Act.44 故郷への航海へ——
いつの頃だったっけ……お父様へ初めて反論したのは。
お父様が帝国の言いなりとなる
私の生まれ育ったバファル公国は決して強国では無かったけど、それでも組織にとっては切っても切れない商売相手だった。
その商売相手がラブレスへ移った場合……暗黒大陸内で勢力を三分する中でも最も強大な国家は、有無を言わさず利を独占出来る状態。
導かれる結果は、バファル公国の武力弱体化と言う惨状。
相手は世界でも最強の部類に入る列強国……そんな国家の傘下に入る祖国がどんな末路を辿るのか——
子供ながらに想像出来た私は……お父様の意見に真っ向から反対したんだ。
「どうした!?この程度かお嬢!近接での
「……っつ!?う、うるさいわね!このっ——喰らいな——っきゃあっ!?」
それから暫くして病に倒れたお父様は、そのまま帰らぬ人となり――いよいよラブレス帝国との癒着が顕著となった組織内部は、俄かに慌しくなった。
そんな時……私を親代わりで育ててくたお目付け役のリュード叔父さんはこう言った。
「亡き先代の決定に異論があるならば、その身でまず組織を率いるだけの実力と気概を証明してみせろ。」って。
それから私はリュード叔父さんから、この〈ストレガ〉を必死で学び取ったんだ。
でも——
私がそれなりの戦闘を熟せ始めた頃にはもう……亡きお父様に心酔する旧派閥はラブレスの軍門に下って後、バファル国内での商売から手を引いた頃にはラブレス独占の武器商人となっていたんだ。
そして訪れた現状に納得出来なかった私は、自ら新体制の
「その様に地に這いつくばっていては、俺が教えた〈ストレガ〉は意味を成さん。組織を抜けるならば、それなりの戦いを身に付けて行け!」
自分でも渾身の双銃撃を繰り出すも――まるで何かに絡め取られる様にこの身が宙を舞い……崩れ、弾かれる身体へ容赦の無い弾丸が降り注ぐ。
それを回避するだけで精一杯の私は、〈ストレガ〉に於ける必殺の間合い――近接戦闘にさえ持ち込めなかった。
歯が立たないとは思っていたけど、手も足も出ないなんて——
どれだけ私が思い上がっていたのか……自分でも情けなくなって来た。
あの狂犬でさえ、私に手加減を加えてくれてたのに……これじゃ今までの反抗が何だったのかも分からなくなる。
けれど……きっとその私だから得られた因果が、この決別の戦いへと導いてくれた。
そう確信していた。
「お嬢……お前がこれまでどれ程未熟で至らなかったかを、俺は今さら
知ってる。
でも、それだけじゃ無いのも分かってる。
今この時——叔父さんが一騎打ちを申し出てくれたのは、全て私のため……私のこれからの人生のため……。
だからかな……負けて、這いつくばって、手も足も出ない今が情けなくって——
もう私の視界が、熱い物で霞んで見えなくなって……——
「うわあああああああああーーーーーーーっっ!!」
霞んだままの視界で魔弾をばら撒き、最後の近接を挑んだ刹那——宙を舞った私は地に叩き付けられて……意識を遠くへと追いやってしまった。
リュード叔父さんの期待にさえ添えない……無様な醜態を晒したままで——
∫∫∫∫∫∫
その後に訪れた男と白黒少女の一騎打ちと言う運び。
当然
少女が敗北を期すも、死霊使いは己が発した言葉通り——彼らを見逃す様に姿を消した。
それは同時に、
「やれやれ……一時はどうなる事かと思ったけど——これは私達にとっても今後を見直すキッカケになったね。……それに——」
死霊の罠により宴会場が吹き飛ばされた〈
その一行を一瞥した
静かに
「今回私は何も出来なかった……。私がこんな落ちこぼれで無ければ、もっと善戦も出来たのだろう——なのに私を守る皆を危険に晒す様な戦況を導いてしまった。本当に申し訳が無いよ。」
賢者の少女が口にした意は、
