異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第7話 新たなる魔女の誕生――ダーククロウ・ヘクシズゲート その2
第7話 新たなる魔女の誕生――ダーククロウ・ヘクシズゲート その2
「えっ? ほんとにここで悪魔を呼び出すんですか?」
カイヤの話を聞いたとたんネインは椅子から立ち上がり、呆然と魔法陣を見下ろした。カイヤは広げた紙の四隅に小さな重りを置いてからカウンターに戻り、分厚い本の表紙に片手をのせて口を開く。
「……これはテレサにもらった魔女の本なんだけどね、ようやく第4章まで習得したの。ネインちゃんは魔女魔法がどんな魔法か知ってる?」
「いえ、名前しか知りません」
「まあ、普通はそうよね――」
カイヤは本のページを丁寧にめくりながら言葉を続ける。
「魔女になるにはね、まず魔女に弟子入りする必要があるの。そして第4階梯魔女魔法の
「それはつまり、契約悪魔がいないと魔女ではないということですか?」
「ええ、そういうこと。第4階梯の魔法を習得しろだなんて随分と厳しい条件だけど、それぐらいの根性がなければ魔女になる資格がないってことね。まあ、まともな人間なら魔女になろうなんて思わないだろうけど」
「そういえば、カイヤさんはなんで魔女になろうと思ったんですか?」
「そんなの決まっているじゃない――」
ふと尋ねたネインに、カイヤは上品に微笑んで答える。
「魔女になれば永遠の若さが手に入るからね。乙女だったら誰だって、いつまでも美しい体でいたいと思うのは当然でしょ? ま、アタシは男だけどね」
「……すいません。オレにはその気持ちはよくわかりません」
「別にいいのよ。人間ってのは一人ひとりが自分だけの人生を歩む生き物だから、価値観が違って当然でしょ。むしろすべての人間が同じ価値観を持っていたら、そっちの方が気持ち悪いわ。そんなのまるで作り物のお人形みたい」
そう言ってカイヤは静かに本を閉じ、再び魔法陣のそばに立つ。
「さてと。それじゃあ本題。ネインちゃんにお願いしたいということは他でもないわ。悪いんだけど、アタシを悪魔から守ってほしいの」
「えっ? 悪魔から守る? 悪魔って、呼び出した人間を攻撃してくるんですか?」
「そういうことがたまにあるらしいのよ」
カイヤは軽く困り顔で肩をすくめた。
「悪魔召喚というのは、どんな悪魔が出てくるか誰にもわからないのよ。中でも
「なるほど、そういうことですか。わかりました」
ネインはカイヤに向かって一つうなずき、すぐに戦闘準備を整え始める。腰に提げていた三つの小さな革袋をカウンターに置き、ガッデムファイアを首にかける。それからベルトにさしていた三本の短い真紅のスティックと、腰の左右のナイフの状態をきっちり確認してから口を開く。
「お待たせしました。いつでもどうぞ。ただし悪魔と戦ったことはないので、最悪の場合は最強の絶対魔法を発動します。そうなると、この付近一帯は消滅しますので覚悟を決めておいてください」
「えっと、ごめんなさい……。
「努力します」
ネインは淡々と答えながらカイヤの斜め後ろに立ち、力強く一つうなずく。カイヤは軽く口の端を引きつらせながら微笑んだ。それから魔法陣に目を落とす。
「まあ、その時はその時ね。それじゃあ始めるわよ。アタシの14年間の努力の結晶が、今ここに実を結ぶ――。さあっ! いらっしゃいっ! アタシと運命を共にする守護悪魔っ! 第4階梯魔女魔法っ!
カイヤは胸の前で両手を組み精神を集中させる。その瞬間、ワインショップの中央に広げられた複雑な魔法陣から強い光が放たれた。それは地獄の闇の黒い光と、地獄の炎の赤い光だ――。その力強い光が無数の筋となり店内を瞬時に埋め尽くす。
「こっ……これが……暗黒領域ヘルバースの波動……」
魔法陣からあふれ出した光を全身に浴びながらカイヤは唾をのみ込んだ。カイヤの後ろに控えるネインもわずかに腰を落とし、鞘から突き出たナイフの持ち手を握りしめる。その瞬間、魔法陣から何かがゆっくりと浮かび上がってきた。
「ま……まさかこれが、アタシの悪魔なの……?」
カイヤは再び唾をのみ込んだ。目の前に現れたそれは明らかに人型だった。魔法陣から放たれる赤と黒の不気味な光に染まった人間型の悪魔だ――。背を向けて立つその悪魔に、カイヤはふらりと一歩近づき手を伸ばす。
すると不意に魔法陣の光が消えた。店内は一瞬で元の景色を取り戻し、カイヤは反射的に手を引っ込めて後ろに下がる。同時に魔法陣の上に立つ悪魔がゆっくりと振り返り――両腕を上に伸ばし、小さな牙を剥きながら言葉を放った――。
「がおおーっ! アクマだぞぉーっ!」
その瞬間、カイヤとネインの顔面が固まった。
