チートを穿つは、絆と知略と研鑽と

Act.124 法規隊、彼らは彼らの道を行く

 法規隊ディフェンサー監視組と闇の冒険者ブラッドシェイドの一件がハイゲンベルグを覆う頃――

 別ルートで首都の地を踏んだ裏取り調査組は一路、早々宛がわれたお宿へと向かっていた。

 当然そこはアグネス警備隊――それも美貌の卿フェザリナの息が掛かる忠臣に固められたお宿である。


「お待ちしておりました、リド閣下。」


「閣下はやめんか……(汗)英雄隊なぞすでに御伽噺じゃて。それは兎も角――こちらがフェザリナ卿が一目置く法規隊ディフェンサーの面々じゃ。」


「お久しぶりです、なの。アグネス警備隊 法術隊所属 フレード・アクアノス隊士――ボクは現在、法規隊ディフェンサーへの出向中……なの。」


「はい、存じ上げております。あのレイモンド卿より……実力は予々――飛ぶ鳥を落とす勢いとはこういう事を言うのでしょうね。」


「て、照れる――なの。」


 術師会支局ブラウロス派さえ寄り付かぬそこは王宮お膝元。

 所謂いわゆる 現王国元首であるアグネス・フェニーチェ・ハイドランダー閣下の命の下、隅々まで監視が行き渡る城下町の一角である。


 二頭の暴れ馬で現れた英雄妖精リド率いる裏取り調査組を持て成すは、術師会本局とも縁の深き導師……次期アグネス六賢者の呼び声高きアスロット・ヴェルトナー導師である。

 フワフワ神官フレードとも親しく言葉を交わすその風貌は、警備隊でも高位隊士用法衣に身を包んだ中性的な顔立ち。

 耳元後方に延びる二つの髪飾りを揺らすショートヘアーは、前髪が双眸をやや覆う。

 そして感情を伴う言葉を口にする割に、差して動かぬまなこが感情の希薄さを訴えかけてくる。


 背格好としても神官少年と並ぶほどの彼は、多感な男の娘神官を興味深げに見定めた。


「えっ? 彼ってフレード君の知り合い? 何よ、イケてる男の子じゃ……ってじゃないでしょうね。」


「ちょっと待つ感じよ?ヒュレイカさん(汗)。微妙におかしいから。男の娘と言う概念はあくまで、感じだわ。」


美しい少年――と言う表現も、世の中にはある感じだから。」


 英雄妖精と神官少年が感情希薄な導師とやり取りする中、一行のシリアスブレイクがツインテ騎士ヒュレイカオサレなドワーフペンネロッタ間でくすぶっていた。

 そこに含まれた単語を聞き逃さなかった感情希薄な導師が――希薄なそれから一転した様に……


「美しい、ですか。そうですか。やはり私はそんな歳馬のいかぬ若輩にしか見えぬと……。これでも手前――。」


「「「「えっ!!? 」」」」


 語られた衝撃事実に、一行が首の捥げる勢いで導師をガン見した。

 同時に「まさか……やっちまった!? 」との共通事項を悟った一行は、言葉が発せず視線を泳がせる。

 つまりは――

 眼前の美貌の卿の息がかかる導師は、――しかし今口にした点をである事実。

 まさに突いてはならない弱点を、言葉と言うグレートソードで問答無用にブッ刺したのである。


 和やかに対面が進むかと思いきや、やらかす辺りは流石の法規隊ディフェンサー

 まとめ役たる桃色髪の賢者ミシャリア不在も物ともしない、場を凍りつかせる。

 その旨は聞き及んでいたのであろう薄感情導師アスロット

 ――が、彼らの所業が齎したダメージは奇しくも根深く心に刻まれた。


 双眸を地に落としながらも努めを果たさんとする導師を尻目に、鋭い半目でやらかした二人を睨め付ける英雄妖精。

 馬上で嫌な汗に濡れるツインテ騎士とオサレなドワーフ。

 導師をなだめる様に促するフワフワ神官と、絵も言われぬ空気にまみれた一行を——

 その背に乗せ、頼られる今に活き活きする二頭の暴れ馬。



 主らのやり取りなどどこ吹く風と、勇ましいいななきを響かせ城下町の闇夜に輝く豪華絢爛なお宿へと消えて行った。



∫∫∫∫∫∫



 昨晩の不測の事態を乗り越えた私達は、別行動をとるルーヴらに街での囮役を任せ——

 遅い就寝を会談に用いた廃屋で過ごし連星太陽を拝みます。


 ディクター氏が用立ててくれたここは、今の素性を隠す必要のある私達にとっての格好の隠れ家にもなり得たため……裏取り調査組との連絡を取り合う都合も含めて陣取っての今です。


