Act.158 対死竜、オーガ兵戦!絆で結ばれた戦士たち!

 桃色髪の賢者ミシャリアが術式詠唱に入ると同時に、護衛たる者達はそれぞれが相手取るべき者へと飛んでいた。


 霊銀製の武装を含めた対死霊戦のエキスパートとなるチームへ——


「フレード! あのは、お前の神聖魔法術式プリースト・マジックこそが決定打になる! 俺とリドジィさんにティティ卿で揺さぶりを掛けるから、しっかり決めろよ!? 」


「了解なの、テトお兄ちゃん! 今こそボクの、研鑽の証を見せる時……なの! 」


「ククッ……この様に心が躍るは何年ぶりかのぅ! よもやティティと、己の実力の最大を出し切って戦う日が来ようとは! 」


「ほんまおすなぁ。これもミシャリア様あっての導き……言う事やったら、ウチもあんじょう気張らなあきまへんえ。」


 名刀〈風鳴丸かなきりまる〉をかざ狂犬テンパロットと、銀閃槌ホーリィーハンマーを振るうフワフワ神官フレードが義兄弟然とした首肯を交わす傍ら……100メトに及ぶ体躯の死竜さえも不敵に見上げる妖精夫婦——英雄妖精リド抜刀妖精ティティが堂々たる構えで迎え撃つ。


『フシャーーッッ! シュギャァァァーーッッ!! 』


 ギロリと睨め付ける双頭の死竜が威嚇するも、対する法規隊ディフェンサー面々が煽り返す様に睨め付けていた。


「ほな、ウチからいかせて貰います~~! なんや腕が疼いて仕方ありまへんよってな~~! 」


『お嬢、今までの苦しみの鬱憤……ここで晴らして行こうぞ! 』


 抜刀妖精内に宿る関係上、共振装填解除後も彼女と共にある狂気の精霊サイクリアが歓喜に打ち震える様に主へ言葉を投げ……それが合図となり残る対死竜組が砂塵巻き上げ接敵する。


 一方——


「私めの名は、オーガ族首領にしてリュード様側近……ロード・ベンディッタ! ラブレス先見師団の副官として、貴君らのお相手つかまつる! 」


「ふふっ……オーガさん、名乗りも威風堂々——とても清々しい感じね! 」


「そうね~~! 見せてやりたいぐらいよ! んでもって——」


「あたしの怪力の、本領発揮出来る相手なんて夢みたい! そばにはペネも居る……なら、相手にとって不足なしね!! 」


 長大なハルバードを振り回すは、こちらも背の丈10メトはあろうオーガ族首領が……真摯なるラブレス兵の例に洩れずいさぎよき名乗りをあげる。

 それだけでも義姉妹となったツインテ騎士ヒュレイカオサレなドワーフペンネロッタ——対オーガ戦に挑む二人の心が洗練された。


 互いに持ち得る心根により、その戦いが尋常の勝負へと変貌して行く。


「あたしの名はヒュレイカ・ディーラー・フリージア! アーレス帝国は宮廷騎士にして、賢者ミシャリア・クロードリアの護衛騎士よ! 」


「ペネの名はペンネロッタ・リバンダ! 同じく、法規隊ディフェンサーに属するミーシャさんの護衛な感じね! 」


「名乗り返し、かたじけない! 私めも、心に迷い無く得物を振るえる! では——」


「ええ! 尋常に——」


「「「勝負っっ!! 」」」


 今正統魔導アグネス王国領海外の孤島は聖戦場と化す。

 後方で総大将を狙われた暗黒兵団も、支援に現れた三勢力にことごとく押さえ込まれ――

 対して総大将であるリュード・アンドラスト率いる本陣勢力は、法規隊ディフェンサー主力とそれぞれかち合った。


 その中心……連星太陽の陰りは限界に達する夕暮れ間際。

 そこにいる誰もが動揺を顕とする程の、膨大なる魔法力マジェクトロンが開放されていた。


 未だそれ程の力を有した魔導にかかわる術者は、かの勇敢なる英雄隊ブレイブアドベンチャラーにさえも存在していない。

 嘘か誠か――かのお転婆と揶揄される、 に匹敵するそれ。


 それが見習い賢者を自称する賢者少女より、暴風をともない立ち上っていた。


超振動ビブラス小宇宙開放クオスマイクス霊量子力回路接続イスタールゲイト! 此の地と彼の地を結びし量子の大海、我が言霊を遥かへと導け! 霊なる者達を彼の地より呼び込みて……我はそれをこの身に宿す――』


『此の地に住まう英霊の加護は我と共にあり……これより我、六大精霊の御力おんちから賜りて叡智と一体となる! 還霊リバースっ……六大共振装填精霊王陣シクス・レゾニア・スプリガンズ!! 』



