Act.43 一騎討ち!死霊の支配者と白黒少女

 死霊召喚の門となっていた祭壇を粉砕したフワフワ神官フレードは、その勢いのまま崖下——法規隊ディフェンサー死霊の支配者リュードが今も接敵する街道へ、纏う法衣の腰下部を外しつつ舞い降りた。

 風を孕み舞う法衣の一部……刹那、そこへ神霊の加護が浸透すると——宙空へ舞い術者を守る、神聖なる盾へと変化した。


 風を裂く様に落下する勢いを乗せ、聖なる銀閃鎚ホーリーハンマーを振り被り眼下——死霊の支配者を目標へと定め、戦いの狼煙を凛々しくも愛らしい咆哮に変えた。


「吹っ飛べーーーーっっ……なのっっ!」


「……貴様はっ!?くっ……そう言う事——」


 確かに死霊使いは、強力な国家を背後に持つ手練れである。

 しかし初見であった法規隊ディフェンサーに対しては、過小評価は無くとも——肝心な己に慢心が存在していた。

 少なくとも彼がその足で確認した法規隊ディフェンサーデータの中に、死霊に対する天敵である聖なる神官の姿は存在していなかったのだ。


 高まる落下速度と不意を突いた事が重なり、死霊使いの対応よりも早くフワフワ神官の聖なる銀閃鎚ホーリーハンマーが強襲——回避もままならぬ死霊使いは、防御するも……まともに振り抜かれた聖なる一撃を受け——

 そのまま街道地面へと、粉塵を巻き上げ叩きつけられる。


……——成功、なの!」


「おっしゃ!よくやった、フレード!」


「へへへ……なの。」


 振り抜いた銀閃鎚を斜めに突き立て、そこへフワリと着地するフワフワ神官へ……すでに現出する死霊全てを薙ぎ払った狂犬テンパロットが歩み寄り、ポンっと頭へ逞しい手を乗せ——褒められた事に紅潮する神官少年。


「見事な裏の裏だったね、テンパロットにフレード君。ただ……その睦まじさは、戦闘中は遠慮願いたい所だよ。」


 二柱の精霊に守られていた桃色髪の賢者ミシャリアが、健闘を見せた二人の男性陣へ賛美を送るも……がいるため注意を促す。


「ちょっと……それって私の事じゃ無い——」


「君以外に誰がいるんだい?ほら、油断してると赤い物が鼻から……って、ホントに垂らすんじゃないよこのおバカ(汗)」


 二人への注意に抗議する白黒少女オリアナ……が時すでに遅し——すでに不謹慎な甘い毒の影響で、赤い物を滴らせた白黒少女がアタフタと鼻を押さえて拭く物を探し出す。


「ああ……なんやウチら以外にも、ネタにされる仲間が増えて——もう色物部隊へ真っしぐらやな……。」


「これで少しは、脱げとの弄りも減少するな?シフィエール。」


「……まさか、同族からまでその弄りが来るとは思わなんだで……ジーンはん(汗)。せやから脱がへんっちゅーに。――っ!?はっ!?」


 そして色物部隊確定に嘆息を見せた残念精霊シフィエールが、まさかの同族からの弄りを受けた直後……悟る直感と供にツインテ騎士ヒュレイカをビシッ!と指差し鬼の形相で睨め付けて――


「先に言ーとくでっ!?脱がへんからなっ!!」


「うそぉ!?!?」


「やかましわっ!!」


 狙ったはずのボケが殺され、あり得ない物を見る様に残念精霊へ視線を飛ばすツインテ騎士と……すでに定番の様な漫才をかます弄られの当人シフィエール

 しかし流石にこの状況では、それ以上に場を荒らす様な煽りを控え……未だ張り詰めた警戒最中の法規隊ディフェンサー面々。


 そこに宿っていた警戒はまさに今――地へと叩き付けられた存在が、こそに抱かれたものである。


「……僥倖だな。どうやら慢心していたのは俺の方――考えをしかと改めさせて貰うとしよう。」


 未だ収まらぬ粉塵が徐々に晴れ渡ると――

 法規隊ディフェンサーの警戒が正しき事と言わんばかりに、不逞の輩……死霊の支配者が立ち上がっていた。

 傍目から確認出来る様に、さしもの死霊の支配者もまともに一撃を貰った痕が残る――が、その本体へのダメージは一行すら想定しない程軽微であった。


「うわぁ……あれ食らってピンピンしてるんですけど?ちょっとあなたのご同輩、やたらと頑丈すぎる事ない?オリアナ。」


「私に振らないで――って言うか、あいつと武器商人側はもうご同輩でもなんでもないから!一緒くたにしないでよ!」


「仮にも家族であった者に、中々酷い言い様だね。最初はお父様がどうとか――」


「ちょ――それは蒸し返さないで!?……って、誰がじゃっ!?」


「相変わらずそっち方面では耳が悪い様だね。じゃなくだったんだ……言い得て妙じゃないか。」


 そんなダメージすら追わぬ強敵を前にしてもなお……一行のノリには一切のブレは無く――

 いつしかそのノリに反応するのが、白黒少女の当たり前となっていた。

 法規隊ディフェンサーとすでに腐れ縁の様な雰囲気を醸し出す白黒少女へ、一行には分からぬ程に小さな暖かさ宿る視線を送り――しばたいた後、すぐさま元の殺意籠めた眼光へ戻る死霊の支配者。


