Act.11 精霊共振装填
「うわ……しーちゃんが言ってたよりもこれ、ヤバくね? 」
「あー……何か勝てる気がしなくなって来たんだけど。逃げちゃダメ……よね?」
「当然だよ?寝惚けているのかい? 魔法力装填済みの賢者ストレートでもお見舞いすればその目も——」
「「さ……さぁ、やるぞ~~いつでもきやがれ~~! 」」
視界を奪うは、その体躯でゆうに5
そんなモノを目前にしおバカな発言を零す、護衛のおバカ二人にちょっとだけイラっとした私は、取り敢えず制裁待った無しをチラつかせて無理矢理やる気を出させます。
精霊には無理強いしないと言いつつ、おバカ二人には無理強いするのは少々気が引けますが……そこはそれ。
全部二人の背負った借金の重さと諦めて貰うしかない訳で。
「来るよ! こちらで援護する……接敵してブッ飛ばせ! 」
微妙に荒ぶる気持ちで言葉も乱暴になった私の号令で、二人のおバカ——いえ……アーレス帝国の誇る二人の精鋭が疾風となりオーガ兵へ肉薄します。
同時に援護射撃とばかりに
『
『
指向性の暴風と雷鳴を指定した先へ放つ攻撃魔法。
元々この手の術式は、精霊との契約上で扱える上級術式なのですが、私が放つ物はその威力も6割程度。
精霊の得る負荷を、最小限に留めた事に起因する弊害なのです。
それでも並の異獣程度であれば、これで跡形も無く吹き飛ぶは経験済み。
相手が
あり得なかったのだけど——
「……届かない? いや、完全に無効化した? 」
確かに巻き起こる
二人の精鋭も、それを起点に巨大な兵へ接敵すべく飛び込んでいます。
しかし完全に私の魔法を無効化したそれは悠々と、大きくその手の
「……がっ!? 」
「ぎゃっ!? 」
オーガ兵の得物の一撃をまともに食らった二人が、左右へ弾け飛んだのです。
「二人とも大丈夫かい! ちょっとマズイかな!? 」
「ふふふふっ……アッハハハハ! ザマは無いわね、特殊部隊の皆さん! 」
こちらの心配を嘲笑う声が、狂気を纏って兵装庫より響き渡ります。
それを放った影――兵装庫の屋根の上に舞い踊る白と黒の出で立ちに……紅玉の双眸へ執念の深さを宿らせる
まぁ私としては、何で敵対する輩共はああも揃って高い所が好きなのか……との疑問も待った無しなのだけれどね。
「言ったはずでしょ!? こいつの実験台にあなた方を選んだって! このオーガ兵には魔術無効化の術式と、対物理に特化した魔導鎧を装着させているのよ!? それに加えて、
「これこそが私が編み出し、祖国が大陸へ進出する足がかりとなる侵略兵器……その実験体よっ! 」
そして私は思います。
どうして人を見下した敵対者達はさっき「不利です! 」って顔をしてたのに、形勢逆転出来そうになると、こうも
挙句完全に手の内を晒してしまうと言う醜態……黙っていればいいものを、そう言う詰めの甘さが敗北に繋がると知らないのだろう。
導かれる事実として……この武器商人の少女は、前線での戦闘経験が圧倒的に不足していると言う現実でした。
その結果——間違いなくこのオーガ兵を屠れば勝利は確定……そこに全力を注ぐだけで任務完了すると察した私。
「どうにも状況がマズイ様なので……奥の手を使うも止む無し! さあ皆準備はいいかい!? 」
「クククッ……奥の手とかそんな見え透いた嘘で私が——えっ?……まさか本当に?? 」
ああ……気付いてしまった様だね。
吹っ飛ばされた二人が、それなりにマジで食らったはずだけど……大して
さらに言えば……もう二柱の精霊が鍵となるそれを、私は放つ事にしましょう。
有り体に言えば直後に放つ術式こそが、私達の反撃の狼煙であったのです。
∫∫∫∫∫∫
すでにオーガ兵は私を目標に捉え一歩、また一歩と近付いて来ますがあら残念……あの少女より強い野生の勘でこのオーガの方が危機的状況を察知する始末。
そんな事はお構い無しに、私は自身が最も得意とする術式詠唱に入ります。
『
「な……何よその術式は!? さっきから私の知らない事ばかり……ふざけないでよ、何なのよお前達はっっ! 」
その術式は私が開発した、あの〈アグネス宮廷術師会〉にさえ存在しない魔法。
外の世界から訪れた、貴公神エンディミオンが提唱したとされる真理……宇宙と言う世界からエネルギーを抽出する純物理法則を用い、私が研究開発した未だかつてない魔導体系。
『気高き彼らを高きに誘う真の理! 根元たる偉霊の魂に願う……我らが生み出す機工の器へ力を与え給え——』
『人と霊とが共にそこへ至る、高次の道を生み出し給え!
