ロウフルディフェンサー

Act.２８ 反旗の狼煙

　ばら撒かれる魔弾。

　撃ち払われる人狼達。

　法規隊（ディフェンサー）と闇ギルド（ブラッドシェイド）の攫（さら）い人争奪戦は完全に形勢逆転する。

　——それも……闇ギルドが攫（さら）い、始末の対象となった少女による怒涛の反撃によってである。

「……アサルトライフル——しかも精霊力（エレメンティウム）を動力にする、だと！？どこでそんな魔改造銃火器を——」

「ちぃっ！賢者だ……ロリ賢者がエネルギーを充填してやがる！てめぇらそいつを先に仕留めやがれっ！」

　飛ぶ指示に反応する人狼——そこへ混じる尖兵に、あのガルキアと呼ばれたドレッドの手下も混じる。

　だが——

「ひゃっはーーっ！潰してやるぜーーっ！」

「あんた、あん時のドレッド後退ハゲね！やらせる訳……ないでしょう！さっき私は、賢者様と約束したばっかりなのよっ——喰らいなさいっ！」

　狙い定める視線。

　引き絞るトリガー。

　その正確無比な銃撃は、ガルキアと呼ばれた人狼も軽くあしらい——他の人狼をも素早く狙いに定める。

　セミオート仕様で確実に各個撃破する白黒少女の背後で、彼女に守られながら呪文詠唱を続ける桃色髪の賢者（ミシャリア）も感嘆を漏らし——

「あの時もそうだったけど……恐ろしい命中精度だね、オリアナ！けど賢者様なんて仰々しい呼び方は止めないか！？私はミシャリア——みんなにはミーシャと呼ばれてる！」

「お褒めに預かり感謝するわ！——ミーシャね、分かったわ！あとお礼を忘れてた……助けてくれてありがと！そっちの二人プラス精霊さんもねっ！」

「今更ね！こっちこそ、ミーシャを守ってくれてありがと、オリアナ！」

『せやで！それにお味方してくれるちゅーんなら、堅いことは抜きせんとな！』

「うむ、よろしく頼む。ではウチのお嬢を供にお護りいたそう。」

「お前さんの様な射撃の達人がいてくれて助かるぜ！その腕があったなら、あんな秘密兵器とかに頼らなくてもよかったんじゃねぇか！？」

「狂犬は余計な一言が多い！あんたは後で覚えてなさい！」

「オレだけかよ！？」

　賢者の少女眼前で鉄壁の守備を披露するかつての敵対者——しかしすでに、二人の賢者護衛と二柱の精霊も昔馴染んだ友の様に言葉を返す。

　もはやすでにひっくり返った形勢の最中……未だ鋭き眼光が、状況を見定める。

　手下が一人……また一人と打ち倒されるも——視線を一点に集中させる優男の頭取が——

「ああ……ったく、使えねぇなぁ。報酬所の話じゃねぇぞこれは——」

「このまま負け続けでは、俺たち闇の冒険者（ブラッドシェイド）の信用が丸潰れだ——て、訳で……——」

　敵にいい様にのされる手下を尻目に—— 一瞬覇気を途切れさせた頭取が……背に縛り付けていた剣を——

　彼らが受けた依頼の本懐である……武器商人から試験運用を依頼されていた特製の武装をユラリと振り抜き、法規隊目掛けて突進を開始した。

「こちらの依頼の本命を……遂行させて貰うとするかっ！！」

　中空を駆けるきっ先がまず狙うは、精霊装填を行っていない狂犬——精霊装填の存在如何は理解の外である頭取も、瞬時にその戦力分析を終え剣を走らせる。

「てめっ……親玉のお出ましかよっ！——そいつは……！？」

　強襲する剣閃へ危険を察した狂犬（テンパロット）が剣殺し（ソードブレイカー）で弾く様に交わすが……直後——その剣殺し（ソードブレイカー）の刀身が宙を舞う。

「——やべぇ！？ヒュレイカっ、気を付けろ！こいつの武装は超振動ブレードだっ！」

「なっ！？なんて得物持ち出してんのよ、そいつ！」

「そっちも味わいたいかっ！？なら喰らうがいい！」

　狂犬への攻撃もそこそこに、ツインテ騎士（ヒュレイカ）へ向け切っ先を振り抜く頭取——しかしその距離を一気に詰める閃撃が、炎を纏い飛来した。

「うそっ……でしょ！？」

　舞う一撃は確実に精霊力（エレメンティウム）を纏う閃撃——超振動斬撃による近接攻撃を警戒していたツインテ騎士は意表を突かれつつも急制動、そのまま天へ弾く様に閃撃をいなす。

　弾かれた閃撃（それ）は、特殊金属で作られたツインテ騎士の大剣（グレートソード）には傷を与えず……しかし同様に特殊金属製である、狂犬の剣殺し（ソードブレイカー）は刀身を直接打ち合い真っ二つにされた。

