Act.91 魔を屠りしその先は……

 フレード君の銀閃鎚ホーリーハンマーを背後からまともに食らったデカ物さん。

 そのあまりの威力で、まさかの

 半ばその体躯を消滅させる勢いで倒れ込みます。


「ふ……フレード君――魔の物に対しては容赦がないね!?その攻撃力はすでに神官の域を凌駕してるんじゃないか!?」


「ああー……確かフェザリナ卿が、対魔戦に於いてのフレードを「前線でちぎっては投げちぎっては投げ……」とか表現してたな(汗)。」


「当然なの!魔の物、決して許すまじ――なの!」


「凄いっ!フレード君、男の子なんだ!」


「いや、男の子でしょうが!?思考がおかしいのよあんたは!」


 そんなフレード君の強さを見やるテンパロットにヒュレイカが各々の反応――への、オリアナのらしい突っ込み炸裂。

 しかも眼前のバカ鳥さんとデカ犬さんを蹴散らしながらやり取りするのは、余裕か油断か。

 頼もしくもあり、ヒヤヒヤも少しはしたりだね。


 ともあれそのフレード君の強烈な一撃は、デカ物さんが展開していたであろう魔族の有する下位種支配のたぐいを弱める結果となり――

 今まで統制が取れていた異獣の群れが、突如として混乱を来たした様に乱れます。

 すでに目にした中にはバカ鳥さんとデカ犬さんが同士討ちを始めたのも見て取れた所。

 そこから察するに……この異獣達は本来仲がいいと言う訳ではなく、予想通りデカ物さんに操られていたのは明白でした。


「よし皆……すでに異獣が同士討ちを始めている!今が残党を殲滅するチャンスだ!こいつらがねぐらへ逃亡を図るならば無理に負う必要はないけど――」


「当然村方向への逃走があれば、何としてでも阻止する事!では各員――掃討戦へ突入だ!」


 私が張り上げる声がすでに深夜に達する荒野へ響くと、グラサンとサーリャが生む炎の壁に煌々と照らされる皆の表情がしたり顔を浮かべ……すでに戦列が瓦解した異獣掃討へと移行します。


『セイ……メイガ!ワレハ、マゾク――グベッ!?』


「許さないと、言ったの!魔は――元の世界に、帰るのっ!」


 苦し紛れの咆哮を上げ、立ち上がろうとするデカ物。

 まああちらさんも、こんなに強力な一撃を放つがいるのにはビックリ仰天でしょうけど……だからと言って先の宣言の示す通りフレード君が魔の物へ容赦などする事もない訳で――

 旋風の如く回転する銀閃鎚ホーリーハンマーが全く手加減なく振り抜かれ、その一撃一撃でデカ物さんを追い散らしに掛かります。


 それを見やった仲間一同より――


「「「怖っ……(汗)」」」


「うん大丈夫。君達も十分怖いからね?よく自分達の周囲を見てみると良いよ?」


 もはや神官である事も置き去りにする、鬼神の如き戦いのフレード君に恐れを成した様な言葉が響きます。

 が……それを発した一同も大概な惨状を生んでいるので、一先ず突っ込んで置くとしよう。

 君達が無傷なのに対し、異獣はほぼ全滅状態だからね?人の事は言えないね?


『オオオオオオッ……――』


 やがてフレード君の攻撃に恐れを成したデカ物さん。

 遂に咆哮を上げて逃走を始めます。

 尻尾を巻き逃げる様は哀れその物。

 凄いよウチの神官さん――下位種魔獣とは言え、魔族を追っ払ってしまったよ(汗)

