Act.62 古代竜種討伐会議

 連星太陽が朝を引き連れやって来た頃……しかしその日は生憎の空模様。

 比較的好天に恵まれる正統魔導アグネス王国と異なり——ここ魔導機械アーレス帝国は近くにある火山とそこへ連なる山脈が影響し、急な天候変化が襲う事もしばしばなのです。


 曇天は山々へ向かうにつれ暗雲となり、山脈の頂上近辺では天の怒りと伝承に残る落雷が後を絶ちません。

 さらには一雨来そうな雲行きの中、古代竜種エンドラ級への対策会議は続きます。


 お宿の一角——申し訳程度の広間でテーブルを囲む私達は、先の自分の醜態から一転……普通にガチの作戦会議を展開します。


 その中で重要事項と言える点……我々がこれより討伐せんとする古代竜種エンドラ級の特徴を、誰よりも熟知するサラディン氏が語り出します。


「まずは奴の生い立ちからだ。奴はそもそも最近までは、下位種レッサー級の暴竜でしか——ああ、すまねぇ……俺様の人生感覚で語っちまったな。ひと種の歴史に換算した場合——」


「ざっと六十年って所か?あのアーレスがまだ若造の頃は、そこまで驚異とは言えなかったんだファッキン。」


 触れられるのはやはり……かの最後の輝皇帝ファイナ・エル・カイゼルの呼び声高き、アーレス上皇陛下がご盛況であらせられた時代の話。

 リド卿にサラディン氏はまさにその時代、赤き大地ザガディアスを駆け巡ったと言う事実の一端です。

 精霊に黒妖精ダークエルフ——長命種故の人生感覚は、私達ひと種から見ても特異でもありました。


 さらに続けるサラディン氏は——


「それが、現アーレス帝国皇帝ゼィークが産声を上げた時期から始まり……どういう訳か、突然勢力を伸ばし始めた奴は——活火山ラドニス近隣の集落を襲い始めた。」


「だが害獣扱いを受けぬ下位種レッサー級であった故、帝国は周辺の集落へ避難指示を出し——俺様が居住していた休火山デュナス近隣へと、ひと種含む民を避難させる程度に止まっていたんだ……クレイジー。」


「なるほど……確か竜種でも下位種レッサー級は自然の摂理にのっとった扱いで共存が鉄則——だったね。ん?待ってくれ。テンパロット、確か君は——」


「ん?ああ——」


 竜種の位によって異なると言う、対生命に於ける保護原則上の話を持ち出し……納得しそうになった私は、僅かに引っかかった点——

 その点を口にしたテンパロットへと話題を振ります。

 思い出した様に語るテンパロットも、自分が口にした情報上の違和感を感じ始めます。


「オレが聞いた情報でも、下位種レッサー級の存在は確かに無かった。だがよ……だからと言って想定出来る種のレベルは高く見積もって上位種エルダー級止まり――」


「そこへ古代竜種エンドラ級なんてのが突然降って沸いた様に現れるのは、生態系の摂理から見てもおかしいぜ?」


「だろうね……。」


 サラディン氏の情報とテンパロットの情報から見える違和感。

 それを冷静に吟味し―― 一つの仮説へと辿りつきます。

 その決め手となったのは――


「リド卿。古代竜種エンドラ級の一般的な特徴としては、やはり体内に魔法力マジェクトロンを蓄積する何らかの物質を溜め込んでいる――それがまずは古代竜種エンドラ級と称される定義……で間違いないね?」


「ふむ……中々に長けた思考じゃの。いかにもじゃ。少なくとも一定量の霊銀に属する金属が、竜種体内で魔法力マジェクトロンを蓄積する事で種としての恐るべき進化を遂げる――」


「それが最低限の定義、であるの。」


「やはり、霊銀――か。」


 竜種が下位、上位――そして古代種と、世界的に正式な分類がなされる境界線。

 その明確なる線引きは下位、そして上位以上に分かれる。

 重要なのは竜種がであるか――或いはに該当するか、なんだ。 


 そして獣である竜種が何処いずこかで見つけた餌場……そこに霊銀鉱山となりうる場所が存在すると仮定し――彼等は食した得物を体内で速やかに分解するため、その霊銀を岩ごと体内へ取り込みます。

 取り込まれた岩が体内の食物をすり潰す事で、分解促進が促されるためだね。


「巨大な生命体は生存するためのエネルギーも相当量のはずだ。下位種レッサー級においても十メートルを越えるクラスは稀――ならばそれ以上の種は、食した得物の早急な分解を即すため周囲の岩を取り込むはずだ。」


「仮定として、その食した岩に大量の霊銀が紛れ込んでいれば――下位種レッサー級が。結果、古代竜種エンドラ級クラスの異獣が誕生……どうだい?」


 提示した解へ皆がそれぞれの反応を示します。

 私と長き付き合いである護衛、テンパロットとヒュレイカはこちらを見るやしたり顔。

 リド卿とサラディン氏に至っては、まん丸と見開いた目でこちらを凝視しているね。

 さっき醜態を晒したぶん、ここはドヤ顔を送り付けてやるとしよう。


「……こいつぁ、想定外だぜクレイジー。確かにあの活火山ラドニスは霊銀を産出するだけのエネルギーが詰まってやがるが――」


「うむ――これはたまげたわい。生態系上の情報――と言うやつか?その知識はから叩き込まれた物だろう……ミーシャよ。」


「ああ、その通りさ。これはサイザー殿下が得意とする分野の一端――生命の生態系に於ける情報の基礎なんだ。未だ赤き大地ザガディアスの大半は、口伝や大まかな感覚で生命を語る地域や国も多いだろう――」