 その男が……一行も想定しないまさかの提案を突き付けて来た。


「僥倖ついでだ。この戦い……そこの組織を裏切った駆け出しの少女ひよっこが、この俺との一騎打ちを受けるならば――勝ち負け問わず、この場を見逃してやろう。」


 ノリのままに会話する一行が沈黙のまま不貞の輩を見やり、疑念と怒りに塗れた白黒少女を制しながら——桃色髪の賢者が真意確認をと、死霊使いを問い詰めた。


「まさか……その言葉は正気と取って構わないのかい?」


「俺もこれまで、この地位を目指し――そして勝ち取った……。疑うは大いに結構だが——選択肢は限られているぞ?」


 不適なる笑みにて最もな回答を寄こした死霊使いへ——

 鋭く睨め付けるも、遠い過去――過ぎった思い当たる節が思考を支配した白黒少女は……ただ憎悪に包まれた面持ちから一変——

 何かを悟る様な雰囲気へと移り変わっていた。


 その変化を見逃さなかった桃色髪の賢者——双眸を閉じ……死霊使いへの決定となる解を、法規隊ディフェンサー一行へも諭す様に提示する。


「ふむ……選択肢が無いに等しいのはこちらも理解済み。いいだろう——皆……これよりの戦いは一切の手出しは無用だよ?これはオリアナの、組織との決別を賭けた勝負だからね。そして——」


 視線をしかと白黒少女へ向けた賢者の少女——同じく今が巣立ちの時と、沈黙のまま視線を送る元武器商人の跡取りの少女。

 しかし仲間となった彼女への決断を促す様に、口を開いた。


「オリアナ……君も異存は無いね?」


「ええ。……異存も何も選択肢が無いじゃない。でも——ありがと……賢者様。」


 白黒少女は了承の言葉提示と共に、僅かな紅潮のまま謝意を送る。

 そこに込められたのは、自分という存在にこれ程までに親身になる者達への——心よりの感謝であった。


 そして……一行を一瞥した白黒少女は南北に伸びる街道を挟み——かつて自分を親代わりとなって育ててくれた存在を見据えた。

 同時に抜き放つは近接格闘対応である自前の双銃——その片側を、チラリと一行へ分かる様に上げる。

 視界に捉えた桃色髪の賢者は、「銃撃戦になるから」の意と悟り精霊達へ風爆結界展開指示ののち……その中へと一行を下がらせた。


「ええと……何て言ったらいいか、もうよく分かんないけど——取り敢えずこっちはいつでもいいわよ、リュード叔父さん。」


 そう——

 少女は今の今まで、身内に対する憎悪に突き動かされていたはずである。

 それが全て吹っ切れたかの表情を浮かべ……さらには敵対者となるも、まるで自分の成長を心待ちにしていた様な組織の襲撃者へ——

 大した言葉を並べ立てる事も出て来なくなっていた。


 それ故に口へと運ばれた言葉は遠い昔——白黒少女がまだ戦う術を知らない時分に、その手解きを加えてくれた物への敬意の言葉。

 肉親の様に慕い……その姿を目指していた頃の、親愛なる呼び名。


「ふっ……法規隊ディフェンサーに罠を持ちかけた時よりは幾分マシな面構えになった様だな、お嬢。では——その真価を俺に示して見せろ!」


 死霊の支配者と白黒少女が同時に身構える。

 少女の双銃に対し——リュード叔父さんと呼ばれた男が抜いたのは……


「ヤロウ……オリアナの技の源流はあの死霊使いかよ。オリアナあいつでアレだけの戦闘能力なら、リュードとやらは尋常じゃねえぜ?こりゃ。」


死霊の支配者ネクロスマイスターにして、〈ストレガ〉使いってことだね。全く……私達は随分手加減されていた様だ——ちょっと私も傷付いたよ。まぁ、それはそれとして——」


「皆いいね?重ねて言うが、これはオリアナの戦い……。いかな結果が訪れようと、一切の手出しは無用だ。信じようじゃないか——私達の仲間となる彼女の、技と心意気を……。」


 桃色髪の賢者の声が響いた直後……かつて親子の様に過ごした二人が、砂煙を上げ——

 その後の人生を賭けた…… 一騎打ちを開始した。

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