悲劇を超える希望の使者達

Act.92 遭遇、水の守護者と法規隊

 朝日が街道東を赤く照らし出す頃。

 法規隊ディフェンサー一行は街道中腹の森林を抜けるほどに足を進めていた。

 一行を支援した精霊達も暫くの精霊力エレメンティウム充填とばかりに鳴りを顰める中、生命種組は二頭の暴れ馬をゆるりと歩かせ街道を行く。


「ボージュもフランも、さっきはお疲れ様……なの。実戦としての働きはお初——けれど勇猛果敢……見直したの。」


「ブヒヒィン!」


「ブルルルッ!」


「とっ!?こらフレード君!いきなり彼らを褒めちぎるのは止めないか!上には私達が乗っているんだからね!?」


「あ……ごめんなさい——なの。」


「あたしはフレード君が可愛いから許す——痛っっ!?え!?何で!何であたしペネに蹴られたのっ!?」


「ふんっ、だ!知らない感じよっ!」


 鬣靡く黒馬フランソワーズには歩くだけならと、桃色髪の賢者ミシャリア白黒令嬢オリアナを乗せ狂犬テンパロットが綱を引く。

 そしてフワフワ神官フレードオサレなドワーフペンネロッタの乗る緑の鞍の茶馬ボジョレーヌは、徒歩にてツインテ騎士ヒュレイカが綱を引いた。

 フワフワ神官とオサレなドワーフは今回のでもあったため、そのねぎらいとして馬上の席を会得していた。


 そんな中……ツインテ騎士が零した、久々の癇癪のままにオサレなドワーフが騎士を馬上から足蹴にしたのだ。


「メスゴリラよ……お前もちっとは、オレ達の様な義兄弟の掛け合いを見習えよ?」


「何であんたに、あたしをとやかく言う権利があるのさ。」


「見習って欲しい感じよ!」


「えっ!?」


「うわ……まさかのヒュレイカが畳み掛けられてる(汗)。」


 それは正しくヤキモチである。

 オサレなドワーフとしては姉妹の様な睦まじさを振りまいていたツインテ騎士が、美少女の如き可憐さを見せ付けるフワフワ神官へ対し惚気のろける様には嫉妬も辞さなかった。

 しかしながら、少年が可憐であるのはドワーフとしても認めている事であり……そのせいでさらに倍増した癇癪がツインテ騎士へと向いてしまった訳だ。


 そんな完全にツインテ騎士の惨事に、物珍しさ全開のあきれを塗しつつも——変わらぬやり取りは一行ならでは。

 つい先ほどまで、異獣の大群と魔族に連なる魔獣を相手取っていた事など無かったかの様な……間の抜けた空気を纏うその足で街道をひた進む。


 やがて朝日に照らされた街道を挟む森も途切れ、前方に運河と右手に東イザステリア海洋を望む荒野が姿を現した。


「ふぅ……何とか辿り着いた様だね。全く——私達ぐらいのものだよ。」


「そうだろうな(汗)。誰が好き好んで、異獣襲撃の恐れがある治安もままならない危険地帯を行くかよ……。」


「ていうか……今、私達そこを抜けてきたんだけど?何それ、どんな方向の自虐?」


 桃色髪の賢者が零した通りの今に、同意する狂犬と今更ながらに恐れ戦く白黒令嬢。

 その他一行も一様に嫌な汗を浮かべながら、運河の関所となる施設へと進んで行く。


 視界に映る一際高い物見やぐらうごめく影を遠目にて視認し、警戒を強める狂犬を尻目に——



∫∫∫∫∫∫



 視界に捉えたのは東西へと伸びる長大な運河。

 それを南北へさえぎる様に渡されたのは、アーレス帝国の魔導機械技術の粋を込められたアーチ状の大橋〈ビックレインビア〉です。

 虹を模したそれは同じく虹を現す言葉を与えられ、運河を航行する大型帆船であるガレオン船すらも行き来出来るギミックが盛り込まれているのです。


 そしてその南北に構えられるは〈ビックレインビア〉を通行する上で、最も重要となる関所を擁する物見やぐら

 私達法規隊ディフェンサーは今街道を抜け、すでに昼近くの時間帯にようやく辿り着いたのです。


 けれど――


「いやぁ……さっきテンパロットの視線がやたらと警戒していたから、まさかとは思ったんだけどね?これは即ちどういう事だい?」


「それをオレに聞くなよ(汗)。取り合えず置いておいてだ――問題は。」


「……これって?表立って手助け出来ないならと、――」


「結果、シェンさんが囚われた……なの?それ全然笑えないの。」


 そうです。

 ウチの護衛二人にフレード君が洩らした様に……何だか訳の分からない状況に出くわしていたのです。

 ――蝙蝠さん?なんて面倒な状況を生み出してくれているんだい?との苦言待ったなしだね。


「キキ~~……。」