「けれど殿下は、そうした生命の生きる様すら明確な情報として収集し……世界の最先端をひた走る情報戦略を磨き続けておられるんだ。」


 殿下から叩き込まれた内容としては、赤き大地ザガディアスに於ける竜種の大別として……翼を持つ首長竜に属する竜王種ギドゥーラを始め——小型翼竜の腕を持つ飛竜種ワイバーンに、腕の無い蛇竜種ワイアームが確認されている。

 さらに未だ未確認ながら……竜王種ギドゥーラ系と異なる純粋な獣の直系に当たる種を、恐竜ティレクスと呼称し——それらが世界へ数多に存在していると言う物。

 それら竜種はみな本質部分で似通った生態を持ち、さらには長命にまかせて幾多の歴史へ股がるように存在していると聞き及んでいた。


 蓄積された情報を元に、今対象としている古代竜種エンドラ級の生態を照らし合わせ——解を導き出します。


「その生態系に準ずる情報を考慮した上で、今対象としている古代竜種エンドラ級について考えてみたんだけどね——そいつはまだ古代竜種エンドラ級としては……って事だね?」


「そいつが上位種エルダー級から脱皮をはかったばかり——我々の部隊で手が出せる今の内に討伐を……ってところだろうか。」


 そして今度は、私を見やる護衛達が一斉にリド卿とサラディン氏へとドヤ顔を送りつけ——「どうだ、ウチの主は!」感を漏れなく叩き付けます。

 それを受けた二人の新参な古兵ふるつわものは互いに双眸を見合わすと——


「カカッ!何とも恐れいったわ!よもや我らが提供した情報から、そこまでの詳細な事実へ辿り着こうとはっ!のうサラディンよ!」


「へっ……見習いを名乗っちゃいるが——あんたは想像以上にクレイジーだぜ?賢者ミーシャ。正直俺の知り得るひと種——俺らと身近だった、あのアーレスのボンもそこまでの智を有していたとは思えねぇ。」


「こりゃぁオリアナ嬢に着いて行くには、相当の覚悟が必要になるってもんだぜファッキン。」


 二人の古兵ふるつわものよりの驚愕と感嘆を頂き、先の失態は返上待った無しだね。

 それもまさかの、かのアーレス上皇陛下を上回る賛美には少しむず痒いけれど——分かっている……私にはそれと、独自開発の精霊魔法に純物理魔法しか取り柄が無いんだ。


 その事を心へ再度刻む様に、信に足る仲間を一望した。

 それしか取り柄が無いならば……今この目に映る仲間の協力を得ればいい。

 今までも——そしてこれからも……——


 覚悟と決意が洗練され……まさにここから古代竜種エンドラ級を討伐するための策を捻り出そう——そんな一丸となった雰囲気が卓を囲んでいたはずなのです。


 そう——そんな覚悟を……、グウッッ…と木霊したでした。


「……っ!?いや、その——決してこれは、お腹が減ってるとかそういう訳では無く——」


「……ハラ黒さん、私は失望したよ。自分は色物ではないと豪語した結果がこの有様とは……。そんな君には、特別に食費面でも借金を——」


「だから私はハラ黒じゃぁ——えっ!?食費まで借金て、それ酷くないっ!?」


 いつもの如く反論も辞さないオリアナ……けど直後の食費面での借金認定には悲壮感さえ浮かべ——


「ああ……食費面の借金はオレでもねぇな。——やるな、オリアナ。」


「ちょっ……!?」


「あたしでもそれは無いわ。まあむしろ、破壊した建物弁償の中にはあらかた含まれてるんだろうけど……。それ単体なんて……——オリアナ。」


「だから……——」


「オリアナお姉ちゃん……食いしん坊さん、なの。」


「ふ……フレード君まで!?」


 まさに空気を壊したのは貴女ですとの、一同のいじりが炸裂したオリアナは——先の聖女の様な姿が跡形も無く吹き飛び、哀れなる乞食の様に小さくなってしまいました。

 まあ流石に彼女へ着いて行くとサラディン氏が言ってくれた手前、これ以上は彼らへも失礼に当たると……会議を一旦開き、待望のお食事タイムへと移行するとしましょう。


「冗談はさて置きと言いたいところだけど、オリアナに関する食費は実際を超え始めてるからね。そこん所覚悟しておく様に。」


 最後のトドメ……のつもりは無くとも、流れでそうなってしまい——

 遂にオリアナが白目を剥いて卒倒したね。

 そんな訳で——食事抜きになるよりはマシと思って貰う方向で、私達は朝食を取るべく食事処へと向かうのでした。

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