Act.80 白黒少女のシンデレラストーリー

 最初は組織の意向に納得が行かず、お父様の制止を振り切って自分流の組織を立ち上げました。

 けれどその時自分が掲げた新たなる組織の名を轟かせると言う思惑は、あの街で嘘の依頼で利用しようとした冒険者に物の見事に打ち砕かれます。

 それもそのはず——世間を裏社会出生とは言え何も知らなかった私は、その裏社会にすら介入を可能とする光に満ちた彼女達……超法規特殊防衛隊ロウフルディフェンサーなどと言われる存在など知る由もなかったのですから。


 けれど何がどうしてそうなったのか、私も今ではその部隊へ囚われた組織の敗残兵的なものでは無い……共に冒険をする仲間として迎えられています。


 その果てに——私が正式に部隊へ編入するための弊害でもある、と言う生い立ちへ……を頂く事になったのです。


 今私は……アーレス帝国へ亡命したヴァファル公国の一令嬢として、帝国お抱え武器商人でもあるレーベンハイト家が擁するお屋敷の門を跨いでいました。


「オリアナよ、少し緊張を解いたらどうじゃ?別にお主を取って食おうとする様な者と対峙する訳でもない——むしろそれは失礼に当たるぞ。」


「いやっ!?でも私、こんなに緊張したのは人生でもお初と言うか——」


「そうだね。緊張のあまりあらぬ所で〈オリリンにゃぁ☆〉が発動しても困るから、ちょっと肩の力を——」


「そこでオリリンとか言わないでっ!?そもそも、根本が逆転してんでしょうがっ!?」


「——君、よりを認めたね今……。」


「なっ……ななななっ!!?」


 リドさんの言葉で緊張は頂点に——けど直後のミーシャ定番でもある弄りで、完全にメイドな点を認めた様な返しをしてしまい……緊張を通り越してテンパり始めた私。

 すでに面会を受ける前から、自信が絶望的なまでに消失していたのは事実です。


 殿下よりの諸々の書状を携えた私に、部隊を纏めるミーシャと立会人であるリドさんが付き——

 辿り着いたここは、アーレス帝国領内でチューン展開する高級武具取り扱い店……〈アームズ・オブ・エンパイア〉を擁する店舗兼住居となる場所です。


 聞く所によればこの店の歴史は深く、かのアーレスの名を継承していた十二代皇帝以前時代より軍事面兵装——果ては冒険者用の武具や庶民の自衛武具までも網羅して来た老舗だそうです。


「て言うかミーシャ……って言わなかった?何かお店的な物の巨大さもさる事ながら——??」


「ふぅ……仮にもアーレス皇家に仕え続けた貴族家だよ?お城の一つや二つは不思議でもないだろう。」


「……私ってこんな所へ養子に入るの?マジで?冗談抜きで??」


「今更じゃなオリアナよ!もうちっと張らんか!」


「黒ジィさん、何それ。〈アカツキロウ〉で言うセクハラかい?これだからボケジジィは——」


「貴様ミーシャ!?今の流れから、よくもそんな明後日の方向へ向けて弄ってくれたなっ!?さしものワシもとやらの意味を言及させて貰うぞっ!?」


「……ぷっ!くくくっ!」


 肩の力を抜けと言いながら、私を挟んでミーシャの弄りが飛び……同じく挟んだままでリドさんの怒れるツッコミ待ったなしの惨状。

 もう何度も経験したそのやり取りは、時として場の空気を和らげる効果もあるのを知った私は……そんなバカバカしいやり取りに失笑を零します。


 それを見た二人も柔らかな笑みを浮かべ、一路そのお城そのものと言える店舗奥へと私達は足を向けたのです。


 記憶のどこかにある、題名も分からぬ物語にあった……——

 素敵な物語の一幕を私自身が演じる様に——



∫∫∫∫∫∫



 帝国首都アグザレスタの城下町。

 そこより早馬にて駆け付けた者が、フェルデロンドへと入り……策謀の皇子サイザーより報告のあったヴァファル公国からの亡命者——その養子縁組のために支局店にて事を進めていた。

