Act.83 移民の救世主、ペネレーゼ・リバンダ
パパのお店から飛び出して、自分の生き方を探さんとしたのはいつ頃だったでしょうか。
それは決してパパを嫌いになった訳でも、ましてやドワーフ族に嫌気がさした訳でもありません。
発端はやはり私の誇りであり……目指すべき目標であったママの存在が影響していたのです。
「(ペンネロッタは大きくなったら何になりたいの?ママに教えてくれる?)」
「(うーんとね、ペンネロッタはね——きれいなママみたいになるかんじなの!)」
「(フフッ……ありがとうね、ペンネロッタ。でもね、綺麗になるためには何かを目指して頑張る人でなければなれないのよ?)」
「(えー?なんでなかんじー?)」
ママが事ある毎に私へ言って聞かせてくれたのが、綺麗になるためには何事にも努力を惜しまないと言う秘訣でした。
けどその言葉はママが常に実践していた日常に他ならず……建前や幻想でない事は——子供ながらに私も実感していたのを覚えています。
そう……ママは——
∫∫∫∫∫∫
冒険前に一度立ち寄る所があると言い出したオサレなドワーフに付き、
しかしその異様な光景を目にした街行く人々も、
「何かヒュレイカさん……やたらと注目を浴びてる感じ(汗)?子供達がまん丸に目を見開いてる感じよ?」
「ほえ?そう?あたし的にはいつもとあんまり変わんないんだけど……。」
「……どう見てもその余りある手荷物を、ヒュレイカさんが軽々抱えてる点に注目してる感じよ?」
「うーん、そう言うのはもう慣れたしね~~。」
言うに及ばずツインテ騎士は曲がりなりにも少女であり……だがその彼女が抱える手荷物の量が尋常ではない事が影響していた。
気にしすぎるオサレなドワーフの意見を、全く気にしないツインテ騎士が軽く流し——そもそも立ち寄る所とだけしか聞き及ばない目的地を代わりに問い返す。
が……そこへツインテ騎士も想定外の返答が飛ぶ事となった。
「それはそうと、ペネ。一体どこに立ち寄るって言うの?ああ……もしかしてそのオサレ過ぎるおめかしを実現する化粧品購入がまだだから、その専門店とか——」
「あら、ごめんなさい……まだ場所を言ってなかった感じね。これから行くのはこのフェルデロンドの町外れにある共同墓地——ママのお墓よ?」
「あっ……え?って、その――ごめん!」
「気にしなくても大丈夫な感じよ?これからママに旅に出る報告と、ペネにも素敵なお友達がたくさん出来た事を伝えに行くの——」
「あまり重苦しい感じで行ったら、ママが心配してしまうわ?」
それはまさに予想だにしない事実。
うら若きドワーフ少女の母なら若くして健在と、恐らくはまだ
その予想を悪い意味で外した答えだったのだ。
さしものツインテ騎士も、オリアナが自分の過去を聞いた時の様に「やってしまった!?」と慌てた謝罪を送る。
しかしオサレなドワーフも、その時のツインテ騎士同様気にする事などないと笑って返して来た。
それでも一行でもかなり重い部類の話題な事もあり、ツインテ騎士すらドワーフ少女を傷付けまいと言葉を
同時に——それは一行が秘めたる優しさの一端であると、そう悟ったオサレなドワーフもツインテ騎士の配慮を謹んで受け取っていた。
その足で向かった先は賑わいが帝国内に於いて五指に入るフェルデロンドでも、違う世界へ訪れた様な空気を醸し出す場所が二人を出迎える。
街から少し東へ丘を登る様に広がるのは……木々や石造り——果ては金属製の物まで混じる十字架が無数に立つ静かなる世界。
帝国が運営する共同墓地であった。
ツインテ騎士は帝国出身——が、帝国首都であるアグザレスタであれば同様の場所を知り得るも……旅の通過点程度のフェルデロンド墓地は範疇の外。
言われるまで彼女がそこを知らぬも道理である。
厳かな空気が二人を包む中……オサレなドワーフがツインテ騎士を引き連れ向かったのは、丘の上の小高い場所に
その下に丘を一望する様に立つ小さな十字架の元であった。
そしてドワーフ少女が懐かしむ様に語りだす。
