Act.90 街道の支配者

 異獣の群れ成す荒野を二筋の疾風が切り裂いた。

 一つは精霊装填にて大地を疾風の如く駆けるオサレなドワーフペンネロッタ

 一つは物々しきメイスに跨り空を滑空するフワフワ神官フレード

 目指すは異獣の群れを操ると思しき後方の巨影――魔族になぞらえる魔獣ジャバウオックである。


 桃色髪の賢者ミシャリアが推察した現在の戦況をさらに優位に進めるため、現在最も速度のある二人が特攻する。

 その舞う疾風に追従出来る異獣はそこに存在していなかった。

 禍々しき怪鳥ヒュプムパリデスも……疾駆する猛犬ヘルハウンドでさえも、それを追撃する事など叶わない。


「目指すは一直線……あの、魔獣さんなの!」


「了解な感じね!フレード君、穿つ感じよ!!」


 異獣の群れを蹴散らして——疾風が辿り着く。

 群れなす者共の背後で咆哮を上げる、魔族に連なる魔獣の元へ。


『グオオオッッ!?セイメイ、ガッッ!』


「何だい!?奴は人語を喋れるのかい!?」


 襲撃者を捉えた闇夜の魔獣ジャバウォックが放つ咆哮へ、人語と思しき物が混ざり込む。

 それを聞き逃さなかった桃色髪の賢者は、すぐ様一行へとリアルタイムの指示を飛ばした。


「皆、奴は人語を用いた会話を可能とする様だ!つまりは人語を理解する能力が高い上位の魔獣——」


「ならば!私の言わんとしている事がわかるね!?」


 導かれた策は、

 ただの獣の群れでは察する事敵わぬ、法規隊ディフェンサー法規隊ディフェンサーであるゆえの必殺の戦術であった。


「ふふっ!ミーシャさんの作戦は胸が踊る感じね!」


「当然、なの!ミーシャお姉ちゃんは……何より仲間を信頼する、素敵な賢者様!だからこそ、皆が何よりも強くなれる——なの!」


 すでに闇夜の魔獣ジャバウォックの懐へ飛び込んだ二人の小さな襲撃者は、各々の振り回す武装を展開する。


 相手取るのが魔族に属する事もあり……至高神の祈りは絶大なる威力を発揮する。

 それを知るフワフワ神官は、魔獣上空で己が得物を振り回すと——


『至高神ソウトよ……我にその慈悲深き神霊の思し召し——与えて穿つ、銀閃鎚を我にっ!』


 祈りがもたらす神霊力宿りし戦鎚が、眩き光宿す銀閃鎚ホーリーハンマーとなり魔獣へと振り下ろされる。

 その足元では——


『ペネはん、今や!フレードはんとのコンビネーション……見せたりや!』


「そうね!魔獣さん……ペネの得物もただではすまない感じよ!食らうがいいわっ!!」


 が相応しい回転するロッドは、残念精霊シフィエールの力も合わさり旋風を巻き起こす。

 その手元で何やら機械的な操作を行いつつ、疾風となったオサレなドワーフが……魔獣の足を狙う様にロッドを振り抜き——しかしその視線を上空の神官少年へと向けた。


 ——アイコンタクト——


 送られた視線を察する少年は言葉をつぐみ……且つドワーフの行動の意図を読み切ると、舞い降りる速度へ旋回により制動を掛けた。


『コザカシイ、ニンゲン……ドワーフガ!!』


 攻撃の軌道から頭上と足元からの波状攻撃と思考した闇夜の魔獣ジャバウォック——身をひねり双方を相手取ろうとした。


「掛かった……感じね!」


 魔獣の剛腕がまずはと地を駆けるオサレなドワーフを狙い定める。

 刹那……魔獣が完全に視界を己へ向けたのを確認したドワーフ少女は——舞うロッドを大地へと叩き付けた。


『グッオワッ!?』


 ロッドは大地を穿うがつか否かの瞬間爆風を巻き上げ、街道をえぐった衝撃と粉塵が闇夜の魔獣ジャバウォックを包み込む。

 それはアイコンタクトで交わされた戦術。

 爆風を生む事の叶うロッドで視界を封じ、すでに上空から襲い来る神官少年の一撃を確実な物とする刹那の判断。


 ドワーフの多くは神官クレリック司祭プリーストと、神格存在に仕える者も多く……職種こそ違えどオサレなドワーフはそれを知り得て然りである。

 即ち……フワフワ神官の得物と職種の特性を熟知した上での、聖なる一撃を最大限に活かす戦術であった。


「食らう……なのっ!!」