術式展開。
私を中心とし……周囲へ広がる
直後魔導科学上に於ける名称を、
そして――
『ほな、ヒュレイカはん……お世話になるで~~! 』
「ええ!よろしく頼むわ! 」
『では参ろうか……テンパロット殿! 』
「おっしゃ!これで百人力だぜ、ダンナ! 」
宮廷騎士たるヒュレイカへしーちゃんが……帝国忍びたるテンパロットへジーンさんが付くや、精霊それぞれの
「……はっ? 何だ、何かと思えばただの
「ふぅ……だからチートを振り
「揺るがぬ世界の真理と打ち合えば、ご都合主義のチート法則なんて脆くも崩れさるんだよ。私が開発した術式の根源、物理法則と言う概念を前にすればね。」
「だ……誰がアホの子ですってっ!? 」
「どう聞いたらそうなるんだい? どんな耳してるのかな君は(汗)? 」
白なのか黒なのか分からない少女を煽り立てる様に、彼女の思考——チートでは無い弱点を
チートな兵を操る事で有頂天になる彼女自身はチートでも何でも無いので――如何に有する兵器がチートであれ、使う者が満足な指示も出せぬのならば敗北したのと同義。
なので、現状唯一の指揮系統である少女の思考を混乱させ——私の術式完了までの時間を稼ぐ策を展開していたのです。
「ミーシャ、こっちはいつでも行けるぜ! 」
「さぁ……チート
そして術式完了と共に立ち上がる主力二人。
完全に私の禅問答に意識を持って行かれた武器商人な少女が、こちらでも分かる程にぎょっ!と主力二人を睨め付けて——
「——え? ちょ……えっ!? これ……何、何がどうなって——」
見開く双眸で白黒(面倒なのでこれで良いや)少女が驚愕を通り越して茫然自失——ええ、そうでしょう……私は魔力付与なんて生易しい事をした覚えは無いからね?
精鋭部隊として私を護衛する二人には、殿下より特別な装備が与えられています。
それは元々アーレス帝国が軍事的な戦力強化の一端として開発した、紛う事なき戦場で命を刈り取る技術の一端。
しかし殿下はそれを戦争の道具にするのを良しとせず……私達、弱者を守る機関の防衛装備として配備してくれました。
今二人が装備する防具の下に纏われるは、武装では無いアンダースーツ。
そこへ精霊が霊的な結合の元宿っているのです。
それは二人それぞれが不得意とする身体的能力を、
攻撃力上昇に伴い、形状も大きく変異する
私が展開した術式は
「さあ、チートオーガ兵とやら。君のご大層な武具でこの二人の、身体的にも武装的にも高次元へと昇華された異次元の一撃……受け止められるかい? 」
茫然自失の白黒さんを尻目に、野生の咆哮で負けじと食い下がるチートオーガ兵が……
ついさきほど彼が余裕で
それを合図とする様に、疾風が雷光と化した二人との……激突が開始されるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます