Act.10 ロウフルディフェンサー

「さあ、素敵な舞台を見せて下さいな! その後でタップリとオーガ兵の実験台に——」


 双眸に浮かべる愉悦のままに、争いを煽る死の存在と恐れられる武器商人ヴェゾロッサ

 その闇をまざまざと見せ付けていた黒と白の少女は、双眸を見開いた。


「おい……ちょっとをかましてりゃ好き勝手しやがって。オレの護衛主に対しての出すぎた真似……看過できるもんじゃねぇな。」


 響く声が闇夜に沈む。

 地の底より放たれた様な憤怒を宿して……声とは異なる場所より影がはしった。

 刹那——狂犬テンパロットから音も無く放たれた一撃が、次々と黒の勢力どもを折っていく。


「な……何よ!? 何が起こって——」


 黒と白の少女の見開く双眸が、捲き起こる事態を追いきれない。

 ようやく動揺と言う思考を描いたその先では、さらなる異常事態が少女の心を揺さぶった。


「マジで切れたわ、あたし……。ミーシャに何て事、してくれてんのよっっ! 」


 闇夜に影が舞う一方——

 身の丈を超えるグレートソードが旋風を巻き起こし……ツインテ騎士ヒュレイカが野党を一人一人と言わずに、

 撃ち出された砲弾の如く弾かれた黒の勢力が「ぐふぇっ!? 」と潰れた様なうめきと共に、砦外壁内面へ次々と叩き付けられた。


 依頼を受けた一行——武器商人を名乗った少女はそこへ余りある戦力を投入し……文字通り退路を断った上での兵器実験を画策していた。

 そう、


 しかし訪れたのは、確実であるはず有利を嵐の渦の如く巻き込む暴風。

 抜いた武装がその者達に届く事無く、無残に中を舞う惨状。

 そして黒と白の少女は理解した……してしまった。


 眼前の冒険者は、……しかし、その様な存在が居るなどとは、彼女のパイプを持ってしても情報は皆無。

 桃色髪の賢者ミシャリアを盾にし、優位が確実であるはずの黒と白の少女が動揺のまま……盾にしている少女を睨め付け声を荒げた。


「何よ、お前達っ!? いったい何者何なのよ! 」


「ふぅ……あまり正体をふれ回りたくはないんだけどね。今からならば、名ぐらいは問題ないか——」


 驚愕宿す少女の声へ、盾にされているはずの小さき賢者が嘆息と共に言葉を放つ。

 賢者少女からすれば最悪の状況にも拘わらず、


「私達は〈食堂バスターズ〉と、全然嬉しくない通り名を持つけどね。それはなんだよ、これがね。本来私達は表向きには存在を公表されない特殊任務を、アーレス帝国第二皇子より仰せつかる者——」


あまねく世界間の——世界の片隅で今を生きる弱者を護りし実験部隊。サイザー・ラステーリ皇子によって設立された超法規特殊防衛隊【ロウフルディフェンサー】と言うのが、私達が名乗るべき真の名だね。」


 見開く双眸が、強者の愉悦から敗者の絶望へと移り変わる黒と白の少女。

 少女にとって、知り得る知見のどこにも無い存在。

 動揺に揺れる思考は、辛うじて疑問を桃色髪の賢者へ叩き付けるので精一杯であった。


「ふ……ふざけるなっ! 噂に名高い第一皇子の足元にも及ばぬのが、かのアーレス帝国第二皇子と聞き及んだわ! そこへ、その様な特殊部隊が配備されたなど聞いた事もないわよ! 」


「質問はご尤もだけどね、ちょっと殿下に対して失礼が過ぎるよ?武器商人さん。けれどだったとすればどうかな? 」


「それに私をこんな機械仕掛けの檻に閉じ込めたのは、いささか軽率だったと思うよ? こんな事をすれば、私の大切な友人達が黙ってはいないからね。」


 形成不利と見せかけた完全有利の決め手となる、「。」との宣言は——合図となる。



 魔導機械アーレス帝国が誇る法規隊ディフェンサーの反撃が……開始されたのだ。



∫∫∫∫∫∫



「ぬううううっっんーー! 風瀑霊陣エアリアルコートっっ……お嬢をやらせはせぬぞっ!」


 突如として捲き起こる旋風。

 それを皮切りに、勇ましき咆哮が轟いた。

 同時に電磁シールドの外へ巻き起こる風が巨大な影を形成するや、現れた3mメトを超える巨漢が爆風を纏い、電磁シールド発生源である魔導機械の突起状端末を全て破壊する。

 驚愕と疑念に包まれる黒と白の少女が叫びを上げた。


「そんなバカなっ!? なぜ精霊召喚魔法サーモナー・エレメントを行使出来るのっ!? 電磁シールドによって精霊力エレメンティウム接続を切断していたのに!?なんで――」