 これでドラゴンスレイヤー所かデビルバスターも間違いなしだね。


 そんな思考を浮かべながら、落ち着きつつある戦場を見渡し――しかし油断無き様状況把握に努めます。


 まあそんな用心深さもカラぶる程に、アッサリと状況の終了を見る事になったのですが――



∫∫∫∫∫∫



 宵闇に紛れた異獣の大進撃。

 が——フタを開けてみれば、遭遇した冒険者が法規隊ディフェンサー一行であったのが運の尽き。

 意気揚々と赤き大地ザガディアスへの侵攻を企んだ魔族下位種である宵闇の魔獣ジャバウォックは、その用立てた大群諸共追い散らされてしまう。


 桃色髪の賢者ミシャリアの零したすでにドラゴンスレイヤーの名声を凌駕する、デビルバスターさながらの快進撃は止まる事を知らず——

 しかしいずれも人知れずの戦い故、それが世間に広がるには相当の時間を要する事となるのだが。


 それほどの活躍も、すでに刻まれた〈食堂バスターズ〉の汚名がくつがえることも無いと知る一行は……打ち立てた名声すらも気にする事なく撤収を始めていた。


「いや~~、リドはんがおらんでも案外何とかなるもんやな~~。」


「そうだね。シーちゃんが慌てて飛んで帰って来たのを確認した時は、流石に肝を冷やしたけどね。」


「せやな~~ウチを閉じ込めたんが、まさかと悟った時の絶望感——遂にウチもミーシャはんに愛想つかれたか思うたわマジで。」


「ふぅ……先ほども説明したであろう?アレはそれがしが依頼した事ぞ。故にお嬢に非がある訳ではない。」


「それは分かっとるがな。ジョーダンやジョーダン。」


 異獣襲撃前までさかのぼり、己を精霊拘束籠へ閉じ込められた事への抗議も辞さない残念精霊シフィエール

 だがその依頼を出した巨躯の精霊ジーンがすかさずフォローに入る。

 グチグチと文句を零しながらツンとそっぽを向く精霊へ、「あんたが自由過ぎるからだろ……」との視線で苦笑を浮かべる一行。


 それは仲間である精霊をおもんばかる行為である事は、皆周知の事実であった。


「もう異獣さんは見当たらないサリ。」


「だな。中々に炎壁維持で力を使ったが、むしろ良い肩慣らしだったぜ?ファッキン。」


 乗馬組と手分けして周囲の警戒に当たっていた火蜥蜴サラマンダー親子も合流し、彼らとしても古代竜種エンドラとの戦いから時を置かずであるが……ひと種との再びの共同戦線には確かな手応えを感じていた。

 そんな精霊達を重んじた桃色髪の賢者はそれらを見やり、深くこうべを垂れる。


「今回も君達精霊には助けられた。あれだけの異獣の大群を屠る事が叶ったのは間違いなく……君達が力添えしてくれたお陰だ。」


「多分こんな大規模戦闘は早々起きる事もないだろう。だから精霊力エレメンティウムが回復を見るまでは、存分に休んで貰いたい。本当に……ありがとう。」


 篭る謝意は精霊達の心すら撃ち抜いた。

 すでにそれを知り得る風の二柱も、新参である炎の二柱すらも……今は見習いである小さな賢者の想いを如実に感じ取る。

 そしてそんな想いに返す言葉は——仲間としての思い遣りであった。


「ファッキン……そう一々頭を下げるな、賢者ミーシャ。確かに俺達はオリアナ嬢へ着いて行くとは言ったが、その……何だ——」


「パパはミーシャさんも素敵って言ってるサリ☆」


「ばっ……サリュアナ!?ちっ——娘にゃ敵わねぇな……まあつまりはそう言うこった。」


「まあミーシャはんが精霊に頭下げまくるのは、今に始まった事やあらへんからなぁ。ウチかて最初はえらい戸惑ったで?「こんなひと種がおるんかい!?」ってな……。」


「お嬢は精霊をいたわる依然に、それらに好意を抱かれる素養があるのだ。それがしもそれなりの付き合いで感じている。」


 下げた頭の上からここぞとばかりに上げたてまつられる桃色髪の賢者は、頬を紅潮させてしどろもどろで視線を泳がせた。

 少女としても、少人数であればいつものが炸裂する所——しかしは始めてとも言えた。

 そんな賢者少女を、警戒の見張りを終え集まる生命種側の仲間が暖かい目で見守った。

 その視線へ、魔族に連なる魔獣すら追い払う部隊……その力の源泉はまさに賢者少女であると言わんばかりの想いを乗せて。


 その後——

 部隊としては本懐とも言える異獣への供養とし、炎揺らす少女サリュアナの炎で葬いを行う一行。

 戦闘時に放たれた破壊の業火とは異なる、淡き煌めきが異獣の大群を包む。

 開けた街道を包むその炎は、どこか幻想的で……命を慈しむ想いが形となって天を煌々と照らし出した。



 供養を終えさしもの疲れ切った炎揺らす少女を、自ら優しく背負った桃色髪の賢者は……キャンプを張った場所で旅支度を整えると次第に明るみの増す街道を北進する。


 目指すは英雄妖精リドが憂う過去の悲劇。

 それを超えるための迷い迷う深き森——そこへと通じる水の都である。



∽∽∽∽∽∽   ハイヌ街道   ∽∽∽∽∽∽


被害 : なし

   

食堂バスターズ————あれ?借金増額なしの据え置き?


∽∽∽∽∽∽このまま推移なるか!?∽∽∽∽∽∽

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