 無論特秘とされる黒の武器商人ヴェゾロッサの点を知り得た上で、世間への体裁を取り繕う様にも指示を受けていた。


「閣下、すでに帝国法規隊の代表者と……かの英雄隊のダークエルフ殿お付きの元——此度養子縁組される令嬢が参っております。」


「ああ、今しばらく待ってもらえる様お伝え願えるかい?ネリダ。……ふぅ、君は僕が養子を取る事が不服かい?」


「いえ、滅相もありません!私はそんな——」


「ふぅ——顔に出ているね。隠さなくても構わないよ……君が一番最初に縁組で来てはや三人目——しかしこれも帝国への恩義に報いるためだ。」


「新たな私の義理娘とも仲良くやってくれ給え?」


かしこまりました、レーベンハイト公爵卿。では卿のその旨をお伝えして来ます。」


 早馬を馬小屋へ繋ぐ卿と称された男は、客人来訪を告げに来た侍女風の少女へ客人への言伝を預けると——

 急ぎ向かった事でかいた汗の滴るままでは失礼にあたると、軽くそれを流すために城の如くそびえる支局店内部へと足を向けた。


 城の様な店舗へ足を進める男は人種ひとしゅの年齢では四十代半ば。

 柔らかな物腰に少し長めの深い茶色の御髪に、縁なしの丸眼鏡をずらして掛けた丹精な顔立ち。

 双眸も様相を表す様に穏やかそのもので、身の丈は通常の人種ひとしゅ男性でも長身に当たる——言うなれば理知的な長身イケメンである。


 艶やかな肌はとても四十代の身空とは思えぬ若々しさを湛え……その公爵卿——アルベルト・ルード・レーベンハイト卿が迎える客人のために凛々しき身なりを整えていた。


「ふぅ……全くサイザー皇子殿下も、相変わらず無茶ぶりをかましてくれる。だがあのアーレス上皇陛下すらも、ここまで理知に飛んだ奇策は無かった——」


「アスタルク第一皇子が行方不明の中、かのゼィーク陛下が殿下を押すのも頷けるな。」


 軽く洗面室で汗を流す柔らかなる卿は独りごちる。

 無茶を通すとの苦言を漏らす双眸は、第二皇子への羨望に満ち溢れる。

 言葉にする様な非難は篭ってなどいなかった。

 そこには策謀の皇子よりもたらされた、法規隊ディフェンサーと呼ばれる部隊へいわく付きの令嬢を組み込むために……亡命からの養子縁組と言う、破天荒な奇策が振るわれた事への——


 その策を振るう上で、並々ならぬ忠誠を感じていたのだ。


「このアーレス帝国へ代々仕え続けてはや百余年——それもこの様な気運が巡って来るとは……世の中分からぬ物だな。」


 かの英雄隊で名を馳せた今は亡きアーレス上皇時代より、さらにさかのぼる事数十年前。

 柔らかなる卿が言う百余年の時をこの公爵家は、武器商人の体で奉公し続けていた。

 だが表舞台に立てぬ商人家業の関係上……いつの時代も裏方家業に従事するしかなく——帝国に代々仕えるお家としては、目立った活躍も無く時を過ごしていたのだ。


 それが突然降って湧いたお役の命。

 詰まる所それは、以前とさほど変わらぬ裏方支援ではある——が……それが直接策謀の皇子が構想する新たな国家構築へ関わる支援。

 その未だかつて無い構想の先駆けとなる部隊に所属する令嬢を、レーベンハイト家所縁ゆかりの者とすると宣言された様な物であった。


 それはただの物資や兵装支援では無い……を得たに等しかった。


「オリアナ・ギャランド……いや?すでに我が義理の娘、オリアナ・レーベンハイトか。ふぅ……会うのが楽しみだな。」


 まさにレーベンハイト家と言う、帝国に仕え続けたお家の新たなる未来を背負う少女を……すでに待ち切れぬ体の柔らかなる卿アルベルトは——

 早々に身なりを整えると、新しい娘を待たせる客間へと足を運んだのだった。

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