Act.157 因果の激突、育てた叔父と育てられた少女

 目にした死竜の巨大さと来たら、あの恐竜さんなんて子供に見える巨大さ。


 体躯でさえ二周りは大きな所へ二対の大翼幅で100メトへ届く巨体。

 けれど察するに、悠々とお空を散歩できる程の浮遊能力が無いのは幸いとも言えました。


 けれど問題はそこではない――

 今この決戦の地に立つは私達法規隊ディフェンサー

 それに対するラブレス軍の主力は側近にして上位クラスの猛者たるオーガ兵に、倒すのが至難とも言える死竜。

 そして言わずと知れた、総大将 リュード・アンドラスト。


 つまりはここに来て、彼が打って来たのです。


「何とあのやっこさん、まさかの私達が戦力分断の選択肢しか選べない状況を突き付けてくるとはね! 」


 口走る私はすでに覚悟を決めていたのです。

 きっと今まででは決して叶わなかった戦力配分――

 ……あのリュードを、後ろで控えるが常であった私が直接迎え撃つと言う覚悟を。


 すでにその覚悟を雰囲気で察するテンパロットとヒュレイカ。

 勇ましくいななくフランとボージェを駆り、一直線で最後の戦いの舞台へと駆けます。


 そこで予想だにしない言葉が、デレ黒さん――オリアナから飛ぶ事となったのです。


「ミーシャ! どうせあなたは無茶するんでしょ!? なら私に、!? 」


「……正気の様だね、オリアナ! 言っておくけど、その戦術は即ちだよ!? そこは理解してるんだろうね! 」


「私だって法規隊ディフェンサー! だから信じて……あなたの家族の戦いを! 」


 オリアナの覚悟を悟った私。

 何の事はない……彼女もこの法規隊ディフェンサーで研鑽を積んでいたのです。

 私達が寝付く度起き上がり、彼女が得意とする双銃戦闘ストレガの型を夜な夜な磨き続けていたのは知り得ています。


 そしてそれは、私達の足手まといにならぬため。

 さらには叔父であるあのリュードと交えた際、今度こそ遅れを取らぬ様にするため――


 つくづく私の家族たちは、皆してこの心を躍らせてくれます。


 ならば答えは一つ。

 それを彼女に依頼するしかないじゃないか。


「ではオリアナは、私が術式を展開する時間稼ぎを頼む! 死竜とオーガ兵さんを同時に相手取るんだ――他の援護も届かないよ!? いいかい! 」


「ええ、ミーシャ! 」


 熱きたぎりが返された今、言葉のやり取りなど無用。

 オリアナへしたり顔を送り、反り上がる様に走りを止めたフランから舞い降りると……主戦力から外す守り側の精霊へと声を投げます。


「ジーンさんにサーリャ! 君達はフランとボージェへ流れ弾なりなんなりが当たらない様、守りと癒しのバックアップを頼む! 同時に――」


「皆への共振装填を解除後速やかに、精霊達をこちらへと装填する! これは私がこの決戦用に準備した最後の大技だ! 」


「うむ、心得た! 」


「サリー! バックアップも大事サリー! お任せなのサリー! 」


 テンパロットから離れ実体化するジーンさんに、私と着かず離れずでいたサーリャの守りへ移行する姿を確認し宣言します。

 文字通りのこの戦場に於ける、最後の戦いの合図となる大号令を。


「では残る生命種の皆はそれぞれ、死竜とオーガ兵への攻撃特化性を考慮し突撃! そして私の素敵な精霊種の家族達はこちらへ――」


「人類史上初となる、集合だっ!! 」


 この戦いに於いて——

 万一私が単騎でリュードを相手取らねばならないと想定し、あのカミュとの戦いで展開上限を見極め開発した……対リュード用 決戦術式。


 私が修練装備エクスペリメンターを解除した上で、精霊種の根源たる六大精霊全てを同時共振装填する禁断の奥義を——



 それぞれの目標へと散る仲間を見やりつつ、顕現した精霊達に囲まれたまま術式展開に入ったのです。



∫∫∫∫∫∫



 桃色髪の賢者ミシャリアが禁断の術式詠唱に入るか否か——

 その彼女より全幅の信頼を託された白黒令嬢オリアナが、双銃を乱射するや駆け抜ける。


 視線へ……——

 黒の総大将リュードを見据えたまま。


