荒ぶる大地の暴竜編
サラマンダー親父の憂鬱
Act.45 海原行く異獣の脅威を潜り抜け
今日も
先の
が——彼らはそれさえも得難き経験とする強者達であり、それこそを研鑽の糧とする冒険者である。
つまりは敗北を味わえば味わうほどに、高みへと上り詰める
だが……だがしかし——
彼らの行く手は
「しーちゃんっ、ジーンさん!二人の援護を!オリアナ……狙いは付けられるかい!?」
「またしても出番かいな!?刺激は欲しいけど、こないなもんはいらへんで!?」
「うむ!オリアナ嬢……
「ええ!なんとかしては見せるけど……私もこんなのは初めて——て言うか、人生初セイレーン襲撃だわ、全くっ!」
「それは早速良い経験になったね!これでさらに君の戦いも洗練されると——」
「こんな連戦とか要らないわよっ!」
そう……海洋へ出るや否や——小島が乱立する海域へ差し掛かる海洋船を、
白黒少女とのいざこざを抜きにしても、
連戦と愚痴られる実情がそこにはあった。
「ちっ!海洋に出た矢先で歌声が響くと思ったら……オレもセイレーン襲撃とか、もう何年ぶりか分からねぇぜ!ちくしょうっ――」
「買いだめしてた投擲用ダガーが痛い出費だよっ!」
白黒少女が狙いを定める
その火力不足を補う
狂犬の投擲用ダガーで搭乗する海洋船より遠ざけ、白黒少女が海上でセイレーンを狙撃により撃ち落とす策で各員奮闘する。
狭い帆船甲板上では、二人の振り回す武装が直接戦闘に向かない点――さらにはフワフワ神官の戦鎚に付与された飛行能力はあくまで浮遊移動が目的であり、戦闘をこなす際はその効力が減退する事を踏まえた陣容だ。
「いいかい、テンパロット!その投擲用ダガー……無駄撃ちが
「鬼か!?容赦無しかっっ!?」
ある意味想定された賢者少女の注意勧告に、嫌な汗を振り撒き突っ込む
が、己が武装を得る代金が全て桃色髪の賢者の懐より捻出される事実――狂犬も嘆息する程に、少女の高笑いと供に思考へ刻まれていた。
程なく――
強襲したセイレーンは白黒少女が放つ
結果は……
∫∫∫∫∫∫
「何とお礼をしてよいやら!本当にありがとうございました、冒険者様……ではこちら――依頼報酬でございます。お受け取り下さい。」
今私へセイレーン襲撃を退けた報酬を提示するのは、この海洋船の船首……かく言う
私達の姿を見つけた船首から、この海洋船が大陸に向かうまでの道中護衛を依頼されていたんだ。
「では、頂くとしようか。しかし船首……ここ最近は聞かなかった海上での異獣襲撃――これは最近増え始めたのかい?」
「ええ……実はそうなんですよ。」
船首の方は五十代の
それなりの規模を持つ船は60mサイズの帆船キャラック船……けれど其処彼処に機械的な造りの甲板が配されるのは、近年の魔導機械化が進む最先端技術が生む造形。
しかしそれを維持するためには、相当量の資産を要するところ――なかなか一般の民では届かぬ点からしても船首はそれなりの蓄えを持つ職種と見ていた。
大陸間では大手の海運業者所有のガレオン船による定期便と、このような個人が所有する旅客船が半々の割合で運行される。
通常海運業者では海洋を渡る際、海賊や異獣の襲撃の備えとし……各海域を所有する国家へ定期継続雇用による守備依頼を出している物だけど――
個人所有の海洋航行船ではなかなか自警団雇用までは手が回らず――代わりにそこへ搭乗する冒険者が重宝がられ……双方持ちつ持たれつの関係を生み出している。
個人では予算がかかる定期継続雇用の代わりに、スポット契約にて冒険者への船護衛を依頼するわけだ。
受け取った
それなりの資産所有は身なりからも想像が付き――煌びやかな一張羅を羽織る彼はそれに見合わぬほど縮こまり、今の海運事情を話してくれます。
「ここだけの話ですがね?何でも世界の南に位置する海洋で、異獣が大量発生してると船乗りの間では噂されてましてね——」
「その異獣の発生に触発された、各海域の異獣が正気を失った様に暴れてると……それはもう、色んな筋から情報が飛び込んで来てるんですよ……。」
眉根は
ですが——
「ほ……ほ~う。それは……まあ怪しい情報もあったもんだね。何はともあれこの海域でも用心に越した事はないか——貴重な情報をありがとう、船首さん。」
額に嫌な汗を躍らせた私は、船首との情報交換もそこそこに……すでに戦闘の疲れを癒す仲間がいる甲板下層の団体用客室へと足を向けます。
そして戻るや否やその情報を皆へと公開し——私と同じく額に嫌な汗を躍らせる護衛一行が視界に映ったね。
「それ……何か全然笑えないわね。あの戦闘の後じゃ尚更よ?」
「ねぇテンパロット……確かあいつラブレス帝国がどうとかって言ってたけど——無関係って訳じゃないわよね?」
「——あー……ヒュレイカもそう読んだのか。船首は南の海洋と言った様だが……指し示す先はかの
事態を鋭く観察したウチのツートップ——私の直感を物の見事に言い当て口にした
「ふぅ……その恐ろしすぎる観察眼には、感嘆を通り越し恐怖すら覚えるよ。全くその通りだね……あのリュードが口にしたラブレス帝国——」
「私達が知り得る数少ない情報源から察するに……正体不明の彼の国が絡んでいる事は想像に難くない所だ。よもやその異獣を軍団に組み込もうとか言うんじゃ……あ——」
そこまで零してある重大な事実に辿り着き——同じ事実に辿り着いた二人の護衛さん……私の視線を追う様に、ゆっくり視線を一点へ集めます。
その先には——
「……全然その予感——否定できない自分が恐ろしいわ。多分それ……ビンゴよ?」
かつて私達を陥れ……まさに私が今口にした、異獣に該当する戦力を魔導機械強化し襲撃してきたオリアナを見やり——すでに嫌な予感が無用に膨れ上がるも待った無しだね。
そんな私達をふんわり見やったフレード君——場を読んだのか、壊しに来たのか分からない切り込みを入れてきます。
「大丈夫、なの。ボク達は冒険者——旅を続ければ、ラブレスの有力情報——」
「その内嫌でも降り積もって来るの。心配は、いらないの……。」
「フレード君……それは寧ろシャレになってないからね(汗)?そんな情報無駄に収集しては、その内どころかすぐさま奴らに問答無用で目を付けられるから。」
「まだ私達は駆け出しの部隊なんだ……本気の国家の大軍勢は相手取れないからね?」
もう思考に嫌な予感しか巡らなくなった私達。
そんな嫌に重い空気を吹き払ったのは——盛大に「グウウゥゥ……」と鳴り響いた白黒メイドさんのお腹の音でした。
「ばっ……!?ちがっ——これは——」
陶磁器の様な肌を、のぼせた様に紅潮させてお腹を押さえたオリアナに……重苦しい空気が一変——噴き出したテンパロットとヒュレイカをバックに……トドメを刺しにかかるフレード君が言葉と共にオリアナの肩へと手を乗せ――
「お腹は、正直——なの。」
「なっ……——!?」
その言葉で笑いのツボが決壊した二人が、爆笑の渦に巻き込まれ——それはそれで微笑ましい光景の中、まず一難去った航海を楽しむ私達なのでした。
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