Act.35 フワフワ神官、フレード・アクアノス
それはお宿で迎える何度目かの朝。
オリアナを狙う
相手が決して姿を見せぬ上——プロであり……且つ無用な襲撃など行わない慎重を期すタイプと推察する私は、現状それなりに警戒を緩めていたのは事実です。
それがまさかの珍客襲撃への油断へ繋がるとは思っていなかった訳で——
「ふぁ……あぁ~~。今日は予想以上にグッスリ眠れたね。ヒュレイカ、おは——」
このお宿のタタミと呼ばれる床は、仄かに自然の香りが漂い気持ちが安らぐ場所——その上に敷かれた羽毛ブトンとやらは、フワッと軽く……それでいて体を程よく包み込む寝具。
それだけでも疲れが癒される所ですが——それでも言い訳にならぬ程に気が抜けていた私。
視界に映った謎の状況に思考が停止してしまいます。
「——君……誰だい?」
「……?ボクは……ボク。」
「いやね?そう言う事を聞いているのではなくて——」
私の視界を占拠したのは薄いブロンドの輝く端正な顔立ち。
けれど
すると私だけではなく……同様に緊張が薄れて爆睡の渦中にあったオレンジツインテさん。
思い出したかの様に目覚めた彼女が遅い警戒の中飛び起き、懐から携帯用ダガーを抜き放つと——
「……っ!?侵入者ねっ!このヒュレイカが居合わせた部屋へ侵入するとは、いい度胸だわっ!あたしの剣の錆にして——」
カッコいい前口上と共に私を守る様に立ちます。
ていうか君、思いっきり寝てたけどね……。
しかし直後—— 一瞬硬直したヒュレイカが、殺気など吹き飛ぶ勢いで
「か……可愛いいいいいっっ!!誰この子!君何て名前!?」
うん。
そう言う反応になるだろうね。
そもそも私の思考が停止したのも、侵入者にしては余りにも美しすぎて……この可愛いお鼻から、また赤い物を吹き出しそうになり堪えた所だよ。
それよりも……だ。
「ヒュレイカさんや。今の君ではちょっと話が
「何で!?もっと堪能させて——」
「……
「はい引っ込みます(汗)」
一先ずの事態収拾。
殺気も何も無い少女が、こちらを襲撃したとも考え難く……穏便に事を進めるため、ちょっと間抜けな護衛を演じたツインテさんを下がらせると——
タタミの床から起き上がり、珍入者と面と向かって正座します。
そして得られた回答は——
「部屋……間違えた。お宿で……迷った。」
ハイ。
ただの迷子で決定です。
容姿に違わず幼さが滲む澄んだ声で、ますます美少女感がアゲアゲ待った無しの珍入者さん——しかし直後……名前は兎も角その後に続いた言葉で絶句する私達。
何となしに嫌な汗が流れたのは、私だけではなかったのでした。
「ボク……名前は、フレード——フレード・アクアノス……。アグネス警備隊……法術隊所属……なの。」
「……ヒュレイカ。今、アグネスの警備隊って……聞こえたよね?」
「……聞こえたわね。」
嫌な汗に塗れる私達。
そして忘れていましたが、昨日からこの部屋にはもう一人女性が増えていた訳で——
「……何なのよ、朝っぱらから。騒がしいったら——え?何、この状況??」
ヒュレイカの隣で寝ていた白黒さんが遅すぎる目覚めで、謎の渦中に首を傾げます。
……この子は気を抜きすぎだよ(汗)何かあったらどうするんだろうね全く。
「やあ、おはようオリアナ……それはもうよく眠れたようだね。いや何、このお嬢さんがお宿で迷子になった様で——ここへ迷い込んだみたいなんだ。」
すると私の返答の何に疑問を持ったのか、オリアナが小首を傾げ——
「へ?いや……迷子は兎も角としてその子、女の——」
と、何かを話し掛け……急に黙り込みます。
それもえらく中途半端な言葉を残して。
