第9刀 擬似都市伝説-ライクロア-
――ねえ、知ってる? とある学校の2階のトイレで決まった時間に用を足すと、『白い装束の人』が現れてその人をどこかへ連れて行っちゃうんだって。そしてその人は――
「全身が白くなった死体で見つかるんだってぇ!」
「ぅぉあああ!!!」
「…………ッ!!」
スマホのライトで顔を照らしたミナが結末を言うと、プロトカリバーは声にならない悲鳴をあげ、トイレに行っていたらしく彼女の部屋に戻ってきた猛仙はその顔で思わず変な声を出してしまう。
「……作り話にしては結構面白いね。どっちかと言ったらミナの顔が怖かった」
「なんか今流行ってるのよね〜。でもね、最近それと似た事件が起こってるんだよ」
「は?」というような顔をする猛仙に、プロトカリバーが説明を加える。猛仙は姉たちと別れたあと、相変わらず我が家と工場を往復している。
「隣町の小学校で女の子が1人死んでね、石灰に塗れた状態で見つかったらしいですよ、今警察が入ってます。都市伝説通り真っ白だったらしいですよ」
「それ、やったのはただの精神ヤってる奴だろ。人でも同じ事が出来るぞ」
「どうやって遠足直後の混雑した個室から女の子を殺し、運び出せるって言うのですか?」
そしていまミナの目の前に立つのは、その噂に出てくる『白装束の人』に見える。虚無僧が被る深編笠から表情を読み取ることはできない。しかし、この尺八の音につられてきたように見える。
突然ミナの目、鼻が痛む。この白装束、異常な悪臭を放っているのだ。昔、罰ゲームでくさやを嗅いだことがあったが、そんなものとは比較にならない。いや、ベクトルが違う。この臭みは、大型の動物が腐ったような……
「くっせ! ん? なんだ……!?」
顔を出した猛仙が即座に刀を突き出す。赤いエネルギーが如意棒のように伸び、相手を貫くがこの白装束は意にも介さず前進する。こんな悪臭をまき散らしながら近づいてくるのにも危険を感じたが、近づいてきて初めてわかった。深編笠の小さな穴から覗いたのは、死んだ魚のような目だった。推測される顔のサイズには不釣り合いなほど大きな眼球が一つだけ、こちらを見据えている。猛仙のことなど知らぬ顔だ。
命の危機を本能的に感じとり、全力で走り出す。
「振り向くなよ! こいつは排除する」
猛仙の声を背中で聞きつつ、研究棟から飛び出す。たまたまその場にいた人がミナを見るが、気にせずに直進し、別の棟に入る。
すぐに動けるよう自動ドアを背にし、猛仙を待つ。数分後、出てきた彼がミナの前まで来た。残念そうな顔をしているのでミナは排除できなかった事を悟った。
「にげられた」
「あれは何なの!?」
とにかく逃げたが、あれはどう見ても化け物だ。彼もよくわからないようだ。
「俺の時代にはいなかったものだ。ただ、あの匂いは……」
匂いに触れた彼の言葉で、完全に思い出してしまった。折角忘れていたのに、吐き気がこみあげてくる。
「ああ、そうか。ミナは嗅いだことねえかぁ。時代だね」
「猛仙は嗅いだことあるの!? あれは、なんの」
質問する前に気づいた。戦国時代で、『最強の傭兵一族』の出身である彼が知っている匂い。おそらくあの時代を生きた人々はみんな知っているのだろう。さらにアレの正体にもつながった。口に出すのも恐ろしい答えで再び気分が悪くなる。すぐ家の近くまで来ていたが、側溝に吐いてしまう。猛仙はミナの背中をなでながら「忘れろ」と言ってくれたが、そんな簡単には忘れられない。
涙目になりながら顔を上げると、家の前に一人見慣れない影がたっている。手を挙げたその顔を、ミナは知らなかったが猛仙は知っているようで「どうした?」と歩み寄った。
その男は金色の目に赤い髪、右耳には勾玉の形をした耳飾りがぶら下がっている。そして裾の広い軍もののズボンを履いており、ポケットからはキーケースのような物がはみ出ている。
目線に気づいたのか、「おっと」とそれをしまい直すとミナに話しかけてきた。
「君が猛仙の保護者か? いやぁべっぴんさんだなぁ! 碧眼の子は久しぶりに見たなあ」
「三代目、なんかあったのか?」
威圧するように前に出る猛仙だが、一瞬で頭を抑えられる。あの猛仙より先に動け、かつ抑え込めるとは手練も手練だ。
本人を見下ろしながら「なんもしねえよ」と目を細めた彼は続ける。
「
「ライクロア?」
それは、歪められた物語。
Born:武具戴天 黒鳥だいず @tenmusu_KSMN
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