それはだいじょ~ぶ~。だいだいだいだい、だ~いじょ~ぶだぁ~、ンべろべろべろべろべろべろべろべろ」


 おそるおそる言葉を漏らしたメナに向かって、塚原はなぜか巻き舌で答えながらメナの鼻先まで顔面を近づけた。


「ボクチンたちは心が広いからねぇ~。お金なんて1人分でだいじょ~ぶ~。ほんともぉ、1人分の予算で5人も雇えるなんてちょ~お得っしょ? ん? んんん? というかさあ、メナちゃんってほんっと、かわいいよねぇ~」


「ちょっと! メナちゃんに近寄らないでっ!」


 シャーロットは思わず塚原の顔を突き飛ばした。すると塚原は後ろにでんぐり返ってすぐさま立ち上がり、なぜか嬉しそうな顔でポーズを決めた。


「はいっ! ごほうびありがとぉございまっす!」


「な……なんなのこの人……ほんとに頭おかしいんじゃない……?」


「しゃ、シャロちゃん……わたしこわいですぅ……」


 シャーロットとメナは思わずお互いを抱きしめ合った。すると家の中を調べに行った2人の少年がほぼ同時に戻ってきた。


「宮本センパイ、2階は誰もいなかったっす」


「裏口も鍵を閉めてきたっす」


「よぉーし、これでカンペキだな」


 滝沢と柳生の報告を受けた赤毛の少年は窓にかけられたカーテンを見て1つうなずき、腕を組んで塚原にあごをしゃくる。


「おら、塚原。さすがにここまでお膳立てすりゃ、おまえでもナンパできるだろ。さっさとその合法ロリっ子を口説き落とせ」


「りょーかいっす、宮本パイセン。さぁ~て、メナちゃん。ボクチンとお話し、ちまちょ~ねぇ~」


 塚原は宮本に返事をすると、鼻の穴を膨らませながらメナにじわじわと近づいていく。


「いやぁ~、実はボクチンたち、犬耳族ドギアの女の子って大好きなんだよねぇ~。それがしかも錬金術師だなんて、もぉサイコーすぎ。ほんともぉ、ガチサイコー。こんなレアな職業なんて、こっちの世界に来て初めて見るから興奮が止まりまへんがなぁ~」


「な、なんなんですかぁ、あなたたちは……。わたしはただの研究員で、錬金術師なんかじゃないんですけどぉ……」


「いやいやいやいや、さっきも言ったっしょ? ボクチンたちの目は誤魔化せないって。メナちゃんの職業は間違いなく錬金術師アルケミスト。しかも能力値は青白せいはく天位の識聖しきせいクラス。こぉーんなスーパーレアな女の子が目の前にいたら、転生者なら辛抱たまりませんわ。というわけでぇ、ボクチンたちと一緒にアトリエ作って遊ぼうぜぇ~」


「い、いやですぅ……。あなたたちとは遊びたくないですぅ……。だからもぉ、おねがいだから帰ってくださぁい……」


 再び顔を近づけて荒い鼻息をかけてきた塚原に、メナは涙目で首を横に振ってみせた。同時にシャーロットも塚原の頭を押し返しながら声を張り上げる。


「ほら! メナちゃんイヤがってるじゃない! さっさと帰りなさいよ!」


「……あ? なんだテメー。カンケーねーヤツはすっこんでろ。というか、あんま調子に乗ってんじゃねーぞ、コラ」


 そのとたん、塚原は鋭い目つきでシャーロットをにらみつけた。そしてすぐさまシャーロットの顔面にこぶしを叩きこんだ。いきなり顔の真ん中を殴られたシャーロットは鼻血を噴き出し、その場に倒れた。同時にメナは甲高い悲鳴を上げて膝をつき、倒れたシャーロットをかばうように抱きしめる。


「……ち。キャンキャンうっせーぞ、この犬っが。オラ、オラ、オラァ」


 恐怖のあまり泣き出したメナを見下ろしながら、塚原は舌打ちした。そしてすぐにメナの脇腹につま先を何度も蹴り込んで黙らせる。激痛で呼吸ができなくなったメナはたまらずシャーロットの隣に倒れ込み、悶えながら大粒の涙を流している。


「……おいおい、塚原ぁ。テメーよぉ、それじゃあ、いつもと変わらねーだろ」


「もぉ、ほんとカンベンしてくっさいよぉ~」


 痛みと恐怖に震える少女たちを見て呆れた声を漏らした宮本に、塚原は困惑顔で頭を下げた。


「どーせナンパしたってやることは同じじゃないっすかぁ。だったらもぉ、いつもどおりでよくないっすか?」


「ったく、しょーがねーなぁ。どうする、イジロウ」


 宮本は頭をかきながら、隣に立つ長い黒髪の少年に目を向けた。すると黒髪の少年はニヤリと笑い、床に転がる2人の少女を眺めながら口を開く。


「ま、ヘタレの塚原にしてはよくやった方だろ。獲物も2匹いることだし、今日はこれくらいでいいんじゃねーか?」


「そうか。イジロウがいいって言うんなら仕方ない。よかったな、塚原。これでおまえの罰ゲームは……ん?」


 不意に宮本が横を向いた。玄関の方から軽いノックの音が聞こえたからだ。同時に少年たちは素早く視線を合わせ、唇に指を1本当てながらうなずき合う。


「……鍵は閉めたな?」


「……大丈夫っす。おいどんがキッチリ閉めたっす」


 黒髪の少年が声を潜めて訊くと、スキンヘッドの滝沢が小声で答えた。しかしその次の瞬間、ドアの鍵の解錠音が小さく響いた。そして木の扉がゆっくりと、音を立てて開き始めた――。





***



・あとがき


本作品をお読みいただき、まことにありがとうございます。


参考までに、明日の投稿時間をこの場に記載いたします。


引き続きご愛読いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。


2019年 1月 17日(木)


第49話 01:05 錬金術師が暮らす家――その2

第50話 08:05 見送りの朝――その1

第51話 13:05 見送りの朝――その2

第52話 18:05 見送りの朝――その3

第53話 21:05 プリンセスと天秤の剣――その1



記:2019年 1月 10日(木)

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