　視認した異なる結果を見定めた狂犬は、すかさず頭取の得物の特性を見抜き——

「ヒュレイカ、そいつには近付くな！近接では得物の刃を持って行かれる……剣撃波で応戦しろっ！」

「……了解よ！全く、めんどくさい敵ね！」

　叫ぶ狂犬の指示へ阿吽の呼吸で、相応しき攻撃方法を選出するツインテ騎士——危険な得物（超振動ブレード）を構えつつ、頭取も感嘆を漏らす。

「ほう？やるな、帝国の番犬さんよ。今の攻撃だけでそれを見抜くか……なるほどそれが、キルトレイサーと呼ばれる者の観察眼——番犬と言うだけの事はある。」

　わざとらしい感嘆へ、同じく感嘆で返す狂犬が——

「てめぇこそ、闇のギルドで名を馳せたってだけの事はあるな！だが——正直あんたの行動が、とても冒険者を続けていた様には見えねぇんだが！？それこそどこぞの、お高い地位でふんぞり返っている輩じゃ——うおっ！？」

「——余計な詮索してんじゃねぇよ……犬野郎！」

　狂犬が頭取の言う観察眼で見定めたもの。

　そこには頭取が推定した以上の物を含み……得られた推察に確証を得んとした狂犬が、頭取へとカマをかけ——

　物の見事に的中された頭取——鋭い殺意を秘めた炎の閃撃を叩き返す。

　それを視認した術式展開中の桃色髪の賢者——そのやり取りから、ギルド頭取の素性へ思考を巡らせる。

「（ふぅ……頭取さんも中々だけど——その点でプロフェッショナルのテンパロットにはまだ及ばないね。今確実に、彼の素性への手掛かりにクリーンヒットしたよ。となれば——）」

「（今後の彼らへの抑えも、当てがある——が、今はこの場を乗り切るのが先決だね！）」

　魔法術式展開により、白黒少女の物騒な得物（ガルダスレーヤ）へエネルギー供給中の桃色髪の賢者――頭取が狂犬により煽られる瞬間を見計らい、巨躯の精霊（ジーン）と白黒少女（オリアナ）へと策を飛ばす。

「ジーンさん、オリアナにあれを何とかしてもらう！風の精霊術で、ちょっと野蛮な狼さん達を遠ざけてくれないか！」

「秘策があるようだな……心得た！」

「オリアナ……君のガルダスレーヤ銃身先――チャージバレルを展開してくれるかい！？そして高圧縮精霊力（エレメンティウム）充填後、あの空に浮かぶお月様紛いをぶっ壊してくれないか！」

「倒しきれずに何度も蘇る野蛮な人狼さん達が邪魔で、ウチの護衛達が本領を発揮出来ない！いけるかい！？」

「私が撃つ銃の命中精度はもう知ってるでしょ！？任せなさい！」

　すでに長年の仲間の様な雰囲気を醸し出す賢者の少女と白黒少女。

　それを守る様に立つ、巨躯の精霊が風の精霊術を展開する。

　精霊としては上位に位置する巨躯の精霊……３ｍほどの体から振り上げられた剛腕に従う風の精霊群が、大自然の脅威と化し――

「受けよ――〈爆豪裂波（ダウナバウスト）〉！！」

「「「ギャオオオオンーーッッ！？」」」

　上空より叩き下ろされた風の爆豪が、風の盾を形成する巨躯の精霊――そしてそれに守られる二人の少女を避ける様に、人狼の群れへと猛撃した。

　が――ついうっかりおちゃめな巨躯の精霊は、放つ精霊術範囲内で絶賛バトル中の仲間へ退避行動の呼びかけを忘れ――

　仲間な二人も微妙に餌食となりつつ……爆豪が猛襲した。

「ちょ、ダンナ！それを撃つって言えやーーーっっ！？」

「ぎゃあああっっーーーっっ！？何であたした達、巻き添え食らってる訳ーーーーっっ！？」

「むっ！？済まぬ！忘れていたっ！」

「「ふざけんなーーーっ！？」」

　爆風で散らされる人狼群の中で、辛くも体勢を立て直す二人の法規隊精鋭――しかし放たれたそれが、白黒少女にとって上空の目標を狙い定める好機となる

　狂犬と供に食らった爆風被害から立て直す、闇ギルドの頭取視界へもその姿が映り込み――

「クソがっ！狙いはそれかっっ！」

「お高いんでしょう？あそこへ浮かぶお月様紛いは！――だったら私が、木っ端微塵にしてあげるわよっっ！！」

　定める目標。

　スコープ先の紛い物の月めがけ――

　精霊力（エレメンティウム）が高密度に充填された銃身へ、捲き起こる風と供にエネルギーが先端のチャージバレルへ集束。

「さあ見せてやれ、オリアナ！君を黒の武器商人（ヴェゾロッサ）が見放すと言うならば……その一撃がギルドへ反旗する狼煙だとねっ！」

「ええっ、見せてやるわよ――ぶっ壊れろーーーーっっ！！」

　眩（まばゆ）い緑の閃条が――紛い物の月を包むように貫いた……。