「そうだね。 精霊力エレメンティウム接続を切断されたまま、精霊召喚サーモナー・エレメントによる召喚なんて出来るはずはないね。けれど彼らが現れたのは必然さ。」


「誤解している様だから言っておくけど、私は?早い話が、私を慕ってくれる友人が私の危機に駆け付けてくれた——ただそれだけの事さ。」


「お嬢……お怪我は? 」


「いやぁ……こっちの有利は分かってたけど、ちょいとウチもヒヤヒヤもんやったでぇ。」


 桃色髪の賢者ミシャリアを守る様に顕現するは、風の精霊界でも上位に位置する魔人と小さな精霊——少女にとっての友人である、荒ぶる風の巨躯ジーンとしーちゃんことシフィエールである。


「よぉ、こっちは終わったんだが……そのオーガ兵とやらは何処だ? まだ腹の虫が治んねぇんだが。」


「右に同じね~~。ミーシャにあんな事されて、あたし達が正気でいられるとか思って欲しくは無いわ。」


「いやそこは、正気を保ってくれるかな(汗)? 君達が暴走した後始末なんて、想像するだけでも嫌なんだけど? 」


 響いた声……悠々と歩み寄る護衛二人の姿にギクリ!と恐怖を覚えた黒と白の少女。

 その有り得ない事態を目撃するや、弾かれた様に周囲を睨め付ける。

 目に飛び込んだ惨状は、自分を守る50を数える兵が尽く打ち倒される様。

 少女は自軍戦力が、己と待機させたままのオーガ兵のみと言う絶望的な事態を突き付けられたのだ。


「……なっ……そんな!?ありえない!くっ……み、見てなさい――」


 賢者少女からすればハナから有利な状況——しかし黒と白の少女からすれば、想定など遥か斜めの異常事態。

 詰まる所の絶対的不利である。


 すると少女は、その形勢逆転を無きものにする為のの元へきびすを返す。

 数は一騎……が、その身がチートと化すオーガ兵を格納する兵装庫へ向けて。


「さあ皆、追いかけるよ! ここからが正念場……次の相手は紛れもないチート——最も忌むべき存在だっ! 」


 そんな援軍の元へ駆ける少女を、真っ先に追い始めた桃色髪の賢者。

 まさかの最後方で支援が鉄則の術者が先陣を切ると、苦笑しながら頼れる仲間も呆れと共に追従する。


「おいおい、賢者様が突っ込んで行くな! 護衛をほったらかす支援主体の術者はないだろがっ!? 」


「てか、ミーシャ!? 今間違いなく、をぶち撒けてたから!? 部隊が掲げる正義は何処に行ったのよっ! 」


「相変わらずであるな……お嬢。」


「せやろ? 全くその通り……けどウチらの大切な賢者様や! 」


 追う二人と二柱の精霊が苦笑いのまま、桃色髪の賢者後に続き駆ける。

 残念精霊シフィエールが事前に調べた兵装庫を目指して。


 一方――


「訳が分かんない……何なのよ、ロウフル何とかって! それにあいつ……まさか逃げたんじゃ——」


 焦りと困惑のまま唯一の援軍を頼り、死に物狂いで駆けた黒と白の少女は盛大に息を切らしつつ……己が置かれた状況に今さらながら気付く事となる。

 それは先の精霊を視認する事の叶った、浅黒いローブの男——それが何処にも見当たらぬ点である。


「くそっ、リュード! やっぱり旧体制側……私なんて眼中に無いって事ね! 忌々しいったらありゃしない! 」


 口にしたローブの男をリュードと呼び捨て、さらにはお父様と言う言葉の羅列を振り払って……兵装庫扉の錠を解除した少女は命令ともなる咆哮を上げた。


「悪いけどあんたが私最後の兵力よ! けどロウフル何とかってのも、所詮は只の冒険者の延長上……なす術も無いでしょう!」


「さあ、オーガよ!あなたに施した奴らを一網打尽にして来なさいっ!! 」


「ぐぅおおおおおおっっ!! 」


 少女の命令がオーガ兵に届くや、彼女の口にした魔導鎧なる物が……オーガ兵の体躯へ機械的な電気の帯を纏わせ——

 同時に現れた魔導術式に用いられる呪文が、体躯全体へと対魔導術式防御の障壁を張り巡らせる。



 そう――チート兵器と化した恐ろしい影が、剛腕に大型ハルバード得物を構え……猛る様に出陣したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る