Act.37 騎士隊の厄介者
「ふぁ……フレード君を~~堪能したかった~~。」
「全く……君と言う奴は。見境いと言うか——限度と言うものがあるだろう(汗)つい先日まで「オリリンが~~」って
「男の娘と分かってもそれとは……流石に私も引かざるを得ない所だね。」
「ちょっとそこで私を出さないでよ。身の毛がよだつじゃないの。」
女子三人で回る買い出しで、今までにない程話に花が咲きます。
内容はと言えば……残念ながらいつものあれやこれやと、代わり映えもしないのだけどね。
私としても残念精霊さんはともかく、こんなに
まだお昼までの時間もあるため、早々に買い出しを終えたい所——速やかに目的の小物雑貨が置かれた小洒落たお店へ足を向けます。
「ところでさ……ヒュレイカって、あんたらが部隊として合流する前からそんななの?」
と、何やらオリアナさんから珍しい——私達身内でも、しばらく無かった身の上話を振ってきます。
しかも……結構違う意味でヘビーな内容から……(汗)
すると今まで「フレード君を~~」と嘆いていたヒュレイカが沈黙——そのまま微妙に目を伏せ、思い出す様に語り始めます。
その様相を見る限り、もしかしてヘビーなのはガチであったかと思いながら聞き入ってしまいました。
「……まあ今更だから話しても問題は無いけどね~~。私はディフェンサーに任命される前……帝国の騎士隊からすればただの厄介者扱いだったんだね~~これが。」
「そう……なの?」
オリアナでさえも想定していなかった返答に、一瞬やっちゃった!と場を読めてなかった感を醸し出しますが——
「ああ、引かないでいいってオリアナ!むしろミーシャも含めていい機会——聞いてくれたら何か気持ちの整理も付くから。」
それから語られるのは、私ですら聞き及ばないオレンジツインテさんのガチな過去なのでした。
「あたしは幼い頃から、科学的に言う所の……両親から遺伝的に怪力を受け継いだ形でさ——それが何かの役に立てばと、帝国の騎士隊へ入隊を希望したんだよ。けど——」
「……結果は散々。そもそも帝国の騎士隊には、力加減がモノを言う剣術が伝わっててね?当然騎士隊への入隊試験でもそれが重視された。」
「ヒュレイカ……それは普通にガチな感じだね。それで、試験はどうだったんだい?」
私としても、ここで空気を壊す様な無粋は持ち合わせてはいない訳で……無用に茶化す事なくその過去の経過を問い質します。
「通るわけ……ないわね。ミーシャも知ってるでしょ?武器を振るってたら力がついた――ってのは建前よ。あの怪力は生まれつきなの……当然試験だからと言って、加減なんて出来る筈もなかった。」
「それが災いして、結構名門出身だった騎士隊養成所師範——その門下生でいつまでも騎士隊に入れない私は、師範の顔に泥を塗ったと非難され……いつしか周囲の騎士からもバカにされ始めた訳よ。「騎士隊の厄介者」ってね。」
ヒュレイカにはあるまじき鎮痛さに、思わずオリアナも歩の速度を遅め……無用に感情移入し聞き入っています。
彼女はむしろ目にしたヒュレイカの様相に、少しばかり似通った自分の人生を重ねているのだろうと察したね。
そんな私達を一瞥し、すっと上げた双眸に……今の鎮痛さを吹き飛ばす輝きを湛えたツインテさんは——
「そんなあたしに声を掛けてくれたのは、現
「そのお姉様が推薦してくれたおかげで、今の殿下直属宮廷騎士って地位に落ち着いたんだけどね!」
「か……
それは表社会でも広く知られる情報……
さらに言えば……その
即ち——生まれつきや棚ぼた的なチートなどは目通りすら叶わない……他を圧倒する壮絶なる研鑽を超えた挑戦者こそが得られる、質実剛健を地で行く最強の称号なのです。
その結論から得られたヒュレイカの行動原理——少なくとも私は理解しました。
帝国最強の騎士であるジェシカ様は皇子の親衛隊、サイザー殿下に付かず離れずであったため……皇子との謁見の度幾度と顔を合わせ知り得ています。
ポニーテールにまとめる燃える様な赤髪を、赤眼と共に備えるあの方は……フェザリナ卿も唸る程の容姿端麗な美女です。
それをお姉様と呼称するヒュレイカにとっては、美人という容姿こそがキーなのでしょう——そこには趣味嗜好ばかりではない、自分を認めてくれた人物への熱狂的なまでの崇拝心が多分に含まれていると感じたね。
それが見境ない点へ関係しているんだろう、と。
「君の趣味趣向の根元はだいたい理解出来たけどね、だからと言って見境ないのはどうかと思うよ?せめて内々だけにして欲しいものだね。」
「あんたが言うな、あんたが……(汗)」
いつしか重かった空気も平常通り……定番の弄り合いへ戻る頃には目的のお店も視界に入っている訳で——
「さあ、その話は一旦置いておこう。これ以上辛気臭くなると、どうやってヒュレイカを弄ろうかと言う案が浮かばなくなるからね。」
「そんな案浮かべなくていいから!?」
「はいはい……さっさとお店へ入る。お昼が来てしまっては準備の段取りが詰まって来るからね。海洋を渡るんだ……それなりの準備は整えておかないと痛い目を見るよ?」
小洒落た小物屋店内は、単に身だしなみに関する買い物に止まらない品揃えを有しています。
普通の日常品に始まり、冒険に必需品と言えるレンジャー装備から……簡易の武具までを取り揃える店内——ひと昔前の
かく言うこの店舗スタイルの発祥は定番の〈アカツキロウ〉——ディスカウントと言う近代的文化を取り入れているのは明らかです。
ただ——文化的な相違から来る、品揃えの微妙な違和感は拭えないのですが……。
「取り敢えず、必要な物を物色してカゴへキープするんだ。どの道私が会計を済まさなければならないから——」
「もし各々で必需品がいるならば、早々に申し出る様に。」
あまりダラダラと買い物する余裕も無いため、緻密な計画の元予定を終える様に進めて行きます。
そう——計画性と言う言葉をしかと頭に刻み込んだ、この私の聴覚へ……耳を疑う様な言葉が飛び込んできたのです。
「あのぅ……賢者様?これと、これとこれと——この服一式が欲しいのだけれど……。いえ——欲しいにゃあ☆」
「……オリアナ……随分と狡猾な手口じゃないか。まさかここで自分の欲しい服を手に入れるためだけに〈ハートの狙撃手オリリンにゃあ☆〉を発動させてくるとは——」
「いいだろう——買ってあげよう。これで晴れて君も
ちょっと呆れてモノも言えなくなったため、不本意ではあるけれど——問答無用で白黒メイドさんを、護衛二人の同類へ引き込むも待った無しです。
そんな自業自得の白黒さんを、ニヤニヤ見やるヒュレイカの手元——取り敢えずあんたもかとの突っ込みの視線を送りつつ……こちらはすでに常習となる
けれど実質、私達はみな女性——故に色気も清潔さも無い無精など言語道断であるため、その点へは無用に制限を掛けることもしません。
さらに言えばその程度の借金などは、旅の最中にぶっ壊した数多の食堂修繕費に比べれば取るに足らない額——
なのでオリアナへも最初から無意味に制限を掛けるつもりなんて無かったのだけどね。
そして——
必要な物プラス各々の欲する物が一通り揃うまで、店舗内巡りは和気藹々の中進むのでした。
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