Act.11 精霊共振装填

「うわ……しーちゃんが言ってたよりもこれ、ヤバくね? 」


「あー……何か勝てる気がしなくなって来たんだけど。逃げちゃダメ……よね?」


「当然だよ?寝惚けているのかい? でもお見舞いすればその目も——」


「「さ……さぁ、やるぞ~~いつでもきやがれ~~! 」」


 視界を奪うは、その体躯でゆうに5mメトを超える大型の鬼巨人オーガ・ジャイアント族。

 そんなモノを目前にしおバカな発言を零す、護衛のおバカ二人にちょっとだけイラっとした私は、取り敢えず制裁待った無しをチラつかせて無理矢理やる気を出させます。


 精霊には無理強いしないと言いつつ、おバカ二人には無理強いするのは少々気が引けますが……そこはそれ。

 全部諦めて貰うしかない訳で。


「来るよ! こちらで援護する……接敵してブッ飛ばせ! 」


 微妙に荒ぶる気持ちで言葉も乱暴になった私の号令で、二人のおバカ——いえ……アーレス帝国の誇る疾風となりオーガ兵へ肉薄します。


 同時に援護射撃とばかりに魔法陣サーキュレイダを展開し、風に属する私の数少ない攻撃魔法を詠唱開始……それを二人の精霊が防御する必殺の布陣とします。


超振動ビブラス精霊同調スピリア精霊界励起エレメタリオス! 逆巻く爆轟、閃く閃条……解き放て、大気の裁きを受けるべき敵へ——』


雷嵐天翔レヴィント・ヴィントっっ!! 』


 指向性の暴風と雷鳴を指定した先へ放つ攻撃魔法。

 元々この手の術式は、精霊との契約上で扱える上級術式なのですが、私が放つ物はその威力も6割程度。

 精霊の得る負荷を、最小限に留めた事に起因する弊害なのです。


 それでも並の異獣程度であれば、これで跡形も無く吹き飛ぶは経験済み。

 相手が竜種ドゥラグニートでも無い限り、それが充分効果を成さないと言う事はあり得ない。

 あり得なかったのだけど——


「……届かない? いや、完全に無効化した? 」


 確かに巻き起こる雷と嵐の爆轟レヴィント・ヴィントが、オーガ兵を包み込んだはず。

 二人の精鋭も、それを起点に巨大な兵へ接敵すべく飛び込んでいます。

 しかし完全に私の魔法を無効化したそれは悠々と、大きくその手の得物ハルバードを振り回し——


「……がっ!? 」


「ぎゃっ!? 」


 オーガ兵の得物の一撃をまともに食らった二人が、左右へ弾け飛んだのです。


「二人とも大丈夫かい! ちょっとマズイかな!? 」


「ふふふふっ……アッハハハハ! ザマは無いわね、特殊部隊の皆さん! 」


 こちらの心配を嘲笑う声が、狂気を纏って兵装庫より響き渡ります。

 それを放った影――兵装庫の屋根の上に舞い踊る白と黒の出で立ちに……紅玉の双眸へ執念の深さを宿らせる黒の武器商人ヴェゾロッサの少女。


 まぁ私としては、ああも揃って……との疑問も待った無しなのだけれどね。


「言ったはずでしょ!? こいつの実験台にあなた方を選んだって! このオーガ兵には装着させているのよ!? それに加えて、鬼巨人オーガ・ジャイアント族由来の生命力の強さ——」


「これこそが編み出し、祖国が大陸へ進出する足がかりとなる侵略兵器……その実験体よっ! 」


 そして私は思います。

 どうして人を見下した敵対者達はさっき「不利です! 」って顔をしてたのに、形勢逆転出来そうになると、こうもてのひらを返すのか。

 挙句……黙っていればいいものを、そう言う敗北に繋がると知らないのだろう。


 導かれる事実として……この武器商人の少女は、前線での戦闘経験が圧倒的に不足していると言う現実でした。

 その結果——間違いなくこのオーガ兵を屠れば勝利は確定……そこに全力を注ぐだけで任務完了すると察した私。


「どうにも状況がマズイ様なので……を使うも止む無し! さあ皆準備はいいかい!? 」


「クククッ……奥の手とかそんな見え透いた嘘で私が——えっ?……まさか本当に?? 」


 ああ……気付いてしまった様だね。

 吹っ飛ばされた二人が、それなりにマジで食らったはずだけど……大してこたえて無いとの不敵な表情——まさに起点は二人の精鋭にあるのです。


 さらに言えば……もう二柱の精霊が鍵となるそれを、私は放つ事にしましょう。



 有り体に言えば直後に放つ術式こそが、私達の反撃の狼煙であったのです。



∫∫∫∫∫∫



 すでにオーガ兵は私を目標に捉え一歩、また一歩と近付いて来ますがあら残念……このオーガの方が危機的状況を察知する始末。

 そんな事はお構い無しに、私は


超振動ビブラス小宇宙開放クオスマイクス霊量子力回路接続イスタールゲイト——』


「な……何よその術式は!? さっきから私の知らない事ばかり……ふざけないでよ、何なのよお前達はっっ! 」


 その術式は私が開発した、あの〈アグネス宮廷術師会〉にさえ存在しない魔法。

 外の世界から訪れた、貴公神エンディミオンが提唱したとされる真理……宇宙と言う世界からエネルギーを抽出する純物理法則を用い、私が研究開発した未だかつてない魔導体系。


