Act.123 結ばれた協定
ドレッド狼さん死刑執行と言う早まった凶行を察するや、疾風となって舞い飛んだテンパロットとルーヴ。
少なくとも私が知る彼らの情報を照らし合わせれば、互いが辿った人生が見事に真逆を行っていたのを悟ります。
方や闇のゴロツキの様な人生から帝国が誇る真の闇の執行人へ――そこから
方やオリエルト公国が寵愛した御家に生まれながら没落し――その因果の餌食となった同胞を救い上げるため闇夜の執行者となったルーヴ。
そんな共感は当に感じているであろう本人達。
互いに背を預けて立ち回る様は、まるで供に戦場を駆け抜けて来た戦友の如き息の合いっぷり。
視認した状況でちょっと妬けてしまうね。
実の所、今の私はテンパロットにとって護衛対象ではあるも……あくまで成長を見守っている後進でしかありません。
彼にこんな事を言えばさらりと否定するでしょうが――
それでも今現在の私では、彼の背を守るだけの実力なんてないのです。
とまあ、そんな私の妬けた心情を抱く余裕すら生まれる
それは言うに及ばず疾風となった二人が生み出していたのですが。
「た、助けてくれ~~っ! 」
「うん……ちょっと情けなくなる姿だけど、紛れもなくあのドレッドヘアーの狼男さんだね(汗)。ティティ卿っ! 」
「心得おした!そこなお方、ウチの後へ! 」
術師会の裏を暴く算段の私は
今その事実を明るみに出すわけにはいかぬと、闇夜の物陰から指示のみティティ卿へと飛ばします。
ここはせっかく仲間となった、元
メイド服に妖しく煌く片刃刀剣と言う、恐ろしくミスマッチな出で立ちの彼女。
しかし私が名を呼ぶや、打ち合わせ通りの動きを見せてくれ――かのアーレス上皇陛下が如何に優れた仲間を有していたかが覗えるね。
と、余計な思考を抱いていると――
騒ぎを聞き付けた術士隊の増援さんご登場。
すかさずドレッドさんを逃がした二人を取り囲もうと動いています。
させじと、
「オリアナ! こんな闇夜の、街頭
「私を誰だと思ってる訳!? 銃の腕前だけなら誰にも負けないわよっ! 」
「そうだね! 銃の腕前だけね! 」
「……泣いていい?ミーシャ。」
すでに視界の先でドレッドさん保護を確認した所、余裕も出てきたのでさらりと弄りを贈呈すれば……怒るかと思ったらちょっと涙目なデレ黒さん。
まあ心の底から悲しんでる感じではないのでスルーして「いいから跳弾……」、と半目で念押せば何か涙ながらに双銃を構えた彼女は――
やけっぱちとばかりに愛銃の砲火をばら撒きます。
て……危なっ!? 跳ねた銃弾がこっちに来てないかいっ!?
流石は双銃の大道芸で食い繋ごうとしただけの事はあります。
まさかの跳弾での抗議と言う離れ業に、これは後でたっぷりお仕置きも待ったなしだね。
しかし涙目でこちらに弾丸を飛ばしながら、しっかり立ち回る二人を援護射撃できる御技には感嘆しか無い所でもあります。
そして術士隊があらかた数を減らした所、遠方の暗がりよりさらなる増援。
駆け付けるランタンの灯火を複数を捉えた私は、全員へと伝わる様に声を上げます。
「これ以上の長居は無用だよっ! オリアナ、例の逃走用煙幕展開! 各個で会談に使用した廃屋へ走れっ!! 」
首肯したテンパロットにルーヴ……ドレッド狼さんを支えるティティ卿とオリアナにディクター氏は、闇夜で視線を交し合うと――
痕跡を残す事無く、その
∫∫∫∫∫∫
すでに
その時刻とは思えぬほどの喧騒が、首都の人無き大通りを貫いていた。
しかし目にできるそれは皆、術師会でもモンテスタ導師に
そして皆一様に、焦りから顔面へ蒼白を浮かべていた。
それを区画整備が届かぬ、
導師に従う不逞の輩の焦燥が、そこまで届かぬ事を確認し大きく息を吐いた。
「……焦りのあまり、すでに周りが見えぬ様であるな。だが――こちらとしては好都合か。」
闇夜を照らすランタンの疾走が過ぎ去ったのを頃合いと、例の会談に使われた廃屋へと足を向けたアウタークな騎士。
程なく――その廃屋扉を僅かに開け様子を覗っていた
「行った様だね。全く……想定外この上なかったけど――ドレッド狼さんが無事でなによりだよ。」
「う……うっす。感謝っす。」
声をかけられたドレッドな狼も、言いようの無い顔を浮かべて
彼としては兄貴分の指示の下とは言え
同時にそこへ、何をおいても謝礼が優先と――視線で
画して協力の元、最悪の事態を脱した
だが事態が真に終息を見た訳では無い事もまた、互いが理解していた。
故に桃色髪の賢者は切り出した。
この王国首都に居る限りは、双方に付き纏う憂い――その根源を立つ為の協定締結の旨を。
「これで君の仲間は無事救出できた訳だけど……事はそう単純じゃないのはそちらも理解しているね? むしろこれからが本番。奴らは自分達の顔にドロを塗った君達を
「私達も彼ら派閥……モンテスタ・ブラウロス導師と、その傘下にある術師会支局を野放しには出来ない事情が存在する。そのために今動いている別働隊が、奴らの持つ後ろめたいあれこれの裏付けを取る必要だあるんだ。」
「なるほど――つまりは俺達を囮にし派手に暴れまわって目を引き付け……その間にお前達の別働隊が裏取りを進めるって事だな? 」
「フッ……やはり君のその思考の鋭さは恐ろしいね。まさにその通りだ。」
語られた長期的な協力体制継続と言う提案に、口角を上げて賛美を贈る頭目がそこにいた。
それは策そのものと言うより、賢者少女の心意気がかつての自分に重なったから。
何かのために、己を犠牲にしてでもそれを成す。
正しく、かつて非道なる魔導実験の餌食となった人狼達を救い上げた……己そのものだったから――
「いいだろう。乗りかかった船だ――これより一時は、お前達との因縁も忘れよう。だがその裏取りもすぐにとはいかないだろう……が――」
「なに……協力者がいるとなれば俺達もやり方はある。少々の日数程度は稼いでやるが……できるだけ早く片を付けろよ? では……停戦と合同作戦協定締結だ。」
そこまでを語った闇の頭目が手を差し出した。
その手には、長きに渡り哀れな人狼達を導き続けた積年の苦労と
「同じ穴の
協定の締結となる握手を交わした。
これより
チートを謳い、精霊を無残に浪費し――
今歩む人生が光か闇かの違いはあれど、そこに宿す心意気は力無き弱者のため。
同じ意志を心に据える二つの勢力が手を結んだのだ。
そんな主の姿へ、無限の可能性を垣間見る
だが――
別働隊たる
そのチート精霊使いを名乗るモンテスタ・ブラウロスがしでかしていた、外道極まりない所業の実態へと。
彼が外道の極みたる行いの元……食い物にしていたのは少女――即ち、ミシャリア・クロードリアその人であったのだ。
∽∽∽ 戦列艦~アグネス首都 ハイゲンベルグ ∽∽∽
被害 : 戦列艦内
————バイキングテーブル
借金主
――――ミシャリア・クロードリア
(バスターズ参入した途端に被害発生!?)
∽∽これはほんの序の口。次章では大変な事態が発覚!?∽∽
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