Act.78 黒妖精の記憶は霊位妖精と共に
世界へ飛び立った冒険者——まだ皇子であったアーレス率いる
冒険途中で交わした契約が終了を見た妖精に属する仲間達が、各々の住処へと帰郷をと動いていた。
だが——
詰まる所それは、
その中でも国家の政治的な考察に基づくものでは無い……個人的な恨み辛みを糧に敵意を募らせる者が——帰郷を見た妖精達を襲う事となった。
『クヒヒッ……辛くも奴らの毒牙から逃れられた様だが——我は何度も警告したハズだ。奴ら
「確かにお主はそう言った。じゃから信の置けぬ
「ええんおす、リドはん。
「ティティ!じゃが——じゃがこのままでは、サラディンとももう会えぬかも知れんのだぞ!?お前はあの熱い男を心底気に入っておったのではなかったのか!?」
己が私利私慾に駆られた
当時の
そんな中——冒険の最中手を借りざるを得なかった、狂気を司る精霊〈サイクリア〉…… 一時的とは言え共に歩む上での条件を黒妖精へ提示していた。
その内容とは……狂気の精霊が手を貸している間、万一
術者である
『そうだ。あのアーレス共は確かに我に危害を加える様な事は無かった——が、その後が問題だ……クヒッ!』
『まあお前が否定し、ティティ・フロウが受け入れるというなら——我は我の贄となるのがどちらであろうと構わんのだがなぁ。』
「……ま、待ってくれサイクリア!ワシがあの
しかし
その
『クヒヒッ!もう手遅れだ、ダークエルフ リド・エイブラ!契約を違え、
すでに宣言された狂気の精霊の言葉を
「ほんまに堪忍おす、リド。サラディンにもあんじょうよろしゅうお伝え下さい。ほな——今までおおきにな……。」
絶望の中に沈んだ英雄妖精は、狂気の精霊に呑まれた霊位妖精をただ見送る事となる。
彼が長命な人生で唯一愛した、高貴なる少女を——ただ嘆きと共に見送っていた。
その狂気の精霊が姿を消した悲しみの地は……
∫∫∫∫∫∫
アーレスの南東。
昼食から数時間がたった頃に殿下からの再度の呼び出し——それも単独でとのお呼びがかかった私は殿下が間借りするホテルの一室へ赴きます。
まあそこは流石に皇族が滞在する様に
そんな豪華さに
豪勢すぎる椅子へジェシカ様に隣り合う様に座していた私は、その
「もしかして殿下……それは詰まる所、新たな依頼に関する情報を提示されたと取っても構わないのでしょうか?」
考えうる限り、先の
それを察したジェシカ様と殿下が視線を合わせて頷き合うと——まさに私が意図した通りの言葉と……少し意外な人物からの要請としてそれが告げられたのです。
「随分と情報面での鋭さが増したな、ミーシャ。早い話がそう言う事だ。——が、今回はオレからの依頼ではなく……リド卿立っての依頼と受け取って貰えるか?」
「リド卿からの依頼……ですか?」
依頼主である人物の名が出た時点で私が直感したのは……かの英雄隊に属したダークエルフ殿が、想像以上に私達を買ってくれてる事実。
同時に、それを踏まえた上での依頼と言う含みが殿下の視線には宿っていたのです。
それらを考慮するだけでもこの依頼……
「……分かりました、殿下。それは受けざるを得ない依頼と感じますので、私が責任を持って皆に詳細を伝え……依頼承諾の方向で進めたいと思います。」
「そうか……。難事続きで済まないな、ミーシャ。」
嘆息ながら謝罪を送る殿下はいつもの通り。
自分に仕える配下だろうが、謝罪が必要とあれば何の
一般的に踏ん反り返った貴族様が台等する世界ではあり得ないこの真摯さが、こう言う場合に有無を言わさぬ説得力を生み——
結果こちらも事をおざなりに出来ない現状となり……けれどそれが信を置かれている事実と悟る私達
リド卿からの依頼詳細を聞き及んだ私は、やり取りを終えるとお部屋からの退出を
そして今度はそれをウチのちょっとおバカだけど素敵な護衛達へ如何にして伝えようかと——ああ、それは決しておバカさん達が泡を噴く様な難題に変換して吹っかけようとか……そう言う事は思考していない訳で。
と、自分でも分かる様な嫌らしい顔を浮かべていた私は——中々に珍しい……ジェシカ様から呼び止められる事になるのです。
「ミシャリア、ちょっといいかしら?」
「えっ?あ……ジェシカ様、珍しいですね。どんなご用件……もしかしてヒュレイカの件で何か不手際でも——」
珍しい事は珍しいのですが——
すでに自分の中では、ジェシカ様発言
そんな私に気付いたジェシカ様から、そうではないとの嘆息を送られ……では一体何がと頭を
そして告げられたのは——
「迷いの森の昔話の下りにあった様に、ティティ・フロウはお二人に取って——いえ……特にリド卿にとっては無くてはならない存在です。どうか——」
「どうかミシャリア・クロードリア……あなたの力でティティ・フロウを精霊の呪縛から解き放ち、リド卿の元へと帰して差し上げて下さい。この通りです。」
ティティ・フロウと言うハイエルフが、サラディンでは無く……リド卿と深い繋がりがあるとの旨でした。
さらには本当に珍しい事態——あのジェシカ様が
「分かりました、ジェシカ様。我ら
アーレス帝国全ての兵が目上の者へ敬意と了承を示す儀に
それを見たジェシカ様は双眸へ女性しか解り得ぬ憂いを帯びて、私への言葉なき返事としたのでした。
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