Act.84 水の都 アヴェンスレイナ

 一行の暴れ馬引取り組みである狂犬テンパロットフワフワ神官フレードは、ツインテ騎士ヒュレイカオサレなドワーフペンネロッタとの合流のため……暴れ馬らの背に揺られフェルデロンド商店街表通りへ足を向けていた。

 が、そことは全く異なる方向より二人が戻るのを確認した狂犬が疑問を零す。


「んあ?あいつら何で買出しに行ってたのに、商店街とは真逆から歩いて来てんだ?」


「本当、なの。あ……テトお兄ちゃんアレ――標識には〈共同墓地〉って書いてあるけれど、誰かのお墓があったの?」


「いんや?オレ達一行の中で現状墓地に用事のある奴なんて――あー……――」


 そんな狂犬へ墓地がある情報を、目にした看板で示したフワフワ神官。

 彼からの、身内に関係者が居るかとの問いへ返す狂犬だが——

 視界に捉えたツインテ騎士が見やる視線の先で、初見の印象から幾ばくか小さく見えたオサレなドワーフと、隣り合う騎士との今までに無い雰囲気を察した。


 同時に思考へ、関係者は居ずとも……関係者が居るかもとの考えを宿して言葉を濁す。


「おー、何か微妙にお久なお馬さん!元気にしてたー!?」


「「ぶるるるっ!」」


「っのわっ!?おいボージェとやら、落ち着けや!?」


「どーどー、なの……フランさん。」


 遠目からツインテ騎士が発した言葉へ喜びを顕とする二頭の暴れ馬。

 だがその通り名の如く、上下に揺らした体躯で喜びを表現しようとし……危うく二人が振り落とされそうになる。


 それを見やったオサレなドワーフが、直前まで鬱ぎ込む様な面持ちだったのが——


「ぷっ……あはははっ!今度は素敵な、お馬さんの仲間とご対面な感じね!でも——ぷぷっ……暴れすぎな感じ!」


 暴れ狂う新たな二頭の姿で、腹の底から笑い転げる事となる。


 すっかり先の悲哀が霧散したドワーフ少女に、安堵を覚えたツインテ騎士も簡素な紹介を加えつつ……微妙な疑問にぶち当たる。


「暴れ過ぎなのよね~~ウチの人外な仲間達は。あの二頭は少し前の激戦でお世話になった——ん?って、テンパロットとフレード君……今、とか言ってなかった?」


「確かその子達はだった様な——」


「愛称、だとよ。」


「可愛い、なの。」


「ブフォォっ!?」


「何な感じっ!?」


 そして浮かぶ疑問を問い返した結果——

 では無く……、赤い物を噴き出していた。


 もはや擁護の余地なきツインテ騎士を冷めた目で一瞥した狂犬は、吐き捨てる様に言葉を贈呈する。


「……このメスゴリラは(汗)もうそこはかとなくキメェな、オイ……。」


 この一行にしてこの惨状あり。

 そんなおバカを地で行く一行と暴れ馬が再会と対面を果たす事となり——早速得た足でさらに残りのメンツとの合流に向かう。


 その際多量の荷物運搬のための荷車も必要と、桃色髪の賢者ミシャリアより追加されているため……狂犬はそのまま緑の鞍が目印の茶馬ボージェへオサレなドワーフ相乗りを促す。

