Act.104 過去の軛は解かれ行き……
粉々になった街。
かつては繁栄の中にあり……後の悲劇が死んだ世界へと変えてしまったそこより——
安らぎに満ちた表情で眠る
それを先頭に、事を終えた
その少し前——
「あんたはここに残り……そしてこのネェさんが俺達に同行するって事でいいな?」
「うむ、その様に取り計らってくれ。この街は確かに呪いの
「
「そう言う事さね。ま……賢者様がこんな無茶するってのを知っちまったら、正直ほっとけない所でもあるしね。」
「分かった。その旨をミーシャ……引いては第二皇子殿下へ口添えをしておく。確かこの北側も殿下が考案したアヴェンスレイナ防災構想に組み込まれてたはず――なら、復興支援援助に二の足を踏む事もないだろう。」
賢者少女が極度の疲労による熟睡の最中——
一行と水霊の今後を
帝国第二皇子直属親衛隊の名は伊達ではなく……必要と思しき状況整理を速やかに進めていった。
そして現在。
水霊を加えた一行は、冒険中でも最高クラスの過酷な戦闘を終えた後。
その疲労をとるために一路、物見櫓を経由した〈南アヴェンスレイナ〉——今まさに繁栄の都にある街への進路を取っていたのだ。
そんな一行の最後方には——
「ウチが再びこの大橋を、こんなにも穏やかな心持ちで歩けるやなんて……もう二度と訪れん思うてました。皆さん、ホンマに——」
「ああ、だからティティ様……それはまたミーシャが起きてからでいいんですからね?あたし達はあくまで護衛——
激戦の中巫女装束を乱れさせるも……内に秘めた高貴さが滲み出る女性が続いていた。
言わずと知れた
すでに意識を取り戻した彼女は自らの足で立てるほどに体力も戻り、これ以上一行へ負担を掛けられぬと自ら歩みを進めていた。
しかし己がかけた負担の重さに、すぐ様謝罪と感謝が口を突き——
一行も戸惑うほどの腰の低さを見せ付ける。
瘴気が纏わり付いていた大橋も、戻る
帝国が誇った文化の象徴とも言えるそれが、一行の視線を支配していた。
と——その灯火が一人の影を映し出す。
その影とは……今回の依頼を提示した張本人——
「……ティティ。ティティ……なの、か!?」
「リド……。ほんに懐かしゅう。そう……ウチおす——ティティ・フロウおすえ?」
それは呪いが引き裂いた悲しき二人の、時を超えた出会い。
遂に叶った……絶望を越えた再会。
だが——
その出会いを前に一閃の風が舞う。
かの英雄妖精と呼ばれた男でさえも、反応が遅れるほどに疾き風の襲来。
直後、英雄妖精を襲ったのは……狂犬が振り抜いた拳であった。
「テトお兄ちゃん!?」
「ちょ……あんた一体何して——」
それを視線で追う事が叶った二人……
刹那、それが意味する事を悟り二人は言葉を
「おい、リドさんよ。あんたミーシャが、こうなる事を分かって依頼したんだよな。」
それは
あのヒュレイカでさえ聞いた事のない……憤怒と憎悪さえ
一行はただ言葉を噤んだのではない……戦慄が言葉を刈り取ったのだ。
「ああ……そうじゃ。」
殴り飛ばされ……しかしそれを甘んじて受けた
護衛たるその狂犬が、いかに主たる賢者少女への忠義を通しているかを知り得ているから。
その主を命の危機にさらす様な依頼を出したのは、他でもない英雄妖精だったから。
「そうかい。じゃあこれだけは言わせてもらうぜ、英雄さんよ。もし今後ミーシャに、命の危機が及ぶ様な何らかを吹っかけて来たなら——」
「英雄だの何だのは関係ねぇ……俺がテメェを地獄に送り届けてやる。覚えておけ。」
狂犬が護衛する桃色髪の賢者は、彼にとっての
故に……その忠義は、己の命全てを懸けるに足るものなのだ。
「うむ。了承した……肝に銘じておくとしよう。」
英雄妖精はその視線を狂犬へと向け、嘘偽りなき答えを返す。
そんな英雄たる存在の覚悟を確認した狂犬が、直前の殺気を嘘の様に霧散させた。
「それだけ聞ければいい。――って事で、その件についてはもう仕舞いだ。これ以上引き摺ってたら、ミーシャが目を覚ました時に何言われるか分からねぇからな。」
直前と打って変わる飄々とした雰囲気のまま、何事もなかった様に歩を進める狂犬と……一触即発の不発に胸を撫で下ろした
そんな光景を一瞥した
ようやっとの笑顔を交わし合ったのだった。
∫∫∫∫∫∫
街道両脇へ備わった、夕闇を照らすランタンに彩られる物見櫓。
そこを経由し訪れるは、現在この街の主要拠点である〈南アヴェンスレイナ〉。
絶景とも思える夜の街並みが
物見櫓を運河沿いに歩くその先には、今まで一行が旅して来た街並み——中でも港町に近い様相が宵闇に柔らかな光で浮かび上がる。
案内役の
暖かな面持ちで並び歩くは、
一行はおろか、精霊組である
「えらい思い切り殴り飛ばされましたな、リド。」
「致し方なかろう。それしか手段がなかったとは言え……この
「じゃがの……それ程までに強き絆を持つ皆だからこそ、お主とサイクリアの命運を託せたのじゃぞ?」
睦まじき会話の中、英雄妖精の言葉に僅かに目を見開く剣の卿。
その視線へ分からいでかと言わんばかりの視線を……英雄が送った。
「今更
「……リド……。」
「当然何らかの手段を踏めばその可能性もあったのじゃろう……が、お主に掛かる呪いを直接受け止めたらしいミーシャ嬢になんら影響はない。つまりは――」
「紐付けされた根源を持つ本人にしか影響が及ばぬ呪いであり……根源さえ叩いてしまえば仕舞いと言う類のそれじゃ。」
語られた言葉は剣の卿が詐称した内容と違わぬ本質。
それをなんなく言い当てられ、クスクスと微笑を零す卿。
しかしその双眸には、想い人が込めた慈しみによって溢れた雫が湛えられていた。
英雄妖精からは僅かに等身が高き美女たる彼女。
その頭を労わる様に撫で上げる英雄妖精は歓喜に打ち震える。
長き時を超え……彼が救う事叶わなかった想い人へ——ようやくその手が届いたから。
そんな姿を
彼女に呪いの
彼もまた二人の姿に、まるで生命種の様な雫を湛えていた。
『(キヒヒッ。ワレが存在して幾星霜、よもやこんな日が訪れようとは。精霊と
狂気を司るとされる彼は元来、生命種の精神面を総合的に司る精霊である。
それが昨今では世界的な精霊への認識誤認が、彼を狂気と言う一点を表す精霊へ固定した。
そんな生命種の意識が影響し……いつしか彼はその誤認通り、狂気のみを司る精霊へと変貌してしまったのだ。
精霊の本質誤認の根源——それこそがチート
だからこそ狂気の精霊は雫に濡れる。
すでに己の存在など捨て駒にされるが常の
精霊へと労わりの手を伸ばし、共に歩まんとする……偉大なる大賢者が世界に降臨したから——
『(キヒヒッ……。もしティティ卿が彼女らと行動を共にするならば、ワレは——)』
確固たる決意の
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