Act.17 因果の邂逅、微妙な感じに……

「これはなかなか。いや、おやっさん! あんたいいバイト見つけてくれたね! えっと、オリアナちゃんか……。よし——」


「これから貴女のメイド名はオリリンよ! これからよろしくね、オリリン! 」


「——……オ……オリリン? 」


 そこは大道芸を生業なりわいとした商人が、——白黒少女オリアナを引き連れて訪れた、彼女へ紹介する職場。

 メイド喫茶【タイニー娘】店内である。


 しかし、唐突に名付けられた店員の証でもあるニックネームを耳にした白黒少女は、引きる笑顔で硬直していた。

 それでも道すがら耳にした、なる残念な通り名よりは幾分マシと自身に只管言い聞かる少女。


 再度繰り返そう、決してでは無い。


「……えーと、はい! これから暫くよろしくお願いします! ではその……何から始めれば——」


「何ってまずは接客練習からでしょ!? さあ、挨拶はこうよ! 」


 メイド喫茶店内フロアにて、商人からあらましを聞き……ここぞとばかりに場を仕切るはタイニー娘 店長ラメーラ・トリマ。

 店内のメイド長も務める敏腕店主である。

 衣装も他の店員を凌ぐ、メイド長らしい豪華さに彩られ、その華やかさを以って新装開店店舗を切り盛りしていた。


 店長兼メイド長の腰元に踊る、キュートでポップなニックネーム札で、と言う謎のと共に記される〈ララァ〉との呼称。

 何処ぞの赤い三倍速の人が歓喜しそうな二つ名を持つ彼女が——


「いらっしゃいませーーっ☆ タイニー娘へようこそ☆ 」


「……ええぇぇ……。」


「教えた通りにやらないと……お仕置きするにゃん……?」


「ひっ!?」


 商人との会話時に見せた姉御肌な喋りをブッチする様な、超絶演技を披露した。

 それを見るやこれ見よがしにゲッソリと、ドン引き感を剥き出しにした白黒少女であったが、口調はそのままに視線が座るメイド長が睨め付ける。

 恥をも凌ぐプロの威圧を叩き付けられた少女は、身震いとともに石と化す。


 その永遠の17才が見せた威圧が功を奏したか、死の恐怖すら感じたは、言われるがままに恥の全てをかなぐり捨てた。


 そこで勢いに任せ、以後の生活の全てを賭けるべく謎のプロ意識を開花させる事となる。


「い……いらっしゃいませ☆ タイニー娘へようこそ、に…………。」


「ぶっふぉぉぉーーーっ!?」


「ファッ!?」


 恥を捨てるも恥ずかしさは全開な白黒少女が、僅かに語尾を弱々しくどもらせた刹那――

 プロメイド長ララァの小さくも形の良いお鼻より、盛大に鮮血が噴出した。


「あ……貴女、中々良い筋してるわね。この私のハートを撃ち抜きに掛かるなんて――」


「聞いた所では貴女……狙撃の芸もこなすとか。そうね、これからネーム札には〈ハートの狙撃手 オリリンにゃあ☆ 〉と記しなさい!これ厳命! 」


 もはや手の付けられぬ暴走を始めたプロメイド長。

 翳される暴挙に、白黒少女は遠い目で世界の遥か果てを見ながら逃避した。



 されど明日を生き抜くためとの妥協の中で、晴れてメイド喫茶の看板店員を務める事と相成ったのだ。



∫∫∫∫∫∫



 沿岸部を横切る大通りは華やかな賑わいを見せ、そこより少し横道である路地へ入ると、大通りと打って変わる毛色の違う者達の喧騒舞う人混みへと続いています。


 それをよく見れば、この正統魔導アグネス王国特有の文化圏からは遠く離れた衣装を纏い練り歩く影。

 ひと種は兎も角としても、まさかの妖精種エルヴィムを代表するエルフにドワーフまでもが、それに乗っかる異様さが包んでいたのです。


「ほぅ、コレは間違いなく〈アカツキロウ〉のカルチャーだ。その中でも中心地とされる、〈アギーハバラン〉発のコスプレと言う奴だね。」


 と力説する私を他所よそに、まん丸に目を見開くテンパロットと何やらよだれを垂らして食い入る様に見入るヒュレイカ。

 三者三様と言うけれども、確実にに耐性があるのはヒュレイカの方と見た私は、思い切ってそちら方面の話題を振ってみる事にしました。


「多分この路地のノリならば、彼らの様に好きな衣装を借りられる店があるはずだけど。どうだい、試してみるかい?お二人さん。」


「「えっっ!?マジでっ!? 」」


 返事は同時……けど

 明らかにテンパロットはと引いたね。

 ヒュレイカは身を乗り出して目を輝かせ、コレは脈アリと見た。


 かく言う私がその筋の情報に詳しい理由は、興味があるからに他ならないのだけど——いかんせんこれまで己が研鑽に時間を削がれ、満足に趣味を満喫する事も出来ない現実があったからね。

