Act.29 白黒少女を迎えし者

 物騒な得物とは思っていたけれど――

 そいつは想像を超えていました。


「…………出たね(汗)」


「…………出たわね(汗)」


 とりあえず……正直な感想を述べるとするならば――ビビリました。

 いやもう、人が扱う武装レベルで……いくら精霊力エレメンティウムを高圧縮したからと言って――

 さしもの私達も、思っていなかった訳で……――


「サイザー殿下が、機械兵装を戦線投入する事へ危惧を覚えるの……分かった気がするね。」


 言わずと知れたその銃火器ガルダスレーヤPF9の設計は、私が今後ろ盾とする魔導機械アーレス帝国です。


 近年——ちょうど私が超法規防衛隊ロウフルディフェンサーへ実験配属された頃から、帝国内では量産体制の整った魔導機械兵装を試験的に実践投入する案件が上がっており——

 時の十三代目皇帝であるゼィーク・ラステーリ陛下が、強力に後押しし進められていた所——それに真っ向から反対意見を述べた者がいました。


 それが私達を組織した張本人……サイザー・ラステーリ皇子殿下その人だったのです。


 まあそれはそれとして——ビビったのは私だけではない様で、隣で同じ言葉を漏らしたオリアナまでも目を白黒させてポカンと口を開け放つ始末です。

 と、今自分達を狙う敵対者首魁さん……何か覇気を抜かれた様に立ち——


「はぁ~~……止めだ止めだ!これ以上の利益が俺らには無い——今日の所は見逃してやるよ、帝国の犬共……。」


 漏らした言葉に疑問を覚えるも、を見逃さなかった私は……あえてのカマをかけてみます。


「おや?闇の冒険者さん……もしかして——ビビったかい?」


「……ふざけやがって。流石におかしいだろ……。」


 どうやらビンゴの方向だね。

 かく言う、ビビってれば世話は無いのだけれど——むしろ敵側がそれで尻込みしてくれたのは大助かりだね。


 肝心の紛い物のお月様はと言うと——それはもう見事に消し炭になった訳で、人狼団体御一行は悉く普通の人間へと戻されてしまっているね。

 それを確認後、頃合いとばかりに身内それぞれへ合図を送ります。


「ではテンパロット、ヒュレイカ——オリアナさんも救出した事だ……ここは武器を収めるよ。精霊さん達もご苦労様……そろそろ揃っているんだろ?警備隊の皆様方……。」


 言うが早いかガチャガチャと物々しい音が、影より出でて闇の冒険者ブラッドシェイドを囲み始めます——が、流石と言うべきか……すでに首魁さんが撤退準備を始め——


「おっと、捕まってやる訳にはいかねぇな!——と言う事で、ガルキア……ここは任せたぜ?」


「おっ!?俺ですかい!?ち……畜生、了解でさぁ兄貴!おいお前ら……俺様が相手だこの野郎!」


 なんと逃亡態勢へと移ります。

 これはちょっと汚い手段ですが……よくよく考えれば、この狡猾さが闇ギルドで幅を利かせる要因なんだと悟りました。


 盾にされたガルキアと呼ばれた男も、首魁を心酔しているのか——特に考える事もなく盾に……て言うか、この男のが少々弱い気がしないでもないですが……(汗)


