Act.34 忍びよる気配
「全く……あの者達は次から次へと面倒を――冒険者にしては、
「ええ、まあ。確かにあの方達が普通の冒険者の様に、一つの街を基点にじっくり冒険を進めるタイプであればどんなに楽な事か(汗)……ですがそもそも、彼らには面倒事の方が自ら近寄って来ている様な感が――」
「……それこそ始末に追えんでしょう(汗)」
すでに本部駐留施設内、美貌の卿協力者であるローブの男と合流し……代理人となる者を待つばかりとなっていた。
その間も終始バスターズ側の尽きぬ話題で顔を付き合わせる、美貌の卿とローブの男——それも愚痴る方向であったが。
尽きぬ愚痴は過ぎ去る時間を忘れさせるには充分であったが、そこでふと気付く美貌の卿が疑問を提示した。
「それよりもあの子……もうこちらへ帰って来ているはずでは?にしては姿が見えませんが……。」
「そう言えば……。ふぅ……問題があるのは、何もディフェンサーばかりではありませんな。」
「ですね。致し方ありません……私が彼を探して来るとしましょう。入れ違いにならぬ様、こちらへ彼が顔を出した際には言伝——お願いしますね?」
すっくと立ち上がり、自ら出向かんとする卿へ嘆息を送るローブの男は——
「貴女も大概お人好しですな……。現場で事に尽くし——さも当たり前の如くその足で東奔西走する貴族など、これまで見た事もありませんぞ?」
最もな言葉を美貌の卿へ送るが、女神の様な微笑みを浮かべた卿はさらりと返す。
「ふふっ。私もこの様な事は、リーサ姫殿下のお世話で慣れたものです。確かに気苦労は尽きませんが……大手を振り、安全な所でのさばるチート勢と同じになるぐらいなら——」
「世のためにその身を切る勇士達を支え……東奔西走も覚悟の上です。」
笑顔の言葉を残して、港町大通りへと消える美貌の卿。
それを見送るローブの男は盛大に嘆息——苦笑を零してひとりごちる。
「ディフェンサーもディフェンサーなら、フェザリナ卿もフェザリナ卿だな……全く。——揃いも揃って過酷な試練へ自ら足を踏み入れる……このチートがのざばるご時世だぞ——」
「その様な献身を見せられては、こちらも協力を惜しまずにはいられぬでは無いか……。」
苦笑の後、
視界に入る複数の装束を纏う者らへ目配せし、指示と
「
首肯と共に散る装束集団を一瞥し、ローブの男は街を一望出来る施設二階の展望台へ上がり——遥かな未来を見通す様な視線を彼方へ飛ばす。
「さて——今は動きを見せぬが…… 一行が大陸へ向かう直前が、最も危険なタイミングであろうな。」
そして動きを見せぬ
∫∫∫∫∫∫
バスターズ一行がそれぞれの行動へ——そして警備隊からフェザリナ卿自らが、同行代理者を探しに出た頃から幾ばくかの時間が過ぎ——
港町を包むすでに何度目かの連星太陽の夕焼けが、西に広がる山脈を照らす中……山間を中心に暗雲が群がり始める。
しかしそれは、天候変化の齎す物ではない局所的な事象の変異——その中心にあの
「まずは小手調べ……だが、
山間から港町を一望出来る崖。
そこより奥まり、一際開けた場所へ簡易に設けられた祭壇前……ローブを脱ぎ払った死霊の支配者は儀と思しき術の展開に入る。
ローブ下に纏う装備は異様そのもの——包帯とも……ベルトとも取れる帯を幾重にも重ねた
そしてその帯へ刻まれるは、術式により織り込まれた呪印の羅列……それが頭部——顔面の半分までを覆う異様な武具。
術式展開直後、顔面半分を覆う黒革の眼帯下が怪しく輝き出し——男の周辺へ、召喚術式用の
『
死霊の支配者が展開する術式は、この赤き大地でも殆ど使用される事無き暗黒面に属する
——
術者の身を供物として捧げ、引き換えとして強力な
が……術式が完成したであろう場所には、
「これは時限式……巨大な
「
その術式を講じる支配者は、まさに戦闘に於けるプロ——この男はたった一人で、かの
「さて——残る備えも万全だ。せめてこの程度――超えて行かねば、我らラブレス帝国の相手は務まらんぞ?オリアナ……。そして
「——こちらの誘いにしかと乗って来い。大陸へと発つ前に、この俺自らが相手をしてやろう。」
不穏を零す男の片目は鋭さに悲哀を塗し……そして眼帯側の目からは今も闇の瘴気を撒き散らす。
∫∫∫∫∫∫
「どうしたお嬢ちゃん?こんな夜更けに。ここは宿屋じゃないよ?」
「……違う。……ボクは……ボク。——宿屋?……間違えた?」
「こんな夜更けに一人は危険だからな、叔父さんが宿屋へ案内してあげるよ。つい最近も、夜中に派手な騒動があったって話だ。ほれ、ついて来な。」
夜は宵闇。
すでに深夜へ入ろうとした港町の片隅で、一人の法衣を纏った少女が道行く街人へご迷惑をかけていた。
「ところでお嬢ちゃん、法衣って事は
「……ん。……
親切な街人男性の問いへ、フワフワと答える少女——しかしその質問に気を良くしたのか、傍目には分からぬほどの微笑を浮かべつつ——
己が相棒とも言える霊銀製のメイスをひけらかした。
無益な殺生を禁じられる
「おっ!?お嬢ちゃん——えらくそれ、ゴツいな(汗)そんなの持ってんのかい?」
「ん……。これ……相棒。それと——ボクは……ボク。」
街人男性が見せる相棒への驚愕へ、心なしか胸を張った少女——だが、何か納得が行かぬとの表情へ戻り「ボクは……ボク。」と繰り返す。
そんなこんなで街人に案内された少女は、街沿岸のお宿〈
「じゃあ、お嬢ちゃん……ここでお別れだ。今日は遅いからゆっくりお休み。襲われたりしなくて良かったね。じゃあな!」
「……ん。感謝。」
親切な男性へぺこりとお辞儀し謝意を贈った少女。
程なく街人も闇夜へ姿を消した頃、少女は夜も遅い事もあり……致し方ない雰囲気を醸し出しつつ、お宿へ部屋の予約へと向かった。
「そうですね……あっ!辛うじて一人部屋の空きがあります。お客さんへお断りを入れる事にならず良かったです。ではこちらへ——」
お宿の空き部屋に案内される中、中居にも聞き取れぬ声でささやかな自問自答を繰り返す少女は——
「ふぅ……迷った。……警備隊本部駐留所……何処?でも——もう……夜、遅い。」
「明日で……いい。」
少女が口にしたのは警備隊本部駐留所と言う言葉。
そのまま案内された少女は、止む無くお宿で一夜を過ごす事となったのだ。
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