春になった日

川島健一

第1話 愚か者の疑問

春になった日 1話目


第1話 暖かい陽射しに冷たい風。


 昨日のことはよく覚えていない。中年もベテランになるとそう開き直れるものだ。とか、そんなのおれだけか?

 まあ、どうでもいいんだけどね。

 ベッドの中で寒そうだなーと思っていた。目を覚ましたのは10時くらいかな?

 正確な時間は分からない。起きたときに時計を見ていないから。

 心地よく温まったベッドの中でしばらく起き上がりもせずにいた。


 枕元においてあった携帯が鳴った。

 着信画面を見ると相手は友人のYだった。

 「はい、もしもし」寝起きの声である。

 「おはよう!」Yの声は艶がある。

 いつ聞いてもいい声だと感心してしまう。彼の営業成績もこの声が一因となっているのは間違いない。説得力というか安心させられるというか。ゆったりとしたトーンと妙に耳に残る艶のある声が言葉に魔法を与える。

 多分、真似しようとしても難しいんだろう。彼の性格がこの声を作っているのだと思う。

 おれには無理だ。


 「どうした? 何かあったか?」メールではなく電話してきたからには急ぎの要件なのだろうと思った。

 「いや、別に。ちょっと声を聞きたかっただけだよ」おれも久しぶりにYの声が聞けて嬉しかった。

 「そか」

 「そう言えば、お前新年会はどうする?」Yは聞いてきた。

 「Yは忘年会出た?」おれは出なかった。知らせのメールは来たが、放置していた。社交的ではないとよく言われる。

 「出たよ。お前来なかったな」

 「まあね」自分で言っておいてなんだか、まあねってなんだよ?


 「で、新年会は?」Yは忘年会に来なかったことをについて聞いてこなかった。それが助かる。いちいち理由を探すのも面倒だ。

 もし、理由を聞かれても単純に面倒だと言ってしまえばいいのだか、おれにも一応カッコはつけたいという気持ちくらいある。いくら友人のYに対してでもだ。

 「あー、いつだっけ? メールで確認して連絡する」とその場しのぎの言葉で電話を切りたかった。

 「わかった。待ってるよ」Yはおれの扱いをよくわかってる。


 おれは?


 Yのことわかっているのだろうか?

 数少ない友人のひとり、Y。

 大切な友人である。はずだ。

 しかし、おれは果たしてYに対して本当に友人として振る舞っていただろうか?

 いや、“友人”としてってなんだ?

 どう振る舞えば正解なのだ?

 今まで全く気にしていなかったが、人間関係として“友人”って?

 おかしい。堰を切ったようにおれの頭の中に疑問が生じてくる。

 多分いまおれは、“友人”という“関係”に対して自分を見失っている。


 “友人”ってなんだ?

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