Act.14 港街へ
すでに連星太陽が快晴の空天頂よりも傾く頃、遅い目覚めとなった私は指定された希石引き換えを行うべく国際銀行へ向かいます。
余程の辺境でもない限りは、希石切手を
外観上は、景観を重視した街に馴染む石壁と木造による佇まいであるも、その内部が所々機械文明の一端を間近に感じられる銀行施設へと
ただ、治安が良い街であるも万一の備えとし、それら建物は防犯上理由から王国所属の警備隊が配属される駐屯地付近に集中しているのです。
「やあ、お世話になるよ。私は〈アグネス宮廷術師会〉所属のミシャリア・クロードリアだけど……これが身分証明になるね。」
「はっ!? これは宮廷術師会の……
「いやいや……私の他にすでに待つお客がいるのだから、そちらを優先して差し上げて。私は順番まで待たせて貰うよ。」
「これは……お心遣い感謝いたします! ではクロードリア卿、暫くの間お待ち下さいませ! 」
しかし如何せん身分証明とはいえ、ここまで
だからと言って、宮廷術師会の紋章を出さねば換金すらままならない。
その上、卿……と来たよ——私はただの賢者見習いであり、その卿と呼ばれるチート共と比べれば落ちこぼれも
そう思考しつつ空いた席へ腰掛け、指定された順番を待ちつつささやかな不安に心を揺らがせます。
「(くすねる事は無いとは言え、身分云々の件対応で私が換金に赴いたけど。あのおバカ二人はお宿にご迷惑をかけていないだろうか。)」
お昼前にわざわざお越し頂いたフェザリナ卿から、希石切手の本物を受け取った私。
最初に依頼を受けたテンパロットへ差し出された代物は、依頼に出向いたローブの側近とやらが見せた偽物らしく、彼女らは敢えてそれを提示したとの事。
そこに含まれるのは当然、
偽物か否かを見極めた上での依頼承諾を放ったテンパロットには、私も流石としか言えないけれど……勝手にそれを受けた点については未だに激オコ待ったなしだね。
「大変お待たせ致しました! ではこちらに換金なさる切手を提示し……この欄へ署名願います。そしてこちらが——」
懇切丁寧な街の銀行員受付嬢から、所定の手続きの元冒険に必要な所持金と希石のみを受け取り……当然の如く残金をどこぞのおバカ達がしでかした件へあてると、それ以外を残る借金への返済にあてます。
正直この行為を繰り返すたび、
「依頼としては完遂した形だけど、流石に逃がしたあの白黒さんは今後を考えると痛い所だね……。フェザリナ卿からもその件で継続依頼を受けた訳だし——」
「ここから一番近い街は、東の港街タザック辺りかな? 」
などと、逃亡を図りつつご立派な逃げ口上を叩き付けた白黒さんの行方に、推測を立てながら独りごちり——
程なく歩いた街外れのお宿を遠く視界に捉えるや、絶句と共に私は手にした換金済みの希石入り袋を落としてしまうのでした。
何故かな、変だね。
私が朝
それがどう言うことだろうね。
今私が視線に捉えたのは……粉々に吹き飛んだ、入り口を形成していたと思しき木片が四方八方へ飛び散り——情緒も
と、思考に浮かんだ視界の隅で呆然と立ち尽くすおバカ二人にプラス残念精霊。
もう私さんは気付いてしまったよ……これは毎度お馴染みのアレだね。
同時に湧き上がるモノが身体全体を包むも、ここは万一があるため事情を先に問い詰めるとしよう。
「……おや?これはどう言う事だい? はて……私が朝出た時は、間違いなく両開きの扉を開け放つと共に、
おっといけない……底知れぬ怒りが、無意識に声へ宿ってしまったね。
二人プラス一柱……が余りの驚きでビクゥッ!!と肩を強張らせ、失礼にも程がある地獄のデーモンでも見る様な表情で振り向くや否や——
「「こ、こいつがやったんだっっ! 」」
「っておいっ!?ウチだけが犯人かいなっ! あんたらがウチを今更脱がそうだのと——」
二人のおバカが揃って残念さんを仲良く指差し、明らかに他人へ罪をなすりつけてます。
って、こいつらまだそのネタ引っ張ってたのか。
しーちゃんのセリフで大体の状況が掴めた私……そこへさらりと一陣の風が巻き起こると、巨軀を揺らしてジーンさんご登場。
お待ちになって下さいジーンさん? 一般人に見える程度まで実態化するなど……そんなに当たり前の如く
「済まぬなお嬢……シフィエールも煽られてムキになった様で、同じ精霊として恥ずかしき限り。だが——」
「発端は彼らだっ! 」
ズビシッ!と刺されたジーンさんの指がご丁寧に両手で二方向を向き、その先で悲痛を上げるおバカさん達が仲良く揃って叫びます。
「「うっ……裏切りやがったなーーーっ!!? 」」
要約するとこう言う事でしょう――
引き
と、思考に過るが早いか私は持ちうる渾身の
「この惨状の発端は明らかにおバカさん達ゆえ、しーちゃんに罪は着せられないね。そもそもしーちゃんではお宿の弁償も出来ないし——」
「その分は、二人が分担して
フルフルと首を振ろうと、おバカ・オブ・おバカ達には一切の容赦も出来ない訳で——
「頭冷やせ! この、おバカ共ーーーーーっっ!! 」
「「ぷぎょあぁぁぁーーーーーーーーーー!! 」」
舞い飛ぶ賢者ストレートが、二人を上空へと打ち上げます。
そして無残なる叫びが響き渡ると、生けるダブル屍と成り果てたおバカ・オブ・おバカを尻目に、お宿の店主なおばちゃんへ兎に角頭を下げた私。
「構わないよ!建て替えようと思ってたとこさね! 」との、暖かなる配慮をおばちゃんから頂戴した我ら〈食堂バスターズ〉一行は——
痕跡を消すはずが盛大に刻み付けて、そのお宿を後にする事となるのでした。
∫∫∫∫∫∫
帝国より任を受けし部隊の名は闇に沈むも、盛大過ぎるほどに〈食堂バスターズ〉の名だけは轟かせた一行は、
一方その頃——
そして再び恐怖の一行といきなり遭遇するなど夢にも思わぬ黒き白雪の少女は、いつかは復讐するとの執念を燃やし——
東の港街〈タザック〉へと、一人落ち延びる様に目指していたのであった。
∽∽∽∽∽∽辺境の街 テベル∽∽∽∽∽∽
被害 : ガインバル食堂——屋根部半壊
街はずれのお宿——テーブルセット及び出入り口損壊
食堂バスターズ————借金増大……大・赤・字!!
∽∽∽∽∽∽(借金)は続く?∽∽∽∽∽∽
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