Act.64 古代竜種、恐竜レックシア

 一行が食事を堪能する、まさに同時刻——

 休火山デュナス近隣村々を襲う影。

 民はなんとか逃げ果せるも、逃げ遅れた家畜たちが無残に餌食となり——その巨大な影は訪れた。


 しかしその体躯……赤き大地ザガディアスで多く知られる竜種である竜王種ギドゥーラ——中でも翼竜種が大半を占める生態系に於いても、得意なる姿で大地を揺るがした。

 大きな顎は、他の竜種の様な蜥蜴を巨大にした体からはいささか遠く……申し訳程度の腕は、獲物を仕留め屈んだ身体を起こす振り子に使われ——

 何より……巨大にして隆々たる両脚が大地を踏み締めると、早馬の様な速度で次の獲物を狙い定める。


 まさに異端……それは赤き大地ザガディアスで生態が未確認とされた竜種——

 恐竜ティレクスと言う特殊な呼び名を有識者の間で名付けられていた。


 火蜥蜴サラマンダー親子の警告に【火山のオソバ】店内から飛び出した一行……、無駄に余裕がある様にも取れたが——

 遠目に確認した暴れ狂う猛威を目にし……ドンブリを持つみなが同時にそれを地に落とした。


「お……オイオイ(汗)こいつぁ——マズイぞ!てっきり翼竜系を想像して戦術を思考してたんだが——」


「……ね~~ヤバイわよね~~(汗)つか、これ……早く皆を避難させないと取り返しがつかなくなるわよ!?」


「同感だね!一先ず三方に分かれよう……私が囮になるから、辺境の地理に詳しいリド卿はサリュアナ……そしてシェンを率いて民を誘導して——」


 一行も想定が遥か斜めを通り越す、大地を揺らす暴君。

 二脚の強靭な足は一足で一行を追い立てる事も叶い——巨大なる顎は小さな異獣など一撃で絶命する牙を並べ立てる。


 赤き大地ザガディアスではその生態を知る者も殆どおらず、有名な翼竜種の方が知られると言う程のレア種……人はその竜種をこう呼んだ。


 ——陸上生物最強の竜種、恐竜ティレクスレックシアと——


「待てい、ミーシャ!お主が囮になど……その様な危険に飛び込む作戦など、今まで聞いた事もないぞっ!?」


「まあ、そう言うと思ったけどね!?でもこの場合は——」


「呼ばれて飛び出て何とやらやでーーっ!」


「……だから、私に精霊召喚の鍛錬を積ませてくれと言ってるだろう!?何で術式も展開してないのに現れるのさしーちゃん!空気読め!あとまだ呼んでないからね!?」


「っ!?お嬢、今はそれを論議している場合ではないぞっ!」


 法規隊ディフェンサー一行が行動であれやこれやの問答をする内——逃げ遅れた家畜が次々荒ぶる最強竜の餌食となり、踏み砕かれたなけなしの家屋群が木の葉の様に舞い踊る。

 それを視認した桃色髪の賢者ミシャリアは、問答無用とばかりに指示を飛ばす。


「ああもういいよ!とにかくしーちゃんとジーンさんは、私を風の障壁で守りつつ……村の中心部まで誘導する!」


「ばっ……!?村に呼び込んでどうする——」


「黒ジイさん!あなたは民を避難させたら、二人の精霊を連れてあの北の高台へ!」


「黒ジイでは……何じゃと!?高台に!?」


 英雄妖精リドへドヤ顔のまま言葉を送る賢者少女は——


「相手は古代竜種エンドラといえどひよっ子だ!ならば、それなりに身に付いた思考で動いて来るはず!それこそ、詰んだも同然だけど——」


「獣の浅知恵ごときでは、この私に勝る事など叶わぬと思い知らせてやるさ!――オリアナっ!」


「ええっ!こいつの出番ね!」


 したり顔で言い放つと白黒少女オリアナを一瞥し、意図を察した少女も目的であるを取り出した。

 湿気を防ぐ様に堅い布でしまわれたそれ……荷物として肩に掛けていた〈ガルダスレーヤ〉が、曇天の中の僅かな灯りで黒光る。

 そして——


「サラディンはオリアナについて、リド卿と反対の丘へ!んでもって、テンパロットとヒュレイカは私から先行して前を走るんだ!」


「さらにフレード君!奴を空中で威嚇し、民から目を逸らさせて!行けるかい!?」


「オレはいいぜ!じゃ、先に行くぞっ!」


「こっちもOK!ミーシャ、あとでね!」


「ボクも、了解——なの!ボクの得物……霊銀製メイスの出番、なの!」


