Act.63 未確認竜種、恐竜種
すでに飛び交う村々よりの悲鳴は、徐々に彼らの一時待機する村までも忍び寄る。
その被害に晒されるのは——両火山近隣で生活を営んでいたアーレスの民達である。
「おい冗談だろ!?もうあんな区域まで来てるのか奴は!?」
「誰か早馬を!このままじゃ、この
竜種でも種の特徴によっては、今確認される様な速度で進行するのは稀である。
街に壊滅的な被害を
だが今——村々を震撼させているのは、有翼竜ではなかった。
それは
一部の竜種研究の権威のみ知り得るそれは……
朝焼けから時も過ぎた頃、一行は質素なお宿から少し離れた食事処【火山のオソバ】店へと足を運んでいた。
店構えは中央の建物と、テーブルを幾つか備える開けた木造小屋を持ち——質素ながらも、雨を凌げ……旅人が気軽に足を運ぶのには打って付けの気さくさが持ち味の名店。
街道側にかかる看板の『早い!安い!美味い!』が、最大の売りである……
「うおっ!?懐かしいなオイ……まだやってたのかよこの店!」
「ボク、知ってるの。アグネス王国でも——帝国の名店百選、その書物でベスト10入りする名店……なの。」
「ふうむ……よもや他国まで名が
「なんだって?ケンゴロウ……ああ確かこの店の店主——って、リド卿は知り合いなのかい?」
「おお、済まぬの。話してはおらんかったが、ここはワシが頻繁に立ち寄る店でな?食事がてらに訪れては、世間の情報収集に明け暮れておった——」
「この辺境地方での数少ない情報源として、店主に活用させてもろうておるわ。」
「ああ、なるほど。確かに辺境集落での情報源としては打って付けだね。」
名店【火山のオソバ】は、そんな民の憩いの場でもあったのだ。
「へい、らっしゃい!——おお、リドの旦那かい!あん?後ろは見ねえ顔だな……お仲間か?まあいい——」
「せっかく来たんだ!ウチの名物天ソバ——得と味わってけぃ!べらぼうめぃ!」
響く声はなんとも威勢の良い叫び。
知らぬ者が聞けば
かの〈アカツキロウ〉の一部地域柄である、エドッコと言う特徴を全面に押し出していた。
……のだが——
「アカツキロウ風の口調だから、あちら出身かと思えば……なんでまたドワーフなんだい?ちょっと予想外過ぎて笑えないね。」
「こりゃミーシャよ!お主はもう少し歯に絹を着せんか!仲間への
「良いって事よ、リド卿!その法衣からして、賢者様だろうから——それ程の方からのお言葉ならありがたいってもんでぃ!っとそれより——」
まさかの初対面から、種族柄への
たまりかねた
その
「ところでリド卿にお連れさんよ……旅の途中でドワーフの娘に会わなかったかい?器量はこう……艶やかな栗色のフタ房三つ編みに、クリッとした
「ウチらドワーフ界でも、絶世の美少女と噂された……ウチの娘だ!」
「「「「……ドワーフ?絶世?娘??」」」」
追加された内容へ疑問符を浮かべる
彼らは同時に視線を店主へ向け……さらに絶世の美少女と称された娘とやらの容姿を想像した。
店主の風貌はドワーフの種族柄に違わずずんぐりむっくり。
口元から顎にかけて蓄えられる立派なヒゲ面。
何よりその
共通認識から来る容姿を想像した一行——口を開くや一斉に、ゲッソリ感と共に失礼千万な嘆息を零した。
「「「「ええぇぇ~~……(汗)」」」」
「「失礼極まりないなお前らっ!?」」
一行のさしもの反応には、英雄妖精とソバ屋店主すらハモって抗議してしまう。
そして民には気付かれぬ
「やりやがった……。」と他に見えぬ姿のまま、乾いた汗を流しあっていた。
∫∫∫∫∫∫
ちょっと想定外の……と言うか最近想定外ばかり起き過ぎて、それが当たり前になり始めた頃——
しかし朝食に
何ともこれはこれでアリとも思う次第だね。
「このセルフサービスと言うスタイルも〈アカツキロウ〉発祥だね。うむ——これは存外にありだろう。あっ……私はこのちょっと鼻に付く臭いが特徴の、ネギと言う奴大盛りで。」
「あっ!じゃああたしこのカキアゲって揚げ物を大盛り——」
「ほう?ヒュレイカも、食費面で借金候補に立候補かい?」
「一つで……。」
「バカね……こう言うのはまずメイン——オソバから堪能しないと、味わうも何も無いでしょうが。」
「お主ら……早朝からソバと言うシチュエーションでも容赦が無いのじゃな(汗)」
「オレはまあ腹に入ればいいと言うか……って、何だよ(汗)」
「何でもないよ。さあ、朝食を堪能しようか。皆席へ——」
精霊組でも実体化が主である
残りのお腹が減る一行は、美味しくオソバを頂くために店内へと赴きます。
店主のドワーフがリド卿と知り合いとか、その娘の行方を尋ねられるとかを経て後——セルフサービスと言う〈アカツキロウ〉式のスタイルでオソバを受け取る私達は、朝っぱらからの重めの食事にありつきます。
そして最後に言葉を放つテンパロットには、食事の何たるかを教え込まなくてはと思考しつつ——何やらリド卿の視線を気にする彼を確認し……腐っても帝国所属の護衛と察したね。
彼にとってのリド卿はまさに、帝国が誇る伝説級の御仁——その様な者を
結果……食堂バスターズの素行が
残念ながら私は、
「うん……このオソバののど越しもさる事ながら、ダシの効いた煮汁が一層の深みを——これはアーレス西のフェルデロンド産、ナンボシの干物とクンブから取った物だね?」
「おうっ!やるなお嬢さん……その通りでぃ!辺境で物が入り辛い所だが……そいつぁ
つるりとそそるそのオソバを皆が堪能し——旨味の効いたダシへ賛美を贈らんとする私。
気前良く返答する満面の笑みな、ドワーフ店主のケンゴロウ氏。
その食を楽しむと言う贅沢にして至福の時間を……遠くから響く地鳴りの様な音が、徐々に浸蝕していたのです。
「——何だい?何か地鳴りの様な音が……——」
気付いたのはまさに間一髪と言えたでしょう——
その直感を放つと同じぐらいのタイミングで……林で待機していたサラディン氏とサリュアナが店舗へと飛び込んできたのです。
「賢者ミーシャっ!まずいぜ、ファッキン!あのヤロウ、俺が
「はっ!?サラディンにサリュアナ……一体何が——」
「この村は危険サリ!早く皆を避難させるサリっ!暴竜が……古代竜種レックシアが、襲って来たサリっ!!」
「はっ……って——えええええええっっ!!?」
一瞬惚けた顔をしてしまった私は、その事態へ遅れて気付き——
「「「「むぐっ!?むぐーーーーーーっっ!!?」」」」
未だオソバを頬張っていた一行が皆……皆してソバを噴き出さん勢いで仰天します。
まさかの——
暴竜からの襲撃と言う事態に。
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