「ほう!? どうした……ここで何時ぞやの、一騎打ち再戦でも果たすつもりかオリアナ! 」


 乱れ飛ぶ弾丸を見極め、最小限の動きでかわす黒の総大将が吼える。

 己がかつて親身になり育て上げた、黒の武器商人ヴェゾロッサの娘へ向け。


「侮らないで欲しいものね! 私だって、己の未熟ぐらいしっかりわきまえて来たつもりよ! 」


 総大将の口撃は迷いなくかつての身内の精神へと突き立てられる。

 精神的な揺さぶりも辞さぬ彼はは、口撃さえも自在に操る手練てだれである。


 それでも白黒令嬢の魂は揺らがない……揺らぐはずがなかった。

 今彼女は、共にありたいと願う主を得ている。

 その少女と旅した経験は、全て彼女の研鑽としてその身に刻まれている。


 侮りに、心を揺らされる理由など何処にも存在していなかった。


「今あんたを倒せるのが誰で、そのために私が何を為さねばならないか――そんな分別ぐらい出来ている! それがこの私を救ってくれた偉大なる賢者様……ミーシャへの恩返しなんだから! 」


 撃ち合う弾幕。

 打ち合う双銃の近接打撃。

 未だ黒の総大将と白黒令嬢の実力差は


 しかし令嬢は引く事はない……引く理由など存在していない。


 弾丸を放ち、双銃を左右で振り抜き——黒の総大将懐へと幾度も……幾度も疾駆する。

 その技に、速度に、そこへ込められた魂の圧倒的な強さに——総大将さえも口角を上げた。


「技も、速度も、ストレガの研鑽度合いもまだまだ未熟! だがなオリアナ……今のお前は遥かに強い! それがお前に教えたかった、武を振るう意味だっ!! 」


 未熟なれど、見惚れる程に精度を増した元教え子の戦いを見やる黒の総大将。

 思考へ歓喜と僅かな嫉妬さえも浮かべていた。


 それは、白黒令嬢の成長に貢献したのが自分だけではない……眼前で善戦を繰り広げる法規隊ディフェンサーと言う敵対組織との日々も含まれていたから。


 かつて手塩に掛け、成長を遂げた後進へ手加減などは無粋である。

 そんな思考に駆られる黒の総大将は、成り行きがどうであれ彼女の師であった。

 かの黒の武器商人ヴェゾロッサ頭領 後継者として成功させるため、心血を注ぎ続けた——


 決意と共に


「……ギャッ——」


 刹那に振り抜かれた双銃の一振りが、寸分の狂い無く令嬢の顔面を強襲する。

 反応するも、異常なまでの攻撃速度のそれを防ぎ切れず……そのまま身体を回転させながら弾かれる令嬢。


 地面に叩き付けられた令嬢の状況を、黙して睨め付ける黒の総大将。

 だが——


「……たく、ない! こんなの……痛くなんてないわよっ! 」


 咆哮を上げて膝を付き……銃を突き立て立ち上がる白黒令嬢。

 側頭部から流血するも、その双眸は生きていた。

 それどころか——したり顔で耐えるその姿は、もはや


「私は今、ミーシャを守る力! そして私の背には、レーベンハイト家の誇りが掛かってるんだ! この程度で……負けてたまるもんですか!! 」


 咆哮と同時に放つ弾丸は、さらに命中精度と射撃速度を上げ……睨め付けた黒の総大将でさえかわすのに遅れを取る程へ昇華された。


「……これは重畳。よもやお前がこの俺へ、双銃の弾丸をかすめるとは。くくっ——分からぬ物だな、世界と言う物は。」


 一転して饒舌に言葉を放つ総大将は、すでに眼前のかつての弟子であり愛娘の如き少女への加減などない。

 同時に向けた銃口で彼女を、相対した。


 マズルフラッシュ。

 双銃の弾丸が、大気の壁を貫く音速をともない宙を舞う。

 轟音、衝撃が目標へ届く刹那に響く……火薬射出式 短銃火器の真骨頂。

 あの抜刀妖精ティティほどの達人でも避けるが容易でないそれ。


 そんな弾丸が己を狙い定める事は百も承知であった白黒令嬢は……動じる事などなかった。


「流石は私の主様。やっぱり信頼出来るわね。」


 したり顔の白黒令嬢はひるむ素振りも、かわす動きさえも封じ——ただ弾丸の的になる位置へ陣取っていた。



 信じて止まなかったから——

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