 そして長めのたてがみなびく黒馬フランへフワフワ神官と相乗りし——ようとしたツインテ騎士へ、狂犬が痛烈なる一言を叩き付けた。


「おいメスゴリラ。テメェは一人でフランに乗れ。」


「はっ?……って、うおぃっ!?あたしせっかくフレード君と相乗りできると思って——」


「だから言ってんだよ!?今のテメェはロクな事考えてねぇだろうが!フレード、お前そのメイスで飛べ!イケんだろ!?」


「はは……ボクは、問題——ないの。」


「フッ……フレード君!?そんなぁ~~。」


 図星を突かれたツインテ騎士の必死の抗議も、フワフワ神官が放つ止めが追い打ちとなり完全に意気消沈——そのまま神官少年と入れ替わる様に馬上へ上がった。

 ふとオサレなドワーフの視線が、長鬣な黒馬フランの背で項垂うなだれる騎士へ注がれるや——少し想定外な言葉が少女より溢れ出る。


「あの……じゃあペネは、ヒュレイカさんの後ろに乗りたい感じかな。」


「ん?いいのか?ペネ。こいつの後ろなんかで。」


「ヒュレイカさんだからいい感じよ?」


 と言い切るオサレなドワーフは、フランのそばへと歩み寄り……意味ありげな視線でツインテ騎士の手をせがむ。

 その姿に……今しがたおバカを発動したツインテ騎士が、一行でもまず見せた事も無い表情で優しさが滲む手を差し出した。


「仕方ないわね。じゃあペネ、あたしの後ろに乗りなさい!」


 ツインテ騎士とドワーフ少女のやり取りが、僅かにその場の空気感を別のものへといざなった。

 それは狂犬とフレードが醸し出す義兄弟の様な、であり——事情は知らぬとも狂犬とフワフワ神官は場を読んで首肯しあう。


 は荷車を用立てるため—— 一変した暖かな雰囲気のまま、街の一角へと消えて行くのであった。



∫∫∫∫∫∫



 晴れて無事に進んだ、オリアナの養子縁組手続きと部隊編入。

 名称をオリアナ・レーベンハイトと改めた白黒さんを従えて——お城の様な店舗を後にする私達。

 そんなこちらを待ちぼうけていたかの、二柱の精霊と出くわします。


 まあ……面持ちを見るや私も感じていた対魔導術式の防壁に阻まれていた悔しさを、実体化と同時に察した所ですが。


「やあ、残念だったねしーちゃんにシェン。せっかく私の、オリアナ面会前にリド卿のツッコミを受けてもんどり打つシーンに出くわす所だったのに——」


「な、何やて!?そんな……ウチはそれほどまでに貴重なお宝映像を見逃したっちゅー事かいな……。これは消滅しても消滅しきれんわ。」


「……悔しがるだろうとは思ったけどね?流石にケンカ売ってるのかと思ったよしーちゃん。良かったねここにがいなく——」


ってこれでいいの?」


「どっから籠出してんねんっ!!?」


「いやホントにどっから出したんだい?オリアナ(汗)。」


 精霊さんへを告知したら、まさかのケンカ売ってる様な返答が返され……しかしいつもかごの準備も辞さない二人がいない——

 かと思ったら、いつものそれがオリアナから飛び出てちょっとビックリしたね。


 これで残念さんの捕獲包囲は完璧——と下らない冗談を交わしながらも、その足を他のメンツとの合流地点へと向けます。

 そんな私達一行から少し遅れる様にヒラヒラ舞い飛ぶシェンが、人であればとても暖かな視線を送っていたのは……何となく感じてはいました。


 彼女から直接は言葉を聞いてはいません——が……それは、リド卿から依頼された件が絡むと察しています。

 言うなれば彼女……闇の精霊であるシェイドも、主となったダークエルフの悲しき物語が幸福に包まれるのを願っているという事なのでしょう。

 そう思考しながら視線を向けた私に一礼を返したシェンは——今現在、行動を分かったリド卿の元へと消えていったのです。


 少なくともリド卿からの依頼に於いてはあの二人——リド卿本人と蝙蝠精霊さんの力は借りられない事実を、図らずとも悟る事になった私でした。



∫∫∫∫∫∫



「行ったかの?シェン。」


「キキッキキー!」


「そうか……しかしちと、無理難題を吹っかけ過ぎたかの……。」


 法規隊ディフェンサー一行が全員の合流地点へと向かった少し後、英雄妖精リド蝙蝠精霊シェンが落ち合っていた。

 が、桃色髪の賢者ミシャリアが察した通り……彼の出した依頼には彼自身が協力出来ない事情が確かに存在していたのだ。


「迷いの森へは恐らく簡単に辿り着く事も叶うじゃろう。じゃが……ワシはあの森どころか、その森への経路にある水の都〈アヴェンスレイナ〉にさえ入る事叶わぬからの。」


 公爵卿の城の如き屋敷外の丘で、迷いの森があるとされる方角を見ながら——英雄妖精は一人ゴチる。


 すでに遠き記憶の彼方にしか存在せぬ愛しき者。

 彼の身代わりとなり……狂気の精霊の生贄となった少女。

 ハイエルフ——しかしこの赤き大地ザガディアスに於いては、ハイエルフと称される種族は二種類存在していた。


「ティティ・フロウが〈アカツキロウ〉の皇居から出て一体、幾つの時を数えただろうな……。」


 二種類とは……赤き大地ザガディアス古来よりの種族になぞらえる原住民とも言える〈霊位妖精ハイエルフ古霊族エインシェル〉と——

 かの〈アカツキロウ〉の首都〈ヒイヅルオウルス〉を治めし、ヒイヅル皇家所縁ゆかり黄金人オウルレイヒと呼称される種族……〈霊位妖精ハイエルフ天宙界族テクナティアス〉を指し示す。


 英雄妖精が長命なる人生で唯一愛したハイエルフは後者——〈アカツキロウ〉の皇族に連なる黄金人オウルレイヒを指すのだ。


 すっくと立ち上がる英雄妖精は蝙蝠精霊を一瞥し、直接の依頼をできぬ故の裏方支援を彼女に言伝ことづてた。


「よいかシェンよ。ワシは表立って協力する事が出来ぬ故——せめて影ながらにあの者達を支えたい。ワシの長年の願いを叶えんとする勇しき希望らのために……。」


 神妙な面持ちの英雄妖精。

 が、今まで蝙蝠精霊が彼に見ていた憂いが消えた……前を見据える気配を感じた彼女も首肯し――同時に彼からの書状が蝙蝠精霊の身に括り付けられた。


「迷いの森を行くためには彼奴あやつの……【水の精霊 ウンディーネ】の力が必須。これを彼女へ先んじて渡してくれまいか。」


「キーキッ!」


 語られた水の精霊ウンディーネへの協力を得るため……蝙蝠精霊が一行から別行動にて一路魔導機械アーレス帝国首都より南東——迷いの森南に位置する水の都へと向かうのであった。

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