笑顔であるも……連星太陽に輝く雫を目尻へ浮かべ、懐かしき思い出に浸る様に——
「ペネのパパ……ケンゴロウ・リバンダは元々移民な感じなの。そしてドワーフ族の伝統の元、移り住んだあの地でもおソバ屋を開く事になった——」
「その最初のお客様がペネのママ——当時はペネレーゼ・ディーナスであった
「ペネ……レーゼ——あ……。」
「そう!最初にミシャリアさんが呼んでくれた愛称は、まさにママから取られた名前その物な感じなの。」
偶然の一致に運命の因果を感じるツインテ騎士。
それを視界に捉えたオサレなドワーフも続ける。
「そのママが最初に訪れた時、パパは本当に焦った感じらしいわ。だって開口一番の言葉が「こちらで栄養のある食事は摂れますか!?」だったんだから……。」
「えい……うん?」
続く言葉にツインテ騎士も頭を
「ママがその頃従事していたのは、ボランティアと言う慈善事業——無償で生きる力を持たぬ人達を支援するお仕事だった感じよ。」
「最初に聞いたその言葉の真意……それはママが支援の最中、幾度目かの受け入れを行っていた移民で栄養失調に掛かる子供達が複数見受けられた時の事――」
遠き日々の――
父親から聞き及んだ母親の誇らしき行いの一部始終。
自慢する様に……懐かしむ様に少女は語る。
「不調を抱えた子供達へ食料を与えるも、重度の症状を訴える子達に行き渡る物が不足してしまい……たまたま移民生活を初めて間もなくソバ家を開店していた数少ない大衆食堂なウチへ――その時のママが飛び込んだって感じね。」
膝を折ったオサレなドワーフは母親が眠る十字架の前へと座し、両手を胸前で包み込む様に握ると――遠き日の母を思い浮かべて双眸を閉じる。
そしてしばし口を閉し祈りを捧げ……ツインテ騎士も彼女の母へと敬意と哀悼を表し、同じく祈りを捧げる。
少しの後、瞳を静かに開けたドワーフ少女は言葉を続けた。
少女の母が眼前の墓標へ眠るまでの経緯を――
「でもね、おかしな感じよ?だって子供達のために東奔西走するママったら、自分の状況すらも省みない状態でそれを
「ママは慈善事業に取り組む以前から体が病魔に蝕まれて……そんな身体で自分以外の移民を助ける無償の行いを続けていた感じなのだから。」
「……そう。その――そんなに凄いお母さんは、やっぱり?」
語るにつれ、ドワーフ少女が言わんとする事を理解していくツインテ騎士も……言葉を慎重に選びながら問い返す。
同じく騎士の配慮をありがたく受け止めながら、話した手前と――経緯の重要部分へと……ドワーフ少女も語りを進めていった。
「ヒュレイカさんの想像通りな感じね。それが縁で結ばれたパパと二人三脚でおソバ家を経営する傍らで、ボランティアは継続したママ――」
「
そこまで口にしたドワーフ少女は、十字架を見つめたまま言葉を切った。
が――その理由は少女の背を見ていたツインテ騎士にも理解に及ぶ事となる。
今まで気丈に振舞っていたドワーフ少女の、小さな肩が震えていたのを悟った騎士は――
「もう……ぜんぜん大丈夫じゃないでしょ?ペネ。」
そう言葉を発した直後――ドワーフ少女の身体を後から抱きしめた。
優しく包まれたそれを感じた少女は……
「あ……れ?ペネはもう――大丈夫と思ってた感じなのに……。なんで――」
嗚咽に混じる悲痛は最愛の母を失った悲しみ。
そんな少女を、ツインテ騎士はいつものバカなやり取りが嘘の様に抱きしめる。
騎士とて自分を支えてくれた者がいた。
自分が社会に認められぬ時分、彼女を余りある慈愛で守り――支えてくれた偉大なる姉の様な存在が……いた。
その偉大なる姉と呼べる者……かの最強を地で行く誇り高き
今度は騎士の少女がオレンジ色の柔らかな風となって、ドワーフ少女を優しく包み込む。
それはあの
姉の様に優しく……支える様に。
小さな少女が己が母の思い出と向き合い、零れる煌きが前へ進む力へ変わる時まで……ツインテ騎士はただ静かに――その身体を慈愛で包み続けていた。
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