Act.36 船出前の旅支度
「オリアナ……よくもやってくれたね。私達をからかうのがそんなに楽しいかい?ん?」
「痛い!痛いって!謝ってるでしょ!?やめ……コメカミはマジで止めてっ(涙)!」
この私を見事に
私としても当たり前の様に、フレード君を知らずに女の子として扱ってしまった手前……恥ずかしさしか浮かばない訳で——
自分でも分かる恥じらいの紅潮が乗る顔のまま、仲間になったばかりでオイタを仕出かしたメイドさんへの罰をこれでもかと喰らわせます。
「はぅ……マジで痛かったんですケド?て言うかそもそも二人して、フレード君の容姿に見とれて体格への違和感まで気が回らなかったんじゃないの?」
「華奢ではあるけど、女の子にしては広めの肩幅はどう見ても男の子の証でしょ?もう……。」
「いや、うん……そうだね。言われてみれば、男の子の肩幅——って、それにしてもオリアナはよく気付いたね。」
「……よくも何も、あんた達が女の子相手に特殊な嗜好を抱きす過ぎしょうが。その結果がこれじゃないの。言っとくけど、私にその
勘違いからの絶叫の後、正式に代理同行をフレード君へ要請するため——フェザリナ卿共々、旅館のお客控え席をお借りする私達。
ですがちょうどかき入れ時なのか、珍しく——と言うのは失礼だけど、いつもより多めの客足が玄関からカウンターまでへと向かい……その視線が一様に私達に注がれる状況です。
その割に私達が食堂バスターズとして騒がれない辺りは、訪れる客の
ただその視線がどう見ても、何やら私達の容姿に集中しているのは……聞き取れる言葉から理解しましたが。
「あの方達……なんて美男美女なの?素敵だわ。」
「何というか—— それぞれ選りすぐりの美女が揃ってる感じだよな。」
「その中で一際目立つあのイケメンさん……好みだわ……。」
聞こえる話題から、少なくとも一人は女性ではない点……それを一般の民もどうやら見抜けない様です。
よって……少なくともこの勘違いは、誰でも起こりうる当たり前の事象である事は確実――何かちょっと安心した。
「なんかさ……この一団——確実に男一人に女五人の構成で見られてるわよね……。」
「……まぁ、フレードも警備隊へ始めて所属した頃は皆に女の子として扱われていましたが——男の子と知れ渡るや、違う嗜好の兵が押し寄せて——」
「いやいや、フェザリナさんよ……その部隊内の行動はおかしくねぇか!?男と分かった時点で普通はドン引きだろう!?」
ヒュレイカはもっともな意見を述べ……フェザリナ卿もなるほどと言った発言を零しますが——
テンパロットに至っては、全くなっていない暴言を吐き捨てた訳です。
なので少し理解させるために、〈アカツキロウ〉の例を上げて説明も待った無しです。
「いやいや、テンパロットさんよ……君は何も分かってはいないね!?〈アカツキロウ〉の文化において、そう言った見かけと違う性別云々への差別発言は過去のモノ——」
「彼の様な存在は〈男の
「んなっ……何じゃそりゃ!?」
あんぐりと開けた口で信じられないモノを見る目。
どうもこのツンツン頭さんは、世間の一般常識に偏りがある訳で——まあ私やヒュレイカも趣味嗜好の分野では偏ってはいるのも理解してますが――
彼のはこう……根本的に知っておかねばならない点が微妙に抜け落ちている時があるのです。
この
そんな会話をふんわり聞き入っていた、当事者であるフレード君——思い出した様に語り始めます。
「……えと……ボクは、ボク。男の
「それは……至高神ソウトの教えでも——許されない。——犬……自重して。」
「犬ってオレの事かよっ!?」
「ん……?狂犬……って聞いてたから、犬。おかしい?」
そしてついにテンパロットさん——この
そのフレード君の言葉で綺麗に?まとめられた所で、本題へと移ります。
そもそもそれが目的なのに、これ以上は話が進まないという事で——
「フェザリナ卿……そろそろ代理同行のお話をフレード君へ提示して貰えるかい?お昼が来る前に旅支度を終えたい所なんだ。」
「ええ、そうしましょう。すでに肝心の本題が
「ふっ……フェザリナ卿も、だいぶウチの部隊が得意とする流儀浸蝕が進んできた様だね。良い事だよ。」
「それ……は、良い事なのですか(汗)?」
すでにフェザリナ卿ですら
∫∫∫∫∫∫
陸地と異なり、各国の軍事的な自衛防衛の手が及び難いのが海洋であり――国の領土となる沿岸から数キロ離れれば、そこは異獣の巣窟である可能性すら存在した。
海洋がほぼ全体を占める海域においては、大王イカとの別名を持つクラーケンに大海の主であるシーサーペント――周辺に小島や無人島が点在する海域においては、セイレーンにカリュブデスが目撃される。
中でも極めて高い遭遇率である怪物――魔力を帯びた歌で惑わせ……空より襲撃してくるセイレーンや大渦を生むカリュブデスは、脅威に対し遭遇率の低いクラーケンなどの大型異獣よりも恐れられていたのだ。
「さてと、お昼まではまだ時間もある事だし……私達は女性陣として必要な物の調達を――って、ヒュレイカはこっち。」
「ええぇっ!?あたしフレード君をもっと堪能し――」
「オリアナ!ひっ捕まえるんだ!何ならその双銃で一発ガツンとかましても構わない――どうせ舐めたら直る種族だから!」
「……相変わらず酷い
「ううう~~っ!」
しかしその海洋を行こうと言うかの
それこそ仲間に入り――しかし、正式な部隊所属は未だならずの
「ヒュ……レイカ。何故、ボクを欲するの?――これが……俗に……言う、変態?」
「ああ、きっとその通りだろ。変態だ変態――あとメスゴリラな。」
「ふぅ……あんたに言われるとムカつくわ、この切り裂きストーカー。何?今からでもあたしと一戦かます気な——」
そして——
馴染むままに
「これは賢者様からの指示だからね?別にこのまま魔弾を二人めがけてぶっ放してもいいのよ?」
「——と言う訳だよ。分かったらさっさと買い出しに向かうよ?お二人さん。」
「「……はい(汗)」」
すっかり立ち位置の逆転してしまった護衛二人と白黒少女——大きな一悶着に発展する事もなく一行は、当初の目的となる買い出しへと漸く向かうのであった。
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