 なので今までの自分への……まぁ何より、自身があの魔導機械アーレス帝国に於ける重要な部隊に配属されたご褒美と言う形で、へ話を切り出してみる。


「興味津々の様でなによりだよ。ならヒュレイカ……何か衣装でも借りて来るかい? 」


「行くっ! いや、行かせて下さい!我が主っ! 」


 当然ノリの良いツインテさんは、もうそのままで衣装を見繕ってもいいんじゃないか?と思える反応を返します。

 私としては軽装とは言え騎士甲冑を纏う彼女が、一体どの様な衣装をチョイスするのか気になって仕方がない所ではあるけれど。


「……なぁ……それもしかして、オレも乗らなきゃいけねー方向? 」


 うわぁ……目が死んだね、ツンツン頭。

 心なしか髪が白くなってないかい?

 むしろこのおバカには、本来キルトレイサーの元祖に当たる職種——〈アカツキロウ〉が誇るニンジャのコスプレを強要したい所だけどね。


「別に趣味を強要するとは言ってないよ? テンパロットは普段通りで構わないさ。」


 したけれどね。

 そして無理強いしない方向で話を進めれば、こちらでも分かるほどに胸を撫で下ろしたテンパロット……どれだけ嫌だったんだい(汗)

 程なく歩いた店屋の一角で、やはりと言うべきかレンタル衣装店が視界に映ります。

 ただ今回は私へのご褒美も兼ねてる訳で、ヒュレイカへの衣装レンタル代は持つ方向としましょう。


「コレは特別だからね? 衣装レンタル代は持つから、ヒュレイカは好きな意匠を……って——おぉーい、聞いてるかー? 」


 レンタル衣装店に入ったヒュレイカの視界が、楽園でも発見したかの様に……いや実際、好きな者にとっては楽園その物なのだけど。

 爛々と目を輝かせたヒュレイカは、すでに私の声も届かぬ境地へと旅立ってしまった様だ。

 彼女がであった事実発覚と同時に、その姿を遠い目で見やるテンパロットは、その足さえ引き始めたよ。


 分からなくも 無いけど、それ以上は私へも侮辱になるから気を付けて欲しい所だ。


「さあこの路地区画ならば、衣装を着たままで移動が出来る様だ。私達が着替えを終え次第……当初の目的であるタイニー娘へ向かうとしよう。」


「同じ地発祥の文化だから、この路地へそのお店も並んでいるはずだから。」


 ちょうど私自身も小腹が空いて来た所。

 早々に衣装を選び、ヤケに時間が掛かるヒュレイカを待ち惚け、現れた彼女の衣装にほほぅと納得したね。

 彼女がチョイスしたのは〈アカツキロウ〉で流行りの、〈エニメイションカルチャー〉作品――〈魔法少女 プリンセスアリス〉のヒラヒラフリフリなロリ系ドレス衣装。

 カラー選択といい意外にもツインテールが生えるヒュレイカと、もはや死体の様な目で体を引き摺る、遂に目的地を発見したのです。


 そのキュートでポップな入り口の扉をくぐった私達は、すでに多くの客で賑わう開店後順調な出だしの喫茶店店内を一望。

 店員メイドの心が注がれた「いらっしゃいませ!ご主人さま!」を耳にしながら、入り口付近のテーブルに座ります。

 そして響いたとても透き通った……しかし恥じらいも多分に混じる声に期待を膨らませて、オーダーを聞くため向かって来たメイドを——


 


「いらっしゃいませーー☆ タイニー娘へようこそにゃあ! 私〈ハートの狙撃手 オリリンにゃあ☆ 〉があなた方の……え? 」


「オリ……リン? え?? 」


 何だろうねこの因果……目も当てられないよ。

 待ち人来たりじゃないけれど、これはもうそこはかとなく情け無い感じが押し寄せて来たね。


「君……何してんのさ。」


「な……ななななっっ!? お前達は——」


「「白黒っっ!! 」」


「誰が白黒パンダじゃっ! 」


「ふぅ、安心した。だね。」


「どう言う心配の仕方よっ!? 」


 まさかの想定外な場所での白黒さんご登場。

 まさかまさかの波乱の予感待った無しな私達が、それをキッカケとし彼女と後々まで引きる腐れ縁となろうとは――



 お天道様でも予想していなかったのでした。

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