二人は完全に予想外の異常事態にただひたすら呆然と立ち尽くし、目の前に立つ人型の生命体を無言で見つめる。その悪魔はとても背が低かった。カイヤの腰ほどの身長しかないうえに体つきはとても細い。そしてゆるいウェーブのついた桃色の髪は小さな尻まで届くほど長く、身に着けているのは上等なえんじ色のメイド服だった――。
「め……メイド服ってあなた……これってどう見ても、子どもの使用人……?」
「だれが子どもだぁーっ!」
カイヤが呆然と呟いたとたん、少女悪魔は全力で頬を膨らませて吠えまくった。
「うちさまはアクマだぞぉーっ! アクマなのぉーっ! アクマったらアクマなんだからなぁーっ! バカにしちゃダメなんだからなぁーっ! バカにしたら泣いちゃうんだからなぁーっ!」
さらに少女悪魔はカイヤに駆け寄り、握りしめた小さなこぶしでカイヤの腹を叩き始めた。カイヤは呆気に取られ、首だけでゆっくりと振り返る。するとネインも困惑した表情を浮かべたままカイヤを見ていた。二人は同時に首をかしげ、肩をすくめる。それからカイヤは大きな息を吐き出し、痛くも痒くもない攻撃を続けている少女悪魔に声をかけた。
「えっと、とりあえず、あなたは悪魔ちゃんなのね?」
「そぉだっ! うちさまはアクマなのだっ! おそれいったかぁっ!」
「ええ、それはもう、生まれて初めて心の底から恐れ入ったわ。だからまずはあなたの名前を教えてちょうだい。アタシはカイヤ・ブランク。後ろの男の子はネイン・スラート。アタシの友達よ」
「そうかっ! おそれいったかっ! ならばよかろぉーっ! とくべつにうちさまの名前をおしえてやろぉーっ! うちさまの名前はアーユル・メッチ! メッチさまと呼ぶがよいっ!」
少女悪魔は細い両腕を真上に伸ばし、堂々と言い切った。
「あら、いい名前ね。それじゃあユルメちゃん――」
「だれがユルメだぁーっ! うちさまをあたまが空っぽのアホみたいに呼ぶなぁーっ!」
「はいはい、ごめんなさい、ごめんなさい。それでユルメちゃん。どうやったらあなたを悪魔の世界、ヘルバースに送り返せるか教えてもらえないかしら?」
「……ほえっ?」
その瞬間、少女悪魔ユルメの小さな口がポカンと開いた。さらにそれまでの威勢のよさはどこかに吹き飛び、ユルメは小さな肩を縮めておそるおそる訊き返す。
「お、お、お、おくりかえすって、それってどゆことでしょうか……?」
「んー、まあ、一言で言えば返品ってことね」
「へんぴん……? どして? 魔女契約するんじゃないの?」
「だってあなた子どもでしょ? いくら何でも子どもと契約なんてできないわよ」
「でも、うちさまはもう9歳だぞ? 人間でいえば90歳児なみだぞ? じゅうぶんおとななんだぞ?」
「いや、90歳児ってそれ、ボケ老人じゃない……」
「うちさまはボケてないぞ?
「あらあら、ごめんなさいねユルメちゃん。ちょっとアタシの言い方が悪かったみたいね」
途中からカイヤの服をつかんですがり始めたユルメに、カイヤは上品に微笑みかけた。それからゆっくりと腰をかがめ、ユルメをまっすぐ見つめながら低い声で言い放つ。
「実はアタシ、オンナは嫌いなの。オンナの子は特に嫌い。死ぬほど嫌い。大嫌い。だからとっとと悪魔の世界に帰んな」
「しょ……しょんなぁ……」
その瞬間、ユルメの瞳から涙がボロボロとこぼれ落ちた。そしていきなり床に膝をついてカイヤの足にしがみつき、必死の形相で
「おねがいしますっ! おねがいしますっ! どうかへんぴんしないでくださいっ! ほんとにもぉ! なんでもしますからっ! おねがいしますっ! だからどうかうちさまと魔女契約してくださいっ! おねがいしますっ! おねがいしますっ! そうでないとうちさまは……うちさまは……うわあああああん……うわあああああん……」
「えっ? ちょ、急にどうしたの? なんで泣くの? えっ? えええー?」
いきなり全力で泣き出したユルメを見てカイヤは思わず途方に暮れた。近くに立つネインも困惑した表情のまま首をひねり、ほとんど土下座状態の小柄な少女悪魔に呆然と視線を落とす。その二人の前で、ユルメはたまにカイヤの顔をチラリと見ながら、しばらくの間泣き続けた。
「――どう? 少しは落ち着いたかしら?」
ようやく泣き止んだユルメをカイヤはカウンター席に座らせて、いれたてのお茶を差し出した。その湯気が立つカップを少女悪魔は小さな両手でつかみ、首を小さく縦に振る。ユルメの隣に座ったネインも新しいお茶を静かにすすり、二人の会話に耳を傾けた。
「さて。それじゃあユルメちゃん。よかったら話してもらえないかしら? どうしてそんなにアタシと魔女契約を結びたいの?」
「そ……それは……」
カウンターの奥に立つカイヤに問われて、長い桃色の髪の悪魔は顔を曇らせてうつむいた。そして消え入りそうな声でぽつりと答える。
「じつはうちさま……魔女の契約アクマになれなかったら、ころされちゃうんですぅ……」
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