「……っ!俺はオリアナ嬢とか――だがそこへ何か考えがあるんだな!?賢者ミーシャ!」


 護衛となる狂犬テンパロットツインテ騎士ヒュレイカ――そしてフワフワ神官フレードへ、阿吽の呼吸にて指示を出した桃色髪の賢者が高らかに吼える。

 あの泣き虫弱虫のさげすみを隠れ蓑に謀略にて暗躍する帝国皇子サイザー――その観察眼が見定めた、たゆまぬ研鑽が生みし一端が放たれる。


「そうさ!これはあくまで、あの暴竜を村から追い出すための策――今は討伐策に目処が立っていないからね!せめてもの威嚇だ――」


――あの暴竜のへ叩き込んでやるのさっ!」


 火蜥蜴親父サラディンは口笛をひゅぅと鳴らし――

 賢者少女の回り続ける頭脳へと、すでに何度思考したか分からぬ中さらなる感嘆を贈る。

 そして懐かしささえ浮かべる火蜥蜴親父は、賢者少女の指示に従い白黒少女の後に続いた。


「(へっ……これじゃまるで、あのアーレスのボンに言い様に振り回されてた時と同じじゃねぇか――ファッキン。)」


 思考に浮かべたのは、かつて勇敢なる英雄隊ブレイブ・アドベンチャラーとなりて――あの若かりし頃のアーレス上皇と供に、世界を駆け巡った日々である。


 弛まぬ研鑽の生んだ化け物は――徐々にではあるが、火蜥蜴親父の心を虜にしつつあったのだ。



∫∫∫∫∫∫



 流石に暴竜からの襲撃には度肝を抜かれたけど、見境なく贄を貪る危険性……そこにこそ皇子殿下が見出した危惧が籠められていると判断した私。

 まさかの討伐策が煮詰まらぬタイミング——まあ……の知能ではそれを狙ってできるものでもないから、これは偶然の産物とでも言っておこう。


 そして私がもし思考の袋小路に陥ったままでは、見るもおぞましい惨状を迎えていただろう。

 けど今——


「何とも恐るべき脚力だね、あの恐竜ティレクスとやらは!」


「お嬢!風の風障壁でも奴の攻撃を受け止められん可能性がある!ましてやあの速度——追いつかれるのは一瞬ぞっ!」


 ジーンさんの言う通り……私はお世辞にも足が速い方では無いけれど——建物との間を縫う様に逃走する事で、暴竜の視界から消えつつ移動します。

 けれど、そこいらの建物まとめて踏み潰すので私の逃げ方では逆に危険な状況にも陥る所——


 それを上空から視認するフレード君の援護が、逃走を可能とするのです。


「ミシャリアお姉ちゃんは——やらせない、の!」


 霊銀製のメイスへの優雅な斜め座りで、暴竜の視線スレスレを挑発する様に滑空するフレード君——相も変わらず、まさに男の娘。


 けどその彼を視界に止めても、攻撃手段が限られる程を晒す暴竜に……取り敢えず奴を村から追い出す算段を導きます。


「フレード君、グッジョブ!しかしどうやらあの暴竜……まだ噛み付きやの類しか攻撃手段が無いと見えるね!ならば——」


 ジーンさんの生む風の障壁を盾とし、走りながらの簡易術式を組み上げます。

 私が持てる現状最大級の魔法力マジェクトロンを要する御技——

 そしてこの術式は、信を置ける仲間達がいるからこその秘術とも言えるもの。


 その前段階となるキッカケである風の精霊術式を……展開する事としましょう。


超振動ビブラス精霊同期スピリア精霊界励起エレメタリオス——言霊は舞う風に乗り、彼方へと運ばれん!彼方の友へ届け……風伝言霊送信エアリアル・ファイ!』


 この手に生まれた小型の魔量子立体魔法陣マガ・クオント・サーキュレイダが、閃光を伴い彼方へと飛来し……今まさに信を置く仲間が向かわんとする場所——その三方へ着弾後、魔法陣サーキュレイダからなる三本の光柱を生みます。


「さあいいかい、皆!私が誇る……あの暴れ竜へとお見舞いしてやるよっ!」


 チートと呼ばれる者へあらがう様に、弱かった私が研究し……磨き上げた秘術。

 それは信を置く仲間が揃った時——何処までも強力に……そしてより多くの弱き者を守る事叶うものへと昇華するのです。


 眼前の暴君が、生命にあだ名す存在であれば容赦などしません。

 私の生んだ最強をお見舞いしてやるとしましょう!

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