Act.43 一騎討ち!死霊の支配者と白黒少女
死霊召喚の門となっていた祭壇を粉砕した
風を孕み舞う法衣の一部……刹那、そこへ神霊の加護が浸透すると——宙空へ舞い術者を守る、神聖なる盾へと変化した。
風を裂く様に落下する勢いを乗せ、
「吹っ飛べーーーーっっ……なのっっ!」
「……貴様はっ!?くっ……そう言う事——」
確かに死霊使いは、強力な国家を背後に持つ手練れである。
しかし初見であった
少なくとも彼がその足で確認した
高まる落下速度と不意を突いた事が重なり、死霊使いの対応よりも早くフワフワ神官の
そのまま街道地面へと、粉塵を巻き上げ叩きつけられる。
「奇襲への奇襲に対する……奇襲——成功、なの!」
「おっしゃ!よくやった、フレード!」
「へへへ……なの。」
振り抜いた銀閃鎚を斜めに突き立て、そこへフワリと着地するフワフワ神官へ……すでに現出する死霊全てを薙ぎ払った
「見事な裏の裏だったね、テンパロットにフレード君。ただ……その睦まじさは、約1名に対して甘い毒になるから戦闘中は遠慮願いたい所だよ。」
二柱の精霊に守られていた
「ちょっと……それって私の事じゃ無い——」
「君以外に誰がいるんだい?ほら、油断してると赤い物が鼻から……って、ホントに垂らすんじゃないよこのおバカ(汗)」
二人への注意に抗議する
「ああ……なんやウチら以外にも、ネタにされる仲間が増えて——もう色物部隊へ真っしぐらやな……。」
「これで少しは、脱げとの弄りも減少するな?シフィエール。」
「……まさか、同族からまでその弄りが来るとは思わなんだで……ジーンはん(汗)。せやから脱がへんっちゅーに。――っ!?はっ!?」
そして色物部隊確定に嘆息を見せた
「先に言ーとくでっ!?脱がへんからなっ!!」
「うそぉ!?ボケを殺されたっ!?」
「やかましわっ!!」
狙ったはずのボケが殺され、あり得ない物を見る様に残念精霊へ視線を飛ばすツインテ騎士と……すでに定番の様な漫才をかます
しかし流石にこの状況では、それ以上に場を荒らす様な煽りを控え……未だ張り詰めた警戒最中の
そこに宿っていた警戒はまさに今――地へと叩き付けられた存在が、未だ鋭き殺気を撒き散らす現状こそに抱かれたものである。
「……僥倖だな。どうやら慢心していたのは俺の方――考えをしかと改めさせて貰うとしよう。」
未だ収まらぬ粉塵が徐々に晴れ渡ると――
傍目から確認出来る様に、さしもの死霊の支配者もまともに一撃を貰った痕が残る――が、その本体へのダメージは一行すら想定しない程軽微であった。
「うわぁ……あれ食らってピンピンしてるんですけど?ちょっとあなたのご同輩、やたらと頑丈すぎる事ない?オリアナ。」
「私に振らないで――って言うか、あいつと武器商人側はもうご同輩でもなんでもないから!一緒くたにしないでよ!」
「仮にも家族であった者に、中々酷い言い様だねバラ黒さん。最初はお父様がどうとか――」
「ちょ――それは蒸し返さないで!?……って、誰がバラ黒じゃっ!?」
「相変わらずそっち方面では耳が悪い様だね。百合専じゃなく薔薇専だったんだ……言い得て妙じゃないか。」
そんなダメージすら追わぬ強敵を前にしてもなお……一行のノリには一切のブレは無く――
いつしかそのノリに反応するのが、白黒少女の当たり前となっていた。
その男が……一行も想定しないまさかの提案を突き付けて来た。
「僥倖ついでだ。この戦い……そこの組織を裏切った
ノリのままに会話する一行が沈黙のまま不貞の輩を見やり、疑念と怒りに塗れた白黒少女を制しながら——桃色髪の賢者が真意確認をと、死霊使いを問い詰めた。
「まさか……その言葉は正気と取って構わないのかい?」
「俺もこれまで、言葉にした以上は違えぬ芯を持ちてこの地位を目指し――そして勝ち取った……。疑うは大いに結構だが——選択肢は限られているぞ?」
不適なる笑みにて最もな回答を寄こした死霊使いへ——
鋭く睨め付けるも、遠い過去――過ぎった思い当たる節が思考を支配した白黒少女は……ただ憎悪に包まれた面持ちから一変——
何かを悟る様な雰囲気へと移り変わっていた。
その変化を見逃さなかった桃色髪の賢者——双眸を閉じ……死霊使いへの決定となる解を、
「ふむ……選択肢が無いに等しいのはこちらも理解済み。いいだろう——皆……これよりの戦いは一切の手出しは無用だよ?これはオリアナの、組織との決別を賭けた勝負だからね。そして——」
視線をしかと白黒少女へ向けた賢者の少女——同じく今が巣立ちの時と、沈黙のまま視線を送る元武器商人の跡取りの少女。
しかし仲間となった彼女への決断を促す様に、口を開いた。
「オリアナ……君も異存は無いね?」
「ええ。……異存も何も選択肢が無いじゃない。でも——ありがと……賢者様。」
白黒少女は了承の言葉提示と共に、僅かな紅潮のまま謝意を送る。
そこに込められたのは、自分という存在にこれ程までに親身になる者達への——心よりの感謝であった。
そして……一行を一瞥した白黒少女は南北に伸びる街道を挟み——かつて自分を親代わりとなって育ててくれた存在を見据えた。
同時に抜き放つは近接格闘対応である自前の双銃——その片側を、チラリと一行へ分かる様に上げる。
視界に捉えた桃色髪の賢者は、「銃撃戦になるから」の意と悟り精霊達へ風爆結界展開指示ののち……その中へと一行を下がらせた。
「ええと……何て言ったらいいか、もうよく分かんないけど——取り敢えずこっちはいつでもいいわよ、リュード叔父さん。」
そう——
少女は今の今まで、身内に対する憎悪に突き動かされていたはずである。
それが全て吹っ切れたかの表情を浮かべ……さらには敵対者となるも、まるで自分の成長を心待ちにしていた様な組織の襲撃者へ——
大した言葉を並べ立てる事も出て来なくなっていた。
それ故に口へと運ばれた言葉は遠い昔——白黒少女がまだ戦う術を知らない時分に、その手解きを加えてくれた物への敬意の言葉。
肉親の様に慕い……その姿を目指していた頃の、親愛なる呼び名。
「ふっ……
死霊の支配者と白黒少女が同時に身構える。
少女の双銃に対し——リュード叔父さんと呼ばれた男が抜いたのは……同じく双銃。
「ヤロウ……オリアナの技の源流はあの死霊使いかよ。
「
「皆いいね?重ねて言うが、これはオリアナの戦い……。いかな結果が訪れようと、一切の手出しは無用だ。信じようじゃないか——私達の仲間となる彼女の、技と心意気を……。」
桃色髪の賢者の声が響いた直後……かつて親子の様に過ごした二人が、砂煙を上げ——
その後の人生を賭けた…… 一騎打ちを開始した。
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