「なんだい?そんな途中で言葉を濁されては、私も気になるじゃないか。」
「ああ!?いいのいいの、気にしないで!ププッ……いや、気付いてないなら面白そうだし……。」
おまけに人を見ながら吹き出すオリ黒さんには、さしもの私も不機嫌さんを表へ整列させたい所ですが——
それよりもまず、この迷子の美少女をお部屋へとご案内するため一肌脱ぐ事にします。
……あ、本当に脱ぐのは残念精霊さんの仕事ですが(笑)
ともあれ私達一行は、朝の軽い身だしなみ時間もそこそこにお宿の店主のいる階を目指します。
このお宿にいる以上は何かしらの予約の上で宿泊しているはずと……フレードと名乗った少女を連れて軽いお散歩です。
しかしこの時自分の中で、彼女の名乗った名……フレードと言う響きに、「何か男の子の様な響きだね。」と思考していたのですが——
その後に発覚する驚愕の事実—— そこに一人気付いていたオリ黒さんに、まんまんとハメられると言う醜態を晒す事となるのでした。
∫∫∫∫∫∫
お宿はバスターズ一行の部屋への珍入者あり。
が……夜には宿へ帰らなかった
さらに狂犬は午前様で旅館へ戻る道すがら、身内が戻らず困り果てた
「それにしても、警備隊も一筋縄じゃないんだな。ちと別方向だけど……。」
「はぅ……お恥ずかしい限りです。決して彼も悪気がある訳では無いのですが、なにぶんその——天真爛漫と言いますか……。」
「あんた、そんな人員を同行させる気だったのかよ(汗)これじゃミーシャの言った色物集団の言葉が言い得て妙じゃねぇか。」
狂犬の勘繰りに美貌が吹き飛びそうな勢いで落ち込む卿。
狂犬もそこはかとない呆れが襲い——慌てた卿は、銀の御髪を振り乱して身内のフォローに終始する。
「あの子も、戦闘となれば非常に頼もしいのですよ!?それはもう相手が死霊の類であれば人が変わったかの様に、全てを浄化せん勢いで——千切っては投げ、千切っては投げ……——」
「……って、おい。そいつ
「——ちゃ……ちゃんと
その姿はすでに銀の美貌からかけ離れ始めていた。
そんなやり取りの中、狂犬と美貌の卿は程なく港町沿岸の端——現在のバスターズ一行が擁する素敵な拠点へ辿り着く。
その足で旅館の玄関から一行が宿泊する部屋へと向かおうと、階段へ二人が視線を向けた先——そこへ申し合わせたかの様な、
の、だが——映る視線の先に、そこにいるはずの無い人物を視認した美貌の卿が真っ先に声を上げる。
「フレード!?あなた何故この様な所に!?——あなたへ警備隊としての重要任務を申し付けるため、こちらは一日中探し回ったのですよ!?」
「へっ!?あれがあんたの身内——つか、何でウチの一行と先に合流してんだ!?」
バッタリと出くわした狂犬一行と桃色髪の賢者一行——しかし双方が求めた肝心の人物は、すでに一行へ迷いの中保護されると言う珍事を起こしていた。
「……ああ、なるほど読めたね。大丈夫……フェザリナ卿、安心するといいよ。彼女はどうやら迷子になったらしく、道行く街人にこのお宿を紹介されたと先ほど聞き及んだ次第——」
「まぁフェザリナ卿以外にも、こんな美少女が警備隊にいたのは驚きなのだけど。」
と、美貌の卿を視認した桃色髪の賢者が放った言葉——彼女と言う発言へ盛大に首を傾げた卿は——
「……ミシャリア卿。あの――申し訳ないのですが、その子……れっきとした男の子ですよ?」
そして——静寂と沈黙が流れ……——
「「えええええええええええっっっ!!?」」
勘違いしたままであった賢者と護衛の絶叫が木霊し——ケタケタと腹を抱えて笑い転げる
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