 舞う粉塵を書き散らす聖なる銀閃槌ホーリーハンマーが旋回を伴い強襲する。

 そして——完全に背後を取られる形となった闇夜の魔獣ジャバウォックへと打ち下ろされた。



∫∫∫∫∫∫



 咆哮へ混じる人語には、一瞬ドキリとしましたが——直後にアイコンタクトであのデカ物さんを強襲した二人には称賛待った無しだね。

 この戦いでのツートップである二人が、共に聖職者と言う知識に通じる者であった事もあり——それはもう流れる様な連携を、言葉も無しにこなしたのです。


 それは差し詰めテンパロットとヒュレイカの様に、帝国に仕える防衛隊が見せる真価に匹敵する物でもあります。


 しかし相手はあの古代竜種エンドラよりも厄介な魔族絡み。

 ここで油断すればたちまち形勢逆転が襲うのは待った無しでもあり……そもそも相手が害獣であるなら一切の容赦もない訳で——


「さあテンパロットにヒュレイカ……そしてオリアナ!飛び込んだ二人が良い所を見せたよ!?ここで黙っている君達ではないはずだね!?」


「ああ、その通りだ!弟分が危険地帯で奮闘するのを傍観する様じゃ、帝国の忍びなんて名乗れねぇぜ!」


「そうそう!あたしだって、あのペネにお姉ちゃんみたいな所を見せた手前……全く持って切り裂きストーカーの言葉に異議なしと言いたいわね!」


「何よ……二人とも良い感じに兄弟、姉妹風吹かしちゃって!」


「「ご貴族様が何言ってんだか……。」」


「そんなとこまで弄られる訳っ(汗)!?」


「弄りはいいから攻撃しないかっ(汗)!?」


 この機を逃さずと皆を鼓舞すれば、もはや定番の弄りあいが飛び——が迸る三人が二頭の暴れ馬ーズで異獣の群れへと一気に切り込みます。

 その背を守る様に——


「風の精霊ジンよ!俺達の相性をあなどってる奴らへ見せつけてやろうぜ!?ファッキン!」


「ふむ……心得たぞ、サラマンダー!抜かるなよ!」


「あーしも混ぜて欲しいサリっ!」


 精霊の相性では抜群とも言える風と火の精霊達が想いを重ね、私達ひよ種を支援してくれます。

 同時に私も今まで感じた事のない、途方もなき精霊力エレメンティウムほとばしりが周辺を包み込み……爆風と火焔が——猛烈なる渦を巻き始めたのです。


『嵐と共に邪なる者を屠れ——』


『業火と共に邪なる者を焼け——』


「パパ……ジーンさん!行くサリっ!」


『『『爆硫火焔嵐陣ブレイジア・サイクロネイドっっ!!』』』


 巻き起るは火焔を纏った天まで登る竜巻。

 それが意思を持って大地の命を刈り取る様は、もはや天罰かと思える程の破壊力。

 きっとチート精霊使いなどであれば、これを——

 けれど私を支えてくれる精霊達は、自らその力を貸し与えてくれているのです。


 そう……これこそが私の望む世界の先駆け。

 ひと種と、妖精族フェアリアと精霊種が——生命に仇なす異形の者どもを屠るため手を取り合う世界。

 異なる種が供に歩み、互いがいがみ合う事のない未来の形。


 それを教えてやりましょう。

 赤き大地ザガディアスもまだまだ捨てたものではないと——


「ジーンさんにグラサン!そしてサーリャはそのまま、残る異獣を掃討してくれるかい!?あのデカ物が反撃するヒマなんて与えてやるものか――」


「この古代竜種エンドラすら屠った我ら法規隊ディフェンサーの総力戦……その恐ろしさを叩き付け――デカ物さんを魔界とやらへ追い返してやるんだ!」


 眼前で舞う火焔の竜巻と、剣に弾丸の協奏曲――そして聖なる一撃と小さな旋風根の強襲を視界に捉えた私は咆哮を上げます。

 未だ今回の目的地にすら辿り着いていない私達……それをこんなに邪魔されてなるものですか。


 あの伝説の英雄隊に名を連ねるリド卿たっての依頼なのです。

 その遂行の邪魔立てをすると言うならば……私達法規隊ディフェンサーが目に物を見せてあげるとしましょう。


 ――精霊と手を取り合う未来を掲げる私達の力を――

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