「まっ……待て!逃がさんぞ〈ブラッドシェイド〉……貴様らの行動は社会からも多くの苦情が——」


「はっ!待てと言われて、!」


「それは酷いっす!?兄貴!」


 盾にした味方に暴言すら吐く始末——闇ギルド所属の者が皆に嫌われるのが分かる気もしますが……散り散りになった変異亜人種方ウェアヒュミアは、見事に逃げおおせ——

 無残に残されたガルキアと呼ばれた男が、すごすごお縄を頂戴していますね。


 ——今君は「俺が相手だ!」と豪語しなかったかい?全く強いんだか弱いんだか分からない奴だ。


「さて……。あとはフェザリナ卿の部下に任せて、オリアナ……君も一度帰るべき場所へ——」


「……あ……。」


 事は収束と察し最後の締め——

 救出対称であった当のメイドさんへ話題を振り……その言葉で視線を落としたオリアナが——


「私に帰る場所なんて……もうないじゃない。どうしろって言う——」


 なんてのたまう物だから……ちょっとその回っていないオツムへ、軽く握ったをコツン!とお見舞いします。


「痛っ!?何すん——」


「帰る場所がないだって?……よく目を開けて見てみる事だね——私達へ、君の救出依頼を出してくれた方の表情を……。」


「——救出依頼って?一体誰が……——」


 疑惑と怒りの表情のまま、警備隊中央を見やるオリアナ。

 そこへ騎士の案内のまま現れたのは——タイニー娘の店長兼メイド長のララァさん。

 そしてそのまま駆け寄るララァさんが、泣き崩れる様にオリアナを抱き締め——


「良かった!本当に良かったわよ!輩がオリリンを攫ったなんて聞いて……私、気が気でなかったのよ!?」


「なっ!?いや、その——私二日と勤務してなかったんですよ!?それが何で——」


「大事な従業員が——家族が攫われたのよ!?当たり前じゃないの!」


 驚愕するオリアナ。

 それもそのはず——闇の世界で……裏社会を生きる武器商人としての生活しか知らぬ彼女にとって、光の中で生きる者達のコミュニティと言う概念など範疇の外。

 個人経営とは言え、義理と人情が主体の街の店舗――そのお店が誠意を持って働いてくれる従業員を、大切にしない訳がないのです。


 だからこそ……オリアナが攫われたと聞いたララァさんは、いの一番で私達の所へ飛び込み救出依頼を申し出た——それはオリアナに、新しい帰る場所が出来たという事に他ならないのでした。


「良かったじゃない、オリアナ。見捨てられたかも知れないけど——」


「何やええ話になってんねんな。まさにお涙頂戴やなぁ……。」


「しーちゃんいつの間に精霊装填解除したんだよ(汗)まぁあいつも、闇の組織で買い潰されるより全然いいんじゃねぇか?」


「……うむ。その通りであるな、テンパロット殿。」


「ちょっと!?あんた達何とかして!これ……私どうしていいか——」


 初対面からさほど経っていない相手の、自分に対する暖かな愛情にドギマギするオリアナ——それを見やる二人の護衛と二柱の精霊が……降って湧いたお涙頂戴劇に、感動を覚えていますね。


 そこには彼女……オリアナが敵対者であった事実など吹き飛んでしまった様な——私が想定した最も無難な結末へつつがなく進んで行き——


 後日——

 その終着点である旨をフェザリナ卿からの了承の元、向かうはタイニー娘で皆に告げる事となるのでした。



∫∫∫∫∫∫



 監視対象であった敵対者……その対象が攫われると言う珍事件が収束を見た後日。

 その後の対応を含めた法規隊ディフェンサー一行は、再びメイド喫茶〈タイニー娘〉を訪れていた。


「——と言う訳で、オリアナを敵対者としての監視対象から……味方として——そして保護観察下に置くと言う注釈付きではあるけれど——」


「彼女をロウフルディフェンサーへと組み込む事とした。オリアナも異存はないね?」


「……はぁ……ま、その扱いは仕方がない所ね。いいわ……了承する。」


〈タイニー娘〉店内……永遠の17才ララァから、特別に準備された個室で今後を話し合う法規隊ディフェンサー白黒少女オリアナ

 闇ギルドである〈ブラッドシェイド〉に関しては、利益を優先する彼らは依頼さえなければ以降の接触の危険も少ないと踏み——

 当面彼女の生命保全にとって最も危惧すべき相手である、黒の武器商人ヴェゾロッサ本体の動きへの警戒と牽制——それを踏まえた上での仲間組み込みを話し合う。


 すでに敵対意識や復讐心が、救出された事で霧散した白黒少女も拒む意思無く受け入れていた。


 が——その点に発生する問題点を狂犬テンパロットが提示した。

 そこに深く関わる、魔導機械帝国の名を出して——


「となるとよ……一度帝国領へ戻る必要があるな、ミーシャ。ただの保護観察じゃなく、味方としてオリアナを組み込むんなら尚更だぜ?」


「よね~~。つか、帝国領地内に戻るのって……あたし久しぶりな気がするんですけど?」


「そうだね……。正式に部隊へ組み込むのならば、殿下に一度お目通りが必要だ。オリアナもその予定で……あ~なに、それまではここでしっかりララァさんへ恩返しして置くといいさ。」


機械アーレス帝国の魔導式通信技術は進んでるんでしょ?それじゃダメなの?」


「そうだね……私達はまだ公にされていない部隊——オリアナもそれなりの情報網を持っていたけど、私達を知り得なかっただろ?それにこれは、殿下の勅命でもあるからね。」


 帝国と言う存在を情報網で知るも、おおよその範囲のみを知る白黒少女。

 そして彼女が組み込まれんとする部隊は、その中でも表沙汰にすらならない極秘情報の一端である。


 そして——

 今後の動向を桃色髪の賢者ミシャリアが下す。


 新たな仲間を加えた歩みの行く末を——


「では私達は今日から数日を置き、魔導機械アーレス帝国への旅路を取るよ?その際ここタザックからは、海洋船でイザステリア大洋を渡る事となるけど——」


「大洋航海はそれなりの日数を要する。皆準備を怠り無く——いいね?」


 桃色髪の賢者が示す道へ、皆は賛同する。

 彼らも予想だにしない……新たな冒険が待ち受けるとも知らずに——



∽∽∽∽∽∽ 港町 タザック ∽∽∽∽∽∽


被害 : メイド喫茶〈タイニー娘〉————机×テーブル、内壁一部大破


食堂バスターズ————借金……微妙に加算で黒字ならず!


∽∽∽∽∽∽借金なおも継続中!∽∽∽∽∽∽

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