「ああん?そんな目で見たからって、アタイの気が変わるとでも思ってんのかい?このかわい子ちゃん。」


 眼前には、私達が関所へと到着を見る頃にぞろぞろと周囲に現れたニンフの群れ。

 その中央…… 一際高い物見やぐらで、まさかまさかの拘束された闇の精霊シェンが櫓柱へと吊るされ――

 明らかに神妙な面持ちのシェンへ、やたらと睨みを利かせている女性を確認したのです。


「何か一色触発な感じね……。流石は法規隊ディフェンサー――トラブルが向こうからやって来てる感じだわ。」


「――いやもう、その時点で笑えない所では済まないんだけど?て言うか、アレ……精霊よね。」


 ペネの意見は否定したくとも否定の余地もなく、オリアナに至っては随分と察しが良くなったと賞賛したい所だね。

 ずばりドンピシャ……あの感じ――私でも感知出来るほどにをぶちまける女性は、見た限りでは紛う事なき水の精霊 ウンディーネ。


 ただ――何かこう、嫌なデジャブしか浮かばない私がそこにいたのです。


「皆……私の意見を聞いてくれるかい?思うんだけれど――どうも私達は、一部を除いてまともな精霊に出会えない因果を突き進んでいる様だよ。」


「あんな見るからに――、私もかつてお目にかかった事がない……。」


 言うが早いか、私の言葉で妙な沈黙が一行を包みました。

 うんそうだね。

 皆それはあえて口に出さなかったんだね。

 現在精霊力エレメンティウム充填中でツッコミも不在だからね。

 と言う事で誰か突っ込んで欲しいんだけど?

 でないと間が持たないよ?


 と思考していてもらちが開かないため、間を持たすために眼前の精霊さんへと事情を聞いてみる事とします。


「君は水の精霊ウンディーネと見た!私達は——」


「アタイは水の精霊ウンディーネ!ひと種らよ……アタイがここにいる限りは運河にゃ一歩も踏み込めないよ!?」


「ああ、そうみたいだね!だからせめて私達——」


「ここに縛り付けたかわいこちゃんが色々画策してた様だが……何をやっても無駄さね!」


「……その点は私達も範疇の外——」


「いいかい、よくお聞き!アタイをひざまずかせるのは無理だ!分かったらさっさと立ち去りな!」


「いやだから話——」


「あんたら、やっちまいな!」


「話をさせないかっ!!?」


 話した結果、会話にもならない事態に声を荒げてしまいます。

 と言いますか……こうまで畳み掛けられたのは、私としても初めてなんだけどね?

 全く会話が噛み合わないと言うか、こっちの意見など御構い無しに喋ってると言うか——もはや普通の精霊と出会えない私達法規隊ディフェンサーの、悲しき宿命の様に思えてきたね(汗)


 そんな嫌な絶望感に浸る私達を他所に、すでに囲むニンフ達が構えた得物を突き付けたその時——


「ちょっ……!?君達、何で顕現してるんだい!?て言うか、また私の精霊召喚をブッチしてないかい!?」


 私の視界を占拠したのは……私の頼れる素敵な精霊達でした。

 そしてしーちゃんどころか、ジーンさんにグラサン——さらにはサーリャまでもがこぞって顕現したのです。

 当然の如く私は精霊召喚サーモナーエレメントの術式なんて展開した覚えなんてありません。

 


 すると——

 それを視認した輩ネエさん……突如として眉根を歪めるや怒号を発したのです。


「……おうおう!アタイの前で精霊達を強制召喚するなんざ、本気で怒らせたいらしいねっ!これだからひと種なんてのは信用ならねぇ。」


「こうなりゃ世の精霊のために、テメェらひと種を懲らしめてやんねぇとな!まずはあんただ、!アタイがあんたを——」


 怒号のままに私を呼ばわりしたのには、流石に頭に来た所ですが——

 そんな私をさえぎる様に舞うしーちゃんが……抱いた怒りを代弁する言葉を吐き捨てたのです。


「黙って聞いてりゃ好き勝手……。ウチらの大切な賢者様に向かってどチビやて?あんた……ウチらを舐め腐るのも大概にしなはれや!」


「……っ!?強制召喚されている精霊が意識を保つだって!?そんな——」


 驚愕に揺れたのは輩ネエさん。

 当然です——元来精霊が強制召喚された際は、その意識を奪われて物質界へと引きずり出されると言われます。


 故に——輩ネエさんが目にした敢然たる事実……確固たる意志をその口で紡ぐ精霊達の姿は、彼女の常識の遥か外の事態だったのでした。

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