『気高き彼らを高きに誘う真の理! 根元たる偉霊の魂に願う……我らが生み出す機工の器へ力を与え給え——』


『人と霊とが共にそこへ至る、高次の道を生み出し給え! 精霊共振装填スピリティ・レゾニア・ドライブっっ!! 』


 術式展開。

 私を中心とし……周囲へ広がる積層型立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダが、魔法力マジェクトロンの帯を二柱の精霊へ纏わせると——それらが本来の姿である半物質化した霊体へと変化。

 直後魔導科学上に於ける名称を、霊量子体イスターラル・バディと名付けられる精霊の本質を表す姿……その彼らが霊量子体イスターラル・バディのまま、二人の主力の元へと導かれます。


 そして――


『ほな、ヒュレイカはん……お世話になるで~~! 』


「ええ!よろしく頼むわ! 」


『では参ろうか……テンパロット殿! 』


「おっしゃ!これで百人力だぜ、ダンナ! 」


 宮廷騎士たるヒュレイカへしーちゃんが……帝国忍びたるテンパロットへジーンさんが付くや、精霊それぞれの霊量子体イスターラル・バディが二人の装備へと吸い込まれていきます。


「……はっ? 何だ、何かと思えばただの魔力付与エンチャント・スペルじゃない!? バカね……そんな上辺だけの魔力付与エンチャント・スペルなんて、魔術無効化でキャンセルされて——」


「ふぅ……だからチートを振りかざす者は嫌いなんだよ。いいかい?君がチートと称するものは、。要はね——」


、ご都合主義のチート法則なんて脆くも崩れさるんだよ。私が開発した術式の根源、前にすればね。」


「だ……誰がアホの子ですってっ!? 」


「どう聞いたらそうなるんだい? どんな耳してるのかな君は(汗)? 」


 を煽り立てる様に、彼女の思考——あぶり出して行きます。

 チートな兵を操る事で有頂天になる――如何に有する兵器がチートであれ、使う者が満足な指示も出せぬのならば敗北したのと同義。

 なので、現状唯一の指揮系統である少女の思考を混乱させ——私の術式完了までの時間を稼ぐ策を展開していたのです。


「ミーシャ、こっちはいつでも行けるぜ! 」


「さぁ……チートかぶれを、ちょいと懲らしめてやりましょうか! 」


 そして術式完了と共に立ち上がる主力二人。

 完全に私の禅問答に意識を持って行かれた武器商人な少女が、こちらでも分かる程にぎょっ!と主力二人を睨め付けて——


「——え? ちょ……えっ!? これ……何、何がどうなって——」


 見開く双眸で(面倒なのでこれで良いや)少女が驚愕を通り越して茫然自失——ええ、そうでしょう……私はした覚えは無いからね?


 精鋭部隊として私を護衛する二人には、殿下より特別な装備が与えられています。

 それは元々アーレス帝国が軍事的な戦力強化の一端として開発した、紛う事なきの一端。

 しかし殿下はそれを戦争の道具にするのを良しとせず……私達、配備してくれました。


 今二人が装備する防具の下に纏われるは、武装では無いアンダースーツ。

 そこへ精霊が霊的な結合の元宿っているのです。

 それは二人それぞれが不得意とする身体的能力を、精霊力エレメンティウムとの結合で劇的に向上させる機械式強化服パワード・マシナリー・スーツ……さらに武装も同様の原理を有する特殊金属により純粋な物理攻撃を上昇させる機構。

 攻撃力上昇に伴い、形状も大きく変異する特別製それを目にした白黒少女……目を剥くのは当然なのです。


 私が展開した術式は魔力付与エンチャント・スペルとは大きく異なる類の新世代魔法——精霊の霊的な力と機械装備との、物理補助術式なのです。


「さあ、チートオーガ兵とやら。君のご大層な武具でこの二人の、身体的にも武装的にも高次元へと昇華された異次元の一撃……受け止められるかい? 」


 茫然自失の白黒さんを尻目に、野生の咆哮で負けじと食い下がるチートオーガ兵が……得物ハルバードをブンブン振り回し——

 ついさきほど彼が余裕でほふった筈の、ウチの精鋭へと肉薄します。



 それを合図とする様に、と化した二人との……激突が開始されるのでした。

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