Act.82 暴れ馬に身を揺られ
言うに及ばず荷物運搬を任せる二頭の暴れ馬受け入れと、
狂犬としても、フワフワ神官との行動は例によって姿隠しの術への
「ふわぁ~——アーレス帝国って、守備兵の規模も桁違い……なの。お見それしましたなの。」
「そうか?そもそもフレードが配属されたのはアグネスでも地方だろ。それこそ王国首都の詰所なら対して変わらないんじゃねぇか?」
「テトお兄ちゃんは甘いの。そこはやっぱり魔導を主体とするか、騎士を主体とするかによって……辺境の詰所規模でさえ違いが現れるの。」
「ほう、なるほど。アグネスは一般的に公開される情報では軍備もアーレスに並ぶと聞いていたが……内情はやはり魔導と騎士と言う主体文化の差が出ると——」
「同盟国と言う事で職務上の詮索は控えてたが……それでも初耳だな。」
詰所に備わる客人用の応接間は並ぶテーブルこそ数えるほどだが、それを囲む砦並みの石壁が高らかに
有事にはそこへ、軽く見積もっても百人程度の兵が即座に集合出来る利便性を備えた応接空間と言えた。
時間としては美貌の卿より早く着いた二人も、普段は出来ない情報交換を卿を待つ間交わしていたが……相変わらずの年の離れた信頼しあう兄弟然とした姿が板につく。
「ウェブスナー殿……すでに港にはアグネス貴族所有の船が停泊しているとの事。守備隊から向かわれたリオンズ卿ももう時期到着を——」
「ああ、オレにまで気を使わなくて構わねぇぜ。それとあっちはわざわざ海を越えていらっしゃる——急かす方が失礼ってもんだ。て事で、こっちは気にせず街の警備を優先しな。」
「先の暴竜の様な特異な事態は兎も角、野党の侵入程度ならアーレスでも珍しくはない。ならその対応へ人手が多いに越したことはねぇだろ?」
「はっ!では失礼します!」
テーブルから斜めに足を投げ出して座した狂犬へ、
それを傍目で眺めていたフワフワ神官も——
「て……テトお兄ちゃんは、やっぱり皇子殿下の親衛隊——なの。警備兵さん……お兄ちゃんの一声に、とても忠実に従ってたの。」
「ああ、よせよせ。オレの権力とか——そんなものは無いに等しい。仮にも闇夜に紛れるのがオレ本来の役目……そんなのは
自分の兄として絆を結んだ狂犬への素直な感想を口にしたフワフワ神官。
それに照れる様な嘆息で返す狂犬。
神官少年としては自分に新しく出来た兄の誇らしさに歓喜しての言葉であるが、狂犬はそこに後ろめたさとむず痒さが同居したかの面持ちを見せていた。
「あらあら、フレードったら……新しい兄の存在はさぞあなたの成長へ恩恵を与えている様ね?」
「あっ!フェザリナ様……はるばるご足労——痛み入りますなの!」
「いいわ、座ったままで。それとウェブスナー殿も、ご無沙汰ですわね。」
「悪りぃな、こんな帝国領まで。ミーシャに変わって礼を言わせて貰うよ、フェザリナ卿……ありがとさ――」
「ぶるるっ!」
「ひひぃぃん!」
「うおっ!?……って、相変わらずの暴れっぷりだな暴れ馬ーズ(汗)」
そんな二人のやり取りへ言葉を挟んだのは、狂犬が職務従事を促した帝国警備兵と入れ違う様に現れた影。
馬らも死線を供に潜り抜けた狂犬を覚えているのか――その顔を視界に捉えるや興奮を爆発させる。
「この子達も皆さんと別れてからこちら、とても寂しそうにしてまして……フレードが先読みにて用意した件が無ければ励ます事も叶わなかった所です。」
「なので二頭とも喜んでますよ?ウェブスナー殿。」
「いや、寂しいって(汗)この二頭にその言葉は全くもって似合わねぇんだが?」
「よかったの。ボージェもフランも、また旅が出きる――」
「待て待て、フレード……そりゃこいつらの愛称か?」
「そうなの。可愛い、なの。」
「はぁ……まあいいや。」
美貌の卿が暴れ馬を寂しがっていたと放ち、フワフワ神官はそぐわぬ愛称で暴れ馬を愛で上げる。
その光景に今までの見てくれによって暴れ馬達を推し量っていた狂犬が、存外にこの馬らも可愛い所はあるのかも?と半ば錯乱しつつ事の成り行きに身を任せる。
海を渡り訪れた美貌の卿も狂犬とフワフワ神官の、仲睦まじい兄弟然とした姿に感嘆を覚えつつ……帝国へと足を運んだ諸々の件のやり取りへと移って行くのであった。
∫∫∫∫∫∫
まさかの邂逅を遂げた二頭の暴れ馬。
フレードの呼ぶ愛称は存外に呼びやすいのに気付いた俺は、釈然としないながらもその呼称で行く事とし——
その背に揺られながら帝国警備隊詰所を後にした。
フレードはさしもの警備隊出身……フランだったか——暴れ馬を見事に操る姿が様になる。
最初はミーシャと変わらぬその
さらりと手にしたメイスで一瞬浮遊術式を展開するや、舞い上がった姿を視認し「そういやそれがあったな……」と頭の回る弟分の有能さを実感した。
そのまま直でお宿……と言う訳には行かず、今荷物が
あの
その後の恐ろしい自身の惨状に身震いを覚えながら、買い出し組出迎えの選択肢を選んだ訳だ。
「フェザリナ卿もこんな所までご苦労な事だが、オリアナの件でようやく一応の結末は見た感じだな。今回の報酬もオリアナの改心が影響して奮発するなんざ——」
「あいつはいい面でも悪い面でも、警備隊に注目されてたって訳か。」
ボージェとやらに揺られる俺は隣へ並ぶフレードへ話題を振り、首肯する弟分も思う所を返して来る。
「フェザリナ様、本当にお疲れ様……なの。オリアナさんも、最初は警備隊内で
「
「って……まさかあの奇抜な警備のおっさんが出て来るのは、流石に想像したなかったぞおい(汗)」
そして混じる、あのメイド喫茶で謎の格好で現れた警備兵の名には焦ったが……結果オリアナの光ある未来に繋がったのは良しとしよう。
あいつがオレの様な裏社会で育った事を知り得てからは、その身の上を思わず心配してしまうオレがいて——
言いようの無い安堵が浮かんだのは思い違いではいはずだ。
と思考していたオレをじっと見やるフレードが、不思議そうな表情であらぬ言葉を投げて来る。
それは今までのオレでも想定所ではない内容……言葉が耳を貫いた時点で叩き付けられてしまった。
「テトお兄ちゃん……もしかしてオリアナさんの事——好きなの?」
「……は?ふぉああああーーーーーっっ!!??」
焦って吹き出した事で驚いたボージェが暴れ出し、危うく落馬しそうになったオレは……その時の自分が取った行動に後々後悔する事になったんだ。
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