 暴風が爆光へと変異し……赤き大地ザガディアスの歴史が今、新たな章へと突入していた。



∫∫∫∫∫∫



 桃色髪の賢者ミシャリアが術式展開を行使する最中。

 暗黒兵団を相手取る支援者達は、その相手と共々驚愕を覚えていた。


 歴史上類を見ない程の魔法力マジェクトロンが一帯を包んでいたから。


「こいつぁ……!? あの賢者の嬢ちゃん……もしかして!?」


「ば……!? 」


「……お前のその発言は、俺の意図と違うだろ。なんならちゃんと、あの嬢ちゃんの前で言え。」


「口が滑ったっす、すんませんっす……(汗)。」


 闇の頭目ルヴィアスとのやり取りをこなすドレッド人狼ガルキア

 驚愕は驚愕でも、醸し出す。


 その傍らでは——


「ふふ……これは彼女との戦いも、あながち無駄ではなかったかもしれませんね。よもやこの戦いの最中に覚醒へ至るとは……。先行きが楽しみだ。」


 不敵に笑うエルデインの牙カミュが、群れなすのゴブリンシャーマンとの睨み合いに突入する。


 右翼の闇の冒険者ブラッドシェイドらの活躍を尻目に、対する左翼——正統魔導アグネス王国警備隊でも驚愕が突き抜けていた。


「アスロットよ! やはり……ぬぅん! あのミシャリア様の可能性——すでに想像も付かぬ域へと達した様だぞ! 」


「あなたに同意です。私もこの人生であれほどの魔法力マジェクトロンを放つ存在は一人。我がアグネスの希望たる、リーサ姫殿下以外はお見にかかった試しがありません。」


「……アスロットよ。その姫殿下より、対応を厳命されていたであろう? 「他言無用ヨロ」とな。」


「ここはアグネスの街中ではありません。故にそれが国民誰もの耳に入る事もないでしょう? ならば賛美ぐらいはさせて頂きたい。それ程までに、尊きお方なのですから。」


 振るう長剣で、並み居るオークにコボルド兵と真摯なる立会いに興じるアウターク騎士ディクター

 溢れた言葉へ謹みをと注釈を乗せる騎士に、苦笑と本音を漏らす薄感情導師アスロット


 偉大なる王国第一王女への忠誠はそのままに。


 そしてその言葉は、中央で法規隊ディフェンサー背後を守る魔導機械アーレス帝国皇子率いる親衛隊でも飛び交っていた。


「ミシャリア様……これほどの力を身につけていたとは! 殿下……こんな力をあの子——リーサ王女が感じ取ったなら、どんな顔をするでしょうかね! 」


「ああ……まあ(汗)。顔を突っ込んで来るんじゃないか? あいつの事だ……自分に匹敵する魔法力マジェクトロンを会得する者など、この世のどこを探しても見つからないだろうからな。」


「——って、言ってるそばから不安になって来た。あいつ確か……? 」


「……あ……(汗)。」


 真摯なる戦いの最中——

 乗機怪鳥ガラッサルバード上からの声に答えた策謀の皇子サイザーは、嫌な汗と共に自身の発言への予感を吐露し……赤き騎士ジェシカもそれに同調してしまう。



 法規隊ディフェンサーの今後をかけた戦場であるそこで、思考した事態が現実のものになろうとは……彼らも想定の遥か外であったのだ。



∫∫∫∫∫



 領海外で、暗黒帝国ラブレス侵攻との情報が駆け巡った王国内。

 上へ下への大騒ぎとなる城——〈古代魔導城エインシッド・マガ・キャセル〉の高貴なる一室にたたずむ影が、城下から先に広がる海洋を憂い見ていた。


 老年に差し掛かる面持ちも、煌びやかな王族魔導法衣で荘厳ささえ覗わせるは……王国現女王たるアグネス・フェニーチェ・ハイドランダーである。


「かの法規隊ディフェンサーを纏めしミシャリア・クロードリア。彼女の戦いは、今後のアグネスの未来さえも左右する。帰って来ているのでしょう? 貴女はこれをどう見ますか——我が愛しき愛娘。」


「あれ? バレてた(汗)。」


 その女王から放たれた言葉で、一室の窓の上からヒョイと顔の覗かせるは一人の少女。

 幼さ残るも端整な顔立ち。

 上から覗き込んだ事で甘栗色の艶めかしいショートヘアーが滝の様に流れ落ちる彼女は、有り体に言えば美少女であった。


 しかし現れた少女へ、老齢なる女王が言葉を投げる。

 後に桃色髪の賢者ミシャリアにとっての、到達点となる未来を暗示させる言葉を。


「そのままで構いませんから、よくお聞きなさい。貴女がかつて私に提案した件……今までそれに達する優れた導師不在に付き保留としていましたが——」


「ラブレスが動き出したとあれば、そうも言っていられないのが実情。それに……私の予感では彼女——ミシャリア・クロードリアこそが、貴女の立案したモノに相応しい予感がしてなりません。」


 そして見上げる老齢な女王は、双眸へ映り込む少女へ世界すら動く宣言を掲げたのだ。


「我が愛娘 アグネス王国第一王女 リーサ・ハイドランダー。これよりかの戦地へ赴き、術師会代表にまで上り詰めんとする賢者ミシャリアを見極め……その目で判断して来るのです。」


 飛ぶ想像だにしない女王の言葉へ、待ってましたとばかりに舞い降りる少女は……そのまま手にした機械杖を足蹴にするや波乗る様に滞空した。


「うん。ちょっと私も気になってんだ、あの子。私に匹敵するかもしれない魔法力マジェクトロン……さらに精霊とさえも手を取るとか。うんうん!何か凄く期待が持てそう! じゃあ——」



 母たる存在へ笑顔の首肯を返す少女——お転婆と揶揄された第一王女は風となるや、大気を機械杖で波乗る様に王国を後にしていた。

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