「さて、すでにそれぞれ仮職場が決まっている事だ。早めに朝食を取っての出勤とするよ? まあ朝食と言っても、今の状況では大した物も準備出来ない訳だけど。」


 確かにお宿確保とはなりましたが、やはりそこは廃屋——すでに住民が空けてからそれなりに経つ事からも蓄えなどないのが現状です。

 さらにはボージェとフランに大半の荷を任せて、身軽さを重視した結果でもあったのです。


「早い朝だな。これは警備隊からの餞別せんべつだ、ミシャリア卿。とは言っても奴らの動きが激しい——現状では大した物が準備出来ない所は容赦願いたい。」


「とんでもない。食料にありつけるだけでも儲け物だよ。今回の依頼遂行は何かと不自由な上、欲張った動きは作戦に支障を来たしかねないからね。」


 早朝に合わせてなけなしの食料を運んでくれたディクター氏。

 思えば彼にこれほど世話になる事となろうとは……世の中分からないものです。

 そんな思考もそこそこに、頂いた食料——

 携帯食の類である乾燥させた乾パンにチーズ、唯一ご馳走となるモーネクックの卵数個。

 モーネクックは「クックドゥードゥルドゥー」と、特徴的な鳴き声で朝の到来を知らせる飛べない鳥類で……卵だけに止まらずその親鳥まで食せる命の恵み。


 そんな飼育鳥から得られる生まれたての卵は至高の逸品。

 赤き大地ザガディアスの誰もが、その恵みと命の理に感謝して頂く事で有名なのです。


「あら? それ、モーネクックの卵じゃ——しかも生まれたて!? 乾パンとかだけかと思ったら、洒落た真似するわね! 」


「オリアナ嬢……(汗)。。我の名は——」


「んじゃ、オリリンって呼ぶのは無しの方向で。」


「ぬがっ!? 」


「……流石はオリリンだね(汗)。。じゃあいっその事そのまま、にモーネクックの卵料理もお任せしようか? 」


「いいわ! まっかせな……って!? その手には乗らないわよっ!? 」


「今、「いいわ」までは言ったね? 」


 そんな流れからオリアナがご馳走たる卵に反応したので……少なくともオリリンにゃあ☆のファンで確定な改めを手なづける彼女に——

 どさくさな無茶振りをふれば、勢い余ってオリリンが覚醒したね。


 と——ハメられた感を醸し出すデレ黒さんをニヤリと一瞥していたら、これまた予想外なとこからの反応が応酬したのです。


「そ、それは何卒指南のほどをお願いしとうございますえ~~! オリアナはん――いえ、メイド師匠 オリリンお姉様っ~~! 」


「……は? って――ふぇっっ!!? いえ、ちょっと待って下さいティティ卿! 何を言っちゃってるんですか! 」


「これはこれは想定すらしていなかったね。まさかのオリアナに。完全にティティ卿はこちらの住人だったって訳だね。ようこそディフェンサー百合園ワールドへ。」


 メイド文化の元祖〈アカツキロウ〉出身とは思っていたけれど、こいつはとんだ想定外だね。

 御貴族の身分たる彼女はやはり、俗世にはかかわらない規律に囲まれた立場——と言う観念はすでに捨てた方がいいのだろう。

 むしろ興味があったからこそ進んでメイド衣装を纏い、メイド名を名乗り……デレ黒さんを師匠とかお姉さまとか呼んだのですから。


 ただ確実にどちらの愛称も的外れは否めない所だね。

 特に――どう見ても、オリアナがお姉さまは……


 とまあ、理屈ではそうなのですが——結果オリアナがオリリンとしての行動を取らざるを得ない実情に……グッジョブ!とだけ贈っておこう。


 早朝からのおバカなやり取り。

 そこに一人姿が見えないのは織り込み済み。

 法規隊ディフェンサーではお約束。

 テンパロットは今日も今日とて、私達に先んじての警戒なりをこなしている。



 そんな彼に感謝を送りながら、臨時に勤める事となるお仕事へ向け……オリアナとティティ卿が廃屋のあり合わせ道具で生み出す至高の卵料理を頂く事としたのです。

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