彼女が落ちこぼれである事は皆百も承知——だからこその弛まぬ研鑽を、護衛たちはその身で知り……新参の白黒少女とフワフワ神官も聞きしに及ぶ。
だが——
「いいんだよ、ミーシャ……お前はそれで。一番悔しいのはお前だろ?そんな芯の所で決して折れぬ信念があるから、オレ達はお前さんを全力で護衛出来るんだよ。」
鎮痛を破ったのは狂犬
その不意打ちの様な言葉でハッ!と顔を上げる桃色髪の賢者——そして視界に映るは、皆同じ意見と送る視線。
「まあ今回はあたし達だって、学ぶ所も多かった所だし?ちゃんと殿下にもこの旨をお伝えしないとね~~。きっと「良い経験になったな」って、笑ってくれるよ?」
続けてツインテ騎士が口にしたのは蒼き皇子の下り……言うに及ばず——その皇子が不甲斐なさを非難することなど無いのを、護衛二人は身に染みるほどに理解していた。
その皇子が居たからこそ結成されたのが、彼ら
「その皇子殿下なら……私もちゃんとお目通りが叶うの——かな?」
さらに続けるは白黒少女。
死闘後の少女の状態を悟ってか、最初とは打って変わる大人しさを見せた暴れ馬協力の元――お宿へ運び込まれた少女は、反省会直前まで意識を飛ばしていたのだ。
一騎打ちで受け……生々しさを生んでいた打撲の痕跡は、流石の神官様による上位治癒術式の施術で全快し——
すでに意識を戻した少女は桃色髪の賢者の語りに自分を重ね、殊勝な面持ちにて……殿下との言葉へ己が立場を熟考しつつ問う。
白黒少女の殊勝さを感じ取った賢者の少女も、己がこのままではと顔をしかと上げ——
「オリアナが挑んだ昨日の一騎打ちは、殿下へと諸々を報告するさ。そうすれば必ずお目通りは叶うよ。少なくとも君はチートなどでは無いし——」
「かと言って己が力の研鑽を
その賢者少女の言葉でようやく白黒少女も悟る事となる。
自分が因果の果てに出会った
自分と同じく——研鑽を積み重ねた果てに得た揺るぎなき力と芯を宿す、最強の
そして次第に、白黒少女を迎える空気がお宿の一室を包み……これからの歩みのために、桃色髪の賢者が切り出した。
「さあ皆……今回は敵対者の件でだいぶ時間も持って行かれたけれど——今日には大陸へ向かう船に搭乗するよ?オリアナも少し辛いけど、家族となったララァさんやメイドの皆さんへ挨拶を済ませて来るといい。」
鎮痛であった空気を晴らす様に——
「それでは私達、
新たなる家族を正式に迎え入れるための、臨時の帰国を宣言し——
「ああ、それからオリアナ——」
「ん?何?ミーシャ。」
「このお宿の事なんだけどね——私も敵方に食堂を吹っ飛ばされたのは初めての経験で、その修繕費如何の出処に頭を悩ませていたんだけどね——」
「え?」
「「あっ……(汗)」」
晴れやかに少女の船出を祝えると高を括っていた護衛二人が、護衛主の言葉へ嫌な汗と共に戦慄を覚え……一瞬、事が把握できぬ白黒少女が小首を傾げた。
——直後……完全に上げて落とされる様に、白黒少女へ爆笑必至の残酷宣言が突き付けられる事となる。
「しかしよくよく考えれば、これは君の元身内が仕出かした始末。という訳でオリアナ……ここの修繕費分——死ぬ気で働いて私に返す様に。」
惚けた表情の白黒少女が……ようやく己が置かれた状況へと思考を辿り付かせて——
「な……何じゃそりゃーーーーーーーーーっっ!!?ちっくしょーーーーっっあんのオッサン、おぼえてろーーーーーーっっ!!」
昨夜は敬意を込め叔父さんと呼んでいた
∽∽∽∽∽∽ 港町 タザック その2∽∽∽∽∽∽
被害 : 沿岸旅館〈海日の館〉————宴会場及び、周辺施設爆散
借金主一名追加 ――――オリアナ・ギャランド
食堂バスターズ————借金……またしても大幅上乗せ!
∽∽∽∽∽∽借金爆上がりで継